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死神くん連載中 魂1つ目
- 1 :マロン名無しさん :2008/11/29(土) 22:09:42 ID:???
- 昭和58年フレッシュジャンプ6月号より「死神くん」という漫画が連載された。
この漫画について語ろうじゃないか。
尚、この漫画は作者が死神くんの時間を止める能力を利用させてもらうことによって二日に1話ずつの速度で連載されるようだ。
時々予定外の死人が出るせいで、変な時期に合併号になったり休載する時もあるが気にしないでくれ。
ちなみに今日はS58年6月号の発売日だ。
参考スレ&サイト
連載中スレの楽屋裏 第26幕
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1209028846/
連載中スレまとめWiki(皆で作るまとめサイト)
http://rensai.qp.land.to/
連載中スレについて
http://rensai.qp.land.to/t/about
連載中スレ過去ログ倉庫
http://rensai.nobody.jp/
- 2 :FJ S58年6月号 1/5 :2008/11/29(土) 22:14:05 ID:???
- 読切 死神くん STOP!! ザ・じ・さ・つの巻
繁華街のビルの屋上。飛び降り自殺をしに来た少年・稔は、やはり怖くなり引き返そうとしたところを、
突風に煽られて足を踏み外し、落ちてしまった。
……が、いつまで経っても下に落ちない。世界が止まっている!? すると、いきなり誰かが稔の頭を踏んだ。
顔を上げると、目の前に山高帽にスーツ、蝶ネクタイの子供が同じように宙に浮いている。
「バケモノ〜〜〜 地獄に落ちたんだ〜〜」と騒ぐ稔に、子供はまだ死んじゃいない、自分が止めてやったと
言い、名刺を差し出す。
霊界行政機関霊魂取扱管庁
死神 No.413
霊界三―六B
(13)44?(途切れてて不明)
今度は「やっぱりボクは死ぬんだ〜!」と騒ぐ稔に、死神――と言うより、死神くんと呼んだ方がぴったりくる
彼は、死亡者リストを見せる。今週の分にお前の名前はない、死んではいけない人間だと。
どうして死ぬ気になったんだ? と死神くんに尋ねられ、稔は訳を話し始める。
稔には美子という可愛い彼女がいた。しかし偶然彼女と友達の会話を聞いた稔は、美子の方は単なる遊びだと
思っていて、もう別れようと考えていると知りショックを受ける。
僕は本気だった、結婚だって考えてたのに……しかし、死神くんは唖然としていた。
稔は慌ててもう一つの理由を話し始める。
- 3 :FJ S58年6月号 2/5 :2008/11/29(土) 22:15:51 ID:???
- 上の兄は東大、下の兄も一流高校に通っているが、自分は出来が悪く親も兄達も稔をいい高校へ行かせるために
必死だった。そして昨夜、居間の前を通ると両親が自分の進路のことで話しているのが聞こえた。
父はあいつの好きにさせてやればいいじゃないかと言うが、母は本人のためにもいい学校に行くほうがいいと
主張する。
「ねェ あなたの会社にM高校の理事長の息子さんが いたでしょ? その人に いくらかもたせて なんとか
できないかしら」
金を使って裏口入学。しかも高校に。そんなことまでして進学なんか……
……死神くんは、大あくびをした。
「あっ ごめんごめん 悪いけど つまらん話はやめて なぜ 自殺したかをきかせてくれる?」
稔は今言ったことを聞いてなかったのかと怒るが、死神くんは、お前の命は女にふられたとか勉強が出来ない
くらいで捨ててしまうほどのものなのか、と稔を叱る。
「人の命は 地球より重いっていったのは てめえら人間だぞ!」
「ボ…ボクがいったんじゃない」
説教なんか聞きたくない、早く殺せと言う稔に、何故か死神くんは目を閉じるように言う。
「夢を見させてやろう…あの時 こわくなり自殺をやめて…… その後 どうなったか?」
――もう一度やり直そうと考えて勉強する稔だが、長続きせず何とか二流校に進学した。
そこでかわいいガールフレンドも出来、卒業後は地方の大学へ入学。わびしく惨めな下宿生活を経て、
卒業後就職しガールフレンドとも再会、結婚。会社では十年経っても平社員だが、その後脱サラで喫茶店を開き、
子供も産まれて幸せに暮らしている――。
- 4 :FJ S58年6月号 3/5 :2008/11/29(土) 22:17:07 ID:???
- 「どうだ?」
「うん…ボク喫茶店やってみたかったんだ でも あんまりパッとしない人生だな」
生きてること自体が人生、カッコいいも悪いもあるかという死神くんだが、稔はまだピンと来ない様子。
そこで死神くんは、今度は死んだ場合の予知夢を見せる。
「まわりの反応を見てみろ……」
――葬儀の場で泣く両親と兄達、そして親戚。死が理解出来ないのか、自分を探す幼い従妹。
そして――同級生はもちろん、隣のクラスからも生徒が訪れ、泣いている。
友達でもないのに何故泣くんだと戸惑う稔。
次にやって来たのは担任の松本先生。優しくて楽しくて、学校では一番いい先生だ。
すると映像が、先生が校長に辞表を出している場面になった。
「先生は 監督不行届きで責任を感じ 教師をやめるんだよ」
死神くんの説明に、先生は悪くないのにどうしてなんだと稔は叫ぶ。
「どうしてって、これは お前ののぞんたことだろ」
「ばかな! ボクは こんなことのぞんじゃいない!!」
「お前が死ぬことによって 現実のことになるんだよ」
死神くんはさらに続けた。
酒をあおる父を止める母。しかし父はお前が稔を殺したんだと母をなじる。その言葉に、あなただって
勉強の出来る息子を自慢していたじゃない、私は上の学校へ入れるために一所懸命やってきたと反論する母。
二人とも、稔が自殺するとは思っていなかったため、かなりショックを受けているようだった。
やがて兄達は家に寄りつかなくなり非行に走り、母はノイローゼぎみ、父は部屋に閉じこもり酒浸りに、
そして離婚…。
- 5 :FJ S58年6月号 4/5 :2008/11/29(土) 22:18:12 ID:???
- 「やめろ〜〜〜っ!! やめてくれもうたくさんだ」
父さんも母さんも仲がよかったし、兄貴だって尊敬してた。勉強が出来て賢かったのにどうして……。
そう言う稔に、死神くんはお前には関係ないことだと言う。
「死ぬ人間が将来のこと考えるわけないよなァ ましてや ほかの人のことを考えるなんて おかしいね
だから気にするなよ」
しかし…
「死にたくない!!」
稔は言った。死神くんもそう言ってくれるのを待っていたのだ。
が、元に戻せよという稔の言葉に、神様じゃないから時間を戻したり奇跡を起こしたりは出来ないと答える。
このまま下まで落ちるしかない。自分が来たのはドジな男に説教してやるためだと。
お前はやっぱり死神だ。人の不幸を楽しんでるんだ――泣きながら自分をなじる稔に、死神くんは言う。
「お前 たしかにこういったよな 死にたくない≠チて。いいか? 死ぬなよ」
「あっ おい待てよ!!」
止める間もなく死神くんの姿は消え――時間も動き出した。稔の体は地面に…ではなく、偶然下を通った
廃品回収のトラックの荷台に激突した。
- 6 :FJ S58年6月号 5/5 :2008/11/29(土) 22:19:37 ID:???
- 病院に運ばれ、手術を無事終えた稔だが、危険な状態だった。
医師は両親に言う。彼は自殺を図った。つまり生きる気力がない。生きる希望を失っていたり、
死に急いでいるとしたら――そこまで話したその時、
「死ぬもんか」
稔が、つぶやいた。驚きに目を見張る三人。
「ボ…ボクは……死にたくない……生きるんだ……」
両親の目に涙が浮かぶ。そして――
「ぜったい死ぬもんか!!」
満身創痍だというのに、そう力強く叫んで、稔は起き上がった。
「稔!!」
「父さん!! 母さん!!」
仰天する医師を尻目に、抱き合って喜ぶ三人。兄達も駆けつけてきた。
死神くんは、その様子を見て静かにエールを送った。
「がんばれよ!!」
- 7 :マロン名無しさん :2008/11/29(土) 22:35:18 ID:???
- この少年の周囲はこの後どうなるんだろう?
少年が死にはしなくても家族仲が悪くなったり先生も責任感じそう。
- 8 :マロン名無しさん :2008/11/29(土) 22:48:21 ID:???
- 今なら死神ちゃんだな
- 9 :マロン名無しさん :2008/11/29(土) 23:00:15 ID:???
- 「いのちだいじに」ってことか、読みきりってだけあってけっこう軽い話だな
もっとドロドロした人間関係ものとか素晴らしいまでの感動モノが読みたいなあ
- 10 :マロン名無しさん :2008/11/29(土) 23:01:03 ID:???
- エンドコドコドコ エンドコドコドコ アイヤー!
いきなり尻見せ!
- 11 :マロン名無しさん :2008/11/29(土) 23:23:50 ID:???
- 個人的には今回のFJで一番面白かったのは鳥山のへたっぴマンガ研究所だな。
キャラの口癖を決めるってのがなんか妙にツボったw
- 12 :マロン名無しさん :2008/11/30(日) 00:50:19 ID:???
- うーむちょっと古くさい感じのいい話系漫画か?
これ連載するにはちょっと大変そうだな。
- 13 :マロン名無しさん :2008/11/30(日) 14:06:50 ID:???
- この先の人生のを知ってしまった少年は果たして人生を楽しめるのだろうか
- 14 :マロン名無しさん :2008/11/30(日) 16:24:56 ID:???
- あれ?この作者チャンピオンで変なマンガ書いてなかったっけ?
結構アホなマンガだった気が…………
- 15 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 11:39:23 ID:???
- アノアノとうがらしだな
俺結構好きだった
でこれってそれの単行本の最後に載ってた
読みきり「遠足の日」(多分チャンピオンの投稿作)をそのまま持ってきた感じなのかな?
あれは最後は死神くんキャラが人間になってしまうけどな
- 16 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 11:53:17 ID:???
- うまくないけど味のある絵だな
- 17 :FJ S58年8月号 1/5 :2008/12/01(月) 22:03:21 ID:???
- 第1話 死神くん登場!の巻
――突然、真正面から現れた車のライト。バイクを運転していた少年・安夫は、避ける間もなく跳ねられ、
電柱に激突した。
(オレ死んじゃうのかな…… つまんねェあっけない一生だな…まあいいか…… 母さん………)
と、いつの間にかすぐ側に山高帽を被り、スーツに蝶ネクタイの子供がいた。そして下には……自分の死体?!
オレが死んでる!!! いったいどうなっちまったんだ? ――不思議がる安夫に、子供が名刺を差し出した。
霊界行政機関霊魂取扱管庁
死神 No.?(指で隠れて見えない)
霊界三―六B
(13)4444
「迎えにきたぜ」
死神――というより死神くんと呼んだ方がよさそうな彼いわく、正確には後一時間で死ぬ予定だが、痛みで
苦しまないように魂を抜いたのだという。ここは人が通らないから朝までこのままだ。
「あー オレ ダチと会う約束なんだ」
のんきにそんな心配をする安夫に、死神くんは思わずずっこけた。
待ち合わせ場所では、いかにも不良といったなりの少年達が待っていた。
「ちくしょー ヤスオのやつおせえな」
「また口うるさいオフクロにつかまっているんだろ?」
安夫は呼びかけるが、二人はまったく気づかずに行ってしまう。死神くんや安夫の姿は他人には見えないし、
声も聞こえないのだ。
- 18 :FJ S58年8月号 2/5 :2008/12/01(月) 22:04:30 ID:???
- すると、それをいいことにのんきに女の子のスカートの中を覗きだす安夫を、死神くんは叱る。
「お前は 自分が死んだことを どう思ってんだ!!」
「べつに……楽しいことがあるわけじゃないし だ性で生きてるようなもんだからな」
「ふ―――ん さすが神様がえらんだだけのことはある しょうもない人間だね」
「神様がえらんだ…?」
死神くんは言う。本当は安夫は80歳まで生きる予定だった。だが今霊界では魂の数が不足している。
そこで神様が、指定した人間の魂を持ってくるよう命じたのだ。あの事故も、安夫を死なせるために霊界が
仕組んだものだった。
「ふざけんな!!」
殴りかかる安夫を、死神くんは瞬間移動でかわす。
「なんで オレが 死ななきゃなんねえんだ!! オレが なにをしたっていうんだよ!?」
「やっかましいわ!! 自分が なにをしたかわかってんだろ 思いおこしてみろ!!」
すると目の前に映像が浮かんだ。仲間と一緒に校内暴力、女の子を無理やりナンパ、カツアゲ、喫煙、飲酒…
こんなこと誰でもやってると安夫は反論するが、死神くんは問題はこの後だという。また浮かぶ別の映像。
他の友人達は卒業後立ち直り、真面目に働き出す。しかし安夫だけは職に就かず、少年院を出たり入ったりを
繰り返し、しまいには殺人を……。
そんなことするわけないと安夫は笑うが、しないという確信があるのかと死神くんは冷たく言い放つ。
「オレだって そのうちまじめにやるつもりだったんだぜ」
「そいつはウソだね お前は 立ち直れない人間なんだよ だから 神様にえらばれたんだ」
非行に走るのは勝手だが、いずれは立ち直らなきゃだめなんだ。早くそれに気がつかなきゃいけないんだよ…
そう諭す死神くんの言葉も、安夫には届かない。
- 19 :FJ S58年8月号 3/5 :2008/12/01(月) 22:05:43 ID:???
- 「どうあがいても オレは 死ぬんだろ? 今さら………」
「そうだな 自分の人生を いっしょけんめい生きない人間は 死んだ方がましだね」
それを聞いた安夫は…
「さあて 元気よく死ぬか!!」…開き直った。
どうせいずれは死ぬんだ、こういうことは早いほうがいいと言う安夫に、あきれる死神くん。
そして潔く霊界へ向かおうとしたその時…
「安夫!!」
そう彼の体に呼びかけたのは、安夫の母だった。誰も通らないはずなのに…
どうやら虫の知らせを感じてここへ来たらしい。血まみれの安夫の体を抱きしめ、涙を流す母。
死神くんに引き上げられながらその光景を見て、安夫は思う。
どうして自分はこうなってしまったのか…。
最初は些細な事だった。それが段々エスカレートしていって止まらなくなった。初めは父も兄も自分を叱って
くれたが、やがて諦めて何も言わなくなった。
だが、母だけは最後まで心配してくれた。警察や万引きした店にもよく一緒に謝りに行った。そして必ず最後に
こう言った。
「この子は 本当はいい子なんです」
優しくて美人だった母。そういえばこの頃母の笑顔を見ていない。家族が揃って食事する事もなくなった……。
(そうだ。オレが悪いんだ…。わがままで意志が弱くて悪いことばかりやって………)
心の中で初めて、家族に迷惑をかけたことを詫びる安夫。
頭の中に。自分はいい子だと言い続けた母の言葉が蘇る。
(母さん!!)
- 20 :FJ S58年8月号 4/5 :2008/12/01(月) 22:07:00 ID:???
- 安夫は慌てて、母に会わせてくれと死神くんに頼むが、もう死ぬ時間が迫っていた。
魂と体を繋いでいる紐――魂の緒≠切れば、安夫は本当に死ぬ。
それでも一言謝りたいと必死に頼み込むが…
「時間厳守だ」
そう言って死神くんは魂の緒にハサミを入れようとした。が――、
「わっ!!」
いきなり安夫の魂が下へ引っ張られ出した。突然の事に安夫も死神くんも、ただ驚くばかり。
そして入れ違うように上ってきたのは……母の魂!?
「か……母さん!?」
「安夫!!」
すれ違う二人。死神くんは母の魂の緒が切れている事に気付く。まさか…?
「母さん!」
安夫は自分の叫び声で目を覚ました。どうやらここは病院で、自分は生きているらしい。
そこへ死神くんが姿を見せず声をかけてきた。何があったんだと尋ねる安夫に死神くんは言う。
「なにが あったか だいたい想像がついてんだろ?」
あの時、我が子の死を目の当たりにした母は、空に向かって叫んだ。
「神がいるのなら聞いてください!! なぜ 安夫にこんな ひどいことを!? 安夫は 本当はいい子なんです!!
立ち直ってくれるのを信じてずっと 待っていたのに!! 息子を かえして!!」
生きる気力をなくし、母は思った。安夫より、老い先短い私が死ぬべきだと。
そして彼女は――神に祈り、身を投げた。
- 21 :FJ S58年8月号 5/5 :2008/12/01(月) 22:08:23 ID:???
- 「霊界は 彼女の願いを承諾した お前のかわりに母さんが死んだんだ…」
「う…うそだ うそだろ? 母さん…バカだよ オレなんかのために…… オレなんかのために……」
愕然とする安夫に、親からもらった命を大切に使えよと言い残し、死神くんは去った。
この子は本当はいい子なんです。
本当はいい子なんです。
いい子なんです――
母の声が頭の中に響き、安夫の目に、涙が浮かんだ。
しばらく後、自動車整備工場で働き始めた安夫のもとに、不良仲間達がやってきた。
「どうしたんだよ? 急に働き出して」
「お前らしくねえな にあわねえぞ!!」
「定時制にいってんだってな おどろいたぜ」
「それよか遊びにいこうぜ」
黙って話を聞いている安夫。だが――
「ホラ 口うるさいオフクロも死んだことだし」
「そうだぜ いなくなってせいせいしてんじゃねえのか?」
――その言葉に、安夫は友人を殴った。
「母さんの悪口をいうな!! 二度とくるな!!」
呆然とする友人達。
その様子を、死神くんが雲の上から見ていた。
「みごとに立ち直ったな… 親孝行には間にあわなかったが… お前の人生には十分間にあう……」
- 22 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 22:19:39 ID:???
- こういう話弱いねん…
- 23 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 22:29:08 ID:???
- これこないだの読み切りの続きか。
ちょっと神さん乱暴過ぎだな、善良な市民の命を奪うなよ
- 24 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 22:33:04 ID:???
- >>23
善良だからこそ聞き入れたんだろう。
んでこれでも立ち直れないようなら今度こそ安夫の命も奪ってたんだと思うぜ。
まあ基本的に神様ってのは乱暴なもんだ。
ギリシャ神話読めばゃわかる。
- 25 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 22:35:08 ID:???
- 神「ヤンキーより人妻でしょ、やっぱ」
- 26 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 23:08:24 ID:???
- >>24
善良な市民がそこまで願うならとりあえず安夫救ってやろうとは思わないのか?
この死神はキリスト教って訳でもないだろうな。
どっちかというと仏教に近いのか?
- 27 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 23:20:17 ID:???
- 実際>>25みたいなこと考えて自分の下に呼び寄せる神様がいるから困る
- 28 :マロン名無しさん :2008/12/01(月) 23:23:57 ID:???
- ゼウスとかな
- 29 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 00:17:11 ID:???
- ちょっとうるっときたのも事実だがこのスレ見て神様が意外と勝手なんだなということに気づいた。
- 30 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 00:22:46 ID:???
- 死を扱うだけにちょっとブラックな部分もやっぱりあるね
- 31 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 19:15:39 ID:???
- 母ちゃん…(´・ω・`)
魂が不足してるってんなら、刑務所や暴力団事務所からでも大量に持ってってくれ。
>痛みで苦しまないように魂を抜いた
これはありがたい。俺が死ぬ時も是非やってほしいものだ。
- 32 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 19:23:37 ID:???
- 予定より早死にするんだからせめてものサービスだろな
- 33 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 19:35:16 ID:???
- 人口はどんどん増加してってるのに魂が足りないってどんだけ霊界の運営下手なんだ
- 34 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 19:42:57 ID:???
- 死ぬ人が減ってるんじゃない?
- 35 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 20:17:34 ID:???
- 医学の進歩の弊害か
- 36 :マロン名無しさん :2008/12/02(火) 20:37:52 ID:???
- いくら寿命伸ばした所で結局死ぬのでは
もうそろそろ人口50億ってことは2百年前の5倍近くの人が死んでるんだから
- 37 :マロン名無しさん :2008/12/03(水) 01:42:28 ID:???
- >刑務所や暴力団事務所からでも大量に持ってってくれ。
ぶっちゃけそいつらの魂ってこの母ちゃんらと等価じゃないんじゃね?
- 38 :マロン名無しさん :2008/12/03(水) 09:05:54 ID:???
- J('ー`)し
( )
|| かーちゃん………
- 39 :FJ S58年9/23号 1/5 :2008/12/03(水) 22:00:56 ID:???
- 第2話 赤ちゃん狂詩曲(ベビーラプソディー)の巻
とある夜。電車に赤ちゃんを連れている高校生のカップルがいた。二人は他の客の注目の的になっている。
(ヤバイなあ…どうしてこんなことになったんだろ……)
男の方――タカシは、赤ちゃんを抱いた彼女――ユカリを見ながら、ことの起こりを思い返した。
去年のクリスマス。社会勉強という名目でアパートで一人暮らしをさせられているタカシのもとに、
ユカリが訪ねてきた。
ベッドに腰掛け寛ぐ二人。香水の香りも手伝い、興奮したタカシは勢いに任せてユカリを押し倒し、
そして――
不意にユカリに頭を叩かれ、タカシは目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。電車を降りた二人は、
ガードレールの下に赤ちゃんを置いていこうとする。すると…
「死ぬぜこりゃあ」
いきなり赤ちゃんの側に、死神くんが現れた。
この辺りは蚊が多いから、日本脳炎になったらやばいと思って、と言う死神くんに二人はムキになって反論する。
「ほんのちょっとの間ここにおいただけだろ――が!?」
「わたしたちがこんなにかわいい赤ちゃん捨てると思ってたの!? ガキのくせに なによ!!」
「クソしてはよねろ!!」
ひどい言いように思わず涙ぐむ死神くんだった。
- 40 :FJ S58年9/23号 2/5 :2008/12/03(水) 22:01:57 ID:???
- 五月。
「ねー わたしできちゃった」
ユカリの言葉を数学の問題のことと勘違いするタカシ。しかしそれが、あの日のせいでできた自分の子供の
事だと知り、仰天する。若い頃の生理不順はよくあるし、つわりもなかったから五ヶ月になる今まで
気づかなかったとユカリ。
どうするんだよというタカシの言葉に、できちゃったものは仕方ないじゃないとユカリは答える。
五ヶ月だともう中絶も出来ないのだ。激しくタカシに責められるユカリ。
(タカシ…前はやさしかったのにこのごろケンカばかり…)
二人は今度は電柱の下に赤ちゃんを置いた。
「だいたい トシちゃんなんて 名前が気に入らなかったんだよねー」
「なによ タカシだって女の子だったら アキナにしようっていってたわ」
二人が走り去りながらそんな会話をしていると……
「こりゃあ死ぬねー」
再び死神くんが現れた。
「ずっとあとをつけてきたのね!?」
「死ぬだなんてなんてこというんだよ」
と怒る二人に、死神くんは天気予報が今夜から雨だと言ってる、と伝える。
「それに夏とはいえ朝は冷えるんだよね。ヤバイんでないかい?」
またムキになる二人に、ついていけないと死神くんはあきれながら去っていった。
間もなく、本当に雨が降ってきた。二人は商店街のアーケードにやってくる。ここなら……。
- 41 :FJ S58年9/23号 3/5 :2008/12/03(水) 22:03:17 ID:???
- 8月2日。
大きくなったお腹を見て笑っているユカリとは裏腹に、タカシの気持ちは暗かった。
もうクラスで2、3人、気がついている者がいる…。そんな彼の気を知ってか知らずか、ユカリは子供を
産みたい、高校もやめて働くと言い出した。しかしタカシは、その言葉に反発する。オレに子供の面倒を
見られる訳がない、学校があるし受験だってある。何より親に知れたらどうするんだ、と。
「そんな…だってタカシの子じゃない」
「知らないねそんな子ども!!」
その言葉がきっかけで取っ組み合いの喧嘩になる二人。と、うっかりタカシがユカリのお腹を蹴ってしまった。
倒れたユカリをタカシは病院へ運び、年齢と名前をごまかし夫婦ということにして診てもらう。
やがて分娩室から聞こえる産声……とうとう産まれてしまった。
お金がない二人はその夜のうちに逃げ出した。本当は赤ちゃんも置いてくるはずだったが、わずかな親心から
放っておけず、二人でこっそり育ててきた。が、もうすぐ二学期が始まる。
誰も面倒をみてやれないから仕方がない…そう言い訳しながら、今度こそと赤ちゃんを置いていこうとするが…
「ここは一番危ない場所だぜ」
振り返ると、赤ちゃんを抱きかかえ宙に浮いている死神くんが。驚く二人に死神くんが後ろを指差すと、
野犬の群れがいた。この辺りは夜になると野犬が出てくるのだ。ここでようやく、死神くんは二人に
名刺を渡し自己紹介する。
やっぱり子供を殺しに来たんだ、と非難する二人だが「子どもを捨てようとしている人間がよくそんなこといえるね」
と死神くんに言われ、何も言えなくなってしまった。
死神くんの今回の仕事は、78歳まで生きる運命にある赤ちゃんを助けること。
今までも、その子を助けていたのだ。
- 42 :FJ S58年9/23号 4/5 :2008/12/03(水) 22:04:27 ID:???
- 死神くんは捨てるのはやめてちゃんと育てた方がいいんじゃないのかと言うが、タカシは無理だと答える。
まだ高校生で、学校はあるし金はないし…。
「じゃあ なぜ産んだんだ?」
答えられない二人にさらに畳みかけるように死神くんは言う。
「ほしくはなかったができてしまった 産む気はないが産まれてしまった 子どものことより自分の世間体が
気になってじゃまになった そうなんだろ!? 遊び半分 興味本位でセックスしたんだろ 責任もとれねェ
くせに軽はずみなことするんじゃね――よ!!」
しかしそれを聞いたタカシはそれがどうしたっていうんだと開き直り、死神くんをずっこけさせる。
「お前のいうとおりだ ほしくもないのに生まれてしまった 育てられない!! 世間体も気になるし
親にも話せない!! だから… ……だから……」
タカシの言葉に、死神くんもお前達の自由にすればいいとあきらめ顔。
もうすぐ警戒中の警官が来てこの子は見つけられる。その後は施設で立派に育つだろう。親の顔も愛情も知らず、
一人で生きていく。他の子よりは辛いことや苦しい事が多いだろう。しかし……
「お前たちにはもう関係ないことさ。なんたって 今日から他人だもんな!!」
そして後はご自由に…と言い残し、死神くんは去った。
今度こそ、赤ちゃんを置き去りにしようとする二人。二人の目には涙が。
お互いにこんな事は忘れてしまおう、会うのはよそうと考えたその時――
「パパ…ママ…」
- 43 :FJ S58年9/23号 5/5 :2008/12/03(水) 22:05:38 ID:???
- 赤ちゃんの方から声がした。まさか生後一ヶ月でしゃべれるわけが……と思ったが、
「パパ ママ」
間違いなく、赤ちゃんがしゃべった。
自分の事をパパと、ママと言ってくれた……感激した二人は、赤ちゃんを抱き上げ雨の中を帰っていった。
新学期。生徒達の注目はタカシとユカリの二人に集まっていた。二人が赤ちゃんを連れて登校してきたのだ。
「ねえ…卒業したら本当に結婚してくれる?」
「ああ……」
教師になんだそれはと尋ねられ、二人はきっぱりと言った。
「ボクの子どもです!!」
「わたしの子どもです!!」
唖然とする教師をよそに、前へ向かう二人。
「オレたち がんばっていこうな!」
「うん!」
その様子を見守る死神くん。実はあの時しゃべったのは赤ちゃんではなく、死神くんだったのだ。
「でも これでいいのさ…。子どものためにも、そしてお前たちのためにもな…」
- 44 :マロン名無しさん :2008/12/03(水) 22:40:39 ID:???
- ハッピーエンドっぽく終わらせてるけど、なんかすっきりしないなあ。
これから先、2人とも大変だろうし…
- 45 :マロン名無しさん :2008/12/03(水) 23:14:23 ID:???
- そういう覚悟を背負わぬままに軽はずみなことをするなってことだろうな。
覚悟がないならちゃんと付けるもん付けて楽しみなさいと。
- 46 :マロン名無しさん :2008/12/03(水) 23:24:38 ID:???
- 死神くんってずっとこういう路線なのかな
絵柄とは反比例して重い話が続くぜ
- 47 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 09:08:19 ID:???
- まさかジャンプでセックスセックスいうとは思わなかった
- 48 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 11:52:31 ID:???
- この話、二人の親についてはまるで触れられてないな。
子供に理解があるか、無関心かその他でかなり状況も変わってきそうだが。
- 49 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 12:05:38 ID:???
- こんなギャグっぽい絵柄でストレートにシビアな話されるとなんか違和感が
- 50 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 13:20:51 ID:???
- この作者はギャグ漫画の方が似合うよね
意味はよくわからんが>>10みたいなノリでギャグ描いてみたらいいんじゃなかろうか
- 51 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 13:27:31 ID:???
- >>48
一ヶ月子供育てて気づかないんだからウルトラ無関心だろう
- 52 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 22:23:03 ID:???
- 母ちゃんにセックスって何って聞いたら凄い目で睨まれた
それでジャンプ没収されかけたから友達から借りたやつだっていってなんとか取替えしたけど、一体なんだったの?
- 53 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 22:26:31 ID:???
- こうのとりの餌付けだよ
- 54 :マロン名無しさん :2008/12/04(木) 22:29:05 ID:???
- >>52
こんどは同級生の女の子に聞いてみろよ
- 55 :FJ S58年10/23号 1/4 :2008/12/05(金) 22:05:33 ID:???
- 第3話 戦場の天使(エンジェル)の巻
「ドンパチドンパチようやるなあ」
「まったく」
どこかの国の戦場の上を、そう愚痴りながら大勢の死神が飛んでいた。
お互いがんばろうと仲間と挨拶を交わし、担当の死者を探しに行く死神くん。一人目のハロルド・トンプソンを
見つけ、早速次へ。しかし二人目のレナード・ヘルベルトはハロルドの敵側の兵士。
出会うなり喧嘩を始める二人を、死神くんは魂に敵も味方もないからもう戦争しなくていいんだ、と止める。
早速連れていこうとしたが、いきなり背後から誰かが銃を撃った。魂だということを忘れて痛がる二人。と、
「そこにいるのは…だれだ?…………」
撃った兵士が話しかけてきた。どうやら死にかけているせいで魂が見えているらしい。
すると死神くんの姿を見た兵士は「ジョーイ!!」と叫びいきなり死神くんを抱きしめた。死神くんを自分の
息子と勘違いしているらしい。ハロルドの言葉ですぐに誤解は解けたが、兵士は今にも死にそうだった。
しかし担当は死神くんではない。
「オレも こんなハンサムを担当してみたかった」
「「わるかったなァ!!」」
と、レナードが写真を見つけた。写っているのはこの兵士と思われる男と、その妻らしき女性。そして、
男に抱き上げられている、死神くんに瓜二つの男の子だった。
「この男は ハンサムなんだが息子が 少し…なんだな」
「ゲキガとギャグの合体だ」
「わるかったなァ!!」
写真に書かれている住所はレナードの故郷と同じ。彼は死神くんに息子と会わせてやったらどうかと提案する。
- 56 :FJ S58年10/23号 2/4 :2008/12/05(金) 22:06:52 ID:???
- そこへ、
「413号!」
そう死神くんを呼んだのは、二人の兵士の魂を連れたもう一人の死神、404号。この兵士の担当は彼なのだ。
死亡するまであと30分。死神くんは思い切って彼の息子に会いに行くことにした。
するとハロルドからその前に俺の故郷に寄ってくれないかと頼まれる。どうせ通り道と立ち寄ってみた
その町は――
「オレの…オレの町が…」
建物も破壊し尽くされ、怪我人が溢れ、凄惨な状況だった。思わずレナードに掴みかかり、みんなに謝れと
迫るハロルド。戸惑っていたレナードも状況を見て「すいませんでした…」と頭を下げる。最も、人間には
見えてなかったが。
やがて例の兵士の家の近くに――レナードの故郷にやって来た。そこもやはり先程の町と同じく、悲惨な状態。
「すまん……。ゆるして…ゆるしてください!!」
今度はハロルドが土下座をするが、レナードがお前のせいじゃない、これは戦争なんだと慰める。しかし…
「おたくら いったいなーに やってんの?」
死神くんはそんな二人を見て唖然としていた。こうなることは最初から分かりきっていたこと、後悔するなら
戦争なんてしなければいいんだと。
「オレは 人間という生き物が なにを考えているのか わかんない時があるね」
人間社会にある法律では人を傷つけたり殺したりした場合、罪となり罰を受ける。
だが、戦争の場合人を殺しても罪にはならない。むしろ殺して活躍した者には勲章が貰えたりする…。
「人を殺してもいい場合と悪い場合があんのかよ!? 人種は ちがっても同じ人間だろ!? 殺す権利は どこに
あるんだい!? 戦争っていったいなんなんだ!?」
死神くんに言われ、二人は戸惑う。誰だって戦争なんかやりたくない。相手が憎い訳でも悪い訳でもない。
しかし殺らなければこっちが殺られる…。
- 57 :FJ S58年10/23号 3/4 :2008/12/05(金) 22:08:12 ID:???
- 「戦争は人間を狂気に変えちまうんだ!!」
叫び、涙ぐむ二人に、死神くんもここで議論しても始まらないと改めて息子探しに。
しかしようやく見つけたその家もまた…。
その頃、兵士の側では404号が死神くん達の帰りを待っていた。もう死ぬ時間が近づいている。
意識が戻った兵士に死神くんが息子に会いに行ったことを伝える404号。
「オレの? まさか…」
と、
「パパァ!!」
死神くんそっくりの子供が…ジョーイが兵士に駆け寄ってきた!
しっかりと抱き合い、再会を喜ぶ二人。その様子を物陰から404号達が見守る。
「ジョーイ パパのいうことをよくきくんだよ」
「うん」
「パパは もうジョーイと会えないかも知れない…」
「どうして?」
「パパが いなくても泣くんじゃないぞ。男の子だもんな」
「うん」
やがて、
「パパが いなくても…ジョーイは…ひとりで…」
言葉が途切れ始め、
「…い…生きて… ……ゆくんだ……」
――時間が来た。
- 58 :FJ S58年10/23号 4/4 :2008/12/05(金) 22:10:43 ID:???
- 404号が兵士の魂を引き出し、兵士は動かなくなった。
「パパ どうしたの!? おめめ あけてよ! お話 してよ!! パパ! パパ!! パパァ!!」
ジョーイはもう動かない父に、必死に呼びかけた…。
「よかったですね 息子さんに会うことができて……」
404号が兵士に言うと、なぜか彼は大笑いする。
「あの死神なんて名だ?」
「ボクたちに 名前はありません 全員番号でよばれています あいつは413号です」
「そうか…よく 礼をいっといてくれ…」
そして言う。息子は一月前にもう死んでいると。それではあれは…?
「ありがとう… 戦争という地獄の中で…天国を見ることができたよ」
変装を解いた死神くんを、見事な名演技だったと称えるハロルドとレナード。しかし、死神くんの表情は
暗かった。
「戦争は……人間が つくりだした もっとも みにくいあらそいだ」
三人は、霊界へ向かった。
「今度 生まれ変わった時は、戦争のない世界だといいなァ…」
- 59 :マロン名無しさん :2008/12/06(土) 00:05:35 ID:???
- また重いテーマを…たまに出てくるギャグ顔のキャラが救いだ。
死神くんがいきなり熱くなるんじゃなくて、最初は「今さら何を」的な態度で構えてるのがいいな。
戦争をするなら軍人だけで殺しあってくれと思う。
誰もが世界平和を望んでいるといっても、戦争で設けている人たちの本音は違うだろう。
三人集まれば派閥ができると言うし、世の中から人同士の争いが無くなるには
人類が滅亡するしかないんじゃないかと思う。
- 60 :マロン名無しさん :2008/12/06(土) 03:31:15 ID:???
- うーん、今回はちょっとありきたりなような気がしないでもない
- 61 :マロン名無しさん :2008/12/06(土) 10:46:06 ID:???
- 404号がつれてる魂、自殺の話でビルの窓からのぞいてる人じゃねーか。
- 62 :マロン名無しさん :2008/12/06(土) 21:13:52 ID:2P+Cjm6n
- 今回初めて死神くん以外の死神が出てきたけど、みんな同じ格好だな。
あれが死神の制服みたいなものなのかな。
マント羽織って鎌持った骸骨、みたいないかにもな死神はいないんだろうか。
- 63 :マロン名無しさん :2008/12/06(土) 21:26:31 ID:???
- 命を刈り取るというよりは魂の案内人みたいな物らしいからな
- 64 :マロン名無しさん :2008/12/06(土) 21:52:12 ID:???
- 死神って皆あの等身なのか?w
- 65 :マロン名無しさん :2008/12/07(日) 16:42:24 ID:???
- >>62
>マント羽織って鎌持った骸骨、みたいないかにもな死神はいないんだろうか
主任になるとそういう格好してたな。
連れてこられた人間が「わー死に神だー!」とかびびって、ヒラの死に神たちが
「さすが主任、有名だなー」
とかほめそやしていた。
- 66 :マロン名無しさん :2008/12/07(日) 18:21:40 ID:???
- >>65
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1227965578/
- 67 :FJ S58年11/23号 1/4 :2008/12/07(日) 22:02:19 ID:???
- 第4話 新しき旅立ちの巻
風呂敷包みを持った小さな男の子が、ひとり大通りを歩いていた。
「お母さん 早く帰ってきてよォ…………」
やがてお腹を空かせ、道端に座り込む男の子。彼の目に行き交う車が映る。すると男の子は、トラックの前に
飛び出した!
運転手が急ブレーキをかけるも間に合わず、男の子は引かれてしまった。
病院で手術を受ける男の子。トラックの運転手の青年も、輸血に協力する。
と、死神くんが現れ、男の子から魂を抜いた。説教をするためだ。
「お前なあ まだ8歳だろ なんで 自殺なんかしたんだ」
が、男の子は自殺という言葉の意味が分からない。
「つまり 死ぬつもりでトラックとぶつかったんだろ」
「ちがうよ 死ぬつもりなんてぜんぜんないよ ボクが 悪いことすればお母さんがもどってきてくれると
思ったんだ」
死神くんは首をかしげる。この子の母親は7年前に亡くなっているはずだが……死神くんは訳を尋ねてみた。
男の子の母親は、彼が生まれてすぐに亡くなり、その後、お手伝いとして家に来ていた紀子が彼を育ててくれた。
いつしか男の子は紀子のことをお母さんと呼んで慕うようになり、やがて、男の子にはよく分からなかったが、
紀子は本当のお母さんになった。つまり、父親が紀子と再婚したのだ。
それから楽しい日々が始まったが、長くは続かなかった。今度は父親が交通事故で亡くなったのだ。
「すごく悲しかったけど泣かなかったよ ボクには お母さんがついているからね」
- 68 :FJ S58年11/23号 2/4 :2008/12/07(日) 22:05:00 ID:???
- 始まった母子二人の生活。しかし、周囲の人々の心無い言葉は、容赦なく紀子を傷つけた。
『伊藤さんの奥さんよ 大変ねェ』
『あら そんなことないわよ 土地と財産を残していってくれたもの』
『生命保険一億円近くはいってたって話よ』
『再婚してすぐでしたものね』
『うまいことやったわね』
『子どもはどうするのかしら?』
『血は つながっていないし 他人の子じゃない』
「おとなたちの話してることはよくわからないけど……お母さんはいつも泣いてた…」
(お母さん 泣かないでよ ボクが ついててあげるから ボクが 守ってあげるから)
しかしある朝、男の子が目を覚ますと紀子は姿を消していた。彼は紀子を――お母さんを探しに出かけ、
そしてトラックとぶつかった、というわけだ。
死神くんは紀子を探しに行くことにする。それは簡単なこと。しかし……。
とある町。紀子は24時間営業のうどん屋で働いていた。
仕事を終え帰る途中、いきなり風で飛んできた新聞に顔を塞がれる。はがして見てみると、
「母をたずねて三千里!?」という見出しと共に、病院のベッドに寝ている男の子の写真が。驚く紀子に……
「あんたの子どもだろ?」
死神くんが話しかけてきた。紀子に男の子の友達だと名乗り、わざと事故を起こしたことを教え、このままだと
そのうち死んでしまうと言うが…
「し…知らないわ 他人の子だわ」
紀子は言った。
「残念ね。人ちがいよ…」
「そうか 人ちがいか 子どもを見はなすなんて 母親の資格ないもんなァ」
そう言う死神くんだが、去り際にしっかり男の子の入院している病院を紀子に教えた。
- 69 :FJ S58年11/23号 3/4 :2008/12/07(日) 22:07:20 ID:???
- 翌日。病院を訪ねた紀子を出迎えたのは、あのトラックの運転手の青年だった。事故が原因で会社をクビになり、
男の子が退院するまで父親代わりに面倒を見ることに決めたのだという。
「そのあとは 一からやり直しですよ」
青年は紀子を病室に招き入れる。男の子は体のあちこちに包帯が巻かれ、眼も包帯で覆われていた。
(ひどいケガ…痛かったでしょう……)優しく男の子の頭に触れる紀子。
(顔は だいじょうぶなの 目は 見えないの? わたしのことわからないわね……)
涙を滲ませる紀子。しかし、男の子が紀子の手を握った途端…
「お母さんの手だ!!」
驚く紀子と青年。そして静かに様子を見ている死神くん。
「見えなくてもわかるよ お母さん 帰ってきてくれたんだね」
嬉しそうな表情を浮かべる男の子。しかし紀子は、とっさに手を引っ込め病室を飛び出した。
「お母さん!! いかないで ボクをひとりにしないでよ!! お母さん! お母さ―――――ん」
男の子の悲痛な叫びが、病院に響き渡った。
「なんだ もうでてきたのか?」
息を整える紀子に死神くんが声をかけた。
「あんたの 子どもだろ。どうして いっしょにいてやらないんだ?」
「バ…バカ いわないでよ わたしの子どもじゃないわ!! 血が つながっていないもの!!」
「戸籍の上ではちゃんとした親子だろう? そんなこと関係ないと思うけどねェ」
「世間は そう見てくれないわ あなたにはわからないのよ!!」涙ぐむ紀子。
「世間も関係ないね なにもこだわることはないよ」
「無理よ…… もうもとにはもどらないわ わたし あの子を捨てたのよ 母親の資格ないわ……」
そう言ってうなだれる紀子。だが死神くんは言う。あのトラックの運転手は一からやり直しだと言っていた。
あんたもやり直したらどうだい? と。
- 70 :FJ S58年11/23号 4/4 :2008/12/07(日) 22:09:08 ID:???
- 「あの子……なんていってた?」
「わたしのこと…お母さんて……」
「よかったな」
いつの間にか、死神くんは空に浮いていた。
「あの子はあんたを母親と思っているし あんたもあの子を自分の子と思っている それでいいじゃないか
それが大切なんだ」
「あなたは……いったい……?」
「あの子の友だちさ」
死神くんは飛び去っていった。
男の子は、病室で青年に見守られ泣きながら寝ていた。死神くんは窓からそっと様子を見る。
「お母さんがもどらなくても もう こんなバカな事するなよ まあ…また こんな事をやろうとした時には オレが助けに
はいってやるけどな お前は まだ死んじゃいけない人間なんだ」
怪我が治った男の子は、青年に連れられ退院した。男の子を引き取りたいと名前を知らせずに連絡してきた
者がいたので、その人物の所に行くのだ。なんとなく元気がない男の子。青年には理由がわかっていた。
(お母さんのことは 忘れっちまいな)
引き取り先に着いた二人。家にいたのは……紀子だった。
「なんだい? あんたは」
青年の問いに、紀子はきっぱりと答えた。
「その子の母です」
男の子の顔が、たちまち笑顔になり――抱き合う二人を青年も笑顔で見つめた。
死神くんは屋根の上から成り行きを見ていた。
「生みの親より育ての親……か」
- 71 :マロン名無しさん :2008/12/08(月) 13:02:38 ID:???
- いくら自分が引いちゃったお詫びとはいえ、会社クビになった元凶でもある男の子にあそこまで出来るトラックの運ちゃん、いい人すぎるだろ…。
- 72 :マロン名無しさん :2008/12/08(月) 13:35:33 ID:???
- まあそうでなければ救いがないからね。
これからの人生に幸あれ、だな。
- 73 :マロン名無しさん :2008/12/08(月) 15:16:48 ID:???
- トラックの運ちゃんと紀子はくっつくのかな?
- 74 :マロン名無しさん :2008/12/08(月) 21:36:47 ID:???
- 何で紀子は男の子を捨てて逃げたのかな?
近所の噂になるのが耐えられなかったのなら、一緒に逃げた方がよかったろうに。
- 75 :マロン名無しさん :2008/12/08(月) 22:02:27 ID:???
- 子供連れてくと余計財産目当てに見られると思ったのかもしれん
- 76 :FJ S58年12/23号 1/4 :2008/12/09(火) 21:58:44 ID:/wLb09Yw
- 第5話 死神くんVS悪魔くんの巻
303人中111番。そんな自分の成績を見ながら、正一はなんとなくつぶやいた。
「これが ボクの限界か…… 楽して 一番になれる方法ないかねェー」
すると、
「あるぜ」
そう言って、二本の角と、先の尖った尻尾の生えた、全身真っ黒の子供が――悪魔くんが現れた。
悪魔くんは3つの願いを叶える代わりに、お前の魂をもらうと正一に告げる。あまりに現実離れした出来事に、
これを夢だと思った正一は、勉強で一番になりたいと願ってしまう。
「OK おやすいごようだ。また会おう」
次の日は一番苦手な数学のテスト。勉強していても、幼なじみのユリッペに「無駄なあがきよォ」とからかわれる。
ところがいざテストが始まると、答えが勝手に頭に浮かんできた。ようやく昨日の出来事が夢ではなかったと
気づく正一。その様子を満足げに見つめる悪魔くんのもとに、死神くんが現れた。悪魔くんが、また勝手に
魂を取り出そうとしていないかを警戒しているらしい。
「オレは 人間の 3つの願いをかなえてやってんだぜ 人助けだよ」そういう悪魔くんだが、
「それと ひきかえに魂を取り出すつもりじゃないか!!」と死神くんは怒る。
「オレは 魔界の悪魔 お前は 霊界の死神 口出しするなよ」と死神くんを突っぱね、去っていく悪魔くん。死神くんは、
嫌な予感がした。
試験後。順位が貼り出され、願ったとおり正一がトップになった。がっくりするそれまでの一位、山川を尻目に
友達から称賛される正一。ユリッペにも夢じゃないかと疑われる。一方で、カンニングをしたのではないかと
噂する者達もいた。
(ヘッ、そのうちわかるさ。いつでも一番になってみせるぜ)
- 77 :FJ S58年12/23号 2/4 :2008/12/09(火) 22:00:00 ID:???
- 勉強しなくてもいいんだ、と木の下で休む正一。そこへ不良グループが現れ、カンニングの方法を教えろと
迫ってきた。
カンニングじゃない、と否定するが、それをなめられたと勘違いした不良達は彼を校舎の裏へと引っ張っていく。
慌てて正一は悪魔くんに助けを求め、世界一強い男にしてくれ、と願ってしまう。
不良達にボコボコにされる正一。その時、悪魔くんの声が頭に響いた。
『なーにやってんだ? お前は 強い男だ。やっつけちまいな』
それを聞いて、半ばやけになってパンチを繰り出すと、あっさり不良は倒れてしまった。怒って向かってきた
残り二人も難なく迎え撃つ。だが、次第に表情が歪み始め……
(どうだ ボクは強いんだ。世界一 強いんだ)
ハッと気づいた時には、不良達はもちろん、自分の拳も血まみれになっていた。
「バカなことしたな」
呆然とする正一の前に死神くんが現れ、悪魔に魂を売ったことを叱るが、悪魔くんがそれを止めた。
「こいつの話は気にすんなよ。それより あとひとつしか残ってないぜ」
もっとスケールを大きくしたらどうだとそそのかす悪魔くんと、死ぬからやめろと止める死神くん。
「夢は 自分の力で つかむもんだ 人の力を借りるもんじゃない!!」
怒った悪魔くんは、魔法で死神くんを弾き飛ばしてしまった。
「ま、気にすんなよ オレはいつでも出てきてやっからな」
「おい!! いいか もう一度考え直すんだ」
悪魔くんと死神くんは、それぞれそう言って消えた。
一人残された正一は思う。
「なにを やろうとボクの勝手じゃないか…」
翌日。家族が起きてきた正一の顔を見て、何故か驚いている。不思議に思いつつ洗面所に入って鏡を見て……
正一は言葉を失った。自分の顔が、悪魔のようになっていたのだ。
慌てて顔を洗うとすぐ元に戻ったが、学校でも普通に挨拶をしただけでユリッペに逃げられ、山川にも
「いずれ トップにに返り咲いてみせるからな」と絡まれる。
みんなが、自分から遠ざかってゆく――
- 78 :FJ S58年12/23号 3/4 :2008/12/09(火) 22:01:07 ID:???
- 「これでわかっただろう?」
それを悟る時を待っていたかのように、死神くんが言う。
「悪魔に 魂を売ったお前自身が 悪魔になってしまったんだよ」
もう悪魔なんかと――と言いかけたところで、また悪魔くんが死神くんを蹴飛ばして止めた。
「べつに心配するなよ 友だちがほしけりゃオレがかなえてやる」
しかし正一は、そんな悪魔くんの言葉など耳に入っていないかのように行ってしまった。
思わず仕事の邪魔ばかりしやがって、と死神くんに掴みかかる悪魔くん。人の生死を軽々しく扱うなんて
許せないと言う死神くんに、悪魔くんも反論する。
人間なんて欲望の固まり、自分の欲望のために命を捨てる人間なんてゴマンといる。俺はその欲望を満たして
やっている、いわばボランティアだと。
「はたしてそうかな 後悔しているやつがいるんじゃないのか? 悲しむ人間がいたんじゃないのか?」
「けっ そんなこと知るかよ とにかく オレは人間どもの 夢をかなえてやってんだ それなりに
よろこんでるはずさ」
それより見ろよ、と悪魔くんは地上を指差した。正一が可愛らしい女の子――京子の方を見ている。
どうやら正一は彼女のことが好きらしい。
「最後の願いはこれで決まりかねェ」
友達に話しかけられ、京子は正一が見ていたことに気づく。しかし、不良グループを倒したという話がもう
広まっており、京子は怖がって行ってしまった。彼女だけじゃない。倒した不良達も、ほかの生徒も先生も……
(みんな…ボクを見る目が 今までとちがう…)
(悪魔よきてくれ)
「そーら お呼びが かかった!」
大喜びで正一の元へ向かう悪魔くんを、死神くんが必死で止める。
「お前が 彼の一生を だいなしに してしまったんだぞ お前に そんな権利があるのかよ!!」
「これが オレの仕事なんだよ!!」
しかし、やってきた悪魔くんに正一が言った願いは……
- 79 :FJ S58年12/23号 4/4 :2008/12/09(火) 22:01:58 ID:???
- 「もとの 自分に もどしてくれ」
――予想外のものだった。
「勉強が できるようにしてやったし 世界一 強い男にもしてやった それをもどせっていうのか!?」
面食らい、戸惑う悪魔くん。死神くんはそんなことより生きることを考えろ、と訴えるが、正一は言う。
「今の状態で 生きていくのはつらいことだよ せめて 死ぬときはもとの自分に… 本当の自分で
ありたいんだ」
茫然とする悪魔くんだが、
「よーし わかった!」――その願いを聞き入れた。
死神くんが止めるが、正一は悪魔くんの手から出た稲妻を浴び……元に戻ってしまった。
「これで ボクは 死んでしまうんだね」と泣く正一。しかし…
「まだ死なないね」
悪魔くんの言葉に、正一も死神くんも驚く。
「まだひとつしか願いをかなえてないぜ 今の願いで 前のふたつの願いをうちけしたことになる
まだ死なないね」
これで終わった訳じゃない、お前に欲望があればいつでも出てくるからな――そう言って、悪魔くんは
帰っていった。
「よかったな もう あいつと会うこともないだろう ガンバレよ」正一を励ますと、死神くんも帰る。
「ありがとう…」
正一は、静かに悪魔くんに礼を言った。
再び行われた定期試験で、山川は一位に返り咲いた。狂喜し「一番になったくらいで 自慢したり
つけ上がったりするんじゃねーぞ!!」と言う彼に「本当によかったね」と正一。山川はぽかんとする。
「また 前のやさしい正ちゃんに もどったの?」とユリッペも声をかけてきた。そのスカートをめくり、
ユリッペと喧嘩になる正一。
死神くんと悪魔くんが、木の上からその様子を見ていた。
「もう お前の出番はないようだな」
「ケッ まだわからないさ いっただろ 人間は欲望のかたまりなんだ…」
去っていく悪魔くん。だが、死神くんは校庭で元気よく遊ぶ生徒たちを見ながらつぶやく。
「ああ たしかにお前のいうとおりだ でもそうでもない人間もいるものさ」
- 80 :マロン名無しさん :2008/12/09(火) 22:17:04 ID:???
- 悪魔くんか。
三つの願いで死んじゃうんじゃ割に合わないな。
- 81 :マロン名無しさん :2008/12/09(火) 22:26:43 ID:???
- なんか良心的な悪魔だな。
- 82 :マロン名無しさん :2008/12/09(火) 22:31:43 ID:???
- ライバルっぽいのが出てきたな
悪い存在なんだろうけど憎めない奴だw
- 83 :マロン名無しさん :2008/12/09(火) 23:09:47 ID:???
- デザインがシンプルすぎるだろ悪魔くん
- 84 :マロン名無しさん :2008/12/10(水) 13:15:32 ID:???
- 願いを二つだけ言ってそのまま死に逃げするのが一番だな
まあ、実際それは難しいんだろうけど
- 85 :マロン名無しさん :2008/12/10(水) 22:16:30 ID:???
- 願いを叶えてもらうごとに、自身の魂も悪魔と同化してく感じなんかねぇ
だとしたら2つ願いを言ったら、3つ目の欲望も抑止が利かなくなりそうだな
- 86 :マロン名無しさん :2008/12/10(水) 22:25:52 ID:???
- そのギリギリで死をも覚悟の上で思いとどまった正一はホント偉いよ。
俺なら絶対欲望に溺れたままだった。
- 87 :マロン名無しさん :2008/12/11(木) 16:19:57 ID:???
- 三つ目の願いって言ったらすぐに死んじゃうのか?
だとしたらまったく意味無いんだから頼むわけないじゃん
せめて一日くらいは願いを堪能する猶予がないと
- 88 :マロン名無しさん :2008/12/11(木) 16:35:29 ID:???
- 息子の命を救って!とかなら意味あるだろ。
- 89 :FJ S59年1/23号 1/4 :2008/12/11(木) 21:58:38 ID:???
- 「むかしむかし………」
幼なじみの四人の子供達――太郎、みちお、夏樹、ヤスジは、今日も村の物知りのおばあちゃんの昔話を
聞きに来ていた。しかしそれも今日が最後。四人とも遠い里の中学校に通い始めるため、遊びに来られなく
なってしまうのだ。
「そうか…もう みんなおとなに なっただなァ みんな おとなになって この村からでていってしまう…
そして だれも もどってはこないんじゃ…」
第6話 帰郷の巻
12年後――冬。
四人の中でただ一人村に残り農業を営む太郎のもとに、おばあちゃんが倒れたという知らせが入る。
おばあちゃんももう九十九歳、ポックリいくんじゃないかと話す他の村人達を、縁起でもねェこと言うなと
思わず怒鳴る太郎。しかし見舞いに来た太郎におばあちゃんはあと二日で死ぬと告白する。死神くんから余命の
宣告を受けていたのだ。
死神くんはおばあちゃんが死ぬ前に残りの三人にも会いたがっていることを告げ、太郎と共に、急行で東京へ
向かった。
「ばっちゃんみたいないい人が死ぬなんて……」
「おいおい いずれ人間は 死ぬもんなんだぞ これは だれも のがれられない運命なんだ おばあちゃんの
番がきただけのことさ」
東京の人混みに気後れする太郎。探しに来たものの、三人の住所もわからないのだ。すると死神くんが
一人の男を指差し、あの男に声をかけろと言い出した。慌てて言われたとおりにすると…
「太郎!! 太郎じゃないか」
男はみちおだった。早速おばあちゃんが倒れたことを伝え、帰ってきてくれるよう頼むが、明日から部長の
海外出張のお供をするので無理だと言う。だが、太郎と別れた後、みちおは思う。
(もう5年も村に帰ってないな……)
「残念だな……」
「みちおくん 本当はいいやつなんだよ」
- 90 :FJ S59年1/23号 2/4 :2008/12/11(木) 22:00:32 ID:???
- 次に探しに行くのは夏樹。彼女は歌手になるために歌の勉強をしているらしい。
テレビ局の前で待っていると、出てきたのは歌手の斎藤やよいとそのマネージャー達。夏樹は歌手になれず、
彼女の付き人をやっているのだ。
夏樹にもおばあちゃんが倒れたことを伝えるが、年末年始が一番忙しい時期だから無理だと言って帰って
しまう。
「お前の友だちは薄情なやつだな」
「うるせ〜〜」
プロダクションの寮に戻った夏樹は、電話でやよいのマネージャーからお叱りを受ける。
「お前はなァ 歌手の斎藤やよいに 食わせてもらってるんだ それを忘れるんじゃない」
電話を切った夏樹の目には、涙が浮かんでいた。
残る一人はヤスジ。しかしもう時刻は夜中。もう寝てるだろう…と思っていると、目の前を暴走族が通りだした。
と、死神くんがいきなり太郎の体を蹴飛ばした。危なくバイクに引かれそうになる太郎。怒った運転手が
ヘルメットをはずすと……
「太郎! 太郎じゃねーか!!」
なんとヤスジだった。ヤスジにもおばあちゃんが倒れたから来てくれないかと伝えるが、正月は皆とつるんで
ぶっ飛ばしにいくから無理と答える。
「ヤスジ…そんなことで…」
「悪いな オレ もうあんな田舎 帰りたくねーんだ」
あっけにとられる太郎を残し、ヤスジは行ってしまった。
「太郎……すまねェな つとめてた工場が倒産しちまって オレ 今無職なんだ みんなにあわす顔ねーじゃ
ねェか」
「全部だめか… しかたない さあ 帰ろ」
「バカヤロウ…… バッカヤロ―――」
涙混じりの太郎の叫びが、夜空に響き渡った。
- 91 :FJ S59年1/23号 3/4 :2008/12/11(木) 22:02:02 ID:???
- 村へ戻り、みんなが来られないことを伝える太郎。おばあちゃんは微笑んで静かに「残念じゃな……」と
言っただけだった。
「ばっちゃん なんかしてほしいことねェか? オラ なんでもしてやるだ」
太郎の問いに、おばあちゃんは戦争が終わってから一度も行ってない、白崎山に登ってみたいと言った。
太郎は願いを叶えるため、動けないおばあちゃんを背負い、山に行くことに。
懐中電灯で、道を照らしながら山を登る二人。
「みんな元気にやっておったか?」
元気だったと答える太郎に、それならええんじゃと笑うおばあちゃん。
しかし太郎は堪えきれなくなったように言った。
「ばっちゃん…よくないよ あいつらはもう………もう 友だちでもなんでもねェだ!! この村を捨てて
でていったんだ 身も心も くさった人間になっちまったんだよ!!」
と、
「おいおい ひどいこというなァ………」
そう言って、みちおが現れた。
「ばっちゃん オレ帰ってきたよ」
「みちお」
仕事はどうしたと聞く太郎に、俺の人生はまだ長い、仕事なんてこれから何でもやれるから気にすんなよ、と
みちおは答えた。
「みちお お前やっぱりいいやつなんだよな それにくらべて夏樹のやつはスターきどりで 厚化粧でブスの
ひねくれた女になっただ」
するとその言葉に、
「ず…ずいぶんひどいこというのね…」
夏樹がムッとした表情で姿を見せた。偶然、列車の中でみちおと会い、一緒に来たのだ。
「おばあちゃん 帰ってきたよ」
「おお…おお 夏樹ちゃん べっぴんになったのォ」
夏樹も仕事をやめて来たという。感激する太郎。
「それにひきかえ ヤスジのやつはもうだめだべ!! 暴走族にはいってて本当にひねくれてるだ オラの村を
バカにしたんだ オラ ぜったいにゆるさんぞォ!!」
- 92 :FJ S59年1/23号 4/4 :2008/12/11(木) 22:03:20 ID:???
- その時、
「へへへ…太郎よォ オレ あやまるよ ゆるしてくれや」
前からヤスジが姿を見せた。みんなが山へ登ったと聞き、みんなを驚かそうとバイクで反対側の道から来たのだ。
「ばっちゃん オレも 帰ってきたぞ」
「おお りっぱになったのォ」
この村に住むことにしたから、トマトの作り方教えてくれよ、と太郎に言うヤスジ。
「ありがとう みんなありがとう……」
太郎は泣きながら、礼を言った。
と、除夜の鐘が鳴り、年が明けたのに合わせるかのように、雪も降り始めた。
「みんな……」
不意に、おばあちゃんが話し始めた。
「みんな この村をでていって なにをしようが自由じゃ…… 若いんじゃからなんでもやったらエエ…
しかし これだけは忘れちゃなんねェ みんな この村で生まれて育ったんじゃ この村が 故郷(ふるさと)
なんだということを これだけは 忘れちゃなんねえぞ………」
みんなの目に涙が浮かんでいた。
「心にしみるいいこというねェ」
いつの間にか死神くんが近くに来ていた。勿論、その姿と声は太郎とおばあちゃんにしかわからない。
もう時間がないという言葉に、覚悟は出来てると言うおばあちゃん。
「ばっちゃん 昔話きかせてくれよ!! ホラ オラたちが 子供の頃よく話してくれたべ!」
太郎の言葉に、他の三人も同じようにせがむ。
そして、おばあちゃんが話す最後の昔話が始まった。
「むかしむかし………」
- 93 :マロン名無しさん :2008/12/11(木) 23:03:23 ID:???
- 仕事の方が大事だよなぁ・・・なぁ、そうだろ?(´;ω;`)
- 94 :マロン名無しさん :2008/12/11(木) 23:14:42 ID:RWwj9lOW
- 仲が良かった太郎に住所すら教えてなかったってことは、三人とも村出た時点で帰ってくるつもりなかったんだろう。
それが戻ってきたってところがいいんじゃないか。
- 95 :マロン名無しさん :2008/12/12(金) 14:11:47 ID:???
- しかしこの先彼らの生活は大変そうだな
- 96 :マロン名無しさん :2008/12/12(金) 17:58:34 ID:???
- 女優になれてないのがリアルだ
- 97 :マロン名無しさん :2008/12/12(金) 21:25:11 ID:???
- 実の孫でもない子供達にこんだけ好かれてるばあちゃんいいなあ。
こういう年寄りになりたい。
- 98 :FJ S59年2/23号 1/4 :2008/12/13(土) 21:56:20 ID:???
- 第7話 誘拐犯の娘の巻
「出ていけ 二度とくるなバカヤロウ!」
無精髭の男は目の前の青年・よしおに杯を投げつけた。よしおは男の娘・美樹の恋人で、今日は結婚の許しを
もらいに来たのだが、あまりの迫力に家を飛び出してしまう。
二十年間育ててきた娘を嫁にやるつもりはないと、再び酒をあおる男。そこへ、
「あんまり飲むなよ 体に悪いぜ」
死神くんが現れた。
死神くんは、男に余命があと一週間であることを告げ、娘さんのことはどうするのか、と尋ねる。
「わしが 死ぬゥ? 娘が どうした? てめーにゃかんけーねェ!!」
「オレは 20年前の事をいってんだよ」
――男の手から、杯が滑り落ちた。
「娘さんにはなにも話してないんだろ とにかく あんたの命は あと一週間 身のまわりを きれいに
かたづけたら どうだい」
みるみる男の表情が曇っていく。
「ま あんたの考え方しだいだけどね……」
男は美樹に、20年前の新聞記事を渡し、読ませた。
『 『のり子ちゃん誘拐事件』
吉川産業社長・吉川竜夫さんの長女のり子ちゃん(生後6ヶ月)誘拐される
犯人からの 連絡がなく 手がかりも つかめず捜査難航…』
「これがどうしたの?」と訊く美樹に男は言う。そののり子ちゃんというのがお前の事で、誘拐犯は自分だ、と。
- 99 :FJ S59年2/23号 2/4 :2008/12/13(土) 21:59:38 ID:???
- 冗談だと思う美樹だが、男は続ける。自分も死んだ母さんも血液型はO型。A型である美樹が生まれるわけが
ないと。
さらに生まれてすぐに母さんが死んだというのも嘘だと、母の死亡通知を見せる。書かれていた日付は……
美樹が生まれる半年も前だった。
それでも信じないと言う美樹を、なら自分の目で確かめればいい、と男は強引に追い出してしまう。
美樹は、新聞に書かれた住所を頼りに、吉川家に向かうしかなかった。
吉川家に着いた美樹は、家政婦さん募集の貼り紙を見つけ、素性を隠して働くことにした。
家族はいかにも金持ちの妻といった感じの、実の母であろう竜夫の妻。これまた成金といった感じの、小太りで
頭の薄い、実の父であろう主人の竜夫。そして、弟と思われる息子が一人だった。
(わたしの家…)
家で一人痛みに苦しむ男。死神くんによると酒の飲み過ぎが原因の癌で、死因もそれだという。
「殺せ… 早く楽にしてくれ こんなじじいが 死んだところで 悲しむ人間なんて ひとりも いやしないんだ」
その様子に、死神くんは自分のお節介で悪いことをしたな、と少し後悔するのだった。
掃除中、仏壇にのり子と書かれた位牌を見つける美樹。自分は死んだことになっているらしい。
そこへ、息子が自分の部屋を掃除してくれと頼みに来た。行ってみると部屋は綺麗で掃除の必要など
なさそうだが……と、いきなり背後から息子が襲いかかってきた! 幸い母親に見つかり事なきを得たが、
彼女は息子のこの女が誘った、という言い分を信じ、一方的に美樹が悪いと決めつけ謝るよう命じる。
弁解も許されず、美樹は仕方なく土下座をして謝るしかなかった。
「す…すみませんでした……」
- 100 :FJ S59年2/23号 3/4 :2008/12/13(土) 22:01:18 ID:???
- 「こら――――っ めしはまだか!?」
何故か男に家事をやらされている死神くん。お前が娘を追い出せ、と言ったのだから、代わりに面倒を見ろと
いうことらしい。もっとも、死神くんは追い出せとは言っていないのだが……。
男は言う。美樹がいなければ自分はとっくに死んでいる、酒がなければ何も出来ないダメな男だと。
あの時も、妻に死なれ、人に騙され、金欲しさにたまたま見つけた赤ん坊を誘拐した。だが、いつしかその子が
可愛くなってしまい、美樹と名付け、自分の娘として育ててきた――20年間、あの日まで。
「美樹……」
美樹は竜夫の部屋へ行き、思い切ってのり子の事を尋ねてみた。
「昔のことなんで、すっかり忘れとった」と言う竜夫に唖然とする美樹。
「のり子は 死んだよ」
「死んだって…ちゃんと確認なさったのですか?」
「確認せんでも 20年もたっとる 死んだに 決まっておるよ」
死んだと思っていればあきらめがつく、仮に犯人が身の代金を要求しても、一銭も出す気はなかった……
父親とは思えない言葉が、次々と竜夫の口から飛び出してきた。――目の前にいるのが、当ののり子だとも
知らずに。
「わしゃ 男の子がほしかったんじゃよ その後 跡継ぎの長男が生まれたんで よかったわい」
美樹の目から、涙が零れ落ちる。
「それより あんた どうして のり子のこと 知ってんだね?」
美樹は答えず「今日かぎりでやめさせていただきます」と部屋を飛び出した。
「なんだと!? 三日しか働いとらん 金なんぞ ぜったいやらんからな!!」
(わたし… この家の 娘なんかじゃない!!)
父の元へ帰ろうとする美樹の前に、いきなり息子が立ちはだかった。美樹がやめたと聞くと、これで正々堂々と
お付き合い出来ると言い「この前のつづきやろうぜ!!」と再び襲いかかってきた。美樹は自分が姉だと告げ、
やめさせようとするが……口に出せなかった。
- 101 :FJ S59年2/23号 4/4 :2008/12/13(土) 22:03:49 ID:qwlxaJ5N
- ちょうど様子を見に来た死神くんが慌てて助けようとしたが、それより早く、よしおが美樹を救った。
美樹が家を出たと聞かされ、ずっと行方を探していたのだ。
「ケガしないうちに失せろ!!」
よしおに凄まれ、息子はさっさと逃走。よしおに抱きつき、美樹は思い切り泣いた。
「さあ 帰ろう!」
死神くんは娘さんが帰ってくるから、と男の部屋の掃除を始めた。男は、金持ちの本当の両親と一緒に幸せに
暮らしてるあいつが戻ってくるわけがないと言うが……
「ただいま お父さん!」
美樹は、帰ってきた。
「な…なにをいってんだ わしは…わしは……」
戸惑う男の顔を、美樹はしっかりと見つめ、言った。
「いいえ お父さん わたしはあなたの娘です」
男の目に、涙が滲んだ。
「バ…バカヤロウ お前なんか……さっさと 嫁にいっちまえ!!」
それから間もなく、よしおと美樹の結婚式が行われた。娘の晴れ姿を男は……魂となり、死神くんと共に
上空から見ていた。
男は満足げな笑みを浮かべると、早々に霊界へ向かうことにした。
「なんだ もういいのかい?」
「娘の泣く所なんざ 見たくねェよ」
「………それも そうだな」
式を終えた美樹は、新婚旅行を前に父に会いに行く。もう父が言切れていることなど、知る由もなく……。
「お父さん!!」
- 102 :マロン名無しさん :2008/12/13(土) 22:28:27 ID:???
- そういえば誘拐した子と一緒に暮らしてたって事件なかったっけ?
- 103 :マロン名無しさん :2008/12/14(日) 00:46:10 ID:???
- ハッピーエンドっぽいけど最後のコマが凄い切ない
重い話が多かったけど最後はスッキリしてたのに、今回はスッキリできない
- 104 :マロン名無しさん :2008/12/15(月) 18:46:34 ID:???
- 多分これがベストな落とし所なんだろうけど、娘さんがかわいそう。
- 105 :FJ S59年3/23号 1/4 :2008/12/15(月) 22:07:01 ID:???
- 第8話 因果応報の巻
俊彦にとって、それは突然の事だった。
息子の政彦が、包丁で彼を刺したのだ。
悲鳴をあげる妻。お父さんなんか嫌いだよ!! と吐き捨てるように言い、背を向ける政彦。
「こんな…ばかな…」
何故…と思いながら、俊彦は意識を失った。
「ヨウ ひどい目に あったな」
手術中、俊彦の前に死神くんが現れた。手術中なのに一体どこから? と不思議がる彼に死神くんは俺のことを
もう忘れたのかい? と言う。実は二人は以前にも会ったことがあるのだ。それは30年前のこと……。
まだ俊彦が子供の頃、家は荒れていた。父親が酒を飲んでは、家族に暴力をふるっていたためだ。
もう酒を買うお金がないと言う母を殴る父。止めに入った俊彦も殴られる。次第に父への殺意を募らせていく
俊彦は、父が母の大事にしていた品を売りに行こうとするのを見てついに――包丁で父を刺した!
そのまま家を飛び出し、責任をとろうと首吊り自殺を図ろうとしたが――
「こらこら 命を粗末にするんじゃない」
死神くんが現れた。驚く俊彦に死神くんは、父はまだ死んでないから安心しな、と伝える。
それならなおさら死んでやる、親父の顔は見たくないという俊彦に、死神くんは何故か十数えてから死ねとアドバイスをする。
言われたとおり十数えた直後、近所の大人に見つかり、俊彦は結局死ねなかったのであった。
ようやく思い出した俊彦の魂を、死神くんは肉体から分離させ、名刺を渡す。と言っても死ぬわけではなく、相談したいことがあるのだという。
- 106 :FJ S59年3/23号 2/4 :2008/12/15(月) 22:09:51 ID:???
- 「こんどの あんたの息子がとった行動を どう思う?」
わからないと言う俊彦に、死神くんはこれは因果応報≠セ、と言う。
「30年前のあんたと同じで 息子さんは父親を憎んでいるんだ」
俊彦は反論する。自分は酒は飲まないし家族に暴力を振るったこともない、一流大学を出て一流会社の部長の
役職についている、死んだ親父とは違う、と。
それでも同じだと言う死神くんは、どこが同じなのか言ってみろ、と言う俊彦に、いくつか質問をする。
「あんた 子供といっしょに寝たことあるかい?」
「わたしは 仕事で夜がおそいのだ いっしょに寝たことはない」
「子供といっしょに風呂 はいったことあるかい?」
「それは妻の仕事ではないか」
「子供といっしよに食事したことあるかい?」
「それも 妻のやる事だ わたしは仕事がいそがしい…」
「子供と 話したことあるのかい!?」
「話なら いくらでもしたぞ…」
「そうかい “勉強しろ”のことば以外 かわしたことあんのかい?」
俊彦は過去を思い返す。
言われてみれば、政彦には幼い頃から、勉強してお父さんのように偉くなれ、と言い続けてきた。
遊ぶ暇があったら勉強をしろと言い、こんな簡単な問題も出来ないのかと厳しく叱り、問題集が終わるまで
部屋から出るなと言いつけたり……。
そして刺される直前、妻は言っていた。最近、あの子が怖い、時々すごい目で睨むと。そんな…と笑った直後、
包丁を持った政彦が現れて――
- 107 :FJ S59年3/23号 3/4 :2008/12/15(月) 22:13:06 ID:???
- 「ホーラ オレの言ったとおり あんたと父親は同じだ!!」
あんたもあんたの父親も愛情がない、愛情がなければ子供は親を嫌いになる、と死神くん。
「とにかく これは因果応報だ あんたの子供…そして孫…その子孫へと延えんとつづくぜ」
今のうちに何とかするんだ、と死神くんは俊彦の魂を病院の屋上に連れて行く。
そこには8年前に死んだはずの、俊彦の父の魂がいた。あることが気になり、成仏出来ずにいるのだという。
不意に、父の魂が土下座をした。
「俊…ゆるしてくれ」
「おやじ…」
「わしは だめな父親じゃ めいわくばかりかけてしまった…すまん…」
と、俊彦は気付く。父の腹に、包丁が突き刺さっている! 驚く俊彦に、父は言う。
「あの時のままじゃ… 体の傷は治ったが 心の中では あの時からつきささったままじゃ…」
「ぬいてやれ」
死神くんは言った。
「あんたの手でぬくんだ 過去のあやまちを悔いあらためるんだ」
俊彦は、包丁をそっと、引き抜いた。
「おやじ…すまん 痛かっただろう…」
すると父の魂は、瞬時に消えていった。成仏したのだ。
今度はあんたの息子の番だといい、死神くんは帰っていく。
「どうすればいい?…」
「自分で考えな 父親の仕事だ」
俊彦は目を覚ました。妻によると、傷は4、5日様子を見て退院できる程度のものらしい。そして政彦は警察に……。
俊彦は、政彦を呼ぶよう妻に頼む。
やがて、警官に付き添われて、政彦がやって来た。
- 108 :FJ S59年3/23号 4/4 :2008/12/15(月) 22:14:59 ID:nrONFnV1
- ――愛情がないんだよ。
死神くんの言葉が脳裏をよぎる。
部屋に入ってきた政彦は……自分を憎んでいる目をしていた。
わずかな沈黙。そして――
「政彦… ありがとう…」
父の思いがけない言葉に、政彦は目を瞠った。
「政彦のおかげでお父さん 目がさめたよ… 本当に ありがとう」
妻も警官も、静かに様子を見守る。
「政彦の人生は政彦のものだ お父さんの出る幕じゃないよな…」
はっとする政彦。
「これから なにをやるかは自分で決めなさい 迷うことがあったら お父さんに言いなさい いつでも
なんでも相談にのろう… お前が横道にそれそうな時は お父さん 口出しするぞ それくらいいいだろう?」
すると、それまで静かに話を聞いていた政彦が……
「お父さん!!」
涙を流しながら、俊彦に抱き付いた。
「ごめんよ お父さんごめんよ!! 痛かったでしょ ごめんよ!!」
そういう政彦に、謝るのはお父さんの方だ、今まですまなかった、許してくれと謝る俊彦。妻も涙を流していた。
「政彦 大きくなったな」
「えっ な…なに? 急に…」
「ハハハ…いや お父さん気がつかなかったよ…」
死神くんは、その会話を外で聞くと、安心したように帰っていった。
「やっぱり 愛情がなくっちゃねェ………」
- 109 :マロン名無しさん :2008/12/15(月) 22:22:24 ID:???
- 不覚にも泣いた。今までの話も泣けたが、今回はやばい。
- 110 :マロン名無しさん :2008/12/15(月) 23:47:42 ID:???
- 家庭内暴力にさらされた子が親になって同じような立場になるって話は聞くけど、それとはちょっと違うな。
- 111 :FJ S59年4/23号 1/3 :2008/12/17(水) 22:02:41 ID:???
- 第9話 中村さんちの名医さんの巻
黒方村にある古いプレハブの建物。そこがこの村で唯一の診療所、中村診療所だ。
まだ若い医師、中村先生と、看護婦を目指してアルバイトをしているが、手術ですぐに貧血を起こしてしまう
よし子の2人で切り盛りしている。
しかし、診療所内では子供達が大騒ぎ。患者の中にはちょっとした火傷で来るおじいさん、豚が病気になった
とやって来る者、トラクターが壊れたから直して欲しいという者もいる始末。
息子が作文を書いた、見合い写真はどうだ、畑に害虫が出た……収拾が着かない状態に先生は叫ぶ。
「本日の診察 これまで!!」
夜になり、雨が降り始めた。よし子も帰り、先生は入院患者の診察に回る。
廊下では老人達がゲートボールをしていた。元気なのに老人ホーム代わりに入院している彼らに説教し、
先生は大気汚染による公害病で入院している少女、里美の病室へ。この村なら空気は綺麗だし、医学も進んで
いるから心配ないと里美を元気づける先生だが……
「あたしね… もうすぐ死んじゃうんだって」
里美の言葉に、仰天する先生。
「死神さんがね 死ぬっていったの」
それを里美の悪い冗談だと思う先生だが、本当に死神くんが現れた。しかし先生は名刺を渡されても彼を
死神だとは信じず、医者でもないのに何がわかる、と怒る。
「医者でなくても オレはなんでも わかるよ 里美ちゃんは一生 治らないね ベッドの上で一生すごすより
生まれ変わって 新しい人生を歩んだ方がいいんじゃないのかい?」
「やかましい! そんなこと 勝手に決めるなよ!! 人の生命を なんだと思ってんだ!?」
手ごわい相手だと思いつつ「オレが決めたわけじゃない これは運命だ」と死神くんは答え、後で迎えに
来るからと、引き上げていった。
外は激しい雷雨となっていた。
- 112 :FJ S59年4/23号 2/3 :2008/12/17(水) 22:04:59 ID:???
- 先生はよし子を呼び出し、里美を公害病の研究の進んでいる×市の病院に移すことにする。
しかし、×市までは遠い上、天気も悪く時刻も夜中。よし子は驚くが、先生は構わず里美をよし子に託し
出発する。しかし途中の道が鉄砲水や土砂崩れが起きる可能性があるからと通行止めになっていた。
構わず強行突破する先生。よし子の咎める言葉も先生には届かない。
「死なせるもんか 医学は 進んでるんだ 人間は 癌をも克服しようとしているんだ 運命が なんだ
医学が 運命を変えてみせるぞ!!」
上空から見つめる死神くん。その時、稲妻が閃き――土砂崩れが起こった!
なんとか埋まることは避けられたが、道路は完全に寸断された。もう無理だから戻ろうと言うよし子だが、
先生は負けるもんかと外へ出てスコップで土砂を掘り始める。と、里美が激しく咳き込み出した。
「里美ちゃん どうしたの!? 里美ちゃん!!」
先生がふと振り返ると、よし子が外へ出ていた。患者から目を離すなと叱る先生だが、様子がおかしい。
その時、彼の目に飛び込んできたのは……死神くんに手を引かれ、天へ昇っていく里美の魂だった。
里美は先程の発作で、力尽きたのだ。
もう動かなくなった里美の体を抱きかかえ、先生は思う。
これがこの子の運命だというのか? 医者はこの子に、どんなに手を尽くしても無駄だということか?
運命のもとでは医者は、無力なのか……?
「なんのために医者が いるんだ? すべての人間に 運命が決められているのならば 医者なぞ
必要ないではないか!? どうなんだ!? 答えてみろ!!」
しかし叫び声は雷鳴にかき消され、答えが返ってくることはなかった。
数日後、診療所に「本日より廃業!」の張り紙が張られていた。
先生は医者をやめ、村を出ることにしたのだ。
駅へ向かう彼を、死神くんが止める。あんたがいなけりゃ、この村からたくさん死人が出る。
運命が変わってしまう人間がたくさん出るんだ、と。
「人間なんて いずれ死ぬ運命にあるんだ 遅いか早いかの 問題さ」
「そいつは ちがうね 運命は 決まっていても 人生は 決まっちゃいないよ 自分の人生は自分で決めるんだ」
- 113 :FJ S59年4/23号 3/3 :2008/12/17(水) 22:08:58 ID:boGy8LwZ
- 医者として働き、これからも生きていくのがあんたの決めた人生、無医村で病院を建てるのが夢だったんじゃ
ないのか――と言う死神くんだが、先生はこんな貧乏村じゃやってけないんだよ!! と反論する。
診察料は払わず、米や野菜を持ってくるばかり。用がないのに来る者もいるし、暇つぶしに入院する者もいる、
何よりガキがうるさい、と。
だが、それはみんなあんたを慕っているからだ、と死神くんは教える。
「あんたがきてから この村は 活気づいたんだ みんな あんたが好きなんだよ」
しかし先生は「やっかましい」と死神くんに石を投げつけた。
「ガンコ者!!」
村人達は駅に集まり、必死で先生を止める。先生がいないと困る、もうゲートボールもやらないから……。
「うるせェなァ! オレはこんな田舎だいっきらいなんだよ!!」
田舎は辛気くさくていけない、何よりもピチピチした若いギャルがいねえじゃんかよ……と、悪口を言う先生。
と、顔にトマトが投げつけられた。投げたのはよし子。よし子は餞別よ、とトマトを渡すと泣きながら走り去った。
「なによ! あたしの気持ちも知らないで!!」
走り出した電車の窓から見える人々。うるさい子供達も村長も、村人達がみんな見送っていた。自分なんか
のために…。
(医者は オレの決めた人生か……)
籠の中のトマトをかじると、何故かじんとして涙が出てきた。
「都会じゃ こんなうまい野菜 食えないだろうな」
「そうさ」
いつの間にか隣に来ていた死神くんもうなずいた。
さっきのお返しとばかりに、よし子の顔にトマトがぶつけられた。ぽかんとしていると、そこには先生が。
「オレの病院は 年中無休だ!! さっさと したくしてこ〜〜い!! こんど貧血おこしたらクビだからな!!」
よし子は「ハイ!」笑顔で答えた。
そしてまた、中村診療所に騒がしい日々が戻ってきた。
死神くんは木の上から様子を見ていた。
「あんた この村じゃ世界一の名医だぜ」
- 114 :マロン名無しさん :2008/12/17(水) 22:13:27 ID:???
- > 里美ちゃんは一生 治らないね ベッドの上で一生すごすより
> 生まれ変わって 新しい人生を歩んだ方がいいんじゃないのかい?
なんか今までとはちょっと違った感じの皮肉なセリフだな。
死神くんってこういうことはいわないのかと思ってたけど。
- 115 :マロン名無しさん :2008/12/17(水) 22:41:07 ID:???
- 冒頭の何でもないことで駆け込む村民にいらついた。
俺はこんな生活は嫌だな。
もっとも中村先生のように好かれないが。
- 116 :マロン名無しさん :2008/12/17(水) 23:14:20 ID:???
- ブラックj…ゲフンゲフン
ブスーのコマは手塚パロだよな。
- 117 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 00:58:40 ID:???
- >>114
でも死神の本職ってこういうことするんじゃないかな
- 118 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 01:18:50 ID:???
- まぁでも身内が寝たきり、入院人生になった時は
本人だけじゃなく周りも厳しいからなぁ、ウチも入院費でエライ事になったのが6年間
そういう立場から見ると死神くんの言う事は一理あるんだよな
- 119 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 17:38:17 ID:???
- なんとなく真剣に生きようとしている人間には
そういうことを言わないと思ってたから驚いたよ。
良くも悪くもクールなところがあるんだな。
- 120 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 17:40:33 ID:???
- 死神くんが「運命は決まっている」って言ってるけど、その割には一話で安夫の運命勝手に変えてたよな。
霊界の運営?を円滑にするために変えるのはOKで、人間が変えようとするのはダメってこと?
なんか理不尽だ…。
- 121 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 20:52:58 ID:???
- 安夫が落下するのは神が決めたから運命なんだろ。
- 122 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 22:06:14 ID:???
- そうなのか?
なんか飛んだ時と飛ばない時の両方の未来が用意されてたっぽいが。
- 123 :マロン名無しさん :2008/12/18(木) 22:18:55 ID:???
- 安夫なのか稔なのかどっちの話をしてるんだ
- 124 :マロン名無しさん :2008/12/19(金) 01:05:27 ID:???
- なんかこの診療所の続編描いてほしいな
- 125 :FJ S59年5/23号 1/5 :2008/12/19(金) 21:52:49 ID:FuNBClK4
- 第10話 歌あるかぎりの巻(死神くんVS悪魔くん・2)
ある日の深夜。歌手の斎藤やよいは、悪魔を呼び出す儀式の準備をしていた。しかし、あまりに手順が複雑
なのと準備の難しさに、思わず「あ〜〜っ どうでもいいから悪魔でてこ〜〜〜い!!」と叫ぶ。すると……
「なんだい?」
……本当に悪魔くんが出てきた。彼いわく、悪魔は気まぐれなので、呪文なんかなくても欲望のある人間なら
人を選ばず出てくるそうだ。
「しかし ヘッタな魔法陣だな こんなんで 悪魔がよべるかよォ」
「あんた でてきたじゃない!!」
やよいは早速、これから出す自分の曲を全てヒットさせてと悪魔くんにお願いする。
「ああ おやすいご用だ」と悪魔くん。
「しかしわかってんだろうな 悪魔とのとりひきが…… お前の願いごとを三つかなえてやろう…そのかわり
お前の魂をもらうぜ!」
「ええ……わかっているわ………」
その週の歌番組で、やよいの曲は二位になった。一位になったのは、先週に引き続いてやよいの同期の小柳亜美。
が、亜美は仕事の都合で出演していなかった。
やよいは、ヒットはしたが亜美を抜けなかったことに内心、腹を立てる。
収録が終わり、控え室に戻ろうとすると、付き人達が噂話をしているのが聞こえてきた。
亜美はここ二、三日テレビに出演しておらず、依頼もすべてキャンセルしているらしい。
「このままじゃやよいちゃんの天下ね」
「でもさ やよいちゃん歌は うまいんだけど…」
「デビュー当時にくらべて……性格が悪くなったわねェ」
怒ったやよいは、すかさず中に入り、付き人達に当り散らすのだった。
マンションに帰ってからも、一位になれなかったじゃないの、とやよいは悪魔くんに文句を言う。
しかし、悪魔くんにしてみればヒットさせてくれとは言われたが、一位にしてくれとは言われてない。
戸惑う悪魔くんに、やよいはもういいと、二つ目の願いを言った。
「歌手の小柳亜美を… 小柳亜美を殺して!!」
悪魔くんはあっさり「いいよ」と言い、亜美の元へ向かった。思わず拍子抜けするやよい。
「ふっ……これでいいのよ これで わたしが一位になれるんだわ……」
- 126 :FJ S59年5/23号 2/5 :2008/12/19(金) 21:54:30 ID:???
- やよいはほっとしたように椅子に腰掛けると、初めて亜美に会った時のことを思い返す。
デビュー前。
ピアノを弾いていたやよいに話しかけてきたセーラー服の少女。それが同じ日にデビューすることになっていた
亜美だった。二人はお互いに頑張ろうと励ましあい、やよいは本当はユーミンみたいにシンガーソングライター
になりたかったんだと、自分の夢を話す。
「でも なかなかいい詞が書けなくてね」やよいがそう言うと亜美は言った。
「じゃ わたし 詞でも書いてみようかな」
二人の作詞作曲でレコード出せたらいいわねェ、とやよいは言い、亜美もうなずいた。
しかし、いざデビューすると一位になるのは亜美ばかりで、やよいはいつも二番手。新人賞とったのも彼女
だった。やよいが亜美を憎むようになるのに、そう時間はかからなかった。
(何が詞でも書いてみようかしらよ! ヘッタな詞で 曲なんかつけられないわよ!!
わたし もうガマンできないの… 亜美ちゃんあなた…… 死ぬのよ!!)
亜美は病室のベッドで雑誌を読んでいた。そこへやよいの願いを受けた悪魔くんがやって来る。
すると何故か、亜美は悪魔くんを「死神さん?……」と呼んだ。悪魔くんがどうしてそんな言葉が出てくるんだ
と尋ねると――
「すでに オレがついているからだよ」
そう言って、死神くんが現れた。邪魔をしに来た、と思った悪魔くんだが、彼は仕事で来ているという。
亜美はあと五日で死ぬ予定なのだ。
それを聞いて悪魔くんは「こいつはお笑いだぜ」と本当に大笑い。死神くんの追及をかわして帰って行った。
「だれなの?」
「いや――な やろうさ」
「えっ 亜美が死ぬ!?」
悪魔くんからそう聞かされ、やよいは驚く。
自分が手を下すまでもない、二つ目の願いはまだ有効だと悪魔くんは言うが、やよいは「あんた もう用ない
わよ!」とつっぱねる。唖然とする悪魔くん。
- 127 :FJ S59年5/23号 3/5 :2008/12/19(金) 21:55:53 ID:???
- やよいは悪魔くんに「どこの病院に入院してるの?」と訊くが、悪魔くんはこれが二つ目の願いごとにも
なるんだぜ、と教えようとしない。すると、死神くんが現れやよいに病院の名前と病室を教えた。
「なんだよ おめーは また人の仕事のじゃましやがって」
「あんたね こんな悪魔なんかと…」
「ホラ すぐ説教するんだもんな!」
翌日。やよいは亜美の病室を訪ねた。入院していることは誰も知らないはず、と驚く亜美に「水くさいわねェ
親友じゃない」とさらりと言うやよい。
思わず悪魔くんは(そんなことよくいえるな……)と心の中でツッコんだ。
「ところで なんの病気なの? いつごろ退院できるの?」
知っているのに訊くやよいに、今度は悪魔くんと一緒に死神くんも(イヤミなやつ……)と内心あきれる。
もちろんそんなことを知らない亜美は「ちょっと長くなりそうなんダ……」と言葉を濁すと「それより見て」
と分厚いノートの束を取り出した。
「デビューから書いてきた詞 こんなにたまっちゃった ねっ 曲つけてよやよいちゃん」
戸惑いつつも、ノートを受け取りうなずくやよい。
「やよいちゃん これからも歌を うたっていこうね」
亜美はしっかりと、やよいの両手を握った。
「お互い歌が好きで歌手になったんだもんね ガンバロ!」
初めて会った、あの日と同じように。
マンションに戻ったやよいに、死神くんは言う。
「あの子が なにをいいたいのかわかってんだろ?「わたしは もう死ぬからわたしの分まで歌をうたいつづけ
てほしい」…こういいたいんだ」
やよいはピアノに向かうと、詞の中の一つ「歌あるかぎり」に曲をつけ始めた。が、うまく出来ない。
亜美の詞は上手くなっていて、素敵な詞がたくさんある。なのに自分は下手になっていて、曲がつけられない。
――歌が好きで 歌手になったんだもんね。
亜美の言葉が脳裏をよぎる。おそらく彼女は今でも純粋に、歌が好きなのだろう。なのに、今、自分は順位や
人気のことばかり気にしてた……やよいの目に、涙が滲んだ。
- 128 :FJ S59年5/23号 4/5 :2008/12/19(金) 21:57:47 ID:???
- やよいは悪魔くんを呼び出すと「亜美ちゃんを助けてあげて!!」とお願いする。最初は殺そうとした相手を
助けてと願ったことに唖然とする悪魔くん。そこへ死神くんが現れ「だめだね」と言った。霊界では魂をいくつ
出し入れするか数が決められていて、変えることは出来ない。亜美の魂もその数に入っている、と。
悪魔くんもそれとなくあきらめるように言うが、やよいの気持ちは変わらない。何気なく、ベランダに出た
やよいは、何かを決心したような表情になった。
「それじゃ 別の魂が亜美ちゃんのかわりに……」
「う…うん ああ えっ……まさか…おめェ…」
「そうよ!! わたしを殺して!!」
――悪魔くんの、嫌な予感が的中した。
「これが最後の…三つめのお願いよ わたしを殺して!!」
「ばかいうなよ!! そんなことをしてなんになるってんだ!!」
悪魔くんの言葉に、やよいは言う。亜美ちゃんが歌手としてこれからも生きていくのは誰もが願っていることだ、
私なんか悪魔の力を借りなければヒットが出せない、と。
「亜美ちゃんが死んだら わたし歌なんかうたえないわ 亜美ちゃんは友だちでもあり、よきライバルでも
あるのよ」
なのに、今までこの事に気づかず彼女を憎んでいた。殺すことも考えていた……。
「自分が 情けないわ こんなバカな女は死んだ方がいいのよ! さあ 殺して…」
「本当に それでいいのか…?」
何も言わず悪魔くんをじっと見据えるやよい。それを見て悪魔くんは――魔法でやよいが寄りかかっている
ベランダの柵を折った!
――が、落ちる寸前で死神くんがやよいの手を掴んで止めた。
「バカヤロウ! あんた いったいなにを考えてんだ!?」
「わたしを死なせて!! 亜美ちゃんを助けてあげて!!」
「バカ!! あんたは生きるんだ 亜美ちゃんもそれを願ってるんだ!!」
「悪魔さん わたしの願いを!!」
その時、やよいの叫びに答えるように、悪魔くんが死神くんの手を思い切り叩いた!
一瞬、力が緩み、手が離れ――
ド ス
地面に叩きつけられる鈍い音。やよいは、死んだ。その顔に、どこか嬉しそうな笑みを浮かべて……。
- 129 :FJ S59年5/23号 5/5 :2008/12/19(金) 21:59:10 ID:???
- あまりのことに、言葉が出ない死神くん。と、
「美しい友情じゃねえか 死なせてやれよ」
そう言って、悪魔くんが泣いていた。驚く死神くんに、悪魔くんは、出てきたやよいの魂を素直に死神くんに
渡す。
「あとは お前の仕事さ こうなった以上 亜美ちゃんの病気は治さないといけねェよな?」
「あ……ああ」
「あとは オレがうまくやっておくよ……」
やよいの魂を連れて霊界に向かう死神くんを、悪魔くんはそういって見送った。
その頃、亜美は病室で流れ星を見る。そこへ、悪魔くんがやってきて――。
その後、亜美は退院し、復帰コンサートが開催された。死神くんと悪魔くんも観に行くが、会場の騒がしさに、
悪魔くんはすっかり参ってしまう。
「バッカらしい 聞いてらんねェよ」
「おいこら もう オレの仕事のジャマをするなよ!」
「こっちのいうセリフだ!! バーロー」
そう吐き捨てると、悪魔くんは帰って行った。
コンサートも終盤。亜美は自分が病気で入院していたこと、そして、やよいが事故で亡くなったことをファンに
報告する。思わず涙ぐむ亜美に、客席からも「がんばれー」と声援が飛んだ。
(やよいちゃんの分まで うたってくれよな)
亜美は、悪魔くんが伝えた言葉を思い出し、涙をぬぐい、しっかりと顔を上げた。
「それでは 最後に わたしの作詞でやよいちゃんが作曲してくれた曲 聞いてください… 「歌あるかぎり」……です」
- 130 :マロン名無しさん :2008/12/19(金) 23:18:40 ID:???
- 悪魔くんの残酷でニヒルな優しさに惚れたよ
- 131 :マロン名無しさん :2008/12/20(土) 09:52:16 ID:???
- やよいの魂を霊界に持ってかれたから悪魔くんはまたただ働き?
- 132 :マロン名無しさん :2008/12/20(土) 14:29:29 ID:???
- 斎藤やよいって帰郷の巻にも出てきてたよね?
夏樹はどっちにしろ失業してたわけか…
- 133 :マロン名無しさん :2008/12/20(土) 17:05:52 ID:???
- 言われてみて確認した。
しかし夏樹はもう故郷にUターンしてそうだがな。
- 134 :FJ S59年6/23号 1/4 :2008/12/22(月) 21:55:35 ID:???
- 第11話 偽善者の巻
もうすぐ午後三時を迎え、窓口業務が終わろうとしていた銀行で、警備員が一人の怪しい青年に気付いた。
彼は一時間も前から椅子に座っており、しかも妙に大きな包みを持っている。
警備員が声をかけると突然、彼は包みから銃を取り出し、発砲した! 銀行の中は大騒ぎになる。
青年の命令によりシャッターが閉められ、大勢の客と行員が中に取り残された。
表にもマスコミが駆けつけ、騒ぎはどんどん大きくなっていく。
支店長や警備員が「悪いことはやめたまえ」「もう逃げられんぞ!!」と言い、青年を説得しようとするが、
青年は逃げる気もなければ、金が欲しいわけでもない、何かでっかいことをやって、世間の奴らを見返して
やりたかっただけだ、と言う。
みんなを道連れにして、死ぬつもりでやっているという青年に、青ざめる一同。しかし、そんな中、彼は行員の
女性の一人が、自分を睨んでいることに気付く。
(なんだ このアマ… にらみつけやがって 強気な女だな…)
その時、背後からシャッターをこじ開けようとする音が。青年はすかさずそちらに発砲し、見せしめとして
男を一人、殺そうとしたが――
「むやみに 人を殺すんじゃない!!」
死神くんが現れ、それを止めた。その姿は青年にしか見えていない。
死神くんは次々と、店内にいる人々の人生を青年に見せる。将来支店長になる男、もうすぐ結婚式を挙げ、
幸せに暮らすことになるカップル、退職金でペンションを建て、第二の人生を歩もうとしている壮年の男性……
「とまあ 人にはいろんな人生があるんだねェ」
「それが どうした オレには関係ない!!」
「……そう たしかに関係ない しかしな お前に 他人の人生をくるわす権利はないんだよ!!」
そう言って、死神くんは消えた。
青年は、客達の方に向き直った。
「結婚式に第二の人生かよ! うらやましいこったなァ!! オレを 見てくれよ ひどい人生なんだぜ!!」
そう言って、青年は過去を語り始めた。
彼は孤児院で育った捨て子で、学校へ行くと皆に親なし子と馬鹿にされる日々を送っていた。やがて札付きの
不良となり、喧嘩の毎日。中学を卒業すると働きに出たが、今度は学歴がない、と皆に馬鹿にされる日々。
- 135 :FJ S59年6/23号 2/4 :2008/12/22(月) 21:57:42 ID:???
- どんなに一所懸命働いても、誰も自分を認めてくれず、泥棒や火事があれば、すぐに自分が疑われ……
「ちゃんと 真面目にやってんのによォ!! どうして オレだけがこんなひどい目にあうんだ 不公平じゃね―――か!!
だから世間のやつらを見かえしてやるんだよ!!」
銃を向けられ、怯える人々。が、やはり先程の女だけは青年を睨んでいた。
(なんなんだよ この女 どうして そんな目で にらむんだ こわくねえのか?)
青年は銃をおろすと、死神くんを呼び、女の事を尋ねた。
「彼女か… うそつきな女だ」
「うそつき!?」
「人にいえない秘密をたくさんもっているんだ」
死神くんは青年に、女の過去を語り始めた。
彼女は青年と同じく捨て子で、孤児院で育った。そして青年と同じように、子供の頃皆にいじめられた。
中学生になって、彼女は荒れた。喫煙、飲酒、万引き、恐喝、シンナー……悪いことは何でもやった。
「そして 乱暴された」
「うそだ!!」
「売春をやった」
「やめろ!!」
「悪い病気にもなった」
が、勉強は出来た方だったので高校に進学でき、今は過去を隠し通して、真面目に働いていた。
「けっ りっぱじゃねえか まわりの人に みとめられてる オレとは ちがうな…」
しかし、死神くんによると、今彼女はこの銀行から三千万円横領しようと計画しているという。
何故そんなことを考える、まともな人生を歩み始めたっていうのに台無しじゃないか……
男の言葉に、死神くんは言う。
「お前と おなじだよ」
今はよく思われていても、過去の秘密を知られたら、一気に転落してしまう…だからいつでも退職する考えを持っているんだと。
罪を犯すことも、気楽な気持ちで考えている――そう説明した後、死神くんは青年に言った。
「殺るんなら 彼女を 殺れ」
「彼女を!? なぜだ!?」
思いもよらない言葉に驚く青年に、死神くんは説明する。
「いっただろ 彼女とお前は 同じだって お前は 死ぬつもりで銀行強盗にはいった 彼女も その考えがある
そう…いつでも死ぬカクゴができてるんだ」
殺したくなったら、彼女を最初に殺りな――言い残し、再び死神くんは消えた。
- 136 :FJ S59年6/23号 3/4 :2008/12/22(月) 21:59:14 ID:???
- 青年は彼女に銃を向け、前に出るように命令する。素直に出てきた女の顔の真横に、青年は銃を突きつけた。
「あんたきれいだな 彼氏いるのかい?」
「いないわ!」
女の人は顔を背け、答えた。すると青年は、今度は服を脱げと命令する。彼女は一瞬ためらったが、すぐに
脱いで下着姿になった。
「こっちへこい」
言われ、近づく女の顔に、さすがに怯えの表情が浮かんだ。
「キスしろ」
その言葉に、彼女は目を瞠る。
「オレに キスしろ 早く!」
彼女はおずおずと身をかがめ、ゆっくりと青年に顔を近づけた。そしてその唇が触れる……より早く、青年は女を突き飛ばした。
「ちくしょう おもしろくねえなァ いやならいやで はっきりいえよ 銃がこわいから やってんだろ?」
すると、女は青年を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「……そうよ! 銃がこわいからやってんのよ!! あんたなんか全然こわくないわ!!」
「なんだと!?」
「あんたなんか 銃がなけりゃ なにも できないじゃないの!!」
「うるせえ 撃つぞ!!」
銃を向ける青年に、再び大騒ぎになる店内。女はさらに続けた。
「なにが 不幸な人生よ! 世の中には あんたより不幸な人間なんでごまんといるわよ!!」
それが、彼女自身のことを言っているのだと、青年にはすぐわかった。
「それでも みんな いっしょけんめい生きてんのよ」
(シンナーやった)
……死神くんが語った女の過去が、頭をよぎる。
「あんたなんか 人生の落伍者よ!!」
(売春をやった)
「自分自身に負けたのよ!!」
女の目に、涙が浮かんだ。
「撃ちなさいよ 撃てるものなら撃ってみなさいよ!!」
(孤児院 捨て子… お前と同じだ)
「弱虫!! あんたなんか 最低よ!!」
(殺るんなら 彼女を殺れ 死ぬつもりだ)
- 137 :FJ S59年6/23号 4/4 :2008/12/22(月) 22:00:59 ID:6aHneJ8M
- そして青年は三たび、銃を撃った!
表の野次馬達は、聞こえてきた銃声に大騒ぎ。
しかし、青年が撃ったのは女ではなく、店の天井。青年は、銃を捨てた。
「そうだよ あんたのいったとおり オレより不幸な人間はたくさんいるんだ こんなバカなことやって死んだら
笑われるぜ」
そして、女を見て言った。
「あんた まわりの人にみとめられてんだ りっぱだよ オレ 気が短いのかな…すぐ挫折しちまって
でもこれからは なんだかうまくやれそうだよ 死ぬ気でやればなんだって できるさ 過去にふりまわされるのは
もうたくさんだよな……」
その言葉に、はっとなる女。青年は、過去のことより、これからのことが大切なんだ、あんたに言われて考えが変わった、と
彼女に言う。
「途中で挫折しないよう がんばらなくっちゃな だから あんたもがんばれよ……」
青年は入り口に向かった。すると、女がそっと、青年に言葉をかけた。
「がんばってね…」
青年の目から、涙が零れた。
「ありがとう……」
青年は自らの手でシャッターを開ける。たちまち警察、機動隊、マスコミが突入してきた。
青年は大人しく捕まり、人質も全員無事。死神くんも予定通り死亡者が出なかった事にほっとする。
そんな中で、女は何かを考えていた。
何ヶ月か後、刑務所にいる青年に面会が訪れた。
他の囚人達は皆、毎週やって来るそれをうらやましがっていた。
「しかし あいつ本当に銀行強盗 やったのか?」
「あんなに真面目なやつなのに……」
面会室にいたのは――あの銀行員の女性。楽しそうに話をする二人を、死神くんも笑顔で見守っていた。
「ふたりで はげましあえば 横道にそれることもないだろう……」
- 138 :マロン名無しさん :2008/12/23(火) 01:06:23 ID:???
- なぜ下着姿で我慢する!
_ ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
⊂彡
を見たいと思わないのか!!!!!!!11!!
- 139 :マロン名無しさん :2008/12/23(火) 08:38:09 ID:???
- ヤングジャンプ化するので駄目です。
- 140 :マロン名無しさん :2008/12/23(火) 10:37:03 ID:???
- 他人は関係ない!
自分が不幸だと思えば不幸なんだ
- 141 :マロン名無しさん :2008/12/23(火) 12:09:30 ID:???
- 女はなんで認められてるのに横領しようと思ったんだ?
- 142 :マロン名無しさん :2008/12/23(火) 18:36:02 ID:???
- >>141
自分の現在が脆いものだと信じていたからだろう。
- 143 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 17:43:54 ID:???
- 「悪い病気にもなった」のコマの絵…どう見ても中絶手術だよな。
少年誌的には裸も中絶もタブーなのか?
- 144 :FJ S59年7/23号 1/3 :2008/12/24(水) 22:03:54 ID:???
- 第12話 死神くんの山神様の巻
東京から山の分校に転校してきたのぼるは、運動が苦手なため、うまくみんなの輪に入れずにいた。
一人とぼとぼと山道を帰るのぼるに、ガキ大将風なガン吉、大柄なタロ、眼鏡をかけたジロの三人組が
仲良くしようぜと声をかけ、村を案内してやる、とのぼるを山の上のほうへ連れて行く。
やがて四人が着いたのは、山神様が祀られている神社。のぼるがすごいなあと感激していると、いつの間にか
三人の姿が消えていた。
実は三人とも、都会から来たのぼるを金持ちとふんで、小遣いを巻き上げるために連れてきたのだ。ガン吉が
そろそろ出ていってやるか、と思ったその時、のぼるの悲鳴が上がった。三人を探しているうちに、狐捕りの
罠にかかってしまったのだ。ビビったガン吉達は逃げだそうとするが――
「こら――っ!!」
死神くんが現れ、三人を怒鳴りつけた。彼を山神様と勘違いした三人は責任のなすりあいをするが、死神くんは
どうでもいいから早くのぼるくんを助けるんだ、と彼等を一喝。タロとガン吉が協力して罠を外し、のぼるは
なんとか軽い怪我で済んだ。
日が暮れると道がわからなくなるからと、タロがのぼるを背負い急いで下山することに。しかし、途中で
ガン吉が足を止めた。なんと道を間違えたらしい。山道を知っているのはガン吉だけなのに……。困った
ガン吉は山神様=死神くんを呼ぶ。俺は山神様じゃないと説明しようとするが、ガン吉とジロは聞く耳を持たない。
仕方なく死神くんは、のぼるの父親が大学時代山岳部に入っていた、と皆に教え「お父さんから いろいろ聞いているだろ?
のぼるくんならどうする?」とのぼるに尋ねる。のぼるは少し考えると……
「そうだ もう一回のぼってみようよ!!」
と言った。せっかくここまで下りたのに、また登ったら何にもならないじゃないかと怒るガン吉とジロだが、
死神くんは再び二人を一喝。とにかく言ったとおりにやってみろと言って消えた。文句を言いつつ登りはじめる
と、ある程度行ったところでのぼるが村の明かりを見つけた。
「山道で迷ったら 見はらしのいい所にのぼって 現在の位置を確認した方が いいんだよ」
のぼるの言葉に「さっすが山神様!!」とガン吉とジロ。思わずずっこける死神くんであった。
- 145 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 22:04:29 ID:???
- できちゃった学生の話で中絶の事も言ってるしタブーってほどじゃないっしょ
今回の場合は「悪い病気にもなった」って言い方の方が具体的な言い方より重い気はする
- 146 :FJ S59年7/23号 2/3 :2008/12/24(水) 22:07:05 ID:???
- これで帰れると勇んで山を下り始めるガン吉。が、木の上から蛇が! そういえば、この山にはマムシが
たくさんいるらしい……怖くなったガン吉は再び山神様……と思っている死神くんに助けを求めた。
誤解を解くことはあきらめ、再びのぼるに「のぼるくんならどうする?」と尋ねてみる死神くん。
「そうだ! 大きい音をたてるんだ!」
蛇は臆病な動物だから、大きな音を出したり、枝で草むらをガサガサつつけば逃げていくとのぼるは教える。
「さすが山神様!!」
また見当違いな感心をするガン吉たちに、再びずっこける死神くん。ガン吉は自分は蛇が嫌いだから、と、
ジロに枝で追い払う役をやらせる。が、ジロはうっかりつまづいて眼鏡を割ってしまった。眼鏡がないと何も
見えないと泣くジロ。さらにタロも転んで足をくじいてしまう。のぼるは唯一まともに動けるガン吉に、
一人で行って誰か呼んできて、と頼むが――
「い…いやだよ ひ…ひとりじゃこわいよ」
急に弱気になるガン吉。
「オ…オレ 本当は弱虫なんだ みんなの前じゃいばっているけど… ひとりじゃ なにもできないんだ」
とうとうガン吉は泣き出してしまった。それにつられて、他の二人も泣き出す。
のぼるはまた山神様を呼ぼうよと言い、四人で一斉に呼んだ。現れた死神くんは村の明かりの方を見て言う。
「ここから村は見えるけど 村からだと ここは見えないだろうな…」
その言葉に、のぼるはひらめいた。
「わかった火だ! ここで火をもやせば 村のだれかが気づいてくれるよ」
「なるほどそーか!! さっすが山神様」
もはやお決まりの二人の言葉に、死神くんは三たびずっこけた。
しかし、誰もライターもマッチも持っていない。のぼるは木と木をこすり合わせれば摩擦熱で火がおこる、と
早速自分でやってみせる。だが力の弱いのぼるではなかなかうまくいかず、ガン吉が強引に代わってやることに。
やがて煙が出始め……ついに火がついた。すぐに燃えやすいものをくべて焚き火が完成。ガン吉達はさらに、
目立とうとあちこちに火を移そうとするが、のぼるがそれを止める。
「そんなことしたら 山火事になっちゃうよ いけないよ そんなことしたら…山神様がおこるよ……」
ガン吉達は移すのをやめ、大人しく待つことにした。見守る死神くんも「よろしい!」と褒める。
- 147 :FJ S59年7/23号 3/3 :2008/12/24(水) 22:09:51 ID:hf9SDxXf
- しばらくして、「お〜い」と人の声が聞こえてきた。慌ててそれに答える四人。ようやく四人は、探しに来た
村人達に発見され、親と再会した。
「あのね 山神様がね 山神様が 助けてくれたんだよ」
父にそう報告するのぼるの言葉を、不思議がる大人達。
「ホントだよ 山神様が助けてくれたんだ ねえ みんな!!」
しかし、あれだけ山神様に感心していたガン吉が「ちがうよ!」とそれを否定した。
「山神様なんかじゃないよ!! のぼるくんだよ!!」
涙ぐみながらのガン吉の言葉に、驚くのぼる。
「のぼるくんの おかげだよ」
「そうだよ のぼるくんが助けてくれたんだ!!」
「の…のぼるくん!」
口々にそう言い、泣き出す三人。皆、のぼるが色々知っていたおかげで助かったと、わかっていたのだ。
しかし、今度はのぼるが「ちがうよ!!」と三人の言葉を否定する。
「ボクひとりじゃ なにもできなかったもの! ボクを おぶってくれたのは タロくんでしょ ヘビを
追いはらってくれたのは ジロくんだし そして 火をつけてくれたのは ガンちゃんじゃないか!!」
この言葉に、感激する三人。のぼるの目にも涙が滲み……四人は揃って泣いた。
翌日、のぼるが松葉杖をつきながら登校していると、男の子二人が松葉杖を取り上げてしまった。
「やーい 都会もんは体が弱いのォ」
「もう 足をケガしてやがんの」
ここまで取りに来てみろよ、と意地悪をする二人。そこへガン吉達三人が現れ、二人を殴った。
「のぼるは オレの友だちだ いじめるとしょうちしねーぞ!!」
ガン吉の剣幕に負け、逃げていく二人。三人はのぼるを助け起こし、一緒に学校へ向かった。
放課後。四人は神社で山神様にお参りし、迷わないうちにと帰っていった。神社の壁に「山神さまありがとう」
と書いた山神様……もとい、死神くんの似顔絵を貼って。
思わず隠す死神くんを、仲間の死神達が冷やかしていた。
「なんだよ かくすことないだろ」
「てれてやんの」
「うるさいうるさい」
死神くんは真っ赤になり、つい絵を剥がしてしまうのだった。
- 148 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 22:26:13 ID:???
- 今回は死に関係ない気が
- 149 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 22:34:27 ID:???
- 悪魔くんだせや
- 150 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 22:52:15 ID:???
- なんかほのぼのだったな
- 151 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 23:02:09 ID:???
- 考えなしに火を移すとか、本当に子供がやりそうだ。妙にリアルというか。
- 152 :マロン名無しさん :2008/12/24(水) 23:45:40 ID:???
- >>139
えー
瞳ダイアリーとかいけないルナ先生とかおっぱいおっぱいしてるじゃんかよー
- 153 :マロン名無しさん :2008/12/25(木) 00:17:49 ID:???
- >>148
あのままアドバイスしなけりゃみんな山で迷って死んでたんじゃね?
- 154 :FJ S59年8/23号 1/5 :2008/12/26(金) 22:14:30 ID:XVMupAI2
- 第13話 40人の子どもたちの巻
「あんたの命はあと7年だ」
夢の中に現れた子供は、そう難波に告げた。
「しかし 別に悔むことはない 残りの時間をせいいっぱい生きることだ 長生きしたからって幸福な人生って
いうわけじゃない 短い人生でも 有意義にすごすことが 大切なんだ」
そして「ガンバレよ……」と言い、子供は消えた。
難波は私立中学校で生徒指導をしていた。
違反をした者には容赦なく竹刀を振るい、生徒を怒鳴りつける厳しい指導ぶりに反発する生徒もいたが、
校長は校内暴力がなくなった、と彼に感謝していた。難波が来る前は、週に一度は警察の厄介になるほどの
荒れた学校だったのだ。
しかし、難波は満足していなかった。生徒達は暴力に怯え、嫌々授業を受けているだけに過ぎない。これは
本当の教育ではないと、後悔すら感じていた。
不意に、左足が言うことを聞かなくなった。難波は病院に行き検査を受けることに。
検査の結果を聞きに来た難波に、何故か医師は「ご家族は…?」と尋ねる。自分が重病だと悟った難波は、
両親も妻も子供もいないからはっきり言ってくれと医師に頼む。
告知された病名は……「後退性筋力硬化病」
体中の筋肉が萎縮する病気で、まず足が動かなくなり、そして指、手から腕……末期には延髄を侵され言葉も
話せなくなる。原因も治療法もわかっておらず、発病後は数年で死亡するという。
(あんたの命はあと7年…)
夢の中で子供が言っていた言葉が、頭をよぎる。難波はただ「そうですか…」と答えるしかなかった。
- 155 :FJ S59年8/23号 2/5 :2008/12/26(金) 22:15:05 ID:???
- 一週間後、難波は松葉杖をついて学校へ来た。教室へ行くと、二人の生徒――鈴木と佐藤の姿がない。
難波に反発している不良達だ。二人は校舎裏で煙草を吸っていた。注意してもふざけて無視する二人を
殴ろうとするが――
「なんだよ! 竹刀がなくなったと思ったら 今度は素手でくるのかよ!!」
佐藤の言葉にハッとし、拳を引っ込めた。
「いや……もう暴力はふるわない… わたしのやり方はまちがっていた とにかく 教室にもどりなさい」
すると鈴木は「今までの自分はまちがっていました 暴力をふるってすみませんでした≠サういって土下座
しろ!!」と難波に要求。 難波は……その通りにした。が、鈴木は人を散々ぶっ叩いておいて、謝ったぐらいで
すむと思ってんのかよ、と無抵抗の難波を、竹刀で滅多打ちにし始めた! と、
「いいかげんにやめな!! このガキ!!」
二人を止める声がした。が、あたりを見渡しても誰もいない。しかし、再開しようとすると「やめろっていってんだろ!!」
とまた声がする。仕方なく二人は、傷だらけの難波をその場に放置して去っていった。
「だいじょうぶか? ずいぶん無茶なことするなあ」
そう言って難波の前に現れたのは、夢の中に現れた子供――死神くんだった。死神くんは全校生徒があんたに
恨みを持っているみたいだから、早く教師を辞めたほうがいいんじゃないか、と勧めるが、難波は言う。
「けっ 残りの人生をせいいっぱい生きろっていったのはおまえだろ これから オレの本当の教育が
はじまるんだ 車イスにのるまでは 教師は やめんぞ」
難波が方針を変えたことで、学校は再び以前の暴力中学の様相を呈してきていた。
職員会議でも、難波先生が生徒の前で土下座して謝ったせいだ、教師としてあるまじき行為だと非難が集中する。
不治の病でもう先は長くないのだからクビにすべきだ、生徒の反感を買うだけだ……そんな状況を校長が
「いいかげんにしたまえ!!」と一喝する。
- 156 :FJ S59年8/23号 3/5 :2008/12/26(金) 22:16:10 ID:???
- 「わたしは 今まで難波先生ほど熱心な教育者は見たことがありませんぞ!! 残された貴重な時間を
生徒たちの教育にそそぎこんでいるんですぞ それにくらべてあなたたちは 生徒たちのやることを
指をくわえて見ているだけじゃないのかね あなたがたに難波先生を責める資格があるのかね!?」
私は情けない……そううなだれる校長に、他の教師達は何も言えなくなってしまった。
鈴木達に殴られ続け、難波の顔は悲惨な状態になっていた。
「いいかげんにやめなよ 死んでしまうぞ」
死神くんが忠告するが、自分の命は七年なのだから、その七年間はどんなことがあっても死なないはずだと
聞く耳を持たない。そういう考え方をされると困る、と困惑する死神くん。
よくなる気配はまったくない、無駄だったんだという死神くんに、あくまでよくなってきていると難波は答える。
そこまでいうんなら、気の済むまでやってみな、と死神くんは去っていった。
「立っていられるのも もう少しだろうからな」
鈴木達の元へ行く難波。
「お前たちの気がすむまでなぐればいい そのかわり……気がすんだら教室へもどるんだ」
「やかましい!!」と竹刀で彼を殴る鈴木。しかし、一緒にいた佐藤と、もう一人の不良は完全に引いていた。
いくら殴っても向かってこず、やられっぱなしの難波に、鈴木も戸惑いを見せ始める。
と、若い教師――吉川が現れ、鈴木の竹刀を止めた。
「やるんなら わたしをやりなさい 今日からわたしが 難波先生のかわりだ!!」
驚く鈴木。さらに校長も現れ「やるんならわたしも やりたまえ」と鈴木に言う。
そしてもう一人「わたしもやったらどう?」と女性教師が現れ――鈴木は逃げ出した。
一緒に戦いましょう、と言う校長達。だが難波は言う。
「学校は 生徒と教師の争いの場ではありません 戦うという言葉は あまりよくありませんな」
その言葉に感激する校長達。
「あなたは 真の教育者だ わしら教師までも教育してくれた…」
- 157 :FJ S59年8/23号 4/5 :2008/12/26(金) 22:16:56 ID:???
- その日も、授業を自習にして鈴木を探しに行こうとする難波。すると生徒達が、あいつには何を言っても
無駄だから、鈴木のことは放っといて授業をやって下さいと言い始めた。
「おいおい なにをいうんだ クラスメイトじゃないか」
「あんなやつ クラスメイトなんかじゃないです!!」
「先生が傷つくのは もう見てられません」
そういう生徒達に、鈴木だってそう悪いやつじゃないと難波は言う。現に、鈴木と一緒にサボっていた佐藤は、
もう授業を受けるようになっている。
「今までは みんなオレの竹刀がこわくて 授業を受けていたが 今は ちがうだろ? 自分から進んで授業を
受けている クラス全員がそろったら 実に気持ちのいいことじゃないか」
そう言って再び向かおうとしたその時、難波は突然転び、立てなくなった。ついに病が、足を完全に蝕んだのだ。
難波は教師を辞め、身寄りのない重病人の看護を行う医療施設に入ることになった。
「これからどうするんだい」
尋ねる死神くんに、小説を書くつもりであることを難波は明かす。大学時代は小説家になりたくて、よく書いて
いたのだ。
これから本でも出版して、印税でガッポリもうけてやる――そう豪快に笑う難波に「明るい人だ」と死神くん。
原稿用紙に向かいながら、難波は思う。
「わたしには 両親も妻も子どももいない… 悲しむ人がだれもいない それだけでも幸せ者だ」
- 158 :FJ S59年8/23号 5/5 :2008/12/26(金) 22:17:31 ID:???
- 相変わらず校舎裏にいる鈴木。我慢出来なくなったクラスメイト達は鈴木の元に行き、難波が入院し、教師を
やめたこと、最後まで鈴木のことを心配していたことを告げる。
先生があんなに心配していたのに、なんだお前は、と鈴木を責めるクラスメイト達。
「難波先生はすばらしい先生じゃないか!! 最初は こわかったけど 今はちがう 暴力をふるわずに
ぼくたちをひっぱってきてくれた」
「暴力中学と呼ばれた僕達の学校を たったひとりで立ち直らせたんだぞ!!」
それなのにお前は……と言い掛けた所で、皆は鈴木が泣いているのに気づいた。
「たしかにいいセンコーだよ」
他の先生は俺のことを見放したのに、あいつだけは俺のために一所懸命だった、と鈴木。彼は今までの事を謝ろうと思い、ずっとここで難波を待っていたのだ。
「みんなの前じゃ はずかしいし 先生と二人きりならなんでも話せると思って…… 先生にあやまって……
真面目にやるつもりだったんだ」
膝をつく鈴木の目から、後悔の涙がこぼれ落ちていった。
数時間後。難波の病室に鈴木が……いや、クラスの生徒達全員が訪れた。全員でサボるとは何事だと叱る難波に、鈴木が言う。
「センセ なにいってんだよ ホラ 今は先生の時間だぜ」
驚く難波に、さらに生徒達が続ける。校長先生の許可を得て、先生の授業を受けたくて来た、と。
「そうよ 先生!! 見てください 全員が そろったんですよ 全員が!!」
女生徒が嬉しそうに言う。鈴木が教科書と出席簿を難波に渡す。生徒達も難波も、みんな涙を流しながら、
初めての全員揃っての授業が始まった。
「よし…56ページをひらいて…………」
「残念だな先生 40人の子どもができちまった」
死神くんが、その光景を見て笑顔で言った。
- 159 :マロン名無しさん :2008/12/26(金) 23:48:35 ID:???
- 先生の根性半端ねえな。
- 160 :マロン名無しさん :2008/12/27(土) 00:02:24 ID:???
- いい話すぐる (´;ω;`)
- 161 :マロン名無しさん :2008/12/27(土) 00:14:08 ID:???
- > 自分の命は七年なのだから、その七年間はどんなことがあっても死なないはずだ
なんか凄く前向きだなあ…
俺もこれくらい強い考え方のできる人間になりたい。
- 162 :マロン名無しさん :2008/12/27(土) 02:40:41 ID:???
- やべえ今回はガチで泣いた
なんか実話でも似たような話はありそうな気がする
- 163 :マロン名無しさん :2008/12/27(土) 14:01:01 ID:???
- 本当に七年間は死なないのか?
今までの話だと気力がなければ死んでしまいそうだが
- 164 :マロン名無しさん :2008/12/27(土) 16:18:15 ID:???
- 別に死ぬつもりでやってた訳でもないし、気力有りすぎだから良いんでね
- 165 :マロン名無しさん :2008/12/28(日) 16:57:57 ID:???
- しかし先生が徐々に動けなくなって行くのを見続けるのはなかなか辛いものがあるな
- 166 :マロン名無しさん :2008/12/29(月) 19:56:06 ID:???
- 悪魔くんは?
- 167 :マロン名無しさん :2008/12/29(月) 20:04:49 ID:???
- その頃、地球の裏側で一人の男の独裁政権を築くという願いを叶えてました
- 168 :FJ S59年9/23号 1/4 :2008/12/29(月) 22:08:56 ID:hcdtryJE
- 第14話 国籍を捨てた地球人の巻
遥か上空に浮かぶ、通信衛星に見せかけた有人スパイ衛星。
中では日本人と黒人の二人が、人工衛星の調査を行っていた。今日二人が発見したのは、核ミサイルを搭載した
軍事衛星。地上も空も核だらけだぜ、とつぶやく日本人の青年。そこへ、
『ブラック&イエロー ブラック&イエロー』
地上からの通信が入った。最終報告を決められたポイントに投下せよという指令だ。早いとこ仕事を済ませよう、
と二人は報告が入ったセラミックボックスを投下した。これで仕事は終わりだ。
食事中、話題は自然とお互いの素性のことに。契約でお互い関心を持ってはいけないことになってはいたが、
もう仕事は終わったし、迎えが来るまであと5日もあるからと話をすることに。
最初に語りだしたのは、黒人の青年(以下、暗号に則りブラックとする)だった。
ブラックが生まれたのは、名もない少数民族の村だった。
そこで狩猟生活を送っていたが、彼が4、5歳の頃白人がやってきた。テレビの取材だ。彼等は貴重品である
塩と、食料をたくさんくれたが、恐ろしいものも残していった。病気だ。単なる風邪だったが、抵抗力のない
彼等は次々と死んでいった。
生き残ったブラックは、牧師に引き取られ街に出た。そこで彼は色んな事を学び、仲間とよくアメリカへ行こう
と話をした。貧しかった彼らにとって、アメリカは自由の国として、憧れだった。
そしてついに、ブラック達は国境を越え、アメリカに不法入国する。しかし、アメリカにも自由はなく、結局は
スラムに住み着き貧しい生活を送っていた。そんなある日、彼は何人かの白人に取り囲まれ、質問された。
「国籍は?」
少し考えて、ブラックは答えた。
「国籍はないが…人間だ」
すると白人達はいい仕事がある≠ニ彼に目隠しをし、飛行機に乗せ、どこかわからぬ国の宇宙センターへと
連れて行った。そしてそこで訓練を受け、百万ドルの報酬でこの仕事を引き受けたのである……。
今度はお前の話を聞かせろよ、と促され日本人の青年(以下、暗号に則りイエローとする)も話し始める。
- 169 :FJ S59年9/23号 2/4 :2008/12/29(月) 22:10:18 ID:hcdtryJE
- イエローはアジアの某国からの覚醒剤の密輸を生業としていたが、ある日、巡視船に止められ手入れを受ける。
彼は前々から警察に目をつけられていた。そして覚醒剤が見つかり、皆一斉に逃げるために海へと飛び込んだ。
彼は見つからず、中国の船に助けられ、そこで聞いたラジオで自分が指名手配になったことを知る。
自分には余罪がたくさんある、もし捕まれば十年以上の懲役は免れないだろう――そう考えたイエローは、
ほとぼりが冷めるまで身を潜めようと、船長に金を渡し、中国に密入国した。
行くあてもない彼はやがて香港に入り、貧民街で泥棒や詐欺まがいのことをして暮らしていた。
後はブラックと同じ。ある日現れた白人達に「国籍は?」と質問された。
「国籍はないが この地球で生まれた」
イエローはそう答え、そして今、同じように訓練を受け、仕事を引き受けここにいるのである――。
「なんだ 同じ無国籍か」と笑いあう二人。だがこの仕事は、明らかにスパイ行為。不安そうなブラックに、
それだけに報酬も高いんだからいいじゃねえかとイエローは言う。その時、コックピットから警告音が鳴り響い
た。モニターを確認すると、ものすごいスピードで何がが近づいてきている。エンジンに点火し、避けようと
するが――間に合わず、それは二人がいる人工衛星を打ち抜いた。船内の空気が漏れ始める。
「何だ今のは!!」と戸惑うブラックに――
「今のはミサイルだ」
背後から誰かが答えた。振り返ると、そこには子供が――死神くんがいた。
「今のはミサイルさ 他の衛星からお前達をねらってうたれたものだ」
貴様はいったい何者だ――そう尋ねる二人に、死神くんは名刺を見せる。
THE GOD
OF DEATH
TEL 13-4444
「迎えにきたぜ」
驚く二人に死神くんは船の空気がなくなるから、と宇宙服を着るように促す。もっとも、宇宙服を着ても二人の
命はあとわずか。どういう意味だと尋ねる二人に死神くんは言った。
「あんたたちは はじめから殺される予定だったんだよ!!」
迎えなんか来ない、今のミサイルが迎えなのさ――死神くんは、この船が地上との交信が出来ないようになって
いるのは何故だかわかるか、と二人に訊く。
- 170 :FJ S59年9/23号 3/4 :2008/12/29(月) 22:16:23 ID:???
- 「わたしたちの仕事が スパイ行為だからだ」
「他国に我われの存在を知られてはいけないのだ パニックになるぞ!! 地上からの電波は受けても
こちらから電波を発してはいけないのだ!!」
「それじゃ 今のような非常事態がおきても 助けを求めることができないんだねェ」
死神くんの言葉に、ハッとする二人。
「スパイ行為とはいえ こんな重要な仕事になぜ無国籍の自分たちが選ばれたのか 疑問に思わなかったの
かい!? だいたい この船がどこの国のものかも わかってないじゃないか!」
「だまれ!!」
思わずイエローがヘルメットを投げつけるが、死神くんは消えてしまった。
宇宙服を着る二人。だが、この中の酸素は二十四時間しか持たない。やはり自分達は利用されていただけなのか
と憤るイエロー。エンジンは正常だからこのまま地球へ向かおうと言うが、ブラックはこの船はスペース
シャトルとは違う、途中で燃え尽きてしまうぞと反対する。他に方法があるのか、と喧嘩になりかける二人を
「おちつけ!!」と死神くんが止めた。
死神くんは二人に仕事を頼みたいんだ、と窓の外にある軍事衛星を示す。二人が二、三日前に調査したものだが
……なんと作動していた。故障によって、ミサイルが核保有国の軍事基地に向けられて発射されようとしているのだ。
「そのあとどうなるかわかってるだろう? ミサイルをおとされた国はただちに報復措置をとる… 各国に
ミサイルが飛ぶぜ そして核戦争だ 人類が滅ぶぜ」
それを阻止するにはこの船についているレーザーガンであの衛星を破壊するしかない。二人は無断でレーザーを
使うことは出来ない、ましてや他国の衛星を破壊するなどという勝手な行動は出来ないと言うが――
「なんだい はじめから殺されるのがわかってんのに まだ 言うこと聞いてんのかい いい子だねェ」
死神くんの挑発に、レーザーのボタンを出すイエロー。が、何故かブラックがそれを止める。
「よせ オレたちにはもう 関係ないことだ」
なんてことを言うんだ、というイエローに、ブラックは言う。この仕事でわかっただろう、地上も空も核だらけだ、と。
遅かれ早かれ人間は滅ぶ、人間は核をコントロールするにも機械に頼りっきり……。
- 171 :FJ S59年9/23号 4/4 :2008/12/29(月) 22:20:07 ID:???
- ブラックの父は言っていた。「自然と共存できないと人間は滅ぶ」育て親の牧師さまも言っていた。「人間の最大のあやまちは戦争じゃ」
しかし人間は自然を破壊している。故郷は 伐採され削られていった。そして つまらん戦争はいつまでも続いている。
「人間なんて滅んだ方がいいんだ!!」」
憤り、叫ぶブラックにイエローはそうかもしれん、と言うが、さらに続ける。
「だがな… 見ろよ 海は青いし大地には緑がある まだ地球は生きている 今なら まだまにあう 立ち直れる!!」
そうこうしている内に、ミサイルが発射態勢に入った。イエローが打ち落とそうと、レーザーの発射ボタンを押した。
が……レーザーが出ない! 見放された人間が乗る船に、初めからそんな装置などついていなかったのだ。
「そんな…ばかな…」人間は滅ぶのか!? ――死神くんがそう思ったその時、行動に出たのはブラックだった。
「まだ方法はある この船は……エンジンだけは 正常に動くんだ!!」
ブラックがエンジンに点火し、猛スピードで船は進んで行く。
「お前…」
「きっと 人間は立ち直る…オレもそう思うぜ」
そして、彼らが乗った船は……軍事衛星に体当たりした!
激しい爆発が起き、衛星は両方とも完全に消滅した。……が、二人は奇跡的に生きていた。宇宙を漂う二人。
「血が出てる…大じょうぶか?」
「お前だって血がでてるぞ」
「ん……ああ… 同じ人間だからな」二人は笑う。
「帰ろう」
「どこへ?」
「地球だよ まだ青い地球へ まだ自然の残っている地球へ…」
そして二人は手を取り合い、地球へ向かって落下していった。燃えながら、まるで流星のように……。
「あぶないところだった」つぶやく死神くん。
「でも まあ 神様のことだから 初めからこうなることはわかっていたんだろうな」
しかし、このまま続けば神様の手に負えなくなる。その時、人間は…、その時、人類は…。
「いや その前に人間は気づくはずだ 自分たちのあやまちに こんなバカなことで 人間が滅ぶはずがない!
こんなバカなことで…こんな…」
いつしか死神くんの目に、涙が浮かんでいた。
「どうして人間は信じあうことができないんだろう」
広い宇宙で、死神くんは泣いた。
そして地上に、一際光る流れ星が落ちていった。
- 172 :マロン名無しさん :2008/12/29(月) 22:40:11 ID:???
- 悪魔くんはどーした?
- 173 :マロン名無しさん :2008/12/29(月) 22:59:35 ID:???
- ちょっと前の号に載ってた核ミサイルが落ちてシェルターにいた小学生だけが生き残る
って読み切りを思い出した。
- 174 :マロン名無しさん :2008/12/29(月) 23:08:30 ID:???
- 強烈なメッセージだな
>>173
あれ怖かったな
- 175 :マロン名無しさん :2008/12/31(水) 11:29:16 ID:???
- ラストの流星になって落ちていく2人で、サイボーグ009を思い出したのは俺だけでいい。
- 176 :マロン名無しさん :2008/12/31(水) 13:02:31 ID:???
- 俺も思い出した
どこに落ちる?ってやつ
- 177 :FJ S59年10/23号 1/5 :2008/12/31(水) 22:05:03 ID:ZnflAQCy
- 第15話 無気力からの生還の巻
学校の体育用具置き場で、たかし、一美、久保、裕美、孝一の五人の生徒が、煙草やシンナーを吸っていた。
不意に、たかしはふらついて跳び箱の角に頭をぶつける。そのまま意識を失った彼は……魂になって、
空に浮かんでいた。そこへ死神404号がやってきて、名前を尋ねる。「谷山たかし」と名前を名乗ると、
404号は無線で何かを連絡した。夢かと思い、頬をつねるたかしだが、痛くない。
やがて、死神くんがやってきた。たかしの担当は彼なのだ。が、谷山たかしなんて今週の死亡者リストに
載ってない、と死神くんは首をかしげる。霊界のミスかな? と話しながら二人はたかしを連れ霊界へ向かった。
「お…お前たちはいったい なにものなんだ!?」
たかしの疑問の答えは、霊界についてすぐわかった。「主任」と書かれたプレートの置かれた机に座っていたのは……
黒いマントを身に纏い、鎌を持った骸骨!
「死神だあ〜!!」と悲鳴をあげるたかしに、死神くん達も「さすが主任」「有名人だなァ」と感心する。
と、コンピューターを見ていた主任の顔色が変わった。たかしの死亡予定は68年後になっているというのだ。
驚く死神くんに、主任がたかしの頭を指し示すと……うっすらとではあるが、魂の緒が繋がっていた。
まだ生きているのだ!
「誤死だ!!」と死神達は大騒ぎするが、たかしは生きててもつまんないし、ゴチャゴチャ面倒だから、と
すっかり死ぬ気になっている。
主任は、とにかく24時間以内にたかしの魂を肉体に戻すよう、413号――死神くんに命じた。
「もし 元にもどすことができなかったら……?」
「たばこ屋のじいさんの寿命を68年間のばす!!」
「んなアホなー」
たかしと共に地上に向かう死神くん。相変わらず生き返る気がまるでないたかしに、死神くんはお前が死んで
たくさんの人が迷惑しているんだ、と通りを歩いている彼の両親の様子を見せる。
二人は主婦達の噂の的になっていた。
- 178 :FJ S59年10/23号 2/5 :2008/12/31(水) 22:06:50 ID:???
- 「ねえ 学校でシンナー吸っていたんですって」
「いやねえ」
「いったい どんな教育をしていたんでしょ」
「まったくざあます」
「やかましい!! このババア」
途端に、たかしが怒りをあらわにした。
「悪いのは このボクだ とうさん かあさんは悪くない!! 悪口を言うなあ!!」
それと共に、薄かった魂の緒がはっきりし始める。チャンスだ、と思う死神くんだが……
「まあ オレにはもう関係ないことだ…」
たかしがやる気をなくすと同時に、また薄くなってしまった。ガッカリする死神くん。
死神くんは、今度は学校の様子を見せる。
校長の元には教育委員会やPTA、マスコミが押しかけ大騒ぎになっていた。ただただすまなそうに頭を下げる
校長と、これで私が校長になれるとほくそ笑む教頭。
校長は優しすぎる、もっと厳しく言ってくれれば俺達だって……と言うたかしを、厳しく言われりゃ反抗する癖に、
自分の都合のいいように言うなよ、と死神くんは叱る。
「そもそも お前が死んだから 学校は大さわぎしているんだぞ!!」
が、たかしは「じき おさまるさ」とまるっきり他人事のような態度。イラつく死神くん。
不意に、たかしが僕の死体はどこだい? と死神くんに訊いた。正確には、まだ死んでいないのだが……。
体は警察病院にあった。どうやら死因を調べるため、解剖するつもりらしい。
「解剖されたらもうおしまいだぞ!!」と死神くんは言うが、たかしは「いたいだろうなァ」とやっぱりわかってない返事。
ついに我慢できなくなった死神くんが彼に掴みかかったその時、久保が父親と共にたかしの家に行くのが見えた。
久保の父は、出来の良い息子だったのに、あんたの息子とつきあってからひどくなった、謹慎処分を受けて
不良のレッテルを貼られてしまった、あなた方の息子のせいですぞ、とたかしの両親を責めていた。
しかしたかしは「うそだ!!」と声を荒げる。
「たしかに久保は勉強ができるけど タバコもシンナーも みんなあいつが先にやったんだ!! ボクらは
みんな久保にすすめられてやったんだ どうなんだ久保!? ひきょうだぞ!!」
すると、久保は父を止め「ボクが悪いんだ!! みんなボクが悪いんだよ!!」と泣きながら訴えたが、
父は「うるさい!! だまってろ!!」と彼を振り払い、何も聞こうとしなかった。
- 179 :FJ S59年10/23号 3/5 :2008/12/31(水) 22:08:58 ID:???
- 他の仲間の事が気になったたかしは、裕美の様子を見に行く。裕美は無理矢理ピアノを弾かされていた。
たかし達の仲間に入ったのは、それが嫌だったからだ。
たかしは言う。クラスのみんなと話もしたことのない彼女が、僕等とだけなら笑顔で話をする、僕等と
つき合っているせいでワルに思われてるけど、本当はいい子なんだ、と。
「こんなことしたら また自分のカラの中に閉じ籠もっちゃうじゃないか… かわいそうだよ」
「お前のせいでこうなったんだ」
そう言う死神くんに、たかしは何も言い返せなかった。
次は孝一の様子を見に行く。彼は部屋の隅に、無表情でうずくまっていた。
彼は仲間の中でも変わり者だった。いじめられっ子で、気が弱く無口で、たかし達と一緒にいる時も、
煙草もシンナーも何もやらない……。
「そうだよ!! 孝一はなにも悪いことはしていない 悪いことは なにもしちゃいないんだ!! それなのに
こんな……」
「廃人みたいなやつだな 立ち直れるのかよ?」
最後はたかしのガールフレンドでもある一美。
一美は、父からそんな不良に育てた覚えはないぞ、と激しい体罰を受けていた。思わずやめろと叫ぶたかしだが、
魂である彼の声は聞こえない。
一人部屋に残った一美は、たかしを想って、泣いていた。
「バカだなァ一美… ボクなんかとつき合わなきゃよかったんだ… いつも ボクといっしょにいて ボクの言うことは
なんでも聞いて… そして こんな目に… ホントバカだな」
たかしは涙を流した。そんな彼に「生きる気になったか?」と死神くんは尋ねる。が、彼は僕が生き返っても
どうにもならないよ、と首を振った。
「一美ちゃんが死んでもか!?」
その言葉に、驚いたたかしが一美の方を見ると……なんと、一美はたかしの後を追おうと、首を吊る準備を
始めていた! たかしはやめさせようとするが、やはりその姿も声も、彼女にはわからない。
どうすればいいと訊くたかしに、死神くんは生き返れ、と言う。しかし、たかしの体は病院だ。生き返って
ここまで行くのには時間がかかりすぎる。たかしはそう抗議するが、何故か死神くんは彼を挑発する。
- 180 :FJ S59年10/23号 4/5 :2008/12/31(水) 22:12:15 ID:???
- 「どうした!? 弱虫 女ひとりも助けられないのか!?」
「ボクは弱虫じゃない 一美を助けろ!!」
「ホラ すぐオレにたよる… やっぱり弱虫だ」
違うと反論するたかし。が、死神くんは言った。
「お前は生きることより 死をえらんだ弱虫だ!!」
さすがに怒るたかしに、死神くんはさらに続ける。
「死ぬことはたやすいが…生きることは苦しいものだ わからんのか!? 死を選ぶやつは最低の弱虫だ!!
お前なんか生き返っても立ち直れないね!」
と言う死神くんに、たかしは強く反論した。
「ボクは弱虫じゃない!! 立ち直ってみせる!! 一美も助けてやる!! さあ 元にもどせ!!」
すると、
「よーし よく言った!」
死神くんの様子が変わった。彼はたかしが、やる気になるのを待っていたのだ。
「オレはお前が生き返っても 立ち直れるかどうか心配だったんだ がんばれよ」
お前は生きる意志が強い、大丈夫さ、と死神くんは帰っていく。たかしは一美はどうすればいいんだ、と尋ねた。
「大声で さけんでみな 一美ちゃんに聞こえるかもしれないぜ」
見ると、一美はもう縄を首にかけている。
「やめろ 一美 やめるんだ!!」
たかしは必死に呼びかけるが、一美が気づく気配はない。
「だめだ 一美 死んじゃだめだ!!」
それでもたかしは、すり抜けることも構わず一美を抱きしめ、叫ぶ。そして――
「死ぬな!!」
そう叫んだ直後、たかしの魂は体に戻っていた。解剖医達は生き返ったことに大騒ぎ。それに構わず、
たかしは一美の元へ。
そして一美は……自殺を思いとどまっていた。たかしの最後の叫びが届いたのだ。
- 181 :FJ S59年10/23号 5/5 :2008/12/31(水) 22:13:49 ID:???
- 数日後。たかしが生き返ったことが新聞で奇跡の生還と報じられたせいもあって、登校したたかしは他の生徒達の
注目の的になっていた。そんな中、校長は笑顔で「よかったなー」とたかしの肩を叩いた。
四人の仲間達もたかしの元に来る。久保は「やるか? ひさしぶりに…」とシンナーを見せるが、たかしは
「ボク もうそれ やめるよ!」と断った。
みんなが驚く中、たかしはさらに続ける。
「ボク 今 なにかやらなければならないことが たくさんあると思うんだ それがなにかは よくわからないけど…
タバコやシンナーをやることじゃないってことは わかるよ……」
だからみんなとはもうつき合えない……そう言って、離れようとするたかし。しかし、一美がその背に声をかける。
「わたし…だれかが そう言ってくれるのを ずっとまってたんだ ずっと ずっとまっていたんだ!!」
そして、たかしの腕をとった。
「だって 大切な今の時期をこのまま終わらせたくないもん!!」
一美はたかしに抱きつき、他の三人の目にも涙が浮かんでいた。
それからさらに数日後。たかし達五人は、校門の前で規則をきちんと守っているかをチェックする週番の仕事を
していた。
教頭は何故あの五人にやらせたんだと怒るが、校長は言う。「かれらは見事に立ち直ったのだよ すばらしい
ことじゃないかね」
もし問題を起こしても、その時は私が責任を取ると言う校長に、甘いんだからとあきれる教頭。
きちんと仕事をしている五人を見つめながら、校長先生はつぶやいた。
「わたしは信じておる」
「信じていいぜ 校長」
空の死神くんが、その言葉に答えるように言った。
- 182 :マロン名無しさん :2008/12/31(水) 22:23:06 ID:???
- で、悪魔くんは?
- 183 :マロン名無しさん :2009/01/01(木) 10:38:13 ID:???
- 結局生きる気になったのは女の力か
- 184 : 【大吉】 【1873円】 :2009/01/01(木) 11:32:10 ID:???
- 「たばこ屋のじいさん」で話が通じてるところを見ると、死神くん達の担当してる範囲って意外と狭いのかな?
- 185 :マロン名無しさん :2009/01/01(木) 14:42:44 ID:???
- 誰だか分からなくてもじいさんを68年間寿命伸ばすって聞いたらふざけるなとおもうんじゃね?
- 186 :マロン名無しさん :2009/01/01(木) 17:47:24 ID:???
- >>184
今までの話を見る限り、普段活動してるのは日本で、たまに海外出張するって感じだね。前回英語の名刺も出てきたし。
しかし、もしたかしが最後まで生き返ることを拒んでたら、たばこ屋のじいさんが「世界一長生きした人」になってたかもしれないわけか。
あのじいさんが60だとしても、128歳まで生きる計算だし。
- 187 :マロン名無しさん :2009/01/02(金) 00:23:05 ID:???
- 実は泉重千代さんは…
- 188 :マロン名無しさん :2009/01/04(日) 12:32:16 ID:???
- そんなに簡単に信じていいものだろうか…
堕落への誘惑は至る所にある
- 189 :FJ S59年11/23号 1/5 :2009/01/04(日) 22:06:00 ID:CkrujhTL
- 第16話 老人の幸せの巻(死神くんVS悪魔くん・3)
ある日、死神くんは主任から横町の伊藤さんのじいさんの寿命を一週間伸ばすと告げられる。
悪魔が勝手に魂を取り出し、数が合わなくなったためだ。またあいつらか、と死神くんは舌打ちするが、主任は言う。
「人間はふえすぎたな 今の状態でふえていくと他の生物とのバランスがくずれてしまう これから悪魔達に
大活躍してもらうようになるかもしれんぞ」
さて、その悪魔くんは仕事を終え、満足げに煙草を吸っていた。
「マンガ家に取りついたら ヒマがほしい 女がほしい ワープロがほしいの3つの願いですんだからな
楽勝だぜ つまんないが」
悪魔くんはさっそく、次のターゲットを探し始める。
すると町を歩いているおばあちゃんの姿が目に入った。
おばあちゃんがのんびり歩いていると、バイクが二台、ものすごいスピードで走ってきて、おばあちゃんは危うく轢かれそうに。
「気をつけろババア!!」
おばあちゃんは少しあっけにとられていたが「どうもすみません」と頭を下げた。
「お年寄りはいたわらなくちゃいかんぜ〜〜」
今度はおばあちゃんは、近くにいた女性の洋服に水たまりの水をはね上げてしまう。女性は怒っておばあちゃんに
弁償しろと迫り、おばあちゃんは慌てて「いや あの わるぎはないです」と謝った。
「ひどい世の中だねェ」
バス停でも、バスが到着するやいなや、みんなおばあちゃんを押しのけて乗り、おばあちゃんが空いている席に
座ろうとすると、別のおばさんがその席を無理矢理取ってしまう。
「お年寄りは立ってた方が足腰が強くなって健康にいいのよ やせることもできるしね」
それは勝手な言い分だったが、おばあちゃんは「どうもありがとうございます」とお礼を言った。
「なんだよ あのおばーちゃんは 頭にこないのか 怒ったことないのかよ!?」
- 190 :FJ S59年11/23号 2/5 :2009/01/04(日) 22:07:36 ID:???
- デパートに着いたおばあちゃんは、日替わりの卵を買いに行く。幸いまだ最後の一パックが残っていた。
よかったと手をのばすと、他のおばさんが横から取ってしまった。
おばあちゃんは何か言おうとしたが、おばさんはまくし立てるように言い訳を並べ、卵を持っていってしまった。
他の安売りの品物もみんな売り切れ。しかし、老人用オムツはまだあるのを見つけ「よかったー」と
おばあちゃんは喜んだ。
悪魔くんは、珍しい人がいたもんだと思わず感心する。
「だが 魂としては高級だぞ 年くってるけど…」
悪魔くんは、おばあちゃんに取り付くことにした。しかし、このままでは取り付けない。相手が欲望を持たなくては
ならないのだ。悪魔くんはその時を待つことに。
帰り道、坂を上りながらおばあちゃんはつぶやいた。
「あ〜しんど わたしももう少し若けりゃねエ」
しめた、とばかり、悪魔くんはおばあちゃんの前に姿を現す。驚くおばあちゃん。しかし、おばあちゃんは
悪魔くんをダッコちゃんと勘違い。懐かしいねえと言うおばあちゃんに違うと叫ぶ悪魔くん。
自分は悪魔だ、3つの願いを叶えてやる。その代わりあんたの魂をもらうがなんでも願いが叶うんだぜ……
そう説明している間にも、おばあちゃんはどんどん歩いていき、家に着いてしまった。
仕方なく悪魔くんが後を追って中に入ると――
「お…お前は――っ!!」
「て…てめ――は!?」
なんと死神くんがいた。また仕事を邪魔する気かと喧嘩する二人を、おばあちゃんは「他人ん家に来て
兄弟ゲンカするでない」と止める。
「兄弟とちが―――う!!」
するとおじいさんが、死神くんのことを教え、自分の命はあと十日だと告げる。それを聞いたおばあちゃんは……
「よかったねェ やっと迎えがきてくれたんだねえ!!」
おじいさんと共に大喜び。二人は驚く。
悪魔くんはとにかく3つの願いを叶えてやるからいつでも呼んでくれと言い、去っていった。
死神くんも、あいつの言うことなんか絶対聞いちゃだめだぜ!! と忠告し、帰って行った。
「わしも やっと寝たきりの生活におさらばできる…」
二人がいなくなった後、おじいさんはほっとしたようにつぶやいた。
- 191 :FJ S59年11/23号 3/5 :2009/01/04(日) 22:09:10 ID:???
- 一週間後。公園にいるおばあちゃんの元に、悪魔くんがしびれを切らして現れた。
「じいさんの命はあと3日だぞ なにか願い事はないのかよ!?」
そう問い詰める悪魔くんを、止めに入る死神くん。
すると、おばあちゃんが「それじゃ さっそく願いをかなえてもらおうかねえ…」と言った。大喜びする悪魔くんだが、
おばあちゃんが言った願い事は……
「戦争をなくしてほしいのォ」
悪魔くんは「それはできないね」と断る。それは誰もが願っていることで、おばあちゃんだけの願いではない。
彼が叶えるのは、個人的な願いだけなのだ。
「それじゃ 世の中の老人が幸せに…」
「そんなのもだめだ!!」
「それじゃ 病気で苦しんどる人たちを…」
「だめだだめだ!!」
そのやりとりを見て、死神くんは大笑い。
「こいつはケッサクだ おばあちゃんははじめからお前なんか相手にしていなかったんだ」
歯咬みする悪魔くん。すると、おばあちゃんが静かに言った。
「わしら老人は老い先短いんじゃ たのしい思い出を作ったら死ぬ時つらくなる… このままでええ…
なんもいらん…」
あっけにとられる二人。しかし悪魔くんは、どんな人間にも欲望はある、必ず俺を必要とする時がくる、と
去っていった。
おばあちゃんは、死神くんにおじいさんの正確な死亡時刻を尋ねる。それは三日後の午後十時半。
「やっぱり気になるのかい?」
「わしは じいさんの死ぬ最後の一分一秒まで めんどうをみなくちゃならん役目があるでな」
そして三日後の夜。おじいさんが激しく咳き込みだした。おばあちゃんが驚いていると、死神くんが現れる。
「迎えにきたぜ」
とうとうおじいさんの死ぬ時間が近づいたのだ。苦しそうなおじいさんを見て、おばあちゃんは病院に連れていく
ことにする。助からないことはわかっていたが、苦しんでいるのを黙って見ていられなかったのだ。
そしておばあちゃんは……悪魔くんを呼んだ!
悪魔くんは得意げに高笑いしながら登場した。
「死神! 言っただろ 人間 だれにも欲望はある
- 192 :FJ S59年11/23号 4/5 :2009/01/04(日) 22:10:35 ID:???
- そして悪魔くんが望みを聞くと、おばあちゃんは力が欲しいという。おじいさんを背負って病院まで行く、と
言うのだ。
思わずずっこける悪魔くん。死神くんもそれなら救急車を呼んだ方が早いと言うが……
「ここから救急病院まで百間(約182m)ぐらいの距離じゃ 走った方が早いわい!! 早くせんか!!」
これには悪魔くんも言うとおりにするしかなかった。
おじいさんを背負い、必死で走るおばあちゃん。途中、すごいスピードでバイクの前を横切る。
「気をつけろババア!!」
そう怒鳴りつけるドライバーを、悪魔くんは「気をつけるのはてめえらの方だ!!」と蹴飛ばした。
今度は女性の服に、水たまりの水をかけてしまった。
女性は怒るが「よごれてこまる服ならきてくるんじゃね―――や!!」と、悪魔くんは女の人の顔に泥水をぶっ掛けた。
おばあちゃんは走る車の前も構わず横切るため、二人は心配でしょうがない。
すると、その姿を見た酔っ払いサラリーマン達が大笑いし、悪魔くんは怒る。
「こ…こいつら〜〜 おばあちゃんの気持ちも知らんくせに〜〜」
「おまえが怒ってもしょうがないだろ!」と呆れる死神くん。
と、おばあちゃんはどぶ板をうっかり踏み割ってしまった。痛がるおばあちゃんを悪魔くんが励ます。
「なんだよ たいしたことねえよ もう少しじゃねえかガンバレよ!!」
……そして、自分が何を言ったのかに気づいて、真っ赤になった。
もっとも、顔が元々黒いのでよくわからなかったが。
ようやく救急病院に着き、おじいさんの手術が始まった。時刻は十時を過ぎている。
おばあちゃんは悪魔くんに二つ目の願いを言った。それは……おじいさんの安楽死。
それを聞いて死神くんは、今は意識不明で苦しさは感じてないはず、それに苦しんだとしても肉体だけで
魂には影響はないんだ、と説明するが、おばあちゃんは言う。
夫婦は助け合って生きていくもの、喜びも悲しみも分かち合うもの、おじいさんが苦しんでいるのに
自分が黙っているわけにいかない、と。
「それに今の世の中 わしら老人が住みにくい世の中になってしまった 幸せな老人より不幸な老人の方が
多いじゃろう 長生きしてもなにもいいことありゃあせん」
いつしかおばあちゃんの目に、涙が滲んでいた。
「だから せめて…せめて死ぬ時は…」
- 193 :FJ S59年11/23号 5/5 :2009/01/04(日) 22:11:42 ID:???
- 死神くんはおじいさんの魂を抜き取り、おばあちゃんに会わせようとするが、悪魔くんは「お前はおばあちゃんの
気持ちがわかってない」と死神くんを蹴飛ばした。
悪魔くんは二つ目の願いを叶えると言い、そして、何故か三つ目の願いは俺が使わせてもらうぜ、と言う。
「あんたのことだ 3つめの願いを自分の安楽死に使うつもりだろ? だからこれは オレからのお願いだ」
そして悪魔くんは、心の底から絞り出すように、言った。
「二度とオレを呼びださないでくれ!! あんたとつきあうのはもうたくさんだ あんたの魂なんかいらないよ!!」
悪魔くんは消えていった。
そして死神くんも、「オレもあいつもおばあちゃんにはかなわないよ これからも その調子で長生きしてくれ」
と、帰っていった。
「そして あんたの担当がオレにならないことを願うよ」
やがて、時間がきた。
手術室の扉が開き、出てきた医師に中に連れて行かれたおばあちゃんが見たのは……安らかな顔で死んでいる
おじいさんの姿。
「よかった…」
おばあちゃんは泣いた。
「よかったね おじいさん… 生きる苦しみから やっと解放されたんだよ」
それからもおばあちゃんは、バイクに轢かれそうになったり、他人の服を汚さないようにそっと歩く日々。
「老人の幸せってなんだろう」
そんなおばあちゃんを見て、そうつぶやく死神くん。
しかし、公園のベンチで子供達が遊ぶ姿を眺めているおばあちゃんは、どこか幸せそうだった。
- 194 :マロン名無しさん :2009/01/04(日) 22:21:59 ID:???
- ヤッター!悪魔くんだーー!!
- 195 :マロン名無しさん :2009/01/04(日) 22:23:44 ID:???
- 生きる苦しみっていうとなんか生きること=苦しみって感じがするけど、
このじいちゃんやばあちゃんみたいな死生観をもてるのであれば
それもまた悪くない気がしてきたぜ…
- 196 :マロン名無しさん :2009/01/04(日) 23:30:26 ID:???
- 俺が老人になって死を間近に感じるようになった頃、この老夫婦のような人生観を持つようになるんだろうか・・・
そしてこんなに自身の死を達観できるのだろうか・・・・
- 197 :マロン名無しさん :2009/01/05(月) 03:59:39 ID:???
- 悪魔くんかわいい性格してるなー
- 198 :FJ S59年12/23号 1/6 :2009/01/06(火) 22:02:49 ID:Tr6nwCsP
- 第17話 ふたりの父親の巻
その日、あきらは、父と一緒に家に帰る途中で、虫取りをして遊んでいた。
と、そこへ猛スピードで走る車が角を曲がって現れた。父はとっさにあきらを突き飛ばし、あきらは岩壁に頭をぶつける。
そして父は……迫ってくる車を避けようとして、崖から転落した。
ぼんやりとする意識の中、車から男が降りてきて、あきらの方に駆け寄って来た。男は真っ青な顔をしている。
(おじちゃん たすけて… おじちゃん……)
あきらは助けを求めるが、それは声にはならなかった。
とうとう男は、再び車に乗って、その場を去っていった。
(おじちゃん…)
……そこであきらは、目を覚ました。もうあの日から、十五年の月日が流れていた。嫌な夢を見た、と思いつつ、
あきらは身支度を整え、朝食をとりに近くの喫茶店に向かう。
喫茶店に着くと、ウェイトレスの照子が話しかけてきた。照子はあきらの恋人でもあるのだ。
「ねっ 今日 おとうさんに会ってくれる?」
――それは、昨日のプロポーズの返事。
「えへっ いい?」
「も…もちろんじゃないか」
あきらは思わず顔が緩んだ。
その日の夕方、あきらは照子に連れられて、彼女の家を訪れた。今、照子の父は病気で寝込んでいるらしい。
あきらは奥の部屋へ行き、寝ている照子の父に挨拶しようとしたその時――自分の目を疑った。
そこには、大分年を取ってはいたが、十五年前の、あの時の男がいたのだ!
(………おじちゃん)
様々な場面が、一気に脳裏に蘇り、そして――
「うわあああああ」
気がついたときには、あきらは悲鳴を上げて外に飛び出していた。
心配し「どうしたの?」と声をかける照子に、あきらは急に気分が悪くなって、と嘘を言い、照子の家を後にした。
- 199 :FJ S59年12/23号 2/6 :2009/01/06(火) 22:04:10 ID:???
- あきらは混乱していた。確かに照子は、以前は自分と同じN県に住んでいたと言っていた。
あの時の男なのは間違いない……。あきらは、事故の後警察に質問されたときのことを思い返す。
「なあ あきらくん 犯人の顔 本当に見なかったの?」
「車の色とかさ…」
警官の質問に「知らない」と答えるあきら。
しかし本当に知らないわけではない。心の中で、密かに決めていたことがあるからだ。
(いうもんか だれにもいうもんか ボクが ひとりで見つけ出してやるんだ…… そしてとうちゃんの
かたきをとるんだ!! とうちゃんのかたきを!!)
――仇を!!
「殺すつもりかい?」
その言葉に、あきらは我に返った。いつの間にか、目の前に見知らぬ子供がいた。
「ばかな考えはやめな」
通り過ぎ様に子供は言い――慌てて振り返ると、もうその姿はなかった。
家であきらがどうすればいい!? と悩んでいると、部屋のドアをノックする音がした。照子の父が訪ねてきたのだ。
「だめだ 帰ってくれ あんたとは会いたくない」
「なぜです!? わけを聞かせてください あきらさん!!」
あきらは一瞬、悩んだが、もしかしたら全くの別人かもしれない、確かめてみる必要がある、と、部屋に上げることに。
あきらは、照子の父に話す。父親が十五年前に交通事故で亡くなったこと、それが自分の目の前で起きたこと……
「親は子どもをつきとばし 子どもを助けた しかし自分は車をよけようとしてガケから落ちてしまった」
――照子の父の、顔色が変わった。
「少年は頭を強く打ち 薄れていく意識の中で 犯人の顔をはっきりと見ました」
「そんな…」
「そして自分の目に その顔をしっかり焼きつけたのです 少年はその時決心したんだ 父親のかたきを
とってやろうと 犯人をこの手で殺してやろうと!!」
あきらは、側にあった果物ナイフを手に取った。
- 200 :FJ S59年12/23号 3/6 :2009/01/06(火) 22:05:36 ID:???
- 「あなたはあの時の!?」
「少年は ずっと待っていたんだ この日がくるのを!! 15年間 待っていたんだ!!」
そして、あきらがナイフを構え、立ち上がったその時……
「やめろって言っただろう!?」
二人の間に先程の子供が――死神くんが割って入った。驚くあきらに、死神くんは言う。
「このじいさんは あと2日の命なんだ 予定どおりに死なせてやれよ」
照子の父は、彼が死神であることを説明し、余命もその通りだと話す。わずかな沈黙の後――あきらは笑った。
「神のさばきが下ったってわけか」
あきらは何か言おうとする照子の父に「出て行ってくれ!!」と言う。
でないと、自分は本当に彼を殺してしまう……。
しかし、照子の父は立ち上がらせようとする死神くんの手を振り解き、あきらに縋りつく。
「わたしが憎いのなら わたしを殺してください しかし 娘は 娘はあなたのことを…」
だが、振り返ったあきらは――
「人殺しの娘など知らん!! 出て行け!!」
何も言えず、あきらの部屋を出るしかない照子の父。
「ひどい男だねェ」と死神くんが慰めるが、彼は力なく、その場に膝をつき、目に涙を滲ませた。
「わしが… わしが みんな悪いんじゃ!!」
夜の八時を回っても、家に帰らない父を照子は心配していた。
「おとうさん… どうしたんだろ?…」
父は、あきらのアパートの前で、彼が出てくるのを待っていたのだ。
あきらはその様子を見て、すぐにカーテンを閉めた。
- 201 :FJ S59年12/23号 4/6 :2009/01/06(火) 22:06:32 ID:???
- 翌朝。あきらが出勤しようと家を出ると、そこにはまだ、照子の父がいた。後ろには死神くんもいる。
照子の父は必死に、照子をお願いします、私が死んだら照子にはあなたしか頼る人がいないのです、と
あきらに訴えるが、あきらは乱暴に彼を振り払う。
それを見て「こんなバカヤロウに娘さんをやるこたないよ!」と死神くんは怒るが、照子の父は、構わず話す。
あの時の事故の真相を。
――あの時、車の後部座席には照子が乗っていた。
彼女は生まれつき心臓が弱く、その日も急な発作を起こし、一刻も早く病院に連れていかなければならなかった。
そして急ぐあまり――あの事故を、起こしてしまったのだ。
「自分の娘を救うためなら 人を殺してもいいっていうのか!?」
そう憤るあきらに照子の父は……「そうです!!」と言った。
「親は子どものためなら なんでもします!! 自分の子が助かるのなら 人をも犠牲にします!!」
次第に照子の父の目に、涙が滲む。
「自分の子どもを守るのは 親として当然のことです!」
「だまれ!!」
我慢出来なくなったあきらは、照子の父を塀に叩きつけた。思わず焦る死神くん。
「あなたのおとうさんもそうだった!!」
照子の父の言葉に、ハッとするあきら。
「自分の息子を助けるために 自分が犠牲になった わたしと同じ立場だった!!」
あなたも親になったときにわかりますよ、と言う彼をあきらは何故自首しなかった、と問い詰める。
「照子には母親がいません 知っていたでしょう? わたしがいなくなったら 照子はどうやって生きてゆくの
です!?」
「ふん お前は逃げたんだ!! 罪の意識がなかったんだ!!」
- 202 :FJ S59年12/23号 5/6 :2009/01/06(火) 22:07:32 ID:???
- 「いいかげんにしてくれ――」
二人のやりとりに、我慢できなくなった死神くんが叫んだ。
これはあんた達二人の問題で、照子さんには関係ないこと、過去のことも関係ない、と死神くんはあきらに言う。
「あんた 照子さんが好きなんだろ? プロポーズしたんだろ? お互い好きならそれでいいじゃないか!」
が、それでもあきらは大きな問題がある、と言う。
自分と照子が結婚すればこいつが自分の父親になる。そんなのは認めない、と。
「話は これまでだ 帰ってくれ!!」
それでもなおあきらを説得しようとする照子の父を、あきれた死神くんは「じいさん もうほっとけよ!!」と止める。
そしてあきらが身を翻したその時……彼は走ってきたトラックに気づかず、前に飛び出してしまった!
それに気づいた直後、いきなり誰かに思いきり突き飛ばされた。見えたその人物は……照子の父だった!
――その姿に、かつての父の姿が重なった。
「とうさん!!」
ようやく止まるトラック。だが、照子の父は跳ねられひどい怪我を負っていた。
今起こったことが信じられないあきらは、慌てて照子の父を抱き起こす。
「あんた…なぜ…こんな……?」
「お…おとうさんて…呼んでくれましたね…」
もう息も絶え絶えな照子の父。
「いったでしょう 親は子どもを守るものです 自分を犠牲にしてでも…」
やがて、照子の父は微笑んで……
「て…照…子を…」
静かに、息を引き取った
- 203 :FJ S59年12/23号 6/6 :2009/01/06(火) 22:08:44 ID:???
- 「とうさん!!」
あきらは、照子の父の亡骸を抱いて、泣いた。
「オレは… オレはバカだ!! 大バカだ!! 二度も…こんなかたちで…父親を失ってしまった!!」
「予定が一日早くなっちゃったけど あいつには いい薬になっただろう」
そう言いながら、照子の父の魂を霊界に連れて行く死神くん。と、照子の父が死神くんに礼を言った。
老いぼれの、しかも病気の自分が大の大人を突き飛ばす事が出来るはずがない、と。
そう、実はあの時、姿を消した死神くんも、一緒にあきらを突き飛ばしていたのだ。
「チェ…仕事だよ 仕事」
死神くんは照れて真っ赤になった。
「関係ないやつまで 死んでもらっちゃこまるからな」
火葬が済み、遺骨を抱えて帰ろうとする照子の元にあきらがやって来た。
「わたし…とうとうひとりになっちゃった…」
涙を流す照子に、あきらは言う。
「ボクは ずっと前からひとりだった… でも 今日からはちがう」
二人は、帰っていった。これからを表すように、肩を寄せ合って……。
- 204 :マロン名無しさん :2009/01/06(火) 22:46:51 ID:???
- > あいつには いい薬になっただろう
死神くんって求めるレベルが高いよなあ…
なんかえらいわからずやのように評しているけど、
殺すのを我慢して追い返すだけですませようとしただけでも
十分心の広いほうだと思うんだが。
- 205 :マロン名無しさん :2009/01/06(火) 22:51:11 ID:???
- うーん、なんかいい話だとは思うけどスッキリしないな。
あきらがあのおっさんを許せないのは無理もないのに、
一方的にあきらに翻意を求めるような話だからだろうか?
- 206 :マロン名無しさん :2009/01/06(火) 22:54:49 ID:???
- ふざけるな!偽善者め!
やはり悪魔くんの方がいいな
- 207 :マロン名無しさん :2009/01/06(火) 22:59:52 ID:???
- なんか今回の死神くんは人の気持ちをわかってないよな
悪魔くんなら、とまでは言わないけどもうちょっといい対応があったと思うぞ
- 208 :マロン名無しさん :2009/01/06(火) 23:47:52 ID:???
- 死を間近に迎えているとはいえ、照子の父の方ばかりに味方してるのがなあ>死神君
実の父親を殺されたことは事実なんだから、もうちょっとあきらのことも考えてやれと。
- 209 :マロン名無しさん :2009/01/07(水) 00:12:53 ID:???
- でも親父を許さないのはいいが照子を巻き込むのはちょっと違う気がする
- 210 :マロン名無しさん :2009/01/07(水) 01:20:26 ID:???
- >>209
それもわかるんだけど、親を殺され、自身も死にかけてるしなあ。
理屈じゃなく感情が先に立っちゃうもんだよ。
- 211 :マロン名無しさん :2009/01/07(水) 10:53:48 ID:???
- 親父はすぐに自白しよろとは思った。
照子を施設暮らしさせることになるかもしれないが、それでも人殺しといて逃げるのはだめだろ。
- 212 :FJ S60年1/23号 1/5 :2009/01/08(木) 22:08:48 ID:upUMxv0p
- 第18話 本物サンタクロースの巻
その晩、少年の部屋の窓が開き、誰かが入ってきた。目を覚ました少年に、彼は名刺を渡す。
No.404
しにがみ
(13)-4444
「ぼうや ざんねんだけど あと3日で死んでもらうことになったよ」
入ってきた子供が――死神404号がそう告げると、
「そうか… 胸の病気がいつまでたってもなおらないから それでボクは…」
少しうなだれる少年を見て、404号は出来る限りのことはするから、何かしてほしいことは
ないか? と尋ねる。
3日後はちょうどクリスマス……少年は言った。
「ボク サンタクロースに会いたいなァ」
同じ頃、大富豪で知られる藤本氏もまた、病床にあった。
彼は会社の会長で、その利益や個人資産だけでも何百億もの財産を持ち、さらに屋敷や土地、いくつもの別荘、
宝石や美術品もコレクションしており、その全財産は計り知れないほどだった。それゆえ彼の周りには、
金目当てに集まってくる者が大勢いた。
そんな彼等を嫌い、「わしゃ 絶対死なんぞっ!!」と力強く藤本氏が宣言した直後、死神くんが現れた。
名刺を渡し、死神くんは告げる。
「じいさん あんた あと3日の命だぜ」
翌日。何故かまだ死なないはずの藤本氏が死んでいた。大騒ぎする人々を、魂となり死神くんと共に眺める藤本氏。
実はこれは彼の頼み……というより脅迫で、死神くんがわざと死なせたのだ。
- 213 :FJ S60年1/23号 2/5 :2009/01/08(木) 22:14:19 ID:???
- 一旦二日間死に、その間に遺産相続に相応しい人物を選び出し、三日目に静かに美しく死ぬ……それが藤本氏の計画だ。
思わず「あんた 美しいというイメージじゃないよ」とツッこむ死神くん。
枕元にはただ一言「二日待て」と書かれた紙が置かれていた。どういう意味なのかと思案する人々。
三人の息子達は父の死を悲しみ、泣いて……いるフリをしていた。わざとらしさに、呆れる藤本氏。
まもなく三人は遺産相続をどうするかについて、話し合い始めた。別荘や宝石、美術品はすべて金に変えて
しまおうという言葉に藤本氏は「きさまらに金は 一銭もやらーん!!」と激怒。「金をやるからこいつらを殺せ!!」と死神くんに頼む始末。
当然死神くんは「できるか!!」と突っぱねた。
次にやってきたのは孫達。可愛い彼等の登場に藤本氏も顔をほころばせるが……
「わたしたちにいくらか金 はいるの?」
「ムリよー」
「あのじじいじゃな」
彼等もやっぱりお金の心配ばかり。
「きさまらにも 金は一銭もやら〜〜ん!! なんちゅうかわいげのないガキどもじゃ」と再び激怒する藤本氏。
さらに相続の権利を主張する親類達や、この気に乗じて、会長に金を貸した、飲み屋のつけがある、
昔生き別れになった妹だ、お腹の子は藤本氏の子供だ……と、嘘偽りを並べ立て、なんとか遺産を貰おうとする
人々が押し掛けてくる。ついには屋敷で働いていた使用人達までもが、より多くの退職金を勝ち取らんと組合を結成。
あまりにショックな出来事の連続に、藤本氏は文字通り泡を吹いて失神寸前だった。
死神くんに助け起こされ、へなへなとくずおれる藤本氏。
「トホホホホ… なさけない… この世に信じられる人間はおらんのか…」
うなだれる藤本氏に、死神くんは相続させることよりも、使うことを考えたらどうだい、とアドバイスする。
一日や二日で使いきれる額ではない、と言う藤本氏だが、死神くんは物を買うってことじゃない、と説明を始める。
世の中には苦労している人がたくさんいる。
病気で苦しんでいる人々、事故で怪我をした人、二百万人を超える身体障害者……。それに対する施設や
ボランティアの数はまだまだ不足している。他にも寝たきりの老人、身よりのない老人、事故や病気で、
あるいは無責任な親に見捨てられて親のない子供達もたくさんいる。
- 214 :FJ S60年1/23号 3/5 :2009/01/08(木) 22:15:14 ID:???
- 世界にはもっと苦しんでいる人がいる。
東南アジアのある地域では、粗末な食糧と不衛生な水で、何万人もの人が死んでいる。
全世界では、毎日何万人もの子供達が餓死し、アフリカのある地域では、もう何年も雨が降っていない……。
人間も大変だが、もっと大変なのは動物達だ。一日に何万頭も死んでいる…。
過去にたくさんの動物を絶滅させてしまったし、絶滅のおそれのある動物もたくさんいる。
一番良くないのは自然破壊。人間が自分自身の首を絞めているようなもの。
「そして最悪なのが戦争 今も世界のどこかで…」
「それがどした」
藤本氏が苛立ったように、死神くんの説明を遮った。
死神くんは、世の中の役に立つように使った方がいい、と思ったのだが、藤本氏は一代で築き上げた富と財産を
そんなことに使えるか、と激怒する。
「なんだよ どうせ使い道のない金なんだろ どうして世の中のために使うのがいやなんだよ!!」
「苦労してためた金を まったくの赤の他人に使われるのがいやなんじゃい!!」
他人にやるくらいならドブに捨てた方がまだまし、とまで言い切る藤本氏と、睨み合いになる死神くん。
と、そこへサンタの服を着た404号が通りかかった。例の少年のため、自分がサンタのふりをしようというわけだ。
理由を聞いた死神くんは……藤本氏にサンタの扮装をさせた。
「なんでわしが こんなことせにゃならんのだ!?」
「あんたの願いを聞いてやったんだ 今度はオレの言うことを聞いてもらうぞ!」
その晩。少年の部屋の窓が開き、目を覚ますと……目の前にサンタクロース(に変装した藤本氏)がいた!
大喜びで駆け寄る少年だが、藤本氏はムスッとした顔のまま。404号は「やばいよあのじいさん」と不安がるが、
死神くんは「お前の変装よりましだって!」と励ます。
「ねっ プレゼントは? プレゼントはなに?」
少年は訊くが……404号はプレゼントを用意するのをすっかり忘れていた。
それを察したのか、少年はプレゼントはいいからボクと遊んでよ、とサンタに頼む。
- 215 :FJ S60年1/23号 4/5 :2009/01/08(木) 22:16:14 ID:???
- 「キャッチボールしよう! パパはちっとも遊んでくれないんだ」
やったことがないからちょっと待て、と言う藤本氏の言葉を無視して、ボールを投げる少年。
ボールは藤本氏の顔に当たった。
「へたくそー」
笑う少年に、藤本氏もムッとして投げ返すが、少年はあっさりとキャッチ。これには藤本氏も本気になった。
しかし二度目も顔に当たり、そして三度目……ついに、藤本氏はボールをキャッチした。
「とった――っ」
「やった――っ」
思わず二人で抱き合い、大喜び。が、ふと我に返った藤本氏は……。
「えーい アホか!! わしが本当にサンタクロースに見えるのか!?」
照れ隠しのように、一気にまくし立てた。
「本当にサンタクロースがいると思っているのか!? バカ者!! 考えが甘いわ!! そんなことでは世の中
生きてゆけんぞ!!」
「ホラ やっぱりヤバいよ あのじいさん」
どうすんだよ、と404号に言われ、死神くんも頭を抱える。
が、少年は意外な事を口にした。
「サンタクロースなんていないよ! みんなつくり話のウソッパチさ」
クリスマスにプレゼントをくれるのも、パパとママでサンタクロースじゃないと言う少年。だが……。
「でも おじさんはきてくれた… ボクのために… だから おじさんは本物だよ ボクだけの本物の
サンタクロースだよ!」
でなきゃ他人のおじさんが、こんなことしてくれるはずない――少年の言葉に、何も言えない藤本氏。
「おじさんありがとう! きてくれてありがとう!!」
泣きながらお礼を言う少年に抱きつかれ……いつしか藤本氏も、涙を流し、少年を抱きしめていた。
死神くんと404号は、安心し、笑顔を浮かべた。
遺言に書かれた二日が過ぎ、親族達が再び藤本氏の屋敷に集まっていた。
この遺言の意味は何か、どこかの隠し金庫でも開くのではないか、などと勝手に話し合っていると……
「あ〜〜 よく寝た」
藤本氏が起き上がった。
突然のことに、一同はパニックになるが、藤本氏は弁護士も立会人もたくさんいるから、この場で遺言状を
作成すると宣言する。
- 216 :FJ S60年1/23号 5/5 :2009/01/08(木) 22:17:40 ID:???
- まず、この屋敷にある美術品は――
「世界各国の美術館に寄付する!! ほしい美術館は勝手に取りにきなさい」
「えっ!?」
その場にいた全員が、耳を疑った。
「宝石・貴金属はすべて金に替えること…そして… わしの財産のうち十億を全国の寝たきりの老人に寄付する!」
これには息子達も「え〜〜っ!?」の大合唱。藤本氏はさらに続ける。
「さらに 十億を全国の身障者に寄付する!」
「そんなばかな!!」
皆もざわめき始めた。
「さらに全国の交通遺児に十億!!」
ベトナム難民に、バングラデシュに、アフリカに、動物愛護協会に……次々と寄付先とその額が発表され、
屋敷は生き返ったとき以上の、大騒ぎになったのでした。
翌日のクリスマス。
藤本氏が行った寄付は「富豪藤本氏ビッグなクリスマスプレゼント!!」と大きく新聞でも報じられた。
そして本人は、今度こそ予定通りに死んで、死神くんと共に霊界に向かっていた。
「みごとにやってくれたな」と死神くんは褒めるが、やっぱり藤本氏はムスッとしたまま。
そこへ、少年の魂を連れた404号がやってきた。お互いに「おつかれさん」とねぎらい合う死神くんと404号。
藤本氏は思わず少年に背を向ける。が、少年は彼の姿を見ていった。
「おじさん ボクね サンタクロースに会ったんだよ おじさんにそっくりな人さ」
ホントだよ、サンタクロースは本当にいるんだよ――無邪気に喜ぶ少年に、藤本氏は照れ笑いしながら言う。
「ウム…よかったな わしもサンタクロースを信じておる…」
その言葉に、満面の笑みを浮かべる少年。そして二人は、仲良く霊界へと旅立っていった。
- 217 :マロン名無しさん :2009/01/08(木) 23:16:18 ID:???
- サンタクロースはさんざん苦労するんだよ
- 218 :マロン名無しさん :2009/01/08(木) 23:18:28 ID:???
- 親族にもちょっとは分けてやれよ・・・
- 219 :マロン名無しさん :2009/01/10(土) 09:52:01 ID:???
- なんでこの男の子はサンタクロースがいないことを知ってたのに、サンタクロースに会うことを最後の望みにしたんだ?
- 220 :マロン名無しさん :2009/01/10(土) 16:53:27 ID:???
- 自分に対してまっすぐ遊んでくれるような人(向き合ってくれるような人)ってのが
時期的にサンタクロースって意図だったんジャマイカ
- 221 :FJ S60年2/23号 1/6 :2009/01/10(土) 22:01:13 ID:Etyccxqm
- 第19話 心美人の巻
雪の降る日。
病室で、首を吊ろうとしている目を包帯で覆われた少女。が、
「真美! なにやってんのよ!!」
横から少しぽっちゃりした、別の少女が飛びついて止めた。
「福子 はなしてよ わたし死ぬのよ!!」
「なにバカなこと言ってるのよ!!」
「うるさいわね あんたに わたしの気持ちがわかるっていうの!? 帰ってよ!!」
真美は福子にコップを投げつけ、ふてくされたように布団の中へ。福子は病院を後にした。
「かわいそうな真美…… 死んじゃだめよ……」
そうつぶやきながら歩く福子を、何故か死神くんが見ていた。
真美が死にたがるようになったきっかけは、彼女の自宅で起きた火事だった。
彼女は運悪く逃げ遅れ、後に無事救出されたものの、焼けた柱が顔を直撃してひどい火傷を負った上、
角膜が傷つき失明状態になっていた。角膜の移植をする時に皮膚移植も行う事になったが、その頃から真美は
「死にたい…」と口にするようになった。
「顔にこんなキズがあるのよ 手術しても元にはもどらないわ」
そんな真美を福子は「なにいってんのよ だいじょうぶよ」と励ますが、真美はお見舞いに来てくれた男の子達は
みんな私の顔を見てすぐに帰っていった、と嘆く。
「ひどい顔になったのよ!!」
泣きつく真美を、福子はただ抱き止めてあげることしかできなかった。
- 222 :FJ S60年2/23号 2/6 :2009/01/10(土) 22:02:28 ID:???
- 「真美も もうおしまいね」
「ひどいキズなんだって」
「お岩さんみたいだってさ」
そう話すクラスの女子に「ひどいこと言わないでよ!!」と抗議する福子。
が、彼女達は「だって本当のことじゃない」と悪びれた様子はない。
「だいたいナマイキよ 少しぐらいカワイイからって」
「もっとも 福子といっしょにいればだれでもカワイク見えちゃうけどさ」
「そうよねー」
「お友だちになりたいわァ」
「うるさいわね!!」
怒った真美は彼女達を突き飛ばした。
「あなたたちには 真美の気持ちが全然わかってないわ!!」
誰も真美を心配してくれない、と涙ぐむ福子。その日も見舞いに行くが……
「帰ってったら!!」
再びコップを投げつけられ、思わず悲鳴を上げた。
「こんな顔じゃ生きてゆけないわ!! 目なんか見えなくていい!! 自分の顔なんか見たくない!!」
福子は、病室の外でうなだれていた。
(真美…わたし なにもしてあげられない… いっそ わたしが身がわりになればよかったのよ)
そう考えていると、看護婦が話しかけてきた。
「あんたも毎日よくくるわねェ」
「真美は死にたいって言ってるんです!!」
が、看護婦は笑った。
「うそうそ 死にはしないわよ あの子 ああやって人目をひいているのよ いつも自分が中心でありたいのよ
悲劇のヒロインのつもりでいるんでしょうよ」
そう言って、笑いながら看護婦は行ってしまった。
「うんまあー 看護婦のくそババアまであんなひどいことを!!」
憤り、福子が叫んだその時、死神くんが彼女の前に現れた。最初はオバケと勘違いするが、死神と知り、まさか真美が……
と思う福子に、死神くんは告げる。
「死ぬのは あんただよ」
――福子は、言葉を失った。
- 223 :FJ S60年2/23号 3/6 :2009/01/10(土) 22:04:26 ID:???
- 死神くんは続けた。
予定では、一週間後に事故死することになっている。原則としては、事故死の場合は、それを恐れて外に出ないで
事故に遭わないようにする事があるため、本人に知らせてはいけないことになっている、と。
「でも あんたの場合 あんまり人がいいから知らせてやった あんなわがままな真美ちゃんなんかほっといて
残りの一週間を自分のために使いなよ」
が、福子は相変わらず呆然としたままだった。
「とにかく きみの命はあと一週間だ 一週間もあればいろいろ考えることもできるだろ」
そう言って、死神くんは消えた。福子はあまりのショックに、その場に力無く、膝をついた。
「わたしが… 死ぬ…? あと… 一週間…」
帰り道、真美との事を思い返す福子。
皆から可愛いと言われ、男子に人気がある彼女と、親友で幼なじみな事が自慢でもあった。
だが、ラブレターを渡されたと思ったら「真美さんにわたしてください」と頼まれただけだったことも。
子供の頃もそうだった。みんなと遊んでいてお姫さまごっこをやる時は、真美が囚われのお姫様で、自分は怪物。
誰かに誘われるのも真美で、自分はいつもそのついで。
つい最近も、男子達から「デブがうつる」と悪口を言われ……いつしか福子は、泣いていた。
福子は死神くんを呼び、言う。
「わたしの人生はいったいなんだったの!?」
「へっ!?」
「どうして わたしだけデブ・ブス・チビの三重苦を背おっているの!? 不公平じゃない!!」
だが、死神くんは「オレはあんたが一番美しく見えるけどね」と福子に言う。「わたしのどこが美しいのよ!!」と
怒る福子に、死神くんは答えた。
「心だよ」
その答えに、ポカンとする福子。
「あんたはだれよりもやさしいし 素直だし とってもいい娘だよ」
「バカ言わないでよ」
福子は泣きながら叫んだ。
「男の子はねエ 女の子を外見でしか見てないのよ 性格が悪くても可愛けりゃ女の子はモテるのよ!! ブスは
なにをやってもだめなのよ だいたい心なんてどうやって見るのよ!!」
褒めたつもりが逆効果になり、死神くんは「やりにくいなァ…」と頭を抱えた。
- 224 :FJ S60年2/23号 4/6 :2009/01/10(土) 22:06:23 ID:???
- 家に帰り、自室で物思いにふける福子。
真美は昔から友達だった。と言うより、真美しか友達はいなかった。誰とも付き合ってくれなかった自分と、真美は
付き合ってくれた。それなのに……ふと、また自分の事より人の事を心配していることに気づき、苦笑する福子。
――心が美しい。
死神くんの言葉が脳裏をよぎった。
(わたしが死んだら真美は… たったひとりの親友の真美は…)
福子は五日ぶりに、真美の病室を訪れた。真美はあんたも私を見放したのね、と福子をなじる。
「帰ってよ もうあんたなんか友だちじゃないわ 絶交よ けっきょく だれもわたしの気持ちがわかってないのよ」
――瞬間、福子は真美の頬を思い切りはたいた。
「な…なにするのよ!?」
困惑する真美に、福子は言った。
「真美 甘ったれないでよ あんたにわたしの気持ちがわかるの?」
「えっ」
「デブ・ブス・チビの三拍子そろった わたしの気持ちがわかるっていうの!?」
福子の目に、涙が滲んでいた。
「いつも男の子にちやほやされているあんたの横で わたしがどんな気持ちでいたかわかるの!? あんたの知らない所で
バカにされ いじめられてる わたしの気持ちがわかるっていうの!? うぬぼれないでよ 顔にキズがついたぐらいなによ!!」
頬を押さえたまま、呆然とする真美。
「死になさいよ…… 死にたいんなら勝手に死ねばいいわ!! わたしはもう止めたりしないわ… どうせ死ぬ気も
ないんでしょ?」
「福子…どうして… どうして そんなひどいこというの?」
福子は一瞬、躊躇したが、
「さようなら わたし もうこないから…」
泣きながら病室を走り出ていった。
「福子!!」
一人残された真美はただただ困惑していた。
「どうしたの? なにがあったの!?」
- 225 :FJ S60年2/23号 5/6 :2009/01/10(土) 22:07:23 ID:???
- 「真美 さよなら 元気だしてね」
病院の方を振り返り、そっとつぶやく福子。そこへ死神くんが現れた。
「どう死神さん 見てた? ひどいこと言うでしょ わたしってこんな女なのよ」
笑う福子だが、死神くんにはわかっていた。自分が死んでも真美が悲しまないように、わざと嫌われるように振る舞ったことを。
「あーあ わたしってつくづく不幸な女! こんな風体で 短い人生で…」
そう言う福子に、人生は長い短いじゃなく、有意義に過ごすことが大事なんだ、と教える死神くん。
福子はどんな事故で死ぬの? と尋ねるが死神くんもさすがにそれは言えない。すると福子は、死神くんに頼んだ。
「顔……キズつけてほしくないなァ…」
その言葉に、何かを察する死神くん。福子は「わたし これでも一応女の子だもんね」と照れたように舌を出し、
お願いね、と念押しして帰っていった。
雪は相変わらず、降り続いていた。
数日後。突然真美の手術が行われることになった。
つい先程、交通事故に遭った子が、真美に角膜を移植してほしいと言い残し、亡くなったのだという。
同時にその子から、皮膚移植も行われることになったのだ。
どうして私を? と不思議がる真美に医師は新聞か何かで君の事を知ったんじゃないかな、と話す。
「その子 いくつくらいの子なの?」
「うん? きみと同じ年ごろの娘さんだよ」
真美は微笑み、その子にうんとお礼を言わなくちゃね、と言った。
- 226 :FJ S60年2/23号 6/6 :2009/01/10(土) 22:09:34 ID:???
- 「そして目が見えるようになったら… わたし 福子に会いたい!!」
その場にいたスタッフが、全員、絶句した。
「福子に会ってわたし あやまらなくっちゃ!!」
真美は知らない。
「わがままなわたしにつきあってくれた福子… 毎日のようにお見舞いに来てくれた福子…」
隣に寝かされている、事故で亡くなった女の子こそが、福子だということを。
「そして生きる勇気を教えてくれた福子に あやまりたいの…」
真美のまだ見えない目から、涙がこぼれる。
「福子 ごめんね また以前のように仲よくしよう!…って」
そして、彼女の言葉を聞いた看護婦達も、目に涙を滲ませていた。
「さ…おしゃべりはそのくらいにして…」
医師が準備を始める。
「福子… ありがとう」
「真美…」
魂となった福子は、その様子を見つめながら泣いていた。
「よかったな さあ もういこう」
霊界へ向かう二人。不意に、福子が尋ねた。
「ねえ わたし 生まれ変わったら美人になれるかなァ?」
「美人になりたいのかい?」
その問いに、福子は少し考えて、言った。
「ううん… 心美人がいいわ…」
- 227 :マロン名無しさん :2009/01/10(土) 22:18:03 ID:???
- 男として身につまされるものがあるな。
性格のいいブスより、多少性格が悪くても綺麗な顔した女にはやさしくしちゃうもんなあ。
- 228 :マロン名無しさん :2009/01/10(土) 23:17:35 ID:???
- これジャンプに載ってんのか?
- 229 :マロン名無しさん :2009/01/10(土) 23:44:21 ID:???
- フレッシュジャンプだな。
正直、顔なんてあまり気にならなくなるまでは人生の積み重ねが必要だ
- 230 :マロン名無しさん :2009/01/11(日) 08:04:47 ID:???
- 死神くんに顔は無傷で死にたいとか言ってる時点で話のオチは読めたけど
最後の真美のセリフは反則だぜ・・・(´;ω;`)ウゥ
- 231 :マロン名無しさん :2009/01/11(日) 19:50:45 ID:???
- 早く次の話書いてくれよ
- 232 :FJ S60年3/23号 1/5 :2009/01/12(月) 22:09:26 ID:zgw1Eid8
- 第20話 最後の疾走の巻
第8回西日本国際マラソン大会。北新大の選手、川原は五十二位でゴールした。
コーチをしている先輩の根岸はお前の実力なら優勝できるはずだ、と川原を叱咤するが、
川原は「先輩は オレのこと買いかぶりすぎてるんスよ」と真面目に話を聞こうとしない。
体が言うことを聞けば自分が走ってやるんだが……歯がゆい思いで、帰っていく川原を見つめる根岸。
翌日。川原は入院中の恋人、みさきの見舞いに訪れた。前回より順位が上がったじゃない、とみさきは喜ぶが、
川原はもう限界だよ、と言う。
「オレ…次の大会で走るのやめるよ」
驚くみさき。
「毎日走ってばかりでもういやだよ それにもう大学も卒業だろ? 早く就職して かわいいだれかさんと
所帯をもちたいんだ」
さらっとプロポーズをする川原。が、みさきの返事は「少し考えさせて…」というはっきりしないもの。
そこへ、川原を探していた根岸がやってきた。慌てて逃げ出そうとする川原に明日からのスケジュールを伝えようとするが、
彼は無視して行ってしまった。
みさきから、川原からプロポーズをされたと聞いた根岸は喜ぶ。もしOKしてくれれば、川原だってやる気を出してくれると
思ったからだ。しかし、みさきは泣き出した。
「わたし 結婚なんてできません できないんです!!」
みさきは死神に死を宣告されたのだという。冗談だと思い、笑う根岸だが……
「そんなにおかしいかい?」
死神くんが現れた。
みさきの命はあと二ヶ月。しかもそれは、次の大会と同じ日だった。
「みさきちゃんかわいそうじゃないか! なぜなんだ!!」
憤り、声を荒げる根岸。
「運命だよ 運命に理由なんてないさ それとも あんた 自分がなんのために生きているのか答えられるのかい?」
- 233 :FJ S60年3/23号 2/5 :2009/01/12(月) 22:10:32 ID:???
- 死神くんの言葉に、根岸は言う。自分は走るために生きてきた、と。だがそれも以前の話。
彼は病気で肺の片方を切り取ってしまい、もう走れない体になってしまったのだ。
「川原はどうなる あいつは みさきちゃんに ほれてるんだ プロポーズもした!!」
みさきちゃんが死んだらあいつはもうおしまいだ、もう走らない……そういう根岸に、死神くんは川原が病室で、
次の大会でやめると言っていた事を伝える。愕然とする根岸。
「オレは どうなる!? この オレは!?」
根岸は川原と出会った頃のことを思い出す。
元々は一万mの選手だった川原。その走りっぷりに惚れ込み、根岸は自ら、彼をマラソンにスカウトした。
今から鍛えれば、ソウルオリンピックも夢じゃない、病気で走れない自分の代わりに、夢を叶えてくれ、と。
川原はそれを了承し、根岸も彼に全てを賭けた。
なのに……
「それを…それを お前は三人の人生をメチャクチャにしようとしているんだ!!」
俺じゃないんだけどねえ、とあきれつつ死神くんは、みさきちゃんの病弱な体は一生付きまとうんだし、生まれ変わったほうが
いい、川原だってもうやる気がない、あんたの思い違いさ、と根岸に言うが、根岸も負けてはいない。
やつならやれる、オリンピックにも出られる、みさきちゃんがその励みになるんだ、と。
根岸はみさきちゃんを四年ぐらいこのままにしてやってくれ、俺がなんでもするから、と死神くんに必死で頼むが、
当然答えはノー。が……
「そういや以前 みがわりに死んだ人がいたけどね」
「みがわり!?」何気なく洩らしたその言葉を、根岸は聞き逃さなかった。しまった、と慌てて口を押さえる死神くん。
「ウソウソ ジョーダンだよ へんな気おこさないでくれ!!」
が、根岸はすでに、何かを考えているようだった。
自分の夢、川原の人生、二人の幸せ……色々な事が頭に浮かぶ。
(オレの人生は走るためか… もう一度走ってみたい…もう一度…)
- 234 :FJ S60年3/23号 3/5 :2009/01/12(月) 22:11:48 ID:???
- 大会一週間前。根岸はみさきを見舞う川原の様子を、病室の外で伺っていた。死神くんは考え直してくれよ、と根岸に頼む。
「べつに みさきちゃんのかわりに オレが死ぬっていったおぼえはねーぞ」
「うそだー 考えてるくせにー」
「フン あいつしだいだよ 川原の走りっぷりで決まるんだ」
川原はみさきの手術が大会と同じ日に行われると聞き、みさきを励ます。
「オレも がんばるからよ みっちゃんもがんばりな 手術なんてこわくねーよ」
明るく言う川原にみさきは頷くが、その心は暗かった。
(でも わたしはその日に…)
そして大会当日。川原は選手の中に根岸の姿を見つけ、驚く。医者に止められているんじゃないんですか? と心配する川原に、
根岸は医者には知らせていないと言う。主催者側も、選手も、自分の体について知っている者は誰もいない、と。
「先輩…」
まだ心配そうな川原に「それよりみさきちゃん プロポーズの返事くれたのか?」と根岸は尋ねる。
「え…べつに…」
赤くなりながら川原がそう言うと、根岸は意味ありげに「フン… だろうな」と言った。
そしてスタートのピストルが鳴らされ、レースが始まった。
同じ頃、みさきも手術室に入っていた。
「川原くん ガンバッテ…」
最後の応援の言葉をつぶやき、みさきは泣いた。
走りながらも根岸が心配で仕方ない川原。「大丈夫なんスか!?」と訊く彼を根岸は「ムダ口たたくな スタミナ消耗するぞ」
と叱る。が、そう言いながらも根岸は胸がパンクしそうなほど苦しかった。川原とも距離が離れる。
「もう ムリだ やめなよ死ぬぜ」
死神くんは言うが、根岸は笑顔で走っていた。
「なに笑ってんだよ!! 気がおかしくなっちまったのか!?」
「うれしいんだよ もう 走ることもないだろうと思っていたが 最後に走ることができた」
「最後!?」死神くんは驚いた。「あんた やっぱり」
「うるせえなァ」
- 235 :FJ S60年3/23号 4/5 :2009/01/12(月) 22:12:59 ID:???
- 間もなく折り返し地点。だが、川原の順位はまだ根岸とそう変わらない位置。根岸は、何かを決意した。
「おい いったい なにをやらかそうとしているんだ」
死神くんの問いかけに、根岸は言った。
「オレのつくり話を聞かせるだけだ」
根岸は追いつき、川原の隣に並んだ。
「オレの話を聞け!!」
「えっ!?」
「オレは 一か月前みさきちゃんにプロポーズした!」
突然のことに、驚く川原。
「はっきり言おう!! オレも みさきちゃんが好きなんだ!!」
――青天の霹靂。川原は明らかに動揺している。根岸は笑った。
「おどろいたか? その時の みさきちゃんの返事を知りたいか?」
『そんな… どちらかを選べなんて わたしには…』
『そうか… それじゃこうしよう ひと月後のマラソンにオレも出る!! そして川原とオレと どちらが先にゴールへ入るか…
それで決めてほしい…』
「うそだ!!」と叫ぶ川原。だが根岸はさらに追い討ちをかける。嘘じゃない、だから無理にでも出場した、と。
「それに 今のお前になら楽に勝てる そう思ったからだ!!」
「やめろ!!」
「でなきゃ片肺のオレが マラソンなんかに出るかよ!!」
「うそだ……」
ショックのあまり、川原は、
「そんな…」
どんどん順位を下げていった。
「みさき…」
そんな川原を見ながら、根岸はつぶやく。
「バカヤロウ お前の実力はこんなもんだったのか」
- 236 :FJ S60年3/23号 5/5 :2009/01/12(月) 22:14:04 ID:???
- 川原にハッパをかけたつもりが、完全に作戦は失敗。
死神くんは「もう 走ってもムダだ やめろ 死んでしまうぞ」と根岸を止めるが、止めるまでもなく彼の体は限界だった。
みさきも死に、川原はダメになり、そして自分の夢も……そう思った、その時。
背後から、物凄い雄叫びが聞こえた。川原が猛烈な勢いで追い上げてきたのだ!
「川原!!」
「きさまに みさきを渡してたまるか――――っ!!」
そして川原は、あっさり根岸を追い抜いていった。
「やった! やったぞ!! 行けェ 川原!!」
――直後、根岸は体制を崩し、倒れた。
なんとか体を起こし、ガードレールによりかかるが、かなり危険な状態だった。
苦しみ、早くみさきちゃんの代わりに俺を、と訴える根岸。
「みさきちゃんの病弱な体は一生つきまとうんだ それでもいいのか」
「ああ 川原がきっと幸せにしてやるさ」
「あんたの人生は 今 ここでストップするんだ 後悔はないのか?」
「ああ… オレは 今とても幸福だ」
根岸は、笑顔で答えた。
「いっただろ オレは 走るために生きてきた 死ぬ間際まで走っていたんだ 幸せ者だよ 今の満足感を胸にいだいたまま
早く楽になりたいんだ たのむ…」
「わかったよ」
死神くんは、顔を伏せた。
その後、川原は見事な追い上げで、有力選手や外国の強豪を押さえて四位でゴールした。
たちまち将来が楽しみな選手として、インタビュアーに取り囲まれる。
「やったぁ!! みさきやったぞ!!」
みさきの手術も無事終わり、成功。
そして根岸は――コースの片隅で、死んでいた。歓声が響く中、見捨てられたように……。
- 237 :マロン名無しさん :2009/01/13(火) 08:34:25 ID:???
- 今回のは悪魔くんの仕事っぽかった
- 238 :マロン名無しさん :2009/01/13(火) 11:15:45 ID:???
- 以前身代わりで死んだ人ってのは第一話の安夫の母のことか…(´;ω;`)ブワッ
- 239 :マロン名無しさん :2009/01/13(火) 12:47:34 ID:???
- >>238
斎藤やよいを忘れてるぞ
- 240 :マロン名無しさん :2009/01/13(火) 18:59:43 ID:???
- みさきちゃんは自分が死ぬことを知ってたんだよな。
自分が助かって根岸が死んだことで、自分を責めたりしないんだろうか。
- 241 :マロン名無しさん :2009/01/13(火) 19:21:32 ID:???
- みさきもそうだが川原だって詳しい事情がわからんでも
根岸が死んだこと知ったら相当ショックだろうなあ。
全ての事情を知ってる神の視点からみれば
川原が責任感じることなんか全くないんだが、凄く自分を責めそうだ。
- 242 :マロン名無しさん :2009/01/13(火) 21:04:51 ID:???
- 一応死神くんは根岸の死とは関係ない天界の都合だとは言うだろうがごまかしきれるかな…
- 243 :マロン名無しさん :2009/01/14(水) 00:55:37 ID:???
- 濃い扉絵に驚いた
- 244 :FJ S60年4/23号 1/5 :2009/01/14(水) 22:06:07 ID:???
- 第21話 女優の巻
その晩、桂子の夢の中に出てきたのは、眼鏡をかけた背広姿の男性と、彼に抱かれた女の赤ん坊。
それはもう何度も、繰り返し見た夢だった。
(あなた… 美加…)
やがて二人は彼女に背を向け、桂子は謝り続けた。
(ごめんなさい ごめんなさい)
桂子は、目を覚ました。しばらくは茫然としていたが、支度をし、車の中でマネージャーとスケジュールの確認をすると、
収録現場へ向かう。
彼女の名は夏河桂子。テレビや映画で活躍する、女優――。
同じ日の午後。小学一、二年生位の女の子の仲良しグループが、おしゃべりをしながら帰っていた。
真ん中にいるのは美加という子だ。そこへ皆の母親が迎えに来て、一人減り、二人減り……最後には、美加一人に
なってしまった。
母親と並んで歩く友達の姿を見た美加は、「悪魔くーん」まるで友達を呼ぶかのように、悪魔くんを呼んだ。
「なんだい? さっそくふたつめの願いか?」
と、偶然そこへ死神くんが通りかかった。
今度はあんな子どもにとりついたのか、と、木の陰に隠れ、二人の様子をうかがう死神くん。
「それより どうだい? 最初の願いどおり 友だちが たくさんできただろう?」
「うん…」
「で ふたつめの願いは なんだい?」
「どうしてわたしには お母さんがいないの?」
「へっ?」
「わたしの お母さんはどんな人なの? わたしの お母さんはどこで なにをしているの?」
どうやら母親のことが知りたいらしい。悪魔くんは、すぐに願いを叶えにいった。
「あと ひとつしかないんだぜ わかってんだろうな!」
- 245 :FJ S60年3/23号 5/5 :2009/01/14(水) 22:06:48 ID:???
- 仕事を終えた桂子は、マンションの部屋で酒を飲んでいたが、疲れからか眠ってしまった。
そこへ悪魔くんがやってくる。美加の母親は彼女らしいのだ。確認のため、悪魔くんは桂子の頭の中の記憶を覗いた。
赤ん坊の頃、幼少時代、学生時代、恋、結婚……そして、二人の間に美加が産まれた。
その後桂子は、劇団の新人オーディションを受け、合格。彼女が出演したミュージカルは大ヒットし、ロングラン上演された。
そしてついに、彼女の元に芸能プロダクションからのスカウトがきた。しかも正月映画の主役という大抜擢。
しかしそのための条件は……夫と子供と別れること。
「これから売りだそうとする きみに 亭主と子どもがいちゃまずいよ…」
「きみもまだ21歳と若いんだし 多くのファンをつかむためにひとつ…」
そう言われ、悩んだ末……桂子は女優であることを選んだ。
夫とは離婚し、プロダクションからも手切れ金が支払われた。
そして名前も夏河桂子に変わり、女優としての人生を歩み始めたのである……。
「なるほどね」
悪魔くんが覗いたことで思い出したのか、桂子の目から涙が零れていた。
「とにかく あんたはあの子の母親だ」
悪魔くんは、美加に桂子の写真を見せた。
「この人が わたしのお母さんなの?」
「ああ そうだ」
「テレビで見たことあるー」
「女優さんだからな」
「ふーん そーか」
悪魔くんはその様子を見ながら、意味ありげに笑った。
その晩。死神くんは桂子の部屋を訪れた。いきなり現れた見知らぬ子供に驚く桂子だが、死神くんはすぐに事情を説明する。
娘の美加が悪魔と契約したこと。三つ願いを叶えたら魂をとられ、死ぬこと。
美加がすでに二つまで、願いを叶えてもらっていること……。
そして、美加は母親である桂子に会いたがっている。と、なると三つ目の願い事にお母さんに会うこと≠要求するはず……
死神くんは桂子に、美加に会い、二度と悪魔を呼ばないよう言い聞かせてくれ、と頼む。桂子が自分で会いに行けば、
悪魔くんにお願いするまでもないからだ。しかし、桂子の口から出た言葉は……
- 246 :FJ S60年4/23号 3/5 :2009/01/14(水) 22:07:56 ID:???
- 「あなた いくらほしいの?」
どうやら話を信じていないばかりか、過去をネタに強請りにきたと思っているらしい。
「なんだとーっ!?」と死神くんが怒った直後――悪魔くんが来てしまった。唖然とする桂子を尻目に、睨み合う二人。
「あんな子ども相手に契約するなんて お前は悪魔だ!!」
「合ってるじゃねーか」
悪魔くんは言う。ガキだから、死ぬことも恐れずたわいない願いを次々と要求してくれて、仕事がやりやすいんだ、と。
「今回は ジャマすんなよ!! おとなしくひっこんでろい!!」
電撃で悪魔くんに攻撃され、死神くんはなすすべなく伸びてしまった。
「ふん 死神と悪魔の差が歴然と出たな お前は 魂をぬきとるだけが仕事の死神… オレたち悪魔は魔法が使えるんだ
こんなふうにな!!」
次の瞬間、死神くんの体は宙を舞い、壁に叩きつけられた。
「さっ あんたにはついてきてもらうぜ」
悪魔くんは、まだ事情が呑み込めてない桂子の手をとり、
「3つめの願いを叶えるためだ」いずこかへと消えてしまった。
気がつくと、桂子はどこかの公園にいた。ここはどこなのか、と辺りを見回したその時、小さな女の子の――美加の姿が
目に入った。
「お母さん?」
「美加ちゃん…?」
桂子はまだ、戸惑いを隠せなかった。あれから六年。もう美加は七歳になっているはずだ。
「大きくなったわね」と言いつつも、誰かに見られたらと思うと気が気でない。
そして美加も、最初は笑っていたが、ポケットに入れられたままの桂子の手を見て、表情が変わっていった。
「さあ これで3つの願いを全部かなえてやったぞ」と嬉しそうな悪魔くん。が、
「悪魔くん ウソついたね」
「へっ!? ウソ」
意外な言葉に、思わず間抜けな声が出てしまう。美加は、桂子を指差し、言った。
「この人 わたしのお母さんじゃない!!」
悪魔くんは驚き、桂子はショックのあまり、真っ青になった。
- 247 :FJ S60年4/23号 4/5 :2009/01/14(水) 22:09:14 ID:???
- 「なーに言ってんだよ この人がおめーの本当の母親なんだよ!!」
「わたしの知ってるお母さんは こういう人じゃないもん」美加は桂子に背を向けた。「お母さんっていうのはね…やさしくて
あったかくってね いつもいっしょにいて いつも笑ってて だっこしてくれたり おてて つないでくれる人なんだ だから
この人はわたしのお母さんじゃない」
そう言う娘に、桂子は何も言えなかった。
そりゃねーだろ、と半泣き状態の悪魔くんに、ようやく追いかけてきた死神くんも
「本人が ちがうって言ってるんだ 3つめの願いは まだかなえられてないぜ」と追い討ちをかける。
「それじゃ 3つめの願いは絶対かなえられねーじゃね〜〜〜〜か〜〜っ!!」と、悪魔くんが絶叫したその時、
「美加!」
おそらく美加を探しに来たのだろう、桂子の元夫、つまり美加の父親がやってきた。慌てて姿を隠す死神くん達。
美加は父親に「この人はわたしのお母さんなの?」と訊く。ここで旦那の方が認めれば、願いが叶ったことになる、と
悪魔くんは期待するが……
「いや… 知らない人だ…」
――先程よりも強い衝撃が、桂子を襲った。悪魔くんも「いったい どうなってんだ〜 この家族は〜〜〜っ!!」と半狂乱状態。
父親は美加を連れ、帰ろうとするが……桂子が膝をつき、泣き出したのに気づいた美加が、振り返り足を止める。
「ごめんなさい!」
桂子は、泣きながら謝った。夢の中で、何度もそうしてきたように。
「家庭より自分の好きな芝居を選んでしまった わたしはバカだったわ あなたも 美加ちゃんも わたしのこと
忘れちゃったのね……」
美加はじっと、桂子を見つめた。
「でも わたしは毎日のように夢を見てたし 一日たりとも忘れたことはなかったわ 本当よ わたしは いつもあなたたちと
いっしょだったのよ」
桂子に近寄る美加。と、
「ごめんなさい ごめんね!」桂子は思い切り、美加を抱きしめた。
「ごめんね美加ちゃん!! お母さんをゆるして!! ゆるしてね!!」
すると、美加の表情が次第に緩み……
「お母さん」涙を流し、桂子に抱きついた。
すかさず悪魔くんが、高笑いしながら姿を見せた。美加が母親と認めた以上、3つの願いは叶ったのだ。
とっさに桂子が、美加を庇う。無駄だ、と悪魔くんは魔法を使おうとするが……
- 248 :FJ S60年4/23号 5/5 :2009/01/14(水) 22:10:03 ID:4WKEQcB6
- 「悪魔さんありがとう!! わたしの願いをかなえてくれたのね!!」
桂子の言葉に、一瞬唖然とした。
桂子は悪魔くんに私にも契約させて、と頼む。「最初の願いは もうかなえられたわ 美加ちゃんに会うこと…」
わけがわからん、と頭を抱える悪魔くんに死神くんが言う。
要するに、美加ちゃんに二つの願いが叶い、お母さんに一つの願いが叶ったんだ、と。さらに一度に二つの魂を手にすることが
できるチャンスだと耳打ちする。
悪魔くんは納得し、桂子とも契約を結び、美加には後一つ、桂子には後二つの願いが残っていることにして去って行った。
死神くんは何とかこの場を切り抜けた、とほっとして、「二度と あいつを呼び出すんじゃないぜ!!」と忠告し帰った。
事情がわからない父親はただただ、困惑するばかり。
「な…なんだ今のは? いったい…」
「夢よ 夢を見てたのよ」
お互いに嬉しそうに抱き合う桂子と美加。と、父親が強引に美加を桂子から引き離した。
「さあいこう この人は 仕事がいそがしいんだ」
美加は寂しそうに桂子を見つめる。
「そう 仕事がいそがしいの とくに明日からは…」
桂子の目から、再び涙がこぼれた。
「おそうじしたり おせんたくしたり…」
父親の表情が、変わった。
「お料理作って… お風呂わかして…… 子どもと遊んで家計簿つけて そうそう 名前も夏河桂子から冬木桂子に変えて」
美加が笑顔になり、父親もこちらを振り向いた。
「晩酌にビールを一本つけるわ…」
「桂子…」
「あなたの好きな肉ジャガを作って…」
二人は近づき、見つめ合う。そして――美加は真っ赤になった。二人が口付けを交わしたのだ。
様子を見ていた死神くんも真っ赤になる。
「うーん さすが女優 迫真の演技!」
が、すぐにその言葉を訂正した。
「いや、これは演技じゃない」
- 249 :あらすじ書き :2009/01/14(水) 22:11:51 ID:???
- 2レス目の名前欄
×FJ S60年3/23号 5/5
○FJ S60年4/23号 2/5
です。申し訳ありません。
- 250 :マロン名無しさん :2009/01/14(水) 22:32:06 ID:???
- 女優の巻はあんま人気無かったらしいな
だが今見るといい話だ
- 251 :マロン名無しさん :2009/01/14(水) 22:33:54 ID:???
- >>250
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1229427330/
こちらへどうぞ
- 252 :マロン名無しさん :2009/01/14(水) 22:38:33 ID:???
- >>251 トン
- 253 :マロン名無しさん :2009/01/14(水) 22:58:17 ID:???
- 美加はまた簡単に3つ目の願いを言いそうだな
- 254 :マロン名無しさん :2009/01/14(水) 23:18:56 ID:???
- 長年夢みてた自分のお母さんが「もうダメ」と言えば、きちんと守りそうだぜ
- 255 :マロン名無しさん :2009/01/15(木) 00:05:25 ID:???
- 桂子のポケットに入れたままの手を見て「この人お母さんじゃない!」って叫ぶとこがまた
子供っぽいというか繊細というか・・・
実にいいシーンだった
- 256 :マロン名無しさん :2009/01/15(木) 13:16:00 ID:???
- 頭の中覗いて家族がバラバラになったいきさつ知ってるのに
「いったいどうなってんだこの家族は〜!」はないだろう、悪魔くん…。
それでもあそこですんなり認めると思ってたのかな。
- 257 :FJ S60年5/23号 1/4 :2009/01/16(金) 22:04:49 ID:???
- 第22話 世界の宝の巻
長い間隣国と戦争を続けるとある国。今日もある小さな村を占領した。
兵士達は家を調べ始め、若い兵士がもう誰もいないだろう、と一件の家の中に入ると、微かに赤ん坊の泣き声が聞こえた。
兵士が地下に入る扉を見つけ、開けると、赤ん坊を抱いた女がいた。女は兵士に子供がいるから助けておくれ、と
必死に懇願する。兵士は出てきなさい、と手を差し伸べるが……顔に銃口が向けられた。
女の背後に、二人の敵兵が隠れていたのだ。
二人によって兵士は捕虜にされ、敵陣へと連れて行かれることになった。
敵兵二人は傷ついたところを女に手当てしてもらったのだが、その間に置いてきぼりにされてしまったのだ。
女も子供と共に、安全な場所へと連れて行かれることに。
草むらに隠れながら進む一行を、死神くんが見ていた。五人のうち一人が死ぬ予定なのだ。
だが、戦争中は何が起こるかわからない。まずくすれば全員が……。
一行は橋に着くが、そこは爆破されていた。二人は見捨てられたらしい。仕方なく、二人のうち青年の方が谷にロープを渡した。もう一人の中年の兵士は、女に代わって子供を背負って渡ることにする。しかし彼は、足と手に怪我をしている。
女は心配するが、彼はお前が背負うよりましだ、と彼女に捕虜が変な動きをしたら殺すよう命じ、赤ん坊を背負い、渡り始めた。
時折腕の痛みに苦しみつつ、何とか向こう側に辿り着いた。青年兵が子供を受け取ろうと身を乗り出した次の瞬間、
足元の板が割れた! 青年兵は片手で何とか中年の兵士の肩を掴んだが、このままでは三人とも落ちてしまう。
そして耐えきれなくなった中年兵士が思わず片手を離した瞬間―― 一発の銃声が響いた。
青年兵は撃たれ、遙か下へと落下していった。
撃ったのは兵士だった。ブーツの中にデリンジャーを隠し持っていたのだ。
「仲間を殺した!」中年の兵士は怒り、彼に銃を向ける。
「ちがう! オレは助けてやったんだ あの状態では 三人とも死ぬところだった」
「まちがってタマがあたったらどうするつもりだったんだ」
「射撃にゃ自信がある」
そのやり取りを見ていた死神くんは手帳を開いた。
「さっそく予定外の人間が死んじまった…」
- 258 :FJ S60年5/23号 2/4 :2009/01/16(金) 22:06:28 ID:???
- 夜。三人は小さな小屋に泊まることにする。中年の兵士は見張りに立つが、足と腕の怪我はかなりひどい状態だった。
思わず「大じょうぶか? そのキズ……!?」と兵士は尋ねるが、彼は「やかましい早くねろ!」と一蹴した。
やがて眠りに落ちた兵士を、誰かが起こした。いきなり目の前に現れた子供――死神くんに驚く兵士。
死神くんはこいつらがあんたと話がしたいと言っている、と敵兵二人(の魂)を連れてくる。死んだはずの青年兵の姿に
再び兵士は驚く。
「へへへ そんなにおどろくなよ 昼間のことは気にすんなよ」青年兵は笑顔で言った。「あんたのやったことは正解だよ
三人死ぬよりもオレひとりが死んだほうがいいんだ ありがとうよ」
「おめえは もう自由の身だ 好きにするがいい」中年の兵士が続ける。「しかし 女と子どもは自由にしてやれ
とくに子どもはな 世界の宝だ」
唖然としている兵士の前で、二人は天へと昇っていった。やっと予定通りに死んでくれたか、とほっとする死神くん。
「次は だれが死ぬのかねェ」
……直後、兵士は目が覚めた。夢だったのか、と思い中年兵士に声をかけるが、返事はなかった。
彼は、立ったまま息絶えていた。
翌朝、兵士は女と子供を自由にすることにした。
「ありがとう」
お礼を言う彼女に「その言葉は死んでいったふたりの男に言ってやりな」と兵士。と、女の背後に敵兵の姿が。
「敵だ!!」
「女もいるぞ」
慌てて「ちがう 撃つな!! この女は!!」と叫んだが……次の瞬間、銃声と女の悲鳴が響き渡った。
すかさず兵士も銃で敵兵を倒すが、女は息も絶え絶えな状態だった。幸い赤ん坊は、彼女が盾となり無傷だった。
「こ…子どもを… おねがい… 子どもを… た…助け…て…」
女は言切れた。
泣き叫ぶ赤ん坊を抱きかかえ、兵士は思う。
(これが戦争か 殺るか殺られるか 敵も味方もない ただの殺しあいだ)
「またひとり死んだか いや 三人か」
再び兵士の前に現れる死神くん。改めて死神だと自己紹介し、女の魂を切り離す。
- 259 :FJ S60年5/23号 3/4 :2009/01/16(金) 22:08:12 ID:???
- 「かわいそうな女だね 戦争に賛成していたわけでもないのに戦争で死ぬなんて」と死神くん。
「この女だけじゃない あんたの国もこちらの国も 国民はだれもが戦争に反対している それなのに戦争はおこる
いったいあんたらはなにを考えてんだい?」
「自分を守るためだ 国民を守るためだ この殺し合いは必要悪なのだ」兵士は答えた。
「いつまで続くんだい? どちらかが滅びるまでか? 関係ない犠牲者を出してなんとも思わないのかい?」
「しかたのないことだ」死神くんが去った後、兵士はつぶやいた。
「死神よ… 次に死ぬのはこの子どもだ 賭けてもいいぜ」
兵士は最後の水を赤ん坊に飲ませる。と、敵のジープと戦車がこちらへ向かってきた。
岩陰に隠れ、やり過ごそうとするが――「ウワ…」赤ん坊が泣きだそうとしている。とっさに彼は、赤ん坊の首に手をかける。
……その瞬間、死んでいった三人の言葉が蘇った。
――三人死ぬよりはオレひとりが死んだ方がいいんだ
――女と子どもは自由にしてやれ とくに子どもは世界の宝だ
――子どもを… おねがい 子どもを助けて
そして、
「あんたのいったとおり 次に死ぬのはそのガキか…」
いつの間にかいた死神くんの言葉に、兵士はとうとう手を離した。泣き出す赤ん坊。ジープに載っていた軍曹がそれに気づき、
銃を捨てて出てこい、と命じた。
軍曹は兵士にあの橋をどうやって渡ってきた、うちの兵士と女を殺ったのは貴様か、と尋ねるが、兵士は答えられない。
軍曹は二人を殺すよう命令する。
「まて!!」兵士は赤ん坊を片手で掴み上げた。「この子どもはあの女の子どもだ お前たちの国の子どもだ!! オレを撃てば
この子は地面にたたきつけられて死ぬぞ!!」
「かまわん 殺れ どうせうそだ」
- 260 :FJ S60年5/23号 4/4 :2009/01/16(金) 22:09:26 ID:x5V8NcEl
- 「やめろ!! 撃つな!! この子だけは…この子だけは助けてくれ!!」
兵士は再び赤ん坊を抱きかかえた。
「この子は まだ戦争というものを知らない!! 戦争を知らない子どもが戦争の犠牲になってもいいというのか!?」
「ああ たしかにお前の言うとおりだ」軍曹は言った。「しかしな……こう考えることもできる その子が大きくなったら
やがて戦争を知ることになる そして きさまらの攻撃で死ぬかもしれん さらに一介の兵士となり 戦場にかりだされ戦死
するかもしれん もしそうなら 今ここで死んだ方が幸せじゃないのか!? 戦争を知る前に死んだ方が その子にとって
幸せではないのか!?」
「そんな…」
軍曹の厳しい言葉に、膝をつく兵士。だが、すぐに「ちがう!!」と反論した。
「この子が大きくなったら 戦争は終わってる!! きっと平和な世の中になっている!! オレは そう信じる!! オレはそれに賭ける!!」
叫びながら、涙ぐむ兵士。やがて軍曹が、ジープから降りてきた。兵士は彼に赤ん坊を渡す。
「この子には生きる権利がある オレたちには殺す権利はない」
ようやく兵士の表情が緩んだ。
「お前の賭けにのってみようじゃないか 平和な世の中がくるかどうか」
と、赤ん坊が火がついたように泣き出した。驚いた軍曹が兵士に赤ん坊を渡すと、あっという間に泣き止んだ。
どうやら兵士のことを父親だと思っているらしい。
「子どもは世界の宝だ」
「ああ…そうだ……」兵士の目に、再び涙が浮かんだ。
「よかったな」
木の上から成り行きを見ていた死神くんは、言った。
「しかし あんたと敵の軍曹と どちらの考え方がただしいのかねエ 親のないその子どもが… この戦争の中で
生きてゆくことが… はたして幸福なのか不幸なのか……」
- 261 :マロン名無しさん :2009/01/17(土) 01:42:49 ID:???
- 予定外でも死んでしまうのか?
癌の先生の時は予定の時まで死なないだろうみたいなこと言ってたが
- 262 :マロン名無しさん :2009/01/17(土) 02:04:16 ID:???
- 戦争ってのはそんだけイレギュラーなんだよ、きっと
死神の世界でも管理しきれないほどのね
- 263 :マロン名無しさん :2009/01/17(土) 10:00:44 ID:???
- >>261
その時死神くんが「そういう考え方をされると困る」って言ってたから、普段でも予定外に死ぬことはあると思う。
そもそも読み切りの時の話が、死ぬ予定じゃないのに自殺しようとしてる奴を止めに行く話だし。
多分そうやって防げる限りは予定外の死を防いでるんだろうけど、戦場ではそれが難しいんじゃないかな。
- 264 :マロン名無しさん :2009/01/17(土) 11:15:47 ID:???
- 死んでた方が幸せって言い出したら大抵の人は当てはまるんじゃないのか?
人生は苦しみの中に喜びを見つけるようなもんだから
- 265 :マロン名無しさん :2009/01/17(土) 16:57:14 ID:???
- 兵隊は何のために戦っているのか、それは平和のためだ
てのを前に見た記憶があるな
- 266 :マロン名無しさん :2009/01/17(土) 19:09:20 ID:???
- 本誌でも連載始めたね、この人。
質が落ちなければいいが…。
- 267 :FJ S60年6/23号 1/5 :2009/01/18(日) 22:00:08 ID:???
- 第23話 おばあちゃんの空き地の巻
子供達の遊び場になっている空き地には、彼等から鬼ババと恐れられるおばあちゃんが住んでいた。
その日も、野球をして遊んでいたガキ大将のテツオを筆頭とする男の子達が、おばあちゃんの家のガラスを割ってしまった。
怒ったおばあちゃんは「人さまに迷惑かけずに遊ばんか――い!!」とボールを投げ返す。
「そんなとこに住んでんのが悪いんだよ!!」と言いながら、テツオ達は逃げていった。
家に入ったおばあちゃんは早く何とかしてくれ、と中にいる死神くんに訴える。
おばあちゃんはあと五日で死ぬ予定なのだが、ガキどもに我慢がならないから早く死なせてくれ、というのだ。
「じゃ どうしてこんな子どもの集まる所に住んでんだよー」
「どこに住もうとわしのかってじゃ!!」
五日の予定を三日にしろ! と元気に怒鳴るおばあちゃんに、死神くんもあと十年は生きられるんじゃないか?
と圧倒されぎみ。
と、いかにもインテリな母親が、息子を連れて抗議しに来た。おばあちゃんが何もしてないのに頭を叩いたと、息子が
告げ口したのだ。
「なにもしとらんじゃと? お前はうそつきか!?」
おばあちゃんは隣にいた子犬を手に持って言った。
「いいか このガキはなァ この子犬を木にしばりつけて 石をぶつけて遊んどったんじゃあ!! それが人間のやることかっ!?」
「子犬くらいどうってことないじゃないですか!!」
「バカモン 子犬だろうが親犬だろうが 生き物を虐待するのはもってのほか!! 今からちゃんと教育しとかんか――い!!」
それでも「警察にうったえます!!」と言う母親に「勝手にせい」とおばあちゃん。
息子は、子犬が自分を見て唸りを上げたのを見て、悲しげな表情になった。
死神くんと一緒に夕飯を食べながら、おばあちゃんは最近の親は子供を甘やかし過ぎる、と愚痴る。
不意に「おばあちゃん もしかしてさびしいとちがうの?」と死神くんが訊いた。
「死神に夕食をごちそうするなんておかしいよ オレ こんなのはじめて」
「う…うるさいわいこのガキ!! お前のめしには毒がもってあるんじゃ バーカめ!!」
そう毒づきつつも、おばあちゃんの顔は真っ赤だった。
- 268 :FJ S60年6/23号 2/5 :2009/01/18(日) 22:02:02 ID:???
- 翌朝、おばあちゃんの家の壁一面に落書きが。犯人であるテツオ達が影から様子を観察するが、字であっさり犯行がばれ、
壁の掃除をさせられる。竹刀で容赦なくテツオを叩くおばあちゃん。
「ババアー おぼえてろよーっ」
「もうわすれたわ」
今度は女の子達が、よってたかって一人の子をいじめていた。「仲良く遊ばんか――――い!!」と怒鳴ると、女の子達は
逃げていった。一人残され泣いている子に、おばあちゃんは見覚えがあった。
「なんじゃ サチ またお前か いじめられてんのは」
「うん…サチコはグズでノロマなカメだって…」
するとおばあちゃんはサチコに輪にした紐を渡した。
「なにこれ?」
「あやとりじゃ」
最近の子供はあやとりも知らんのか、とあきれつつ、サチコにあやとりを教えるおばあちゃん。
次の日、みんなの前であやとりを見せたサチコはたちまち人気者に。彼女に笑いかけられ、おばあちゃんは思わず顔をそむけた。
と、外から犬の鳴き声が。子犬に石をぶつけていた男の子が、子犬と仲直りをしようとしていたのだ。
しかし子犬は吠えるばかり。おばあちゃんがすかさず子犬を抱き上げた。
「フン! ひどいことしておいて いまさら お前になつくと思っておるのか?」
おばあちゃんは、男の子がみんなにいじめられているから、自分より弱い動物をいじめていることを知っていた。
そんなことでは友達も出来ないし、動物も懐かないしずっと一人ぼっちだ、とおばあちゃんに叱られ、男の子は泣きながら
もういじめないよ、と子犬に謝る。
するとそれが通じたのか、子犬が興味ありげに近寄って来た。男の子は子犬にウインナーをあげ、子犬はすっかり懐いた。
おばあちゃんは汚い野良犬が住み着いて困っていたから連れていけ、と男の子に言うが、彼の母親は動物嫌い。
「ふん! 残飯がいっぱいでて困っておったんじゃ 家においててやるからたまにさんぽにつれていけ!!」
おばあちゃんの言葉に、男の子は「ありがとう!!」とお礼を言った。
その様子を、笑顔で見つめる死神くん。
「なにがおかしい わしゃ 子どもはキライじゃと言っとるじゃろ!!」
「なにも言ってないだろ!?」
- 269 :FJ S60年6/23号 3/5 :2009/01/18(日) 22:03:21 ID:???
- その頃、テツオはあのババアがいる限り安心して空き地で遊べない、と友達二人とおばあちゃんを殺す計画を立てていた。
殺す、という言葉にさすがに友達は驚くが、子供は罪にならないんだ、あのババアなら表彰されるぜ、とテツオは
全くひるんでいない。相談する三人を、死神くんが見ていた。
そして夜中。テツオ達はおばあちゃんの家に忍び込み、おばあちゃんが寝ている布団をバットで滅多打ちにし始めた。が、
「なにをしておる」
おそらく死神くんに事前に知らされていたのだろう。おばあちゃんが奥からろうそくを持って出てきた。
まるでオバケのようなその姿に、びびった三人は逃げ出した。危ない所だったな、と死神くん。
「あのガキども 本当にわしを… 本気でわしを…」
さすがのおばあちゃんもこれはこたえたのか、手で顔を覆った。
それ以来、おばあちゃんは寝ていることが多くなった。やっぱりあの夜のことがきいてんだ、とテツオは喜ぶが、
本当は死ぬ時期が間近に迫っていたのだ。それは――今夜。
そして、おばあちゃんは死に、天へと昇っていく。おばあちゃんは死神くんに町を見るように言った。
町はどこもかしこも家が立ち並んで、子供が遊ぶ場所がない。昔は車も通らなかったからどこでも遊べた。
しかし、今ではおばあちゃんが住んでる空き地だけ。そしてあれも……
「スーパーマーケットが建つんだろ」
「なんじゃ 知っておったのか」驚くおばあちゃん。
「おばあちゃんは 子どもたちのことを思って あそこを動かなかったんだろ?」
「ふん それを あのガキどもは… わしの気持ちも知らんと…」
でも中にはおばあちゃんの気持ちをわかってくれる子もいると思うよ、と死神くん。
「ふん! そんなガキは ひとりもおらんわい!」
「そうだろうなァ 最近のガキはなまいきなやつばかりだからなァ」
「なんじゃと!? そんな悪いやつばかりじゃなーい」
「いったい どっちなんだよ!?」
- 270 :FJ S60年6/23号 4/5 :2009/01/18(日) 22:04:48 ID:???
- 死神くんは改めて尋ねた。
「おばあちゃん 子どもは好きなんだろ?」
わずかな間の後、おばあちゃんは答えた。
「ああ…好きじゃ 特に遊んでいる子どもが…… 子どもは遊んでいる時がいちばん美しい……」
そしておばあちゃんは、霊界へと旅立っていった。
おばあちゃんが死んだことは、すぐに子供達にも伝わった。
おばあちゃんの家もなくなり、空き地は俺たちのもんだ、と大喜びするテツオ達。
と、空き地にやはり嬉しそうな顔をした二人の男がいた。彼等はここにスーパーを建てようとしている業者だった。
そんなことなど全く知らなかった子供達は驚く。
「あの おばあちゃん オレたちのためにずっとここに…?」
業者が帰った後、一人の男の子がつぶやいた。テツオは俺達をいじめるためにここに住んでただけだよ、と言うが、
おばあちゃんがいなくなったから、この空き地はなくなってしまうのだ。ここしか遊ぶ所ないのにどうする? と不安がる子供達。
「とにかく遊ぼうぜ!! あんな鬼ババのことなんか思いだしたくもねーよ!! ガンコでいじわるですぐ頭たたくし」
「ちがうもん!!」
テツオの言葉に、サチコが反論した。
「おばあちゃんはとっても やさしいもん わたしに あやとりおしえてくれたのはおばあちゃんだもん
わたしがいじめられてる時 いつもおばあちゃんが助けてくれたもん」
それに、学校の先生やお母さんはいつも勉強しろって言うけど、おばあちゃんだけは遊べ≠チて言ってくれた、とサチコ。
「仲よく遊べ∞人に迷惑かけずに遊べ≠「つもおこっていたけど 遊ぶなとは言わなかった… ガラスわったり
らくがきして迷惑かけたけど 遊ぶなって言わなかった いつも遊べだった…」
「ボク 先生や お母さんに平気でウソついたけど おばあちゃんの前ではウソつけなかった」子犬と仲直りした男の子も
言った。「ウソついても すぐバレちゃうもん」
それに悪いことしない限り、おばあちゃんは絶対ぶたなかった、と男の子は子犬と一緒に涙を流す。
「いいから遊ぼうぜ!! 鬼ババの話はこれまで! なっ!!」
テツオが笑いながら言うが、他の子供達はおばあちゃんとの思い出を次々に口にする。
- 271 :FJ S60年6/23号 5/5 :2009/01/18(日) 22:06:22 ID:GG49YEK+
- 落とした百円玉を一緒に探してくれた、借りたままの百円をまだ返してない、宿題を教えてもらった、人形の服を作ってくれた、
おまんじゅうを作ってくれた――そのおばあちゃんももういない。そしてこの空き地も……次第に、子供達の目に涙が滲み始めた。
そんな中、テツオ一人だけが元気に野球を始めようとする。ボールを打つが……誰もそれを取りに行くどころではなかった。
構わず塁を回り始めるテツオ。
「ホラ〜〜どうしたんだよ 三塁いっちゃうぜ〜〜」
しかし、他の子供達はみんな、大泣きしていた。
「おもしろくねーなァ!! あんなババア!!」
我慢できなくなって、テツオは言った。
「ババアいじめんのが オレのたのしみだったのに もういねーのかよ だれもオレのこと しかってくれねーじゃねーか!!
ばかやろう どうして死んじまったんだよ――っ!!」
そしてそのままヘッドスライディングでホームイン。が、テツオはしばらく起き上がらなかった。そして上げた顔には、涙が……。
「ちくしょう 目に…目にゴミが入って… いてェよォ 涙がでてくるよ!!」
そんな言い訳をしながら、テツオも泣いた。しばらくの間、空き地には子供達の泣き声が響き渡っていた。
翌日。
空き地に来た測量技師達が見たものは、「スーパーマーケットけんせつ反対!」などと書かれた看板を持って座り込みをする
子供達だった。
「帰れ!! 帰れ!!」
「ここは おばあちゃんの土地だ!!」
「ボクたちの たったひとつの遊び場なんだ!!」
そして、動き出したのは子供達だけではなかった。
商店街の大人達も、「あそこにスーパーができたら こっちは商売あがったりだ」と反対運動を始めたのだ。
市長に掛け合い、空き地を公園にするための署名活動も始まった。
その様子を、死神くんが電柱の上から見ていた。
「おばあちゃん あんたの気持ちは子どもたちに十分つたわったぜ そして 大人たちにもな」
- 272 :マロン名無しさん :2009/01/18(日) 22:16:05 ID:???
- ツンデレババア萌え
テツオ氏ね
- 273 :マロン名無しさん :2009/01/18(日) 22:36:11 ID:???
- 泣けた。でも子犬はどうなるんだ?嘘つきの子が母親を説得して飼えたらいいな。
- 274 :マロン名無しさん :2009/01/19(月) 17:46:29 ID:???
- とんちんかんスレは盛り上がってるのに、こっちは相変わらずマターリだねえ。
まあそれぐらいでちょうどいいのかもしれないが。
「普通一つぐらい公園あるだろ」とかツッコミつつ、ラストで泣いたよ…。
- 275 :マロン名無しさん :2009/01/19(月) 23:19:59 ID:???
- >「あのガキども 本当にわしを… 本気でわしを…」
これはきついな・・・
- 276 :マロン名無しさん :2009/01/20(火) 15:36:28 ID:???
- 死神くんは人間界の飯を食えるのか?
- 277 :マロン名無しさん :2009/01/20(火) 16:48:24 ID:???
- 絵を見る限り普通にご飯食べてるから食べられるんじゃない?
- 278 :マロン名無しさん :2009/01/22(木) 04:16:47 ID:???
- ラストの反対運動はばあさんにみて欲しかったなー
- 279 :マロン名無しさん :2009/01/22(木) 10:56:00 ID:???
- 天国に行っても見れるんじゃね?
- 280 :FJ S60年7/23号 1/5 :2009/01/24(土) 22:02:52 ID:???
- 第24話 人生ラーメンの巻
おいしいと評判のラーメン屋「人生ラーメン」の主人が、店の前で車にはねられてしまった。
幸い一命は取り留めたが、病院に運ばれるまでの間、心臓が止まっていたため植物状態になってしまった。
昏睡状態がずっと続き、恐らく目覚めることはない、と医師は妻と息子の竹夫(ちくお)に宣告する。
「脳と体のつながりがなくなったのです なんていいましょうか… そう…心≠ェないんです」
機械を使って生命を維持することは出来るが、それにはお金がかかる。家族の承認があれば安楽死も……
家に帰った竹夫は一人考え込んでいた。と、
「殺すなよ」
いきなり背後から声がした。
「生きてる人間の生死を 他人が決めちゃあいけないね」
驚く竹夫に声の主――死神くんは名刺を渡す。竹夫の父はまだ死ぬ予定ではないらしい。
だが、入院費は月何十万もかかるし、父がいなければ店も開けない。
どうしろっていうんだよと言う竹夫に「ま…そこはなんとかやりくりして」と無責任な死神くん。あきれる竹夫。
「とにかく自分の父親だろ? 殺すなよ」
と、竹夫は気づいた。病院の先生はあのまま昏睡状態が続くといっていたが、まだ死ぬ予定ではないという事は……
「いつかは目ざめるのか!?」
「可能性としてはまったくないわけじゃない…」
そう言い残して、死神くんは消えた。
一人、厨房に立つ竹夫。すると戸口の方からラーメンを食べにやって来た客達の声が聞こえた。
「残念だなア ここのラーメンが一番うまかったのになア」
「そうよねエ いろいろ食べてきたけど 人生ラーメンにはかなわないもんね」
竹夫は自分でラーメンを作り始めた。母親はいつも誰にも見られないよう、夜中にこっそりスープを作っていたんだから
無理だと言うが、竹夫はこっそり覗いたことがあるんだよ、と自信満々だ。
- 281 :FJ S60年7/23号 2/5 :2009/01/24(土) 22:04:16 ID:???
- そこへ、竹夫の同級生・由利と、その祖父で和食研究家の佐山が訪ねてきた。口うるさい彼が苦手な竹夫だが、彼が
味を褒めてくれたおかげで、人生ラーメンは繁盛したのだ。
由利がどうしても来たいと言うから来たと言いつつ、本当は自分が来たかった様子。佐山は竹夫がラーメンを作っているのに
気づき、「わしに一杯くれんかな」と頼んだ。
早速一杯作って出すが、佐山は一口食べて「ま・ず・い!!」と言い切った。こんなくそまずいラーメン食えたもんじゃない、
と言う佐山を言い過ぎよ、と止める由利。だが佐山は「ホントのことをいっただけじゃ!!」と引かない。
「こんなラーメンで人生ラーメンの名をなのるとは絶対ゆるさん!!」
そして、食ったからには代金を払う、と五百円玉を置いていったが、怒った竹夫は「いらねェやこんなもん!!」と突っぱねた。
帰り道でどうしてあんなひどいこと言うの? と由利は祖父に訊く。彼は答えた。
「ふん!! 親父に代わってラーメンを作ろうというんだ 親父がいないのにだれがやつをきたえてくれるんじゃ!?
甘やかしておったら いつまでたってもひとり立ちできんぞ」
佐山に酷評されたことで、竹夫は絶対父のラーメンを作ってやるぞ、と決意する。夜必死に仕込みをする竹夫のもとに、
死神くんがそこに落ちてたぜ、と五百円を持ってきたが、それは佐山が置いていったもの。竹夫は「いらん!! お前にやる!!」
とあくまで突っぱねる。
「オレがもらっても しょうがないんだけど…」
翌週。自信を持ってラーメンを佐山に出す竹夫だが、その評価は「まずくてゲロがでそうじゃ!!」とやはりひどいもの。
再び釣りはいらんと五百円を置いていく佐山。突っぱねたそれを、死神くんは拾っておいた。
それから毎週のように、竹夫はラーメンを作り佐山に出し続けたが、いつまで経ってもまずいという評価は変わらなかった。
そしてそのたびに突っぱねられる五百円玉を、死神くんが拾い集めていた。
いつまでも変わらない状況に、とうとう我慢出来なくなった竹夫は佐山に尋ねる。
「まずいまずいって いったい どこがどういうふうにまずいんだよ!! それをいってみろよ!!」
佐山は答えた。
「ふん! お前のラーメンはなァ心≠ェ入ってないんじゃ!!」
思いがけない台詞に、竹夫は言葉を失った。
- 282 :FJ S60年7/23号 3/5 :2009/01/24(土) 22:05:09 ID:???
- ――なんていいましようか… そう…心≠ェないんです
医師が告げた言葉が脳裏をよぎる。佐山はさらに続けた。
「おいしい物を作ろうとしているだけで お客さんに食べてもらおうとか お客さんに喜んでもらおうという心がないんじゃ!!
だからいつまでたってもまずいんじゃ!!」
客の身になって作ってみることじゃな――佐山はそう言い残して、いつものように五百円玉を置いて帰っていった。
竹夫は呆然と、五百円玉を見つめていた。それを見て(受け取る気になったか?)と思う死神くんだが……やはり突っぱねた。
その日から竹夫は、色々な店のラーメンを食べ歩いて味を見るようになった。だが、父の作ったラーメンよりおいしい物は
どこにもない。父の凄さを改めて痛感する竹夫。
しかし、あるあまり客のいないラーメン店は、かなりおいしかった。
ラーメンはおいしいのにあまり繁盛してないみたいだね、という竹夫の指摘に、俺のラーメンの味がわかるっていうのか!?
と店主は驚く。
「へん! オレのラーメンはな うまいと思う人が食べてくれりゃそれでいいんだよ! うまいと思った人はまたきてくれる…」
味もわからん奴に食べてもらわなくて結構、儲けなんてはなから考えてねえよ、と店主。
「オレのラーメンよりうまい所は 人生ラーメンてとこだ しかしつぶれっちまった ライバルがおらんでさびしいこった!!」
店主の言葉に、笑顔になる竹夫。そして告げる。
「人生ラーメン開業するみたいだよ」
店主は「ホントか!? ぼうず!!」と大喜びした。
(佐山のじいちゃん…オレ わかったよ ラーメンは 作るものじゃなく 食べてもらうものだってこと…)
そう思いながら店に戻る竹夫を、佐山が陰から嬉しそうに見つめていた。
その頃死神くんは、主任から今週の分の死亡予定リストをもらう。それを見て、ある人物≠フ名前を見つけた死神くんは
「あのォ〜 この人もう少し まってもらえませんかァ?」と主任に頼むが……案の定、主任から「バカモン!!」と怒鳴られた。
「413号!! お前人間に特別な感情をいだいておるようじゃが そんなことで死神の仕事がつとまると思うか〜〜っ!!」
私用で予定変更は認められない、もっと真面目に仕事をしなさい、と叱られ、死神くんは頷くしかなかった。
- 283 :FJ S60年7/23号 4/5 :2009/01/24(土) 22:06:29 ID:???
- 今度こそ間違いない、とラーメンを佐山の家へ出前しに行く竹夫。笑いながら出かける息子の背を見ながら、母親は涙を流す。
実はもう店も土地も売ってしまい、住む所もない状態なのだ。
「バカだねェ…大バカだよ!! 親子して大バカだよ!!」
佐山の家に着いた竹夫が見たものは……すでに息を引き取った佐山の姿だった。
あんたのために今度こそ本当の人生ラーメンを作ってきたのに、と涙を流す竹夫。さらに追い討ちをかけるように、
由利から高校から、と退学通知を渡される。授業料未納と、出席日数の不足が原因だった。
たまらなくなって、竹夫は佐山の家を飛び出した。
(くそじじい 勝手に人をバカにしやがって!! 最後も 勝手に死にやがって!! バカヤロ――!!)
と、そこへ死神くんに連れられた佐山の魂が現れた。竹夫はラーメンを食べてくれと言うが、もう魂となってしまった彼には
味も匂いもわからない。
「食べんでもわかる… お前の腕なら大じょうぶじゃ すぐに店を出しなさい」
それでも佐山に味を見てほしいと言う竹夫に、それならわしよりその味をよく知ってる人がおるじゃろうが、と佐山。
「うそだ! そんな人はいやしねェ あんたが一番よく知ってるはずだ!!」
「バカモーン きさまはそんなこともわからんのか!!」
怒る佐山を見て、死神くんも助け舟を出す。
「よく考えてみな いるだろ? その味を一番よく知ってる人が…」
ようやく竹夫は、その人物のことを思い出す。「ま…まさか… そんな…」
「まいどー 人生ラーメンです 出前お持ちしましたアー」
竹夫がやって来たのは、父が入院している病院だった。
「お客さん おまちどうさまでした!!」
病室にいる父の前にラーメンを置く竹夫。看護婦が咎めるが、医師は「ほっときなさい」と止めた。
- 284 :FJ S60年7/23号 5/5 :2009/01/24(土) 22:07:49 ID:???
- 「お客さん 食べないんなら オレが食べちゃいますよ」
笑いながら、竹夫はラーメンをすすった。
「どうしてこれを人生ラーメンっていうか わかりましたよ うちの父ちゃんがね このラーメンを作って人生終わっちまったんだ
また その息子が大バカやろうでしてね このラーメンを作るために 自分の人生をメチャメチャにしてしまったんですよ
大笑いでしょ!?」
そう言って竹夫が泣きながら笑った、その時。竹夫はもちろん、医師も看護婦も驚きのあまり絶句した。
父が、上半身を起こしたのだ。慌てて竹夫は、ラーメンの入ったどんぶりを父に近づけ、呼びかける。
「父ちゃん!! わかるかい? わかるだろ! ほら!! ラーメンだよ!! オレの作った…いや 父ちゃんの作った…
人生ラーメンだよ!!」
「き…奇跡だ」
医師がようやく言葉を口にする。そして、父はゆっくりと目を開け……震える手で、どんぶりを受け取った。
「竹…夫…」
「父ちゃん!!」
竹夫は泣きながら、父に抱きついた。
その後、父は退院し、人生ラーメンは屋台で再び開業。以前と同じように連日大勢の客が来るようになった。
竹夫も母も、その手伝いで大忙しだ。するとある客が、お代ここに置いとくよ、と大量の五百円玉を置いていった。
「お客さーん 多いよ〜〜 しかも五百円玉ばっかしで」
その言葉に反応する竹夫。しかしその小柄な二人組の客は「いいんだよー じいさんが今まで食べた分まで入ってんだ」
と走り去っていった。竹夫は誰が来たのか、すぐにわかった。
「オイ ホントに人間の食べ物の味なんかわかってんのか」
そう訊く404号に、死神くんは言った。
「心だよ心」
- 285 :マロン名無しさん :2009/01/24(土) 22:13:26 ID:???
- はねられたなら相手から補償金もらえなかったのかな?
- 286 :マロン名無しさん :2009/01/24(土) 22:21:52 ID:???
- 確かこの回の評論家の爺さんは、10巻の「お悔やみ申し上げます」企画にリストアップされてないんだよね・・・
- 287 :マロン名無しさん :2009/01/24(土) 22:29:47 ID:???
- >>286
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1229427330/
- 288 :マロン名無しさん :2009/01/25(日) 10:29:54 ID:???
- >「オイ ホントに人間の食べ物の味なんかわかってんのか」
このセリフから察するに、普段は人間と違うもの食べてるんだな。
前回のおばあちゃんのごはんも、実は死神くんにとってはあまりおいしくないものだったのかも…と考えるとなんかやだ。
- 289 :マロン名無しさん :2009/01/25(日) 13:12:44 ID:???
- 植物状態って言われる状態になってても結構意識は残ってたりするらしいな
で、嗅覚見たいな原始的な感覚に訴えると効果的とか
- 290 :マロン名無しさん :2009/01/25(日) 15:48:25 ID:???
- 結構ドライな死神くんでも、人間に感情持ち過ぎてる方なのか…他の死神はもっと事務的なんだろうな。
- 291 :マロン名無しさん :2009/01/25(日) 16:34:40 ID:???
- 死に際の兵士の子供のふりしてやるとか、死神くんは口ではドライな風に装ってるけど徹しきれてない感じだが
- 292 :マロン名無しさん :2009/01/25(日) 21:38:15 ID:???
- 死亡者リストとか上司と部下とか
死神界?は会社みたいなドライで事務的な部分が面白くて、同時に怖い感じがして好きだな
- 293 :マロン名無しさん :2009/01/26(月) 04:50:07 ID:???
- かなり美味いラーメン屋の主人、なんかすげーキャラ立ってるな
- 294 :FJ S60年8/23号 1/5 :2009/01/26(月) 22:02:39 ID:???
- 第25話 ふたりの甲子園の巻
(なんだ? ここはどこだ?)
上川は真っ暗な場所にいた。不意に、その中に幼なじみで親友の、南の顔が浮かぶ。
二人は子供の頃から野球が好きだった。最も、南は力があるだけであまりうまくはなかったが。
やがて成長した二人は同じ高校で野球部に入り、南は補欠。上川はエースで、成績もトップクラス。ガールフレンドも
たくさんいたし、由美という彼女も出来た。
(すべてにおいて オレはお前より 勝っていた オレは 天才なんだ)
目の前の光景が、甲子園になった。
(そうだ! オレたちは甲子園をめざしていたんだ)
ボールを持ち、マウンドに立つ自分の姿が浮かんだ。
(エースのオレがいなくちゃ甲子園に行けないんだ 学校も町の連中もみんな オレに期待している 甲子園…)
そして振りかぶった瞬間、こちらに車が迫ってきて――
上川は目を覚ました。そこは病院のベッドの上。ようやく上川は、自分が南と一緒に交通事故に遭ったことを思い出した。
医師によると、頭を強く打っただけでほとんど無傷だったらしい。恐る恐る「あいつは…?」と南はどうしたのかを尋ねると……
霊安室に連れて行かれた。そこには、白い布を顔に被せられた遺体が安置されていた。
「きみは 車にはじきとばされただけだが 上川くんは かわいそうに車の下じきになって…」
上川? 何を言っているんだ、と思いつつ顔の布をめくって……上川は仰天した。
そこにあった遺体は南のものではなく、自分自身だったのだ! パニックを起こした上川は霊安室を飛び出し、トイレに
駆け込んで鏡を見た。自分は上川のはずなのに、写っているのは南の顔。と、
「説明が必要のようだな…」
背後から、死神くんが現れた。驚く上川にいつものように名刺を見せ、死神くんは事情を話し始めた。
- 295 :FJ S60年8/23号 2/5 :2009/01/26(月) 22:04:24 ID:???
- 事故に遭ったあの時、死んだのは南の方だった。後頭部を強く打ってのショック死だ。
悲しむ南を、これは運命なんだ、と慰める死神くん。そして上川は生きていたが……両足を引かれ、野球が出来る状態では
なかった。しかも死神くんによると、これから車椅子の生活が待っているらしい。
「なんてことしてくれたんだ!!」と死神くんに詰め寄る南。
だが、自分の体はほとんど無傷だと死神くんから聞かされ、あることを思いついた。
「上川…甲子園に行くのが夢だったよな 行こうよ…甲子園… オレといっしょに行こうぜ…」
そして南の願い通り、上川の魂は南の体に入れられ、体は南だが魂は上川、という状態で生きることになったのだ。
「お前は 自分のことを上川だと思っているんだろうが まわりの人はそうは 見てくれないぜ お前は 今日から
南 勝(まさる)として生きてゆくんだ!!」死神くんは消え、上川はその場にへたり込んだ。
「そ…そんな ばかな… オレが 南に…?」
退院し、南として家に帰った上川。
南の母や弟妹達は喜ぶが、元々家が金持ちだった上川は貧乏な環境に馴染めない。
鼻水をたらしたままの妹にすり寄られ、上川は思わず「なにすんだよこのガキ」と妹を叩いてしまう。すかさず
「なんてことするんだいお前は!?」と母親に顔を蹴られた。親にも顔を殴られたことないのに……上川はショックで、
部屋を飛び出していった。
翌日。登校した上川は、由美の姿を見つける。思わず声をかけようとするが、彼女に睨みつけられ、自分はもう上川じゃないと
いうことを思い出してやめた。苦笑しつつも、優しい彼女がまるで汚いものでも見るような目をしていたことに驚いていた。
優しかったのは、元の自分に対してだけだったのかもしれない。
放課後、上川は野球部の練習に出る。エースだった自分が球拾いか、と苦笑いする上川だが、不意に、部員達が皆自分のことを
睨んでいるのに気づく。戸惑っていると、ささやき声が聞こえた。
「あいつ よくノコノコと顔出せたな」
「上川のかわりにあいつが死ねばよかったんだ」
「そうだよな」
「甲子園も夢じゃなかったんだがな〜〜」
「ぶちこわしだぜ」
今まで信頼されていた自分が、今ではみんなの目の敵になっている……いたたまれなくなり、上川はその場から逃げ出した。
- 296 :FJ S60年8/23号 3/5 :2009/01/26(月) 22:05:17 ID:???
- 上川は、かつての自分の家に行く。ちょうど父親が戸を開けて出てきた。が、南の姿をしている我が子に気づくはずもなく、
冷たく「帰れ!! 二度と家に近づくな!!」と言い放つ。
「どうして わしの息子が死んで… あんな なんの役にもたたぬ クズみたいな男が生き残るんだ…」
父から手酷く拒絶され、上川はショックを受ける。
(父さん 母さん あんなにやさしかったのに…どうして そんなひどいことを…)
絶望した上川は首吊り自殺しようとするが「せっかくの親友の好意をムダにしようってのか!?」と死神くんに止められる。
こんなつらい思いをするなら元の体の方がいい、いっそ死んだ方が……そう言う上川の額に、死神くんは指を当て、
上川の体のままの場合、どうなっていたか予知夢を見せた。
死神くんの言葉通り、車椅子の生活になった上川。
登校した彼は由美に声をかけるが、彼女は無表情のまま、そっぽを向いて行ってしまった。野球部の仲間達も、皆怒りの
こもった眼差しで自分を見る。そして両親も……上川は耐えきれなくなり「やめろ!!」と叫んだ。
「どうだ 今とたいして変わらないだろう…?」
死神くんの言葉に、変わらないなら元の体の方がいいに決まってるじゃねえか、と上川。
「体は 健康なほうがいいだろ?」
「うるせえ! うるせえ!」
「もう一回 南の言った言葉をいうぜ いっしょに甲子園に行こう!…だ」
「……………………あいつが甲子園ってガラかよ」
「勝 なにさわいでんだ? うるさいよ!」
不意に、南の母親が部屋に入ってきた。そして体がなんともないならそろそろ仕事の方に取りかかっておくれ、と言う。
南は新聞配達のアルバイトをしていたのだ。
上川は仕方なく販売店に向かい、頭を打って物忘れがひどくなって、と嘘をついて配達先の地図をもらう。
いざやってみると想像以上に新聞は重く、配達先はみんな遠い所ばかり。南はこれを毎日やってきたっていうのか!? と
驚く上川。
ようやく配り終えてヘトヘトになって戻ってきたが、販売店の人達はいつもより三十分遅いと言う。再び驚く上川。
「あいつは 昔から体力だけは あったからな…」
- 297 :FJ S60年8/23号 4/5 :2009/01/26(月) 22:06:19 ID:???
- 帰宅した上川は、家の横に手作りの練習場があるのを見つけた。覗いてみると、壁には練習のスケジュールを書いた紙が
貼られていた。腹筋百回、腕立て百回、素振り五百回、投球三百球……そのハードな内容を毎日やっていたのか、と
唖然とする上川だが……それを嘲笑うような笑みを浮かべた。
(球ひろいのきさまがどんなにがんばったって どうにもなるもんか!)
その日も練習をサボって帰る上川。もう明日にも退部するつもりだ。
と、偶然、南の弟が他の子供に集団でいじめられているのが見えた。慌てて他の子供達を追い払い、「大じょうぶか?」と
助け起こすが……弟は「はなせよ」と上川の手を振り払った。
「おにいちゃんの…おにいちゃんのせいでいじめられたんだぞ!!」
その言葉に困惑していると、通りすがりの人が自分を見て「ホラあいつだぜ」「あいつのせいで甲子園がダメになったんだ」と
ささやき合っているのが聞こえた。
あれは事故で、誰が悪いわけじゃない。それにどの道自分は野球の出来ない体になっていたのに……。すると今度は妹が、
傷だらけで涙と鼻水を流しながら、暗い表情で帰ってきた。
「お前も… お前もいじめられたのか…?」
兄の存在に気づいた妹は、にっこり笑って答えた。
「ううん いじめられてなんかないよ ホントだよ なんともないよ…」
上川は妹の頭を撫で……思わず二人を抱きしめていた。
それ以来、上川は変わった。練習場で、南がこなしていたのと同じ練習をするようになったのだ。それを見て母親も
「やっと やる気だしたんだね」と安心する。
「町の連中は お前のこと悪くいってるけど お前は野球しかとりえがないんだ とことんやりな!」
そうだ、すべてを失ったが、まだ野球が残っている!! ――上川は、ひたすら練習に打ち込んだ。
しばらくして、上川はピッチャーをやりたいから投げさせてくれ、と監督に頼んだ。監督は一球投げたら退部してもらうつもりで、
それを了承する。他の部員たちも「投げ方知ってんのかー?」「だいたい野球のルール知ってんのかー?」とあからさまな
嘲りの言葉を投げかける。それを聞きながら、上川は思った。
(きさまらに このオレを…南 勝を笑う資格はない!!)
- 298 :FJ S60年8/23号 5/5 :2009/01/26(月) 22:07:47 ID:???
- かつての自分・エースの上川に頼りきりで、ろくに練習もしていなかった部員達。そんな中、南だけが必死で練習に励んだ。
レギュラーでもないのに、人一倍努力をし続けた。彼は実力がありながら、認められなかった。いや、誰も認めようとは
しなかった。一番身近な自分でさえ、気づかなかった。
(よく見ろ この一球にその男の実力を見せてやる)
この一球には、弟妹の……さらに、母ちゃんへの想いがこめられている!!
そう、今の自分は南 勝。うぬぼれの強い上川とは違う、本当の実力者。
そして、彼は大きく振りかぶり、
(見ろ!! これが真のエース 南 勝の球だ!!)
――投げた。
バ キ ィ
彼の手から離れた球は、誰もが予想しなかったスピードで、キャッチャーミットに収まった。
監督も、部員達も皆、この信じられない出来事に、文字通り目を丸くし、唖然としていた。
不意に、キャッチャーが手を痛がりだした。どうやら音だけでなく、本当に骨に来るほどの衝撃だったらしい。
「やったぜ南 お前はたいしたやつだ」上川は、空を仰いだ。「南 ありがとう! 死神! 南に会ったら こうつたえてくれ」
「ああ つたえておくよ」空から様子を見ていた死神くんが言った。「しかし お前投げた時南になりきっていたぜ ま…
当たり前だけどな」
そして上川はマウンドを降り、立ち去ろうとする。慌てて監督が、彼を呼び止めた。
そして数ヵ月後。南は――上川は、甲子園のマウンドに立っていた。彼は県大会の準決勝までノーヒットノーランという記録を
出し、すっかり話題の選手になっていた。
「南ィ とうとうきたぜ甲子園… 二人の甲子園だ」
彼は、ボールを天高く掲げた。
- 299 :マロン名無しさん :2009/01/26(月) 22:26:18 ID:???
- 本人に相談無しで体入れ替えるなよw
- 300 :マロン名無しさん :2009/01/26(月) 22:30:27 ID:???
- とりあえず「南を甲子園に連れてって」乙
- 301 :マロン名無しさん :2009/01/28(水) 12:39:28 ID:???
- 魂が生きて(?)さえいれば、体が別人でもOKなのか
かなりアバウトだな
- 302 :FJ S60年9/23号 1/6 :2009/01/28(水) 22:01:34 ID:???
- 第26話 愛の時効の巻
ベテラン刑事の長さんは、部下とひき逃げ事件の聞き込みをしている最中、見覚えのある男を見つける。
思わず「五十島!!」とその男の名を叫び逮捕しようとするが、男の方は全く長さんのことを知らない様子。
間もなく「やめてください!!」と女性が二人の間に割って入った。
彼女は「この人は中西治 わたしの夫です!」と長さんに言う。長さんは「すまねエ」と素直に謝ると引き下がったが、
内心では探していた犯人・五十島雄二だと確信していた。だが名前も違うし、自分のことも覚えていない。
(無理もないか あれから7年もたってるんだ)
長さんは、七年前のことを思い返した――。
七年前、大雨の降る日――。
山に入ったまま下山しない男がいるという話を聞いて、怪しいと思った長さんは、山小屋で逃走中だった五十島を発見した。
自分は死刑になるから、と包丁を手に自殺しようとしていた五十島だが、彼に殺意があったわけではないことは、仲間の証言で
既にわかっていた。
五十島達四人は、酒を飲んだところを他のグループと喧嘩になってしまい、彼は思わず力任せに相手を殴ってしまったのだ。
相手の男は倒れた拍子に、階段の角に頭をぶつけ、亡くなってしまった。
「それなら過失致死だ 死刑はない 裁判の時にそのことをいえばいい」
「でも殺した!! オレは殺人犯のレッテルをはられる!!」
「じゃあ どうしようというんだ!! このまま逃げるのか!? 自殺するのか!? 罪をつぐなって あたらしい人生を歩んだ方が
いいと思わんか!?」
涙を流す五十島の肩に、長さんはそっと手を置く。彼の手から、包丁が落ちた。
「自首しろ そうすりゃ罪も軽くなる」
「刑事さん…」
「お前は そんなに悪いやつじゃない 目をみりゃわかる」
- 303 :FJ S60年9/23号 2/6 :2009/01/28(水) 22:02:39 ID:???
- そして二人が小屋を出ようとした、その時だった。地響きがしたかと思うと、土砂が押し寄せ瞬く間に山小屋は押し潰された。
五十島はほとんど無傷ですんだが、長さんは岩の間に体が挟まり、身動きがとれない状態。五十島は長さんを助け出そうと
したが、岩はビクともしなかった。
「オ…オレ いそいで 人を呼んできます いや…このまま このまま警察へ行きます!!」
「ああ そうだ…そうしろ 早くたのむぜ」
五十島は麓へ向かって走っていった。
しばらくして、長さんがふと気づくと、お揃いの山高帽にスーツを着た、四人の子供がいた。驚く長さん。
「苦しかっただろ? 今 助けてやるからな」
「な…なんだ!? お前ら救援隊か!? いや ちがう なに者だ!? 五十島は どうした!?」
「あいつは こないよ」
一人が言った。
「なんだと!? あいつ! このオレをだましたのか!? うらぎりやがったのか!?」
しかし四人はそれには答えず、長さんの上の岩をどかすと、朝には救援隊が来る、と言って去っていった。
「ちょっと待て!! 五十島に なにかあったのか!? お前らは いったい!?」
だが、やはり答えは返ってこなかった。
長さんは中西夫妻のことを部下に調べさせた。妻の方の名は中西裕子で、スーパーでパートをしている。
そして夫の治は、現在印刷工場に勤務しているが、七年前以前の資料はない。記憶喪失だという。
(やはり あの日なにかあったのか…?)
何かを隠そうとしていた裕子の様子もあり、長さんは事件の新聞記事を改めて見返す。すると思いがけないものが見つかった。
被害者の葬儀を伝える記事に、泣いている裕子の写真が載っていたのだ。しかも婚約者の中西裕子さん≠ニいう説明が。
つまり彼女は、五十島が殺した男の婚約者だったのだ。
「やれやれ よけいなことを知ってしまったようだな」
いきなり上から声がした。そこにはあの時の子供のひとり――死神くんがいた。
- 304 :FJ S60年9/23号 3/6 :2009/01/28(水) 22:03:43 ID:???
- 「バケ物めーっ お前はいったいなに者なんだ!? 不法侵入だぞ」
「カタイこというなよ で どうするんだい あの五十島を…」
そう尋ねられ、記憶を戻してでも逮捕する、と言う長さん。死神くんは、それが困るんだよね、と七年前に何があったのかを
話し始めた。
警察へ向かっていた五十島は、たまたま通りかかった車を止めようとした。しかし、偶然にもその車を運転していたのは裕子。
新聞やテレビで見た、婚約者を殺した男の顔を彼女が忘れるはずがない。裕子は湧き上がる感情に任せて、五十島を
車で跳ねたのだ。
が、五十島は死ななかった。とどめをさすことも出来ず、どうしたらいいかわからなくなった裕子は、自分のアパートへ彼を
連れ帰り、看病した。――殺意を残したまま。
そして五十島が意識を取り戻した。裕子はすぐさま傍らの果物ナイフに手を伸ばすが……
「ここは… どこだ…? オレは… だれだ…?」
五十島は、全ての記憶を失っていた。
その後、二人は一緒に住み、夫婦として暮らすうちに男の子も二人生まれた。
死神くんは、裕子は五十島の記憶が戻ったら彼を殺す気だからあのままにしておいた方がいい、と言うが、長さんは
「オレは刑事だ!! 犯人が目の前にいるのに 逮捕しないわけにはいかん!!」と反論し、死神くんを圧倒する。
「やつの記憶をもどして 逮捕する!!」
その晩、長さんは裕子の家を訪ねた。彼は一家全員を、車で例の山奥へと連れ出す。五十島の記憶を戻すためだ。
「記憶が戻ったらどうなるのかしら?」裕子が言った。「いままでの7年間の記憶は…わたしといっしょに暮らしたこと…
ふたりの子どもがいることとか…」
「さあ…忘れるでしょうね」長さんは言った。「いや そのほうがいいんだ 赤の他人になった方が… あなたもそう思って
いるんでしょう?」
と、長さんは裕子に訊くが、彼女はきつい表情のまま、何も答えなかった。
- 305 :FJ S60年9/23号 4/6 :2009/01/28(水) 22:04:49 ID:???
- 現場につき、長さんは治に――五十島に、過去のことを話し始めた。
(ムリよ 記憶はもどらないわ いいえ もどったらいけないのよ)
不意に「女に気をつけろ」と死神くんが長さんに言った。彼の姿は長さんにしか見えていないらしい。
裕子はナイフを隠し持っている、やはり記憶が戻ったら殺すつもりだ、と死神くんは告げた。
「そんなことはこのオレがさせねェ!!」
「たのむぜ」
改めて長さんは説明を始めた。
「いいか五十島 以前 ここには山小屋があった そう7年前だ!! オレは お前を追ってその山小屋までいった オレは
お前に自首するようすすめ お前もカクゴをきめて自首するつもりだった」
「自首…」
その言葉に反応する五十島。そして裕子。
「そして 土砂崩れがおこった 山小屋はくずれ オレは 岩の下じきになった」
「土砂崩れ…」
「そうだこの場所だ こんなふうに!!」
長さんは、地面に伏せた。
「岩は大きく お前の力ではとうてい動かせない お前は 人を呼びに山をおりた」
一瞬、五十島の脳裏を、岩を持ち上げようとする自分の姿がよぎった。
「おれはお前をまっていたんだ ずっと…ずっとだ!! しかし いつまでたっても お前はもどってこなかった」
五十島が、小さくうめき頭を抱えた。
「どうしちまったんだ 信じていたのに!!」
裕子の顔色が変わっていく。
「どうしてもどってこない!! 五十島!!」
「やめろーっ」五十島は絶叫すると、頭を抱えてうずくまった。「やめてくれ!! 頭が痛い!! 頭がわれそうだ!!」
「やめてーっ!!」
裕子は叫び、ナイフを取り出した。長さんがそれに気づき、止めようとするが――なんと、彼女はナイフを五十島ではなく、
長さんに向かって振りかざした。かわした拍子に倒れる彼に、なおもナイフを振り下ろす。
- 306 :FJ S60年9/23号 5/6 :2009/01/28(水) 22:06:37 ID:???
- 「人の…人の家庭を こわさないで!!」裕子は泣いていた。「今まで 普通に 幸せにやってきたのよ それを…それを!!」
「ばかな お前 五十島を!?」
「記憶がもどったらあの人は…あの人でなくなる!! あんたさえ あんたさえいなければ!!」
そして再び裕子が、ナイフを振り上げたその時。
「なにをするんだ!? この女は!!」
いきなり五十島が裕子を突き飛ばした。そして「刑事さん 大じょうぶですか!?」と長さんに駆け寄る。記憶が戻ったのだ。
辺りを見回し、雨が降っておらず、土砂崩れの跡もないことを不思議がる五十島。長さんが予測したとおり、彼は記憶を
なくしていた間のことを忘れてしまったらしい。
泣き叫び、五十島にナイフを向ける裕子を、今度は長さんが突き飛ばした。
「もうおしまいよ なにもかもおしまいよ!! ふたりとも殺して わたしも 死んでやる!!」
再び五十島を刺そうとする裕子。長さんは止めようと、とっさに拳銃を取り出すが――
「うわ〜〜〜〜ん」
いつの間にか車外に出てきていた子供たちの泣き声が、それを止めた。
「お父さんとお母さんがケンカしてる〜〜 やだー ケンカしちゃやだ〜〜」
裕子はナイフを捨て、子供達を抱きしめた。その間に、長さんは五十島に手錠を掛けようとするが……何も知らない子供が、
五十島の手をとった。それを見て、何かを考える長さん。
「お父さん 早くかえろー」
「お父さん?」
「もうケンカしちゃダメだよオー ねっ」
「刑事さん なんですか? この子どもは…」
戸惑う五十島に、長さんは言った。
「バカヤロウ! 自分の子どもも 忘れちまったのか?」
- 307 :FJ S60年9/23号 6/6 :2009/01/28(水) 22:07:43 ID:???
- 訳がわからず、さらに混乱する五十島に、長さんは説明する。
「お前は覚えてないだろうが… お前は事故にあい 記憶喪失になったんだ」
「記憶喪失!?」
「そうだ あの事件から… あの事件からすでに15年が過ぎた!!」
十五年――五十島はもちろん、裕子もその言葉に驚く。
「そうだ 15年だ わかってんだろ 殺人の時効は15年…オレはお前を逮捕することはできん…」
そして、その子供は間違いなくお前の子供、女はお前の妻だから早く一緒に帰りな、と言い、長さんはその場を後にした。
「刑事さん!」
五十島が呼びかけるが、長さんは振り返らない。裕子の目に、新たな涙が滲んだ。
「なんだよ すぐにバレるようなウソをついて…」
自首してきたらどうするんだよ、と死神くんは言うが、長さんは俺の気持ちをわかってくれるはずだ、それはない、と答える。
「オレは 刑事失格だな」
「人間としては合格だ」
長さんは、歩いて帰っていった。五十島が七年前、自分のために一所懸命走った、この道を……。
残された五十島と裕子。すると、
「裕子…」
覚えてないはずの彼女の名前を、五十島が口にした。自然に口から出てきたという。さらに「しげる…みつる…」と子供達の
名前も言う。
五十島はこの十五年間、何があったのか聞かせてくれ、と裕子に言い、裕子もうなずいた。
「でも わたしが知っているのは7年間だけ…」
- 308 :マロン名無しさん :2009/01/28(水) 22:38:25 ID:???
- 根本的なとこツッコむけど、過失致死なら時効は5年じゃないか?
- 309 :マロン名無しさん :2009/01/29(木) 11:52:51 ID:???
- >>301
そりゃあ、霊界的には予定してた人の魂が来ればそれでいいんだろうしね。
普通子供作ってる時点で復讐心消えてるとは思わないのか?
死神くんも刑事さんも。
- 310 :マロン名無しさん :2009/01/29(木) 18:15:10 ID:???
- ていうか今回死神くんは何しに出てきたんだ?
- 311 :マロン名無しさん :2009/01/29(木) 22:51:56 ID:???
- 普通に考えて、五十島が殺されるのを阻止しにきたんじゃね?
まだ死ぬ予定じゃないから
- 312 :FJ S60年10/23号 1/5 :2009/01/30(金) 22:05:14 ID:???
- 第27話 4人の立場の巻
「よし子!! 注射の針が おれた かわりのやつもってこい!! それと このガキども外に出せ!!」
ここは第9話(>>111-113参照)にも登場した、黒方村・中村診療所。
今日も相変わらず、患者はもちろん、畑仕事を終えた人が休憩所代わりに利用しようとしたり、豚が子供を産んだと
報告しに来る者がいたり、お医者さんごっこをして遊ぶ子供もいるしで診療所はにぎやかだ。
「あー わたし学校に行く時間だ」
よし子が言った。彼女は昼は診療所でアルバイトをし、夜は定時制の高校に通っているのだ。
と、半鐘の音が聞こえた。診療所の前にパトカーが止まり、パトカーを見るなんて初めてだ、と驚く村人。
さらに怪我人が何人も、診療所に担ぎ込まれてきた。
駐在さんによると、この村に連続射殺事件の犯人・福田幸雄が逃げ込んで来たのだという。運ばれてきた怪我人は、みんな
福田に撃たれたのだ。先生は手当てを始め、制服に着替え終わっていたよし子も手伝おうとしたが――。
「あ…」
愕然とした。その中に彼女の父がいたのだ。慌てて駆け寄るよし子と先生だが、銃弾は胸を貫いており、すでに
手遅れだった。
「お父ちゃん!!」
福田が立てこもっている家は、既に大勢の警官と野次馬に囲まれていた。彼は、家の住人の夫婦を人質に取っているのだ。
「銃を捨てて出てこーい!! もう 逃げられんぞ!!」
刑事の長さん(前回(>>302-307)参照)が呼びかけた。だが福田は「こうなりゃなん人殺そうが同じだ みんな殺してやる」と
つぶやく。その時、彼の前に死神くんが現れた――。
「幸雄 母さんだよ!! バカなことはやめて出てきなさい!!」
福田の母親も呼びかけに加わった。と、長さんの元に本部から狙撃命令が出たと知らせが入る。
「くそう 殺したって事件解決にゃならんだろうが」
その時、福田が妻の方に銃を突きつけながら出てきた。悲鳴を上げる妻。
「殺してやる! みんな殺してやる!!」
叫ぶ福田。直後、彼は一斉に警官に撃たれた――。
- 313 :FJ S60年10/23号 2/5 :2009/01/30(金) 22:09:11 ID:???
- 診療所では、ようやく怪我人の手当てが一段落。よし子は一人、父の遺体が安置された部屋で俯いていた。
そこへまた急患が、と知らせが入る。
「今度は だれがうたれたんだ!?」
「犯人だ!!」
驚く先生だが、長さんにまだ息がある、何とかしてほしいと頼まれ、福田をレントゲン室へ運んでいく。
その様子を、よし子が陰から見ていた。
レントゲンの結果、銃弾は足と腹と胸に一発ずつあった。大手術になるため大きな病院に行った方がいいが、今やらなければ
間に合わない危険な状態。しかしこの病院では……悩む先生を「ぐだぐだいってねェで 早く手術しろ 人の命を救うのが
医者の仕事だろ!?」と長さんは一喝。先生はとにかくやってみることにした。
看護婦がいないから手伝ってくれる人を探してくれ、と頼むと、長さんは自ら志願する。
「殺人現場やバラバラ死体なんかをよく目にしている 少しは 役に立つだろ」
次に志願したのは、福田の母親。昔、看護婦をしていたのだという。そして、
「わたしも手伝います!」
白衣に着替えたよし子も来た。先生は戸惑う。犯人に父親を殺されたばかりなのに……。
輸血をしてくれる人を募り、大学病院のお下がりの人工心肺などを用意し、やっと手術が始まった。
その最中、よし子がまだ17歳で高校生だと知り、長さんは驚く。
「アルバイトにこんな大切な仕事やらせるな〜っ!!」
「やかましい 手術中にぐだぐだぬかすな!! すっこんでろい!!」先生は言った。「資格がなんでェ 場数多くこなした経験の
ほうが よっぽど役に立つんだ!! よし子は 最高の看護婦だ!!」
よし子は目を瞠った。だが、
「憎んでいるんでしょうね… わたしの息子を…」
福田の母親のその問いには、答えなかった。
二つ目の銃弾も取り出され、残るは胸の一発のみ。が、それは先生が思っていたよりも深く心臓に食い込んでいた。
心臓手術は経験がないし、もし穴が開いていたら手遅れ。そうでなくても、弾を抜くときにショックを与えたり、手元が
狂ったら……
- 314 :FJ S60年10/23号 3/5 :2009/01/30(金) 22:12:26 ID:???
- 「だめだ できねェ オレには自信がない」
弱気になる先生に、長さんは「医者のくせにほっぽりだすとはなにごとだ!?」と怒り、そのまま言い争いを始めてしまう。
と、
「そうよ 死ねばいいのよ」よし子がつぶやいた。「どうして こんなひと殺しを助けなくちゃならないの? どうして」
次の瞬間、よし子はメスを振り上げた。
「手術はこれで終わりよ!! わたしが 楽にしてあげるわ!!」
慌てて先生が彼女を止めた。
「先生は こいつを助けるの? 殺人犯の味方なの?」
「バカヤロウ そんなんじゃねェ!!」先生は言った。「オレは医者だ 医者として患者の生命を守る義務がある」
「よし子さん こいつは生きて罪をつぐなわなくてはいけないんだ」長さんも言った。「こいつを憎んでいるのは
あんただけじゃねェ 事件解明のためにも死なせちゃならねェ…」
「この子はわたしの息子です」母親も言う。「殺人犯でもわたしの息子です 親バカと 思われるかも知れませんが
かわいい息子です」
「わたしの立場はどうなるの!? 父親を殺されたわたしの立場は!?」
泣きながら訴えるよし子の頬を、先生は思い切り叩いた。
「出ていけ!! 手術のジャマだ!! お前のようなやつは クビだ 二度とくるな!!」
よし子は、しばらく唖然としていたが、やがて泣きながら手術室を飛び出した。
と、母親がもう結構です、と言った。ここにくる途中、死ぬことがわかっていたのか、車の中で「死神…死神だ
オレは死ぬんだ」とうわごとを言っていたという。それを聞いて、目を丸くする先生と長さん。
「信じてもらえるかどうか わからねェが オレは 死神にあったことがある!! そう…1年半くらい前」
「そいつは奇遇だな オレは先月あったばかりだ」
先生と長さんは部屋の外へ出ると「死神出てこい!!」と呼びかけた。すると、
「やれやれ ホントに奇遇だねェ」死神くんが現れた。「オレとあったことのある人が ふたりいっしょにいるなんて」
先生は死神くんに福田が死ぬのかどうかを尋ねる。
「聞いて どうする? ムダだと わかったら手術しないのか?」
そういうわけではない、と先生は言うが、死神くんが出てきた以上、助からない可能性は高い。そんな先生に死神くんは
「べつに 今すぐ死ぬとはいってないぜ」と言う。
- 315 :FJ S60年10/23号 4/5 :2009/01/30(金) 22:14:28 ID:???
- 「じゃ 手術は 成功するのか!?」
「はっきりはいえないよ オレの発言で あんたの考えが左右されるってのはまずいと思うよ」
あんた医者だろ、医者としての仕事を一所懸命やりな――そう言って死神くんは消えた。
部屋へ戻ると、母親が倒れていた。息子が心配で、もう三日も眠っていないのだ。
「もっとも オレも5日ほど眠ってねェがな」と長さん。
こいつのために動き回っている人間はたくさんいる、と先生に手術をさせようとするが、まだ自信が持てない様子。
「なにをモタモタしてやがる まだ 自信がつかめねェのか!? このヤブ医者!!」
と、いきなり先生が長さんを突き飛ばした。
「な…なにをする!?」
戸惑う彼の前で、メスを振り上げる。
「よし子のいったとおり こいつは助からねェ!! 手おくれだよ!!」
「きさま!!」
長さんは止めようとするが、それより早く死神くんが先生の手を掴んで止めた。
それを見て先生は「ありがとうよ」と死神くんにお礼を言う。
助けに入ったということは、今死ぬ人間ではないということだからだ。すっかり自信をつけた先生に「負けたよ」と死神くん。
そして、手術は成功した。
その後、福田は逮捕され、裁判の結果、死刑を言い渡された。死神くんが宣告した死はこれだったのだ。
裁判所からの帰り、あのまま死なせてやればよかった、とつぶやく先生に「後悔してんのかい?」と死神くんが声をかけた。
「ああ ムダ骨さ やつは2度も死ぬようなもんだ そのひとつは オレが作った死だ」
やつは死刑で死ぬのが運命、あんたが一所懸命手術してくれたから予定通りだよ、と死神くんはお礼を言うが、先生は
「うるせエ!!」と憤りを露わにする。
「きさまのためにやったんじゃねエ!! 自分のためにやったものでもねエ!! まして あの刑事や母親のためでもねエ!!
本人の…本人のための手術だったんだ!! それなのにあんなことに…」
「ムダなことだと思っているわけかい?」
「ああ やらなければよかった」
「ムダじゃないよ 今にわかる」
- 316 :FJ S60年10/23号 5/5 :2009/01/30(金) 22:17:09 ID:???
- そう死神くんが言った直後、長さんが声を掛けた。
「よっ ヤブ医者!!」
「なんだ 不良刑事」
互いに悪口を言い合いつつ、仕事に決着がついた、と長さんは先生に礼を言う。死刑とわかっていたら、俺は助けなかった、
と先生は言うが、「それでは被害者はなっとくしないよ 本人にも罪の重さを知ってもらわなくてはいけないし」と長さんは言う。
「おかしなもんだな 手術しても回りの人間がよろこんで 当の本人は…」
と、福田の母親が先生に深々と頭を下げた。
「先生 どうもありがとうございました」
「お母さん…」
「あれでいいのです」彼女の目には涙が浮かんでいた。「いえ ああでなくてはいけないのです 本当に…本当にありがとう
ございました」
思いがけない感謝の言葉にしばし呆然とする先生。と、「大切な人がきてるぜ」と長さんが後ろを指差した。
振り向くと、父の遺影を持ったよし子がいた。
「手術 成功してよかったですね やっぱり先生はりっぱです」
また働かせてください――泣きながら言う彼女の頭を、先生は抱き寄せた。
「ムダじゃなかった」
「えっ?」
「あっ いや なんでもない」
先生はよし子にこれからどうするんだ、と尋ねる。そして……
「父親がいなくて大変だろ? オレといっしょにならんか?」
突然のプロポーズに、よし子は真っ赤になった。
「なに? 今なんていったの 聞こえなかったわ」
「あ…いや オレの嫁さんにならんか?」
「だめ 聞こえないわ もっと大きな声ではっきりいって!」
何度も聞き返され、「今の話なかったことにしよう!!」と、とぼける先生。
「だめよ わたし ちゃんと聞こえちゃったもん 決定しちゃったもんね 式はいつにする〜?」
幸せな二人を、死神くんは笑顔で見つめていた。
- 317 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 22:29:46 ID:???
- 17歳(;゚∀゚)=3けしからん
嗚呼、母ちゃん…
- 318 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 22:34:41 ID:???
- >>317
裁判終わってるから2年くらい経ってんじゃね?
- 319 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 22:37:54 ID:???
- おい>>124
お前ひょっとして、真っ黒い子供に「3つの願いを叶えてやろう」とか言われなかったか?
- 320 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 23:03:33 ID:???
- 通し番号1が入った過疎スレにたまにある>>1が必死に頑張っているスレですね
興味深い
- 321 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 23:10:52 ID:???
- 死刑になる人を手術で助ける話はブラックジャックでもあったな。
- 322 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 23:56:38 ID:???
- 医者も刑事もかっこいい。
- 323 :マロン名無しさん :2009/01/30(金) 23:56:45 ID:???
- やるじゃねーかヤブ医者、死神くんに駆け引きで勝つとは
- 324 :マロン名無しさん :2009/01/31(土) 08:16:26 ID:???
- 死神をしている人同士の話って
スムーズに進むからいい。
- 325 :マロン名無しさん :2009/01/31(土) 08:17:04 ID:???
- × 死神をしている
○ 死神を知っている
- 326 :マロン名無しさん :2009/01/31(土) 16:35:12 ID:???
- 診療所の話は好きだったから続編書いてくれたのは素直に嬉しいが…
反面ネタ切れじゃないかと心配だ
- 327 :FJ S60年11/23号 1/5 :2009/02/01(日) 22:01:04 ID:???
- 第28話 いじめの構図の巻
「ぶわっかも〜〜ん!! あんな 大切な物を下界に おとすとは何事だ〜〜!?」
主任に叱られ、死神くんは「す…すいません…!!」と頭を下げた。
「すいませんですむか〜っ!? 早くひろってこ〜〜い!!」
死神くんは、大急ぎで下界へと向かった。
「あ〜あ 大変なことになっちまった」
思わずぼやく死神くん。
「早く 見つけださなくっちゃ もしあれが…人間に見られたら………」
今日も孝一は、同じクラスの男子にいじめられていた。
ウェスタンラリアットを食らわされ、胴上げをさせられて床に落とされ、さらに眠そうだから、と水を浴びせられてしまう。
目撃した同級生も、無視して通り過ぎる。そこへ先生が通りがかり、みんな孝一を残して逃げていった。
事情を知らない先生は、びしょぬれの床を見て早くそこを掃除して片付けろ、と孝一を叱る。彼はただ、泣いた。
放課後、孝一は特に彼をいじめるひろし、こうさく、としおの三人組に追われていたが、販売機の陰に隠れ、なんとか
彼等を撒いた。ふと足元の新聞に中学生自殺 いじめが原因≠ニいう記事があるのが目に入る。
全国に自分と同じいじめられっ子はたくさんいる。孝一も何度も死ねば楽になると思った。だが、死ぬ勇気がない……。
その時、風で新聞が飛び、下から表紙にドクロマークのついた手帳が出てきた。中を見てみると、
コイチ 安楽死 9:00 ○
といったように、人の名前と、その横に死因と思われるもの、そして日付と時間が書かれていた。
今日の日付になっているものも四人分あったが、それには○がつけられていない。
と、電器屋のテレビからニュースが流れてきた。
「次のニュースです 近代芸術家として著名な 佃 章画伯が亡くなられました…」
- 328 :FJ S60年11/23号 2/5 :2009/02/01(日) 22:01:57 ID:???
- 孝一は耳を疑った。それは手帳に書かれていた○のついてない人物の一人で、死因も時間も手帳に書かれたとおりだったのだ。
(う…うそだろ…こ…これっ…?)
夕食の席で、孝一は父親から「キズだらけじゃないか 学校でいじめられてんじゃないのか?」と訊かれるが、なんともないよ
と言って早々に部屋へ引っ込んでしまう。自室のテレビでなんとなくニュースを見る孝一。
(学校 行きたくないなァ… でも 親には心配かけたくないし)
孝一はもう一度手帳を開いた。残りの三人も、書かれている事が本当なら、もう死んでいるはず……と、テレビで
交通事故のニュースが流れた。
「今日 無免許の少年が車で暴走し コンクリートのカベに激突 中に乗っていた3人はまもなく死亡…」
孝一は仰天した。その三人の名前は手帳の残りの三つの名前で、死亡時刻が同時なところも完璧。つまり、この手帳に
書かれた者はこの通りに死んでる、ということになる。気味が悪くなった孝一は捨てようとするが、ふと思い直して、
空いているページにこう書いた。
ひろし ┓
こうさく ┣のばかやろうどもは
としお ┛一ヶ月後苦しんで死ぬ!!
翌日。登校した孝一は、ひろし達三人が食中毒で入院したことを知る。やっぱりこの手帳は…と思った直後、別の男子が
彼の後頭部をカバンで叩いた。転んだ彼の手を、また別の男子が踏みつける。
「わーっ きったねー バイキンふんづけちゃった!!」
「エンガチョ〜」
授業中も、みんなが孝一に汚い物を見るような眼差しを向けてきている。
(だめだ… あいつら… あいつらだけじゃだめだ… みんなが…クラスのみんながいなくなれば!?)
放課後。大急ぎで下校し、建物の陰に隠れる孝一。みんなが悪いんだ、何もしてない僕をいじめるから……
そう言い聞かせながら手帳に「クラスのみんな」と書きこみ始めたその時、
- 329 :FJ S60年11/23号 3/5 :2009/02/01(日) 22:02:49 ID:???
- 「見ーつけた!!」
いきなり死神くんが姿を見せた。驚く孝一から死神くんは手帳を取る。
孝一はもう少し手帳を貸してくれと頼むが……「ふざけるな〜〜っ!!」死神くんは怒った。
「いいか お前のやろうとしたことは殺人だぞ!! ひとりふたりなら まだしも クラスのみんなを殺そうとした!!」
が、孝一は「それがどうした!?」と泣きながら反論する。
「僕はいつも みんなにいじめられているんだ 死ぬような目にも あってるんだ 自殺を考えたこともある!! みんなは
僕が死ぬほどなやんでいるなんて思っちゃあいないんだ」
「そんなことで クラスのみんなを死なせるつもりか」
「僕にとっちゃあ大きな問題だ!!」
「同じことだよ みんな死んでも 新しいクラスメートがお前をいじめるだけさ そのたびに クラスメートを殺すつもりかい?」
何も言えなくなった孝一に、死神くんはひろし達三人がどうなったかを見せる。孝一の頭の中に、ベッドの中で苦しんでいる
三人の姿が浮かんだ。
「苦しんでるぜ お前のせいでな」
が、孝一の反応は……
「そうさ! 死ねばいいんだ!! 苦しめばいいんだ!! 僕が今までいじめられた苦しみはこんなもんじゃないぞ!!」
そんな彼に、死神くんは人の人生をどう思っているんだ? と問いかける。
「人には それぞれ人生というものがあるんだぜ」
そして今度は、ひろし達がどういう人生を歩むかを、孝一に見せ始めた……。
卒業した三人は、それぞれ違う道を歩み始めた。
ひろしは左官に、としおはウェイター、そしてこうさくは自動車修理工場で働き始めた。
暴走行為で、警察に捕まったこともあったが、その後ひろしは行きつけの定食屋で働いていた女性と結婚。こうさくは写真を
始め、コンテストに応募した写真で賞も穫った。そしてとしおはウェイターの仕事で貯めたお金で、自分の店を開店させる。
今も三人はたまに会っては一緒に飲んでいる――。
- 330 :FJ S60年11/23号 4/5 :2009/02/01(日) 22:03:47 ID:???
- 「やめろ〜〜」
孝一は叫んだ。
「やつらの人生なんて 僕に 関係ない!! 知ったことかよ!!」
僕の人生はどうなるんだ、と孝一は訊くが、自分の将来がわかっちゃったらつまんないだろ? と死神くんは見せようとは
しない。
「とにかく このままじゃ 僕の人生は めちゃくちゃだ!! いじめるやつは死ねばいいんだ!!」
だからその手帳で…と言う孝一に、
「お前なァ もう少し強くなれよ」と死神くんは言う。
人間なんて誰もが弱虫、それを見られたくないから強がっているんだ、それが弱い者いじめとなって現れている、と。
「い…いまさら強くなんてなれない…」
「強くなれなくてもいいんだ とにかく弱い所を見せちゃだめだ」
その言葉に「今まで いじめられた分だけ ソンじゃないか!」と孝一は言うが、死神くんはさらに続けた。
「日本人の平均寿命はいくつか知ってんのか? 女子82歳 男子76歳だ お前は あと60年近くは生きられる計算だ
その60年間 いじめられっぱなしだと思うのかい? その長い人生の中で お前のいじめられた時期は ほんの少しだ
もう少しまてば 必ずいじめられなくなる 高校 大学 あるいは就職した時に…必ずだ そのためにも強くなるんだ
人を殺す勇気があるんだ なんでもできるさ」
そして死神くんは、霊界に帰るため天に昇り始めた。
孝一は手帳に書かれたやつらはもう助からないのか? と尋ねるが、死神くんは「ノーコメントだ」と答えた。
「こんなケースは今までになかったことだからな どうなることか…」
孝一は三人が入院してる病院を訪ねたが、三人は面会謝絶だという。もし死んだら僕の責任だ、僕は殺人者になるんだ……
歩きながら考える孝一。
(でも あいつらが元気になったらまた いじめられる… そんなのいやだ…)
本当は死んでほしい。でも、奴等にも親はいる。関係ない人まで悲しませたくない……
(そうだ 僕が死ねば… 僕がいなければ解決するんだ 僕が死ねばいいんだ…)
明日の新聞に大きく載るだろう。いじめを苦に自殺=c…と。孝一は町を彷徨い……そして、走ってきた車に飛び込んだ。
- 331 :FJ S60年11/23号 5/5 :2009/02/01(日) 22:04:41 ID:???
- ふと気がつくと、目の前は真っ暗だった。死んじゃった…? そう思ったその時、
「バーカ」
いきなり死神くんがどアップであかんべーをしてきた。驚く孝一。
「死んで責任とったつもりか 甘いぞ!!」
俺はいじめなんかに負けずに生きてほしかったんだ、一所懸命やってみんなに好かれる人間になってほしかったんだよ、と
死神くんは続ける。
「なーんにも楽しいことがない一生で お前は まんぞくなのか? 生きてりゃ そのうち楽しいことがあると思わないのか?」
そして再びあかんべーをする死神くんに思わず「うるさい!!」と怒鳴った直後……孝一は目が覚めた。
包帯姿で病院のベッドに寝ているところを見ると、死ななかったらしい。
と、ドアが開いたかと思うとひろし達三人が入ってきた。同じ病院に入院してしまったらしい。
彼等はもうすぐ退院だと聞いてやっぱりあの手帳の通りにはならなかったと憂鬱になる孝一。案の定、仲良くやろうぜ、と
三人は孝一の頭を叩く。そして部屋から出て行こうとするが……ひろしが足を止めた。
「看護婦から聞いたんだけど お前 一度見舞いにきたのか? お前もおかしなやつだな いつも いじめてるオレたちによ」
孝一は、何も言わなかった。
「クラスのやつも先生もこなかったのに お前だけは見舞いにきてくれたんだな」
やはりうつむいたままの孝一。ひろしは「ま、仲よくやろうぜ」と部屋を後にした。
霊界に戻った死神くんは、主任からおしおきとして棒で思い切り叩かれた。
「以後 このようなことのないように!!」
「ハ〜〜イ 主任! 弱いものいじめはやめましょう!!」
「アホウ!!」再び殴られる死神くんであった。
「なにやってんだよ おめーは!!」
「へたくそ!!」
その日、孝一はまたひろしに頭を叩かれた。が、今度はいじめでではない。孝一は三人からサッカーを教わっていたのだ。
「よーし いけェ 孝一!!」
「シュートだ!!」
孝一は、思い切りボールを蹴った。
- 332 :マロン名無しさん :2009/02/02(月) 00:47:12 ID:???
- ひろし達はあっさり仲良くなったな
そんな事でいいのだろうか?
- 333 :マロン名無しさん :2009/02/02(月) 01:51:38 ID:???
- 死神くんの説教ももっともだが、やられっぱなしじゃ収まらないだろう。
罪にならない程度に仕返しができてよかったね。
- 334 :マロン名無しさん :2009/02/02(月) 12:42:31 ID:???
- 殺しちゃっても人間界的には罪にはならないだろ
- 335 :マロン名無しさん :2009/02/02(月) 23:48:20 ID:???
- あんな手帳を自分が拾ったら・・・
- 336 :マロン名無しさん :2009/02/03(火) 00:56:58 ID:???
- 便利だよな
手を汚さず邪魔者を排除できるんだから
しかも今回の話を見る限り、苦しむだけで殺さないこともできそうだし
- 337 :FJ S60年12/23号 1/5 :2009/02/03(火) 22:02:15 ID:???
- 第29話 海へ…の巻
ラブホテルの一室。
「いやあ!!」
少女はいきなり、ベッドへ突き飛ばされた。
「なにをするの!?」
「なにをするって 決まってんだろ!! ナニをするんだよ!!」
青年は上着を脱ぎ、そのまま少女に覆い被さろうとする。
「ここまでついてきて今さら さわぐんじゃねーよ!! ムダな抵抗はやめろ!!」
しかし少女は彼が思っている以上に暴れ、何発もパンチやキックを喰らってしまった。
思わず「ムダじゃない抵抗も やめろ!!」と青年は叫ぶ。
「海につれてってくれる約束よ!!」
怒る少女に構わず「だから それはおたのしみのあとだよ!!」と青年は飛びかかるが、またしても蹴りを喰らってしまった。
キレた青年は一旦、部屋の外へ出て……「悪魔!! でてこい!!」悪魔くんを呼び出す。
現れた悪魔くんに約束が全然違うじゃないか、と青年は文句を言う。すでに誰でもナンパできるという願いを叶えてもらった
後なのだが、その相手であるあの少女とうまくいかない、というわけだ。いいからちょっと待て、と悪魔くんは尻尾を使って
少女を調べた。その結果……
「あの女には すでにオレたちと同類がとりついている 思いどおりにはいかねェようだ」
「そのとおりだ」
それに答えるように死神くんが現れた。睨み合う二人と、訳が分からない青年。
「へへへ あきらめな あの女もうすぐ死ぬぜ」
「そして お前ももうすぐ死ぬぜ」
死神くんは青年に言った。
「だまれだまれ 仕事のじゃますんなよな」
「そっちこそ 彼女に手を出すなよ」
そして死神くんは、死ぬ前に海が見たいって言ってるのにいかがわしいところに連れ込みやがって、と青年を叱る。
「きたない手でさわるんじゃねーよ!!」
「なに〜 おりゃあ さっきウンコした時にちゃんと手 洗ったわい!!」
あまりに見当違いな反論に、悪魔くんと死神くんは揃ってずっこけた。
- 338 :FJ S60年12/23号 2/5 :2009/02/03(火) 22:03:05 ID:???
- ひとまずホテルを出た二人。あくまで海が見たいという彼女を青年は海まで連れて行くことにする。
車中で青年は彼女にとりついていたあのガキは一体何なんだ? と尋ねた。
「死神さん…」
驚く青年にもうすぐ死ぬの、と言う少女。それを聞いて、またスケベ心を起こし気持ちいい思い出作ろうじゃん、と彼女を
抱き寄せるが……いきなり右から耳を引っ張られた。窓の外から死神くんが見張っていたのだ。
「へんな気おこしたら ただじゃすまんぞ」
仕方なくあきらめ、どうしてそんなに海が見たいのかを少女に訊いた。
「わたしね… 海を見たことがないの…」
少女は生まれた時から体が弱く、家から一歩も外へ出たことがないのだという。
「外のことはなにも知らないの 知っているのは 窓から見える景色と テレビや雑誌で見る写真だけ…」
中でも彼女は、海に憧れた。テレビに映るその光景を、じっと見つめ続けた。
「海へ行ってみたいなアって…ずっと思っていたの だから思いきって死ぬ前に… 外へ出たのは今日が初めて
家の人以外で話しするのも あなたが最初よ」
「そいつは光栄だな」青年は笑った。「おめえも幸せ者だぜ オレと知り合うことができてよ」
と、少女が胸を押さえてうずくまった。いつもの発作だという。一旦車を止め、休憩するとなんとか治まったが、
彼女を探していた使用人達に見つかってしまった。彼等に連れ戻されそうになる少女を黙って見過ごそうとする青年に、
怒った死神くんが蹴りを入れた。
「彼女の命は あと数時間なんだ これでもう海を見ることもできなくなった… 彼女の 最後の願いだったのに」
――海をみたことがないの…
――外に出たのは今日が 初めて…
――家の人以外でお話するのもあなたが最初…
車に乗せられた少女を見て、青年は再び悪魔くんを呼んだ。「ふたつめの願いごとをいうぜ!!」
そして運転手が車に乗り込もうとしたその時、青年が彼にパンチを喰らわせた。他の二人もあっさり倒し、少女を自分の車に
乗せ、さっさとその場を去る。使用人達はすぐに、警察に連絡した。
- 339 :FJ S60年12/23号 3/5 :2009/02/03(火) 22:03:50 ID:???
- 驚く少女に、青年は自慢げに自分には悪魔がついているからな、と話す。魂と引き換えに、三つの願いを叶えてくれる、と。
そして一つ目で「誰でもナンパできますように」二つ目で「ケンカが強くなりますように」と願ったのだ。
だがそれは、すべて願いが叶ったら死ぬということ。少女は「いけないわ まだ若いんでしょ? 自分の欲望なんかで…」と
青年を諭すが、青年は「オレは オレのやりたいとおりにやりたいんでェ 他人が口出しするなよ!!」と一蹴した。
「おー あの青年なかなかいいこというな 人生は楽しく生きなくちゃ」
「けっ 彼女のいおうとしたことが正しいよ!!」
海岸近くに着き、二人は海へ向かって走り出した。が、途中で少女が歩けなくなってしまう。
めんどくさそうに「しょうがねーなー」と言う青年に「おんぶでもしてはこんだらどうなんだよ!!」と死神くんは文句を言う。
が、青年は「どうしてオレがこんなやつのために そこまでしなくちゃなんねーんだよ」と冷たい態度。
「それとも ちゃんと海までつれてったらキスぐらいしてくれんのかよー」
憤る死神くんだが、悪魔くんは「まったく そのとおりだ」と笑う。
こいつはお前ら金持ちと違って貧乏だから、一銭にもならんことはやらん主義なんだ、と。
それを聞いて少女は、「わかったわ ここからはわたしひとりでいく…」と言い、青年に礼を言った。
「お金はたくさんあっても わたしはカゴの中の鳥よ… 食べ物には不自由しないけど自由がないわ カゴから外へ
出ることが できないのよ あなたには自由があるわ 健康な体があるわ それは お金じゃ買えないものだもの」
一筋の涙が、少女の頬を伝う。そして一人歩き出そうとするが……青年が手を掛け、止めた。
「おんぶしてやるよ いっしょに行こうぜ」
そして青年は少女を背負い、走り出した。
「しっかりつかまってろよ!! 超特急だぜ」
「キャッv」
呆然とする悪魔くんと死神くん。
「どうだい!? なかなかの好青年ではないか!」
さっきとまるで違うことを言う悪魔くんに、死神くんはあきれた。
「あなた ホントはやさしいのね」
必死で走る青年に少女が言った。
「キスくらいなら…いいわよ…」
小声で言われ、青年は真っ赤になった。と、再び少女が苦しみだした。また発作がおきたのだ。
- 340 :FJ S60年12/23号 4/5 :2009/02/03(火) 22:04:37 ID:???
- 海まではまだだいぶ距離がある。「あの女海までもつのかよ」と尋ねる悪魔くんに、死神くんは言った。
「…おそらく…無理だと思う…」
すると「へぇ〜〜 そいつは いいこと聞いた!!」と悪魔くんは嫌な笑みを浮かべた。慌てて死神くんは止めようとするが、
「その女 もうじき死ぬぜ 海までもちゃしないぜ」
……言ってしまった。愕然とする青年と少女。
「てめ〜 今度という今度は あったまにきたぞ〜〜」
殴りかかろうとする死神くんを、悪魔くんは軽く押さえつけた。
少女の瞳から、涙が零れた。
「ごめん… ここでおろして ありがとう わたしのわがまま聞いてくれて…」
嗚咽が背中から聞こえ、青年は決意した。
「悪魔よオ オレの 3つめの…最後の願いかなえさせてくれ!!」
目論見通りになった悪魔くんは大喜び。
「だめ!! ここでおろして!!」
少女は止めた。
「あなた 自由があるじゃない いつでも動ける体があるじゃない!! わたしとちがって やろうと思えばなんだって
やれるじゃない こんなことで死ぬなんてバカよ!!」
しかし悪魔くんがなおも「オラオラ かわい子ちゃんを見捨てるなんて 男じゃないぞ」とそそのかす。
「だめ!! おろして!! でなきゃ わたし舌かんで 死んでやる!!」
悩んだ末、青年が出した答えは……そのまま全速力で走ることだった。
「やめて!! 走ってもムダなのよ!!」と少女はもう一度止めるが、青年は言い返した。
「今 走ってんのはおめーだよ オレじゃねえ!! おめえの意志が オレの足を使って走ってんだよ 一歩でも海に近づくために!!」
驚く少女。悪魔くんも唖然としていた。
「いやー まいった おめーの計画どおりだな」
皮肉る死神くんに悪魔くんは「このやろ〜〜」と歯噛みした。
必死で走る青年に、そっと頭を預ける少女。
「バカね あんた…」
そして、静かに言った。
「好きよ」
- 341 :FJ S60年12/23号 5/5 :2009/02/03(火) 22:05:13 ID:???
- 使用人が呼んだ警官に見つかったが、青年は構わず走り続け……ようやく波の音が聞こえてきた。太陽が昇り、夜が明ける。
ついに、二人は海に着いたのだ。青年は波打ち際に立った。
「やった…海だ… とうとう 海にきたんだ」
そして背中の少女に「オイ 海だぞ」と声をかけるが……。
少女は、何も言わなかった。目が、開くこともなかった。
それが何を意味するかを悟り、青年は、呆然と立ち尽くした。
波が寄せ、足が濡れていくのにも気づかず、ただただ、立ち尽くしていた。
やがて、少女の家の使用人達が警官と共に駆けつけた。事情を理解した彼等は青年を責めなかった。
『夜明けまでの命 自由をください』
彼女が残した手紙を見せ、「死ぬ前に こんなきれいな海を見ることができて 幸せだったと思います…」と
使用人の一人は泣いた。が、
「間に合わなかったよ…」青年は言った。「きれいな海は見れなかった… それどころかオレは 彼女にきたない物を
見せてしまった」
彼の目に涙が滲む。
「このオレを… 彼女は このオレを外に出て 一番最初に見てしまった きたないオレを見てしまったんだ
きたない人間を見てしまったんだ」
青年は何度も「ごめんよ!!」と繰り返し……涙が、もう動かない少女の頬に落ちた。
その後、青年は真面目に工事現場で働くようになった。ふと、こちらを見ている悪魔くんの姿を見つけた。
青年は言った。
「悪魔よ オレにつきまとってももうムダだぜ 自分のやりたいこと ほしい物 欲望 この体があればなんでもできる!!」
がっかりして帰る悪魔くん。そんな青年を、死神くんは笑顔で見守っていた。
青年は空を見上げた。
「仕事が終わったら 海でも見に行くか…」
- 342 :マロン名無しさん :2009/02/03(火) 22:48:03 ID:???
- まあ2つの願いが叶えられたままだから上手いことやれば人生生きやすいだろな
- 343 :マロン名無しさん :2009/02/04(水) 08:41:16 ID:???
- なんか死神くんが女の子のお父さんみたいだw
- 344 :マロン名無しさん :2009/02/04(水) 10:56:45 ID:???
- 親は海を見せてやろうとは思わなかったのか?
- 345 :マロン名無しさん :2009/02/04(水) 17:45:41 ID:???
- そういえば最後にお嬢様の周りにいる人も(青年のぞいて)全員使用人ぽかったし、あんまり親に構われてなかったのかも
- 346 :マロン名無しさん :2009/02/04(水) 23:38:03 ID:???
- また悪魔くんはただ働きか
死神くんみたいに上司がいたら「また魂をとってこられなかったのか!」とかいつも怒られてるんだろうな…
- 347 :マロン名無しさん :2009/02/05(木) 00:04:07 ID:???
- >自分のやりたいこと ほしい物 欲望 この体があればなんでもできる!!」
そりゃあ「誰でもナンパできて」「絶対ケンカに負けない」身体なら、なんでもできるわ
- 348 :FJ S61年1/23号 1/5 :2009/02/05(木) 22:06:44 ID:???
- クリスマスの晩。
「ただいま」
誰かが家に来た気配で、孝は目を覚ました。
「あなた… お帰りなさい…」
母がその人物を出迎える。
「長い間おつとめ ごくろうさまです…」
起きた孝が「だれか来たの?」と訊くと、母は涙を滲ませながら、言った。
「お父さんよ お父さんが帰ってきたのよ」
玄関には、無精髭の生えた男の人が立っていた。
第30話 正義の味方の巻
翌日。友達と遊んでいた孝はとんでもないことを聞かされた。
「お前の父ちゃん 人殺しなんだってよ」
驚く孝に、友達はさらに続ける。
「うそじゃないぜ 母ちゃんから聞いたことなんだけどさ 人を殺して 長い間刑務所に入っててさ で きのう
出てきたんだってさ」
「すごいよなァ「人殺しの父ちゃん」なんて」
「こわくねえかァ?」
孝は思う。確かに自分には、ずっとお父さんがいなかったし、お母さんも何も言ってくれなかった。
(そういうわけだったんだ…)
人殺し――その言葉が何度も孝の頭の中でリフレインした。
帰るなりいきなり父親に「お前は 人を殺して刑務所に入っていたのか!?」と訊く孝を、母は「お父さんになんてことを!!」
と叱る。が、孝は「ボクは お前に聞いてんだ!! 本当に人を殺したのか!?」と構わず尋ねる。
それを聞いて父は、
「ああ…そうだ…」静かに頷いた。
- 349 :FJ S61年1/23号 2/5 :2009/02/05(木) 22:07:30 ID:???
- 「お前なんか ボクのお父さんなんかじゃないやい!!」
言い放つ孝を再び母は叱ろうとするが、父は止めた。
「本当のことなんだ しかたがない…」
孝は父にあかんべーをして、部屋を出て行った。
「しかたないさ だれだって自分の父親が人殺しなんて信じたくないもんな」
「あなた…」
「それより 元気にそだっているようだな」
「ええ もう手が つけられなくて」
母はようやく笑顔になった。
一人ブランコに乗る孝。
目の前を、父親に連れられた他の子供が通り過ぎる。肩車をされた子を見ながら、自分も父親に肩車をしてもらったり、
一緒にお風呂に入ったり、キャッチボールをする所を思い浮かべる。と、
「お〜い 孝〜 ただいま〜」
父が帰ってきて、孝は慌てて逃げていった。
その後も孝は、徹底的に父を避け続けた。
キャッチボールをしようと言われても無視し、夕食の席でも背を向けて座り、寝るときも布団を父から離して寝た。
なかなか懐いてくれないわね、と母は心配するが、父はまだ慣れてないんだ、とあまり気にしてない様子。
「それより 就職先が決まったぞ」
「まあ よかった!」
そこへ、いつもの友達二人が孝を遊びに誘いに来る。孝は元気よく出かけていった。
三人は廃墟となったビルに遊びに来た。
「どうだ? 孝 人殺しの父ちゃんは」
あんまり仲良くすると殺されちまうぜ、と笑う友達に苦笑いする孝。彼は友達に誘われるまま廃墟の地下室に入ろうとするが、
『あぶない 入っちゃだめだ』
いきなり孝の頭の中に、声が響いた。が、孝は一瞬、ためらったもののそのまま地下へ行ってしまった。
「あーあ 入っちゃった 忠告してやったのに」
死神くんが三人が入っていった入り口を見つめ、つぶやいた。
「あぶないなァ」
- 350 :FJ S61年1/23号 3/5 :2009/02/05(木) 22:10:02 ID:???
- 懐中電灯で中を照らしながら、地下を探検する三人。オバケが出そうだろ、とふざけて遊んでいたが――突然、地響きと共に
地面が揺れだした。地震だ。もろくなっていた柱はたちまち崩れ、入り口は完全に塞がれてしまった。
「ホーラ いわんこっちゃない」
死神くんは、孝の父の元へ行き、彼等がビルの下にいることを伝える。自分が行くよりは、彼が助けに行ったほうがいいと
判断したからだ。父は大急ぎで、孝たちの元へ向かった。
三人は肩車しあって天井の穴から出ようとするが、全然届かない。
仕方なくあきらめ、「きっと正義の味方が助けに来てくれるよ」と助けを待つことにした。
「キン肉マンが来てくれるよ」
「オレ ラーメンマンがいい!」
「ボク ロビン!」
などとのんきに話し合っていると、穴から「おーい」と声が。が、顔を覗かせたのは孝の父。
友達二人はすっかりビビってしまい、彼が降りてきて手を差し伸べても「わ〜 殺される〜」「助けて〜〜」と泣き叫ぶ。
そして孝も、差し出された手を振り払った。
「お前なんか来なくても 正義の味方が来てくれるよ!!」
それなら正義の味方が来るまで待つか、とその場に腰を下ろす父親。が、「悪いけど そんなにゆっくりはできないんだよ」と
死神くんがささやく。直後、彼の隣の柱が孝達の方に向かって倒れ始めた!
すかさず孝の父がその下に入り、両腕で柱を支えたため、三人は下敷きにならずにすんだ。彼の額から一筋の血が流れ落ちる。
柱はうまい具合に、天井の穴に届く坂になった。父親は三人に柱を登って人を呼んでくるように頼むが、
三人は「だまされるな! 近づいたら殺されっどー」と警戒して動こうとしない。
「孝… 早くしろ 正義の味方なんて 来やしないぞ!!」
再び崩れる天井。不意に、父親が口を開いた。
「孝… たしかにオレは人を殺した… あの時…… お前が生まれてまもない頃だ」
その日、外出した帰りに夜の公園を歩いていた所へ不良達が現れ、彼等に金を要求した。父は女房と子供に手を出すな、と
金を渡そうとしたのだが……
- 351 :FJ S61年1/23号 4/5 :2009/02/05(木) 22:10:59 ID:???
- 「オレにもだっこさせろよ」
不良の一人が、孝にちょっかいを出したのだ。思わず父は不良に掴みかかり、ナイフを出してきた彼を投げ飛ばしてしまった。
「父さん 柔道をやっていたからな 相手を投げ倒すのはわけなかったんだ」
が、力が入り過ぎてしまい、その不良は全身を強打し、ショック死してしまった。
そして彼は、人を殺した罪で刑務所に入ることになったのだ。
「お父さん 必死だったよ お母さん…孝…家庭を守るのはお父さんの仕事だからな…」
また天井が崩れだした。父親の表情も歪んでいく。死神くんは大急ぎで警察に電話しに向かった。
「こんなことなら はじめから警察に連絡すればよかった あの親子のためにと思って やったことなんだが」
孝の父は、もうかなり苦しそうだった。
「オレが 力つきたら この柱の下じきになってしまうだろう そしたら…もう孝とは会えなくなるかもしれない」
はっとする孝。
「短い間だったな… 父親らしいこと なにもしてやれなかった…」
孝はただじっと、父の姿を見つめていた。
「最後の父さんのお願いだ… 顔を見せてくれ おぼえておきたいんだ」
すると、
「死んじゃ… だめ… 父さん…」
孝が、小声で何かつぶやいた。
「死んじゃ いやだ… お父さん…」
その目から、涙がこぼれる。
「お父さん死なないで!!」
孝の叫びに、驚く父。
- 352 :FJ S61年1/23号 5/5 :2009/02/05(木) 22:11:41 ID:???
- 「せっかく お父さんができたのに死んじゃ やだ!」
孝は立ち上がった。
「いっぱいやってほしいことあるんだ たくさんあるんだ かたぐるましてほしいんだ いっしょにお風呂入ってほしいんだ
いっしょにドライブにつれてってほしいんだ キャッチボールしてほしいんだ」
「孝」
「人殺しだろうと 人がなんと言おうと ボクのたった ひとりのお父さんだもん 死なないで!!」
抱きつき、泣きじゃくる孝の姿に、父の目からも涙がこぼれる。が、また天井が崩れだした。まだ救援がくる気配はない。
「みんなこっちへこい!! この柱の下の方が安全だ!!」
今度ばかりは、友達二人もおとなしく従った。柱の上にも、さらに瓦礫が落ちる。心配する孝に、父はお父さんは
こんなことではへこたれんぞ、と力強く言う。
「大じょうぶだ!」
それからしばらくして、孝の父は目を覚ました。気を失っていたらしい。すぐ側には、孝の姿があった。
互いに抱き合い、笑顔になる二人。
「今年は最高の正月を むかえられそうだな」
と、ドアをノックする音が。友達二人が見舞いに来たのだ。
二人は笑顔で、花束を差し出した。
「おじさん」
「正義の味方だったんだね!!」
その言葉に、満面の笑みを浮かべる孝。
「正義の味方か… オレは女神に会ったぞ」
父は窓の外を見て、つぶやいた。
「ひょっとして オレのことかな?」
木の枝の上で、死神くんは顔を赤くした。
- 353 :マロン名無しさん :2009/02/05(木) 22:56:11 ID:???
- 過剰防衛でも執行猶予つくと思うんだけど…
実刑になってもせいぜい二、三年では
- 354 :マロン名無しさん :2009/02/06(金) 01:38:46 ID:???
- 女神か…実は死神くんは女だったんだよ!ΩΩΩ
- 355 :マロン名無しさん :2009/02/06(金) 20:39:34 ID:???
- 一体どこを見て死神くんを女だと思ったんだろ?
- 356 :マロン名無しさん :2009/02/06(金) 23:13:16 ID:???
- かわいい女の子じゃないか
- 357 :マロン名無しさん :2009/02/06(金) 23:31:55 ID:???
- 死神くん・・・死神ちゃんだったんだ!!
- 358 :マロン名無しさん :2009/02/07(土) 01:35:05 ID:???
- >>355
ともだちんこをしようとしたんじゃないか?
- 359 :マロン名無しさん :2009/02/08(日) 14:55:58 ID:???
- 死神は繁殖しないだろうから性別がある必要はないな
- 360 :マロン名無しさん :2009/02/08(日) 20:43:49 ID:???
- そういえばまがりなりにも神様なんだよな・・・
- 361 :FJ S61年2/23号 1/4 :2009/02/09(月) 22:03:29 ID:???
- 第31話 家庭の味の巻
とある老人ホームの縁側に、眼鏡をかけたおじいさんがぼんやりと座っていた。
そこへ死神くんが現れ「高橋寅二郎さんだね? あんたあと二か月の命だよ」と告げるが……
「あんれー おとなりのたつ坊じゃないか 戦争にいったまま帰ってこないと思ったら元気そうじゃな!」
すっかりボケてしまっているらしく、死神くんを他の誰かと勘違いしている。おそらく、死神くんの言っていることも
全然わかっていないだろう。
「しかし 考えようによっちゃ幸せなのかも知れないな 死ぬ恐怖を知らないのだから」
やがて施設の職員がやってきて、寅二郎は検診へ連れて行かれた。
「おおっ そうじゃ 藤本はどうした? 藤本 尚(ひさし)じゃ」
不意に寅二郎が言った。
「あれ以来会っていないが 元気でやっておるか?」
藤本電機の社長、尚は会議を終え、一息ついていた。そこへ死神くんが現れ、驚くが、寅二郎の名を聞くと、顔色が変わった。
「なぜ…なぜ…その人の名前を…?」
「あんたに会いたがっていたぜ 死ぬ前に会ってやってくれないか?」
それを聞いて尚はすぐに彼がいる施設に行った。が、彼の姿を見ても寅二郎は「あんた だれ?」と言うばかり。
尚は思いきって、寅二郎を自宅に引き取ることにした。子供達や妻は嫌がるが、尚にはそこまでしなければならない
理由があった。
二十年前。
尚は就職した会社が次々と倒産、自分で経営した会社もひと月も持たず、失望して橋から飛び降り自殺しようとしていた。と、
「今 なん時ですかな?」
通りかかった老夫婦が声をかけ、腕を掴んだ。その二人こそ、高橋寅二郎とその妻だった。
- 362 :FJ S61年2/23号 2/4 :2009/02/09(月) 22:04:26 ID:???
- 「な…何をする!! はなせ!!」
「はなしたら あんた落ちてしまいますよ」
「バッキャロ! オレは死ぬつもりだ ほっといてくれ!!」
と、尚のお腹が鳴った。二人は何か食べてからでも遅くはない、と彼を自宅に招く。
夫妻の家は、かなり貧しいことが伺えるボロ屋だった。出された食事もご飯に味噌汁、焼き魚の質素なもの。
空腹に負け、尚は勢いよくご飯をかきこんだ。
その姿を見ながら寅二郎は言う。
「わしら 結婚して三十年になりますが 子どもはできませんでした… もし子どもがいたら あなたぐらいに成長している
ことでしょうな」
「死ぬのはやめてください 自分の息子のように思えて苦しいです」
妻も、涙を滲ませた。
「死ぬ気でやれば なんだってできますよ」
そしてお金がないのならどうぞ、と一万円札を三枚差し出した。
「住む所がないのならここに 住みなさい 悩み事があれば いつでも相談してください だから 死ぬなんてこと
考えないで!! わしらが応援します がんばりなさい!!」
尚の目に、涙が浮かんだ。
「オレ 人にこんなにやさしくしてもらったの初めてです… こんなにあたたかくておいしい食事も初めてです…」
尚は食事を終え、二人に礼を言うとお金を手に立ち上がった。
「オレ もう一回ガンバリます!! このおかね貸してください きっと倍にして返します」
寅二郎は穏やかな顔で「いいんですよ…」と言うが、尚は力強く言った。
「藤本 尚 このご恩は一生 わすれません!!」
あれから二十年が過ぎ、あの時借りたお金で興した藤本電機は立派な会社になっていた。
「高橋さん… やっと借りを返す時がきた――」
こうして寅二郎は尚の家で暮らし始めたが、長男の部屋をトイレと間違えたり、長女のパンツで鼻をかんだり、
妻を死んだ奥さんと勘違いしてバアさんと呼んだりで、家族からは文句が集中する。
ただ一人、小学生の次女、美幸だけは寅二郎と楽しそうに遊んでいた。
「美幸 おじいさんと遊んでて楽しいかい?」
「うん! だって パパもママもお姉ちゃんもお兄ちゃんも ちっとも遊んでくれないんだもん」
- 363 :FJ S61年2/23号 3/4 :2009/02/09(月) 22:05:21 ID:???
- 寅二郎の病状について医師から話を聞く尚。彼は三年前に妻に先立たれた後、痴呆症になったという。
「これといった治療法はありません 束縛せずにおじいちゃんの話をよく聞いてやってください」
その帰り、死神くんに会った尚は本当に寅二郎の余命があと二か月なのかを尋ねる。
「ああ 正確には58日だ 痴呆症が治るとは思えないけどね」
尚は思う。
(高橋さんは私を覚えてない こんなことで恩返しができるのだろうか…?)
翌日。尚は大工を呼んで二十年前に寅二郎が住んでいた家を再現させた。が、寅二郎は何も思い出さないどころか、
トイレと勘違いしてしまう。
今度は最初に会った橋に連れて行った。しかし今は架け替えられ違う橋になっている。
尚はさっそく、二十年前と同じ橋を再現させる。
「ムダな努力じゃないかねえ」と死神くんは言うが、尚は本気だ。
「なんとしても 私のことを思い出してもらわなくては あなたのためなら どんなことでもやりますよ」
だが、そのため尚はほとんど会社に出なくなってしまった。会議も重要な取引も専務に任せきりになり、会社の金も
大量に使っていた。社員達の間にも不穏な空気が流れ始める。
「また売り上げが落ちたんだぜ」
「どうなるんだ? うちの会社」
そうして頑張ったのにも関わらず、寅二郎は何も思い出す様子はなかった。
死神くんは「もう十分だ よくやったよ」と尚を励ますが、彼はそう思ってはいなかった。
寅二郎は自分が誰のために何をやったのかわかってないのだから。
と、寅二郎が向こうから美幸が来たのを見て「み…美幸ちゃん…」と名前を呼んだ。彼女も大喜びだ。
尚は思う。そういえば、自分は仕事ばかりで子供達と遊ぶこともなかった。そのためか、長女も長男もひねくれた性格に
なってしまった……。
「予定まで あと一週間だ」
そう告げて、死神くんは消えた。
- 364 :FJ S61年2/23号 3/4 :2009/02/09(月) 22:06:14 ID:???
- 翌日、出社した尚の元に不渡りが出たという知らせが入った。会社の金庫のを使おうとするが、すでに役員の何人かが
持ち逃げしている上、それでは賄えない金額だった。取引を中止する会社も相次ぎ、銀行からも苦情が来ているという。
退職希望をする者も多く出て……ついに、会社は倒産してしまった。
家族は寅二郎を疫病神となじり「私たち これからどうなるのよ!!」と尚を責める。
「やかましい!!」思わず尚は怒鳴っていた。
ベランダに立ち、こんなボケ老人のためにすべてを失ってしまった……と嘆く尚。そこに死神くんが現れ、言う。
「失ったものは もともとその老人からもらったものじゃないか 老人に全部返したのだと思えばいいじゃないか」
これで恩返しは終わり、また一からやり直しなと死神くんは尚に言うが、彼の表情は暗かった。
「私は やり直せるほど若くない… もう終わりだ… なにもかも…」
それまで住んでいた家を出、一家は新しい家へと引っ越した。そこは今まで住んでいた家とは比べ物にならないほど
狭く、汚いボロ屋だった。
とりあえず食事にしましょう、と母親は十年ぶりの料理を作る。ご飯に焼魚、漬物のこれまた今までと比べると質素なものだ。
「エヘ おいしい!」
笑顔で食事をする美幸。
「ホラ おじいちゃんもおいしいって!」
尚は驚いた。
寅二郎が、今まで見たことがないほど必死で食事を口に運んでいた。それも「うまい…」と言いながら。
視線が、尚の方を見る。そして……
「ふ…藤本…」
ついにその名が口から出た。尚のことを思い出したのだ。
寅二郎は泣きながら「ありがとう…」と家族一人一人を見ながらお礼を言った。尚はたまらず、寅二郎の手を握った。
「これだったんですね 高橋さん あなたののぞんでいたことは これだったんですね 二十年前の私と同じ…
これだったんですね…」
いつしか尚の目からも、涙が流れていた。
それから三日後、寅二郎は予定通りに亡くなった。
その墓参りをし、家に帰る一家の表情は明るかった。
金も地位も失ったが、家族の笑顔と対話という、大切なものが残ったのだ。
「私は また高橋さんに教えられたようだな」
- 365 :マロン名無しさん :2009/02/09(月) 22:12:05 ID:???
- 死神くんはそんな斡旋の仕事までするのか
いくらなんでも口だし過ぎだろ
- 366 :マロン名無しさん :2009/02/09(月) 22:17:35 ID:???
- さすがにこれは社長の独りよがりでは・・・
家族に心の幸せが戻ったとしても、路頭に迷った社員が数多くいるだろーに
- 367 :FJ S61年3/23号 1/6 :2009/02/11(水) 22:05:29 ID:???
- 第32話 あこがれの私の巻
「やあ! 君は…」
いきなり男子生徒に声を掛けられ、絵理は戸惑った。しかも掛けてきた相手はずっと憧れていた上条。
上条はすぐに「ごめん 人ちがいのようだ…」と去っていったが、絵理は嬉しさに舞い上がる。
彼女は上条にプレゼントするためにずっとセーターを編んでいるのだ。
(でも 私をだれかとまちがえたみたいだけど… つきあってる人いるのかしら… 私なんかじゃだめよね)
と、
『バッカだなア せっかくのチャンスを』
いきなり聞こえた声に、絵理は辺りを見回すが、誰もいなかった。
昔からこういうことがよくあった。話しかけてきているというよりは、誰かが心の中に呼びかけている、そんな感じが。
帰宅すると、自分では絶対着ないような派手な服が自室に置かれていた。母親に聞くと、昨日絵理が自分で買ったと言う。
これも何度かあることで、タンスには買った覚えのない服がたくさんあった。
「私 もしかしたら二重人格なのかなア…」
絵理はベッドに横になり、やがてうたた寝を始めた……と思いきや、その目が見開かれ、起き上がる。
そして先程までのおとなしい様子とはうって変わって、派手な服を身につけ「ちょっと友だちの家にね――っ」と
出かけていった。母親も思わず「あんたの性格わからんわ」とつぶやく。
向かった先は地下鉄の駅前。待っていたのは上条だった。
「上条さーん」
明るく絵理が声を掛けると、
「やあ 由理!」
彼は絵理を『由理』と呼んだ。
二人は喫茶店に入り、おしゃべりを始めた。
彼と『由理』は出会い頭に彼女が「好きです!」と告白したことがきっかけでつきあい始めたのだ。
- 368 :FJ S61年3/23号 2/6 :2009/02/11(水) 22:07:26 ID:???
- 「うちの学校にサ 君とそっくりな子がいてさ おれなんかまちがえちゃったよ」
「へエー ね その子どんな子?」
「うん… おとなしくて目だたない子だよ」
「アハハ もしかしたら私とその子 双子かもよ」
「まさか」
上条はそろそろ住所や電話番号を教えてくれよ、と言うが『由理』は「それはヒ・ミ・ツ」とはぐらかす。その時、
(あれ? ここどこだろ?)眠っていた絵理は目を覚ました。
(私 自分の部屋で横になって…そのままねむって…)
「あっ やばい!」
『由理』は急にうつむいた。
「えっ? どうしたんだい?」
そして眠そうな目で上条を見つめたかと思うと……
「かっ 上条さん!!」
いきなり真っ赤になって立ち上がり、悲鳴を上げて逃げ出した。
「おい 由理! どうしたんだよ!?」
上条が呼びかけるが、自分は『絵理』だ。『由理』なんて名前じゃない。
一体何がどうなっているのか、どうして自分がこんなところにいるのか……すると、
『なにも逃げだすことないじゃない』
また例の声が聞こえた。
「いったい だれなの? 私に話しかけないで!!」
『そんなに きらわないでよ 昔からいっしょだったんだし』
「やめて!!」絵理は耳を塞いだ。「私の中から出ていって!!」
直後、絵理の腹部に激痛が走った。ようやく追いついた上条が救急車を呼びに行く。
「救急車を呼びに行ったか…」突然、絵理の目の前に子供が現れた。「…ということは 病院に行くことになるな」
「あなた…だれ?」
尋ねる絵理に子供は……死神くんは名刺を渡した。青ざめる彼女に死神くんは言う。
「安心しな 死ぬのはあんたじゃない もうひとりのあんただ!!」
絵理は、意識を失った。
- 369 :FJ S61年3/23号 3/6 :2009/02/11(水) 22:08:48 ID:???
- 病院での検査の結果、絵理の腹部に十センチ大の腫瘍があることがわかった。しかもそれには人の脳や未熟な体の一部が
入っているという。
母には心当たりがあった。絵理を妊娠したとき、医師からは双子だと言われたのだが、実際に生まれたのは絵理一人だけだった。
もしも女の子だったら絵理、由理と名前をつけることも考えていたのだ。
それを聞いた医師はこう診断を下した。双子で生まれるはずだったもう一人(つまり由理)は、成長の過程で絵理の体の中に
包み込まれてしまったのだ。
「良性の腫瘍ですから心配はいりませんが 摘出したほうがいいでしょう」
その晩、絵理の前に再び死神くんが現れ、彼女の中から彼女そっくりの顔をした魂を引っ張り出した。
双子で生まれてくるはずだった妹の由理だ。
「あなたが…あなただったのね 私の体の中で私に呼びかけていたのは!」
「エヘ ごめーん 勝手なことばかりして…」
由理は悪びれた様子もなく、笑顔で謝った。
「姉さんが寝てる間は 私が外に出て動いていたんだ 上条さんとも お友だちになれたのよ」
「バカ! よけいなことしないで!!」
絵理はノートを由理に向かって投げつけた。
「だって見ちゃいられないもの 私じれったくなっちゃってさ ひっこみじあんで内気で陰気で友だちもいないし
つまんないわアー」
「うるさいわね!!」絵理は泣いた。「あんたなんか早くどこかへ行ってよ!!」
「いわれなくてもいくよ」
と、死神くんが言った。彼女の寿命は手術が行われる二日後なのだ。
死神くんは絵理に、由理に一日だけ体を貸してやってくれないかと頼む。最後に自由に動きたいと願っているのだ。
「ねー たのむよ お姉ちゃーん」由理も軽い調子で頼む。「私 あと2日の命なんだよー かわいそうだと思わない?」
絵理は悩んだが……結局、体を貸すことにした。
- 370 :FJ S61年3/23号 4/6 :2009/02/11(水) 22:15:54 ID:???
- 翌日。体を貸してもらった由理は、上条と遊園地へ行き、楽しそうに遊んでいた。
明るく活発な由理の様子を見ながら、私と違って輝いている、と思う絵理。
「私 ホントはあんな女の子になりたかったんだ あんなステキな女の子に… 死神さんもそう思うでしょ?」
「べつに…」
「うらやましいわ…」
絵理の目に涙が滲んだ。
「私なんかより あの子があのままずっと…」
日が暮れてからも、まだはしゃぎまわっている由理。貴重な時間を楽しんでいるのだ。と、
「ね キスして」
いきなり由理にそう言われ、上条はもちろん、絵理も驚きのあまり真っ赤になった。
「私のこと好きなら……」
二人は見つめあい、顔が少しずつ近付いていく――
「だめ――っ やめて――っ」
思わず絵理が叫んだ瞬間、
「な〜んてね ジョーダン!」慌てて由理は後ろを向いた。「やだア 上条さん 本気になっちゃって〜〜っ」
「なんだよ! オイこら」
「アハハハハ」
そんな二人を見ながら、絵理はやきもちを焼くあまり邪魔したことを恥じる。
「お似合いのカップルなのに… あの子にとって 大切な思い出になるのにね いじわるな姉さんが じゃましてるって
感じだわ」
「上条くん 私 もう会えない」由理は言った。「私 もう いなくなっちゃうから わかるでしょ?」
「あ…ああ」
いつの間にか由理も、目に涙を浮かべていた。
「わたしのお姉ちゃん上条くんのこと好きなんだ だからつきあってあげて!」
驚く絵理。
「こわくないのかい? 自分の人生が終わっちゃうなんて…」
「もともと私に人生なんかないわ」
上条の問いに、由理は明るく答えた。
- 371 :FJ S61年3/23号 5/6 :2009/02/11(水) 22:16:43 ID:???
- そして、手術当日。
死神くんは魂の二人にもう会うことはないから何か言い残すことはないか、と二人に尋ねるが、
「なにもないわ! じゃ 先に行ってる!」
何故か絵理はさっさと手術室の外へ出て行ってしまった。
「あれー お姉ちゃんどうしたの?」
不思議がる由理に、死神くんが説明する。絵理が、これから先由理が自分の代わりに生きることを望んでいる、と。
あとは由理が承諾すれば、それは実行されるのだ。
「姉さんは…お姉さんはどうなるの!?」
「言わなくてもわかるだろ? 君と入れかわるのだから」
言葉が出ない由理。が……
「本当に 私が生きてゆけるのね」
「ああ どうするんだい?」
改めて尋ねられ、由理は……部屋中に響く、大きな声で笑った。
そして、手術が終わり、
「気がついたかい…」
母の呼びかける声に目を覚ましたのは、
「私… 私 生きてる… うそ… どうして…?」
――絵理だった。
「あの子…死んじゃった」
何も知らない母は、その言葉を不思議がる。
「妹が…由理が死んじゃった!! どうして! どうしてなの!? 死神さんのうそつき!! 私は こんなことのぞんじゃいないのに!!」
- 372 :FJ S61年3/23号 6/6 :2009/02/11(水) 22:17:44 ID:???
- 数日後。退院した絵理は編み終わったセーターを手に、上条の家へ向かう。
歩きながら絵理は、由理との最後の別れを思い出していた。
あの後、死神くんが話をしたいと言っている、と由理を連れてきた。
「ありがとうお姉ちゃん うれしかったよ」
由理は笑顔だった。
「私 学校に行ってないからサ 頭悪いし 世の中のことぜんぜん知らないもんネ だめだよ それにお姉ちゃんみたいに
セーター編めないもの! そして…」
由理は目を伏せた。
「お姉ちゃんみたいな やさしい心がないもん!!」
その目に涙が滲む。
「お姉ちゃんみたいな女の子 みんな あこがれているもの ステキよ だから死なないで 私の分まで生きて!
お姉ちゃん ありがとう」
「由理」
絵理も涙を流し……そして二人は最後に手をしっかりと握り合った。
由理は静かに消えていった。
上条にセーターを渡し、告白しようとする絵理。
由理が「勇気出して!」と応援する姿を思い浮かべるが、緊張のあまり言葉が出ない。
(だめよ! だめだわ!! やっぱり私ってだめな女の子! こんな女の子 上条さんにきらわれる!)
と、上条が手を差し出した。
「また前と同じく 仲よくやろうよ! 絵理さん!」
二人は、握手を交わした。
- 373 :マロン名無しさん :2009/02/11(水) 22:28:54 ID:???
- ピノコみたいだな
- 374 :マロン名無しさん :2009/02/12(木) 00:18:27 ID:???
- 自分もピノコ想像した。
この世界にもBJ先生が居たらなぁ…
- 375 :マロン名無しさん :2009/02/12(木) 03:18:47 ID:???
- 魂が入れ替わっても脳みそは絵理のものだから勉強できないのかな?
- 376 :FJ S61年4/23号 1/5 :2009/02/13(金) 22:08:13 ID:???
- 第33話 自殺志願の巻
雪深い山奥を、一人の少女が歩いていた。
「こんな所でいいかなァ だれもこないだろうし」
少女は膝を抱え、静かに腰を下ろす。そこへ、死神くんが現れた。慣れているのか、少女は笑顔で挨拶する。
「エヘ またお会いしましたね 死神くん!」
「お前も しつこいねェ」
死神くんも呆れる。少女は雪に埋もれて凍死するんだ、と楽しそうだ。
「ねェ 凍死って 痛みがなくて気持ちがいいんですって 知ってた?」
「知るかよォ」
まったく世話のやける子だ、とぼやきながら消える死神くんに、少女はあかんべーをした。
雪の上に横になり、目を閉じる少女。と、誰かが顔をのぞき込んでいるのに気がつき、目を開けると……
「オイ だいじょうぶか?」
髭もじゃの中年男性が、顔を覗き込んでいた。思わず「キャーッ 熊!!」と少女は悲鳴を上げる。
「なにしてるんだ こんな所にいたら凍死してしまうぞ」
「う…うるさいわね!! 私のことはほっといてよ」
少女は逃げ出すが、立ち入り禁止の場所にある深い穴に落ち、足を挫いてしまった。
男がロープを伝って助けに行くが、少女は「助けにこなくていいのよ!!」と拒否する。と、腐っていたのか、
ロープが切れて男も穴に落ちてしまった。男は他にも出口はある、と少女の手を引いて連れて行こうとするが、
少女は「ほっといてったら! 私 死ぬつもりで来たんだから!!」と手を振り払った。
それを聞いた男は、少女の頬を思い切り叩いた。
「いい若いもんが死ぬとはなにごとだ!! 親からもらった命を なんだと思ってやがる!!」
「な…なによ!! なにすんのよ!! 私の気持ちも知らないくせに!!」
頬を押さえて泣く少女に、男は理由も聞かず殴ったことを素直に謝った。
「しかし 親に心配かけるのはよくないぞ」
「私の親は本当の親じゃないもん 私 捨て子だもん」
「捨て子!?」
男は少女の言葉に驚いた。少女の父親は新川竹三といい、会社の社長なのだという。
- 377 :FJ S61年4/23号 2/5 :2009/02/13(金) 22:09:45 ID:???
- 「新川… まさか 新川産業の」
「うん そうだよ おじさん知ってるの?」
「い…いや 有名じゃないか だれでも知ってることさ」
少女は話を続けた。
ある日彼女は両親が話し合っているのをこっそり立ち聞きしてしまったのだ。自分がまだ赤ん坊の頃、家の前に捨てられていて、
子供に恵まれなかった新川夫妻が養子にしたのだということを。
ショックを受け、何もかもが嫌になった彼女は自殺をしようとしたのだが……
「ねっ おじさん 死神って信じる?」
「死神ィ!?」
「そう 死神があらわれてね 私に こう言うんだ 『お前は まだ死ぬ人間じゃない!!』…だってさ」
それ以来、少女が自殺を図ろうとするたびに、死神くんが現れ、阻止しているのだ。
「とにかく 親に心配かけるんじゃない」と、男は歩けない少女を背負い、出口へ向かった。この洞窟には地上に出られる
穴がいくつか開いていて、毎年何人かが落ちて怪我をしているのだ。
「おじさん この近くに住んでるの?」
少女が話しかけた。
「ああ…」
「奥さん いるんでしょ?」
「ん……死んじまったよ」
「あ…悪いこときいちゃったね…」
「いや…いいんだ 十七年ほど前… オレは 売れない画家で 女房にゃ 苦労ばかりかけていた…」
「わあ おじさん画家なの!?」
少女は目を輝かせた。
「私も 絵かくの好きなんだ 美大に進学したいんだけど親が反対してさ…」
「自分の道は自分で決めるもんだ」
「そうよねェ! おじさんいいこというね!! それで 奥さんどうしたの?」
「子供を産んだあと体が弱くなってな… 病院の入退院をくりかえして… 三か月ほどで子供をのこして死んじまった…」
その後、借金取りから逃れるために、こんな山奥に来たのだという。
「へェー じゃ 今子どもがいるの?」
その問いに、男は少し間を置いて「……ああ… いるよ……」と答えた。
そして「足 だいじょうぶか?」と少女に尋ねるが、「おじさんが ぶった ほっぺの方がずっといたいわよ!」と返された。
- 378 :FJ S61年4/23号 3/5 :2009/02/13(金) 22:11:01 ID:???
- 「人に なぐられるなんて 初めてだわ 親にもなぐられたことないのに」
「そりゃ 親が悪いな 子どもが悪いことしたらしかるもんだ あまやかすから お前みたいな子に育ってしまう…」
「悪かったわねェ!」
そう言いつつも、少女は男の背中に寄りかかった。
「おじさんの背中 あったかいね… おじさんになぐられた時 いたかったけどやさしさみたいなものが伝わってきたよ
おじさんが 私のお父さんだったらいいのにね… ねっ 私のお父さんになってよ!」
男は目を瞠った。
「もし… 本当の父親が…お前を捨てた父親が 目の前にあらわれたらどうする?」
「私 ゆるさないわ ひっぱたいてやるわ!!」
その言葉に、男は何も言わず微笑んだ。
二人はようやく、外に出られる穴に着いた。だが外へ出るには一人がもう一人を肩車しなければいけない。
男は少女を肩車し、二人で壁を登っていった。だがまだ穴までは距離がある。
「オレの頭の上にのれ!」
少女は言われたとおりにするが、まだ届かない。
「そこに ロープがあるだろ? それに つかまって出るんだ」
「やだーっ こわい〜っ ロープが切れそ〜〜っ!!」
それでも「ガタガタもんくばっかり言うな!!」と男に叱咤され、なんとか少女は地上に上がることが出来た。が、何故か
男は少女に、そのまま山を下りて俺の事は誰にも言うな、と言う。
「どうして?」
尋ねる少女に、男は言った。
「オレも死神に会った そして 今日死ぬと 宣告されたんだ」
――少女は言葉を失った。
「う… うそ うそでしょ?」
「いや ホントだよ」
突然現れた死神くんも肯定する。
山が好きだからこの山で死ぬことが出来れば幸せだ、お前はもう行け、と男は言うが、少女は「いやよ! おじさんが
助からないのなら私もいっしょにここにいる また おりちゃう!」と言って本当に下りようとする。慌てて止める死神くん。
「わかったわかった わかったから人を呼んできてくれ」
「私が 人を呼びにいってる間に 死神さんが おじさんを殺すかもしれないわ」
「オレは 人を殺さーん!!」
- 379 :FJ S61年4/23号 4/5 :2009/02/13(金) 22:12:36 ID:???
- 少女はロープを解き、細い枝に結び変えて伸ばした。
「ねっ おじさん いっしょに山をおりようよ!」
それを見て男もようやくロープを登り始めた。が、何故か死神くんは冴えない表情をしている。そして、あと少しという
ところで少女が手を伸ばした。が――ロープを結んでいた枝が折れてしまった!
とっさに手を握り合ったおかげで落ちずにすんだが、少女がかろうじて木の枝に腕を引っ掛けて、二人分の体重を支えている
状態だった。その時、
「良子!」
少女は困惑した。男が、まだ教えていないはずの自分の名を呼んだのだ。
「ど…どうして 私の名を?」
「ゆるしてくれ 良子…」
男はすべてを打ち明けた。あの時、妻に死なれた彼は子供を育てていく自信がなかった。何しろ家もお金もない状態だったのだ。
せめてこの子だけは不幸にしたくない……その思いから「名前は良子です」と書いた手紙を添え、我が子を捨てたのだ――
新川産業の社長の家の前に。
「うそ… うそよ…そんな…」
良子の目に涙が滲む。
「元気に…大きく育ってくれたな うれしいよ」
男もまた、涙を流していた。
「私のお父さんになってよ…って言ってくれた時にはうれしかったよ お父さんをゆるしておくれ… そして
お父さんの分も… 生きてくれ…」
男は、自分から手を離し――良子は、悲鳴を上げた。
と、凄まじい地響きが。雪崩が発生したのだ。ここを離れるんだ、と死神くんは言うが、良子は「私も死ぬ!!」と離れようとしない。
「バカヤロウ!! お父さんは最期になんと言った!? お父さんの分も生きろと 言ったはずだ」
「いやよ 私もいっしょに!!」
仕方なく死神くんは、無理やり彼女を空へ引っ張り上げた。
直後、雪崩が先程までいた場所をうずめて行った。
「いやあぁぁぁ お父さーん」
良子の泣き叫ぶ声が、辺りに響き渡った。
- 380 :FJ S61年4/23号 5/5 :2009/02/13(金) 22:13:43 ID:???
- 「あぶない所だった」
雪崩がおさまり、地面に下ろされた良子は、呆然としていた。
「どうして… どうしてこんな… 死にたがっている私が生きて… どうしてお父さんが…?」
良子の言葉に「死にたがっていたのは お父さんも同じだよ」と死神くんは教える。
彼は、良子を捨てたあとすぐ自殺を図ったのだ。もちろん、死神くんが止めに入った。その後も何度自殺を図ったことか……
「親子だねェ そんな所までソックリだ」死神くんは笑った。
「あんまり死にたがっていたし 生きるのぞみもないみたいだから 死ぬのをみとめてやったわけだけど… 最後にあんたに
会うことができて 本当に 幸せだったことだろう…」
良子も、父も、死に場所にここを選んで、偶然会うことが出来た。これも親子の縁みたいなものかもしれないと死神くん。
そして「死ぬなんて考えるなよ お父さんの遺言を忘れるな!」と言い残して帰っていった。
その後、麓の派出所に保護された良子を、両親が迎えにやって来た。
「良子ちゃん 大じょうぶ? 無事で よかった」
涙を流す母。と、父がいきなり良子の頬を叩いた。母は驚く。
「バ…バカモノ!! わしらが どんなに心配していたか わからんのか!!」
父の目にも涙が浮かんでいた。良子は頬を押さえ、そして、微笑んだ。
「ごめんなさい ごめんなさい 良子は いろんな人に心配してもらっている幸せな子です…」
そして、立ち上がり、両親に抱きついた。
「ごめんなさい! お父さん お母さん ごめんなさい!!」
三人は揃って泣いた。その様子を、死神くんが笑顔で見ていた。
そして、ある日の昼休み。
「えーっ!! 良子 美大に進学するの!?」
良子の話に、友人が思わず声を上げて驚いた。
「うん それで クラブは山岳部に入るの」良子は嬉しそうに言った。「もう 決めちゃった」
「倍率高いわよーっ」
友人は心配するが、良子は言う。
「自分の道は 自分で決めなさいって… ふたりの お父さんが言ってくれたから!!」
何のことかわからず、ぽかんとする友人達。
だが良子は、空から父が見守ってくれているような気がした。
- 381 :マロン名無しさん :2009/02/13(金) 22:27:34 ID:???
- 養子だとわかったからってそれだけで死ぬこたなかろう
- 382 :マロン名無しさん :2009/02/13(金) 23:03:19 ID:???
- でもまだ子供だから、両親が実は本当の親じゃないっていうのはかなりショックだろうと思うよ
- 383 :マロン名無しさん :2009/02/14(土) 01:46:50 ID:???
- 子供っつっても、もう高校3年だろ。
ショックではあるだろうが自殺まで考えるかなあ・・・
- 384 :マロン名無しさん :2009/02/14(土) 13:12:49 ID:???
- 親は付き合い方に苦心してそうだが、それなりに愛情持って育ててるらしいしな
- 385 :マロン名無しさん :2009/02/14(土) 13:34:11 ID:???
- それなりどころか赤ん坊を捨てた実の親よりもよっぽど愛情持ってる気がしないでもない
- 386 :マロン名無しさん :2009/02/16(月) 19:03:20 ID:???
- 保守
- 387 :FJ S61年5/23号 1/8 :2009/02/17(火) 22:21:41 ID:???
- 第34話 ボクらの委員長の巻
「さよならみんな!」
急にそう挨拶をしたクラス委員長の福島に、みんな一瞬、唖然とした。
「あ…ああ さよなら委員長」
「さよなら 福島くん」
「さよなら」
とりあえずそう言って見送ったものの、改まって挨拶したことをみんな不思議がる。
「さよならみんな この学校も見おさめか」
思わず出てくる涙を拭う福島。と、
「おまえ 死ぬつもりか?」
いきなり死神くんが現れ、福島は仰天した。
「ねぇ 今日の委員長 なにかおかしくない?」
副委員長の島根ゆう子はみんなに尋ねるが、みんな「あいつはいつもあんなもんだよ」とそっけない。
それでも何か変と言い張る島根を「委員長のこと好きなんだ」と男子はからかう。
「そんなことないわよ!!」と島根は顔を真っ赤にした。
「そういや あいつ昨日 塾休んだな」
福島と同じ塾に行っている山口が言った。さらに昼休みも、彼にこう言ったという。
「ボク 今日も塾休むから先生につたえといて もしかしたら もう ずーっと行けないかも知れないんだ」
それを聞いて引っ越すのかな? と思うクラスメイト達だが、そんな話は聞いていない。
「ま 山口にとっちゃ好都合ってわけだ」
男子の一人が言った。
「なにが?」
「ライバルがいなくなって 自分が勉強で一番になれるもんな」
「なんだと!?」
慌てて島根が止めに入る。そして「いっしょに福島くんち行ってみようよ」と誘うが山口は「やだね」とあっさり拒否する。
「だって山口くん 福島くんと 友だちでしょ? よきライバルでしょ?」
「冗談じゃない あんなやつ 友だちでもなんでもないよ それに塾に行かなきゃなんないし」
それならと他のクラスメイトを誘うが、みんな「やだよー いそがしいもん」「オレたちだって友だちじゃないもん」と嫌がる。
- 388 :FJ S61年5/23号 2/8 :2009/02/17(火) 22:22:20 ID:???
- 「気になるんなら ひとりでいけばいいだろ」
「島根 委員長のこと好きなんだし」
「そんなんじゃないってば!!」
「そうさ!! ボクは死ぬつもりさ!!」
福島ははっきり言った。
「どうしてまた死ぬ気になったんだい?」と死神くんが尋ねると、福島は「さあね ただ生きていく希望がなくなったって
ことはたしかだね」と答える。
「ボクは クラス委員長をやっているけど クラスの中でボクの存在はないんだ! ボクなんか いてもいなくても同じ
なんだよ!」
福島は笑った。
「ゆう子も 委員長のことなんか 心配してないで帰ろ!」
女子はそう言うが、まだ島根は福島のことを気にしていた。
「ね 昨日のホームルームのこと みんなおぼえているでしょ?」
その時のホームルームは先生が風邪で休みだったため、福島と島根の二人だけで進めたのだが、みんな先生がいないのを
いいことに勝手に騒ぎ、誰も福島の話を聞いていなかった。福島はそのうち、黙りこくってしまった。
「たしかにそうだけど それがなんだっていうの?」
「福島くんが それでおちこんでいるっていうわけ?」
「だって私たちが悪いんじゃないもん」
「みんなでさわいだんだもんね」
明日になれば元に戻るわよ、と女子達は言うが、島根はやっぱりいつもと違うと言い張る。
今朝も、昇降口で会った時「島根さん クラスのこと あと たのんだよ」と意味深なことを言われたのだ。
「福島くん引っ越すの?」と訊いたが、彼は何も言わず笑うだけだった。
「じゃ やっぱり引っ越すんだ」
「そーゆーことだな」
「お別れパーティーでもやってほしいんだろ?」
「きっとそうさ」
- 389 :FJ S61年5/23号 3/8 :2009/02/17(火) 22:23:01 ID:???
- 「そんなんじゃないんだってば!! もっと深刻な問題があるのよ」
「ゆう子ったら 好きな人のことになると ムキになるわねェ」
「ちがうってば!!」
と、「オレも今朝委員長に会ったよ」と給食委員の茨城が言った。
その時福島は、町外れの高台にいた。
たまたま通りかかった茨城が声をかけると、福島は「ここから落ちたらどうなるかなア」と訊いてくる。
「そりゃ こんな所から落ちたら死んじゃうよ いちころさ」
するとそれを聞いた福島は「ふーん ためしてみようか」とつぶやく。
驚く茨城に福島は「冗談だよ」と言った。
そしてその帰り道。
「茨城くん 委員長やってみたくない?」
急にそう訊かれ、茨城は「う…うん オレ給食委員よりもクラス委員やってみたいな なんてったって一番カッコいいもんな」
と答えた。
「そうか! じゃ次のクラス委員長は茨城くんに決定だな」
「エヘ そうかァ? 推薦してくれる?」
「ああ ボクが推薦するよ」
そう言うと、福島は走っていってしまった。
話を聞いたクラスメイト達は大笑いする。
「茨城は クラス委員長ってガラじゃねーよ!!」
「それこそ冗談だ」
「うるさいうるさい」
「まさか…」島根が不安げにつぶやいた。「まさか福島くん… 死ぬつもりじゃ…」
それを聞いて「まーたゆう子 考えすぎよ」「大げさだなァ」と皆は言うが、
「オレ 知ってるよ」
一人の生徒が言った。
- 390 :FJ S61年5/23号 4/8 :2009/02/17(火) 22:23:44 ID:???
- 死神くんは、福島を説得していた。
「な もう一度考え直せよ お前は まだ死ぬ人間じゃないんだ」
「いや もうボクは決めたんだ 生きててもいいことなんか何もないしね ボクには友だちがいないんだ わかるかい
このつらい気持ち 友だちがいないってことは一番つらいんだ」
ファミコンも知らない、アイドルも知らない、キン肉マンも知らない……そう言う福島に死神くんは「そりゃ ウソだ」と
言った。
「ホントに知らないもん!!」
「いや 友だちがいないっていうのはウソだっていってんのさ おまえ いつもひとりで いるから友だちができないんだよ」
みんなの中に入っていって、みんなと一緒に話をすれば友達は出来る、簡単なことだ、と死神くんは言うが……
「もう おそいよ ボクは死ぬ!」
考えを変える気はないらしい。死神くんは「あ〜あ」とため息をついた。
知ってるよ、と言ったのは野球少年の岡山だった。島根に促され、岡山は昨日あったことを話し始めた。
岡山が野球の練習に行く途中のこと。原っぱを通りかかるとクラスメイトの千葉が凧揚げをしていた。思わず見とれていると
そこに福島もやって来た。
「やあ 委員長じゃねェか!」
気がついた千葉が彼に声をかけた。
「カッコイイ凧だね」
「へへへ そうか? オレが作ったんだぜ」
「へェ ホント? すごいなア千葉くん」
やがてそこに岡山も加わり、三人は楽しく話をした。それまで福島とはあまり話をしたことはなかったが、すぐに仲良くなった。
千葉の祖父は竹細工職人で、彼もそれを真似て凧を作ったりしているのだという。
「いいなァ うらやましいなァ」
それを聞いた千葉は「委員長にもこの凧 作ってやろうか?」と持ちかけた。
「でも これ作るのにお金がかかるんだよなァー」
「へエー いくらくらい?」
岡山にはそれが、千葉の悪い癖で嫌がらせで言っているのだとすぐにわかった。
「一万円! 作るのに一万円かかっちゃうんだよなアー」
すると福島は「それじゃ ボクお金もってくるよ!」と嬉しそうに走っていった。
が、千葉は「あんなバカ正直なやつ つきあってらんねーよ!!」と連れていた犬と一緒に帰ってしまった。
- 391 :FJ S61年5/23号 5/8 :2009/02/17(火) 22:24:30 ID:???
- そして岡山も、福島が嘘だと気付いて来ないだろうと思い、そのまま練習に行ったのだが……それが終わった夜遅く、
岡山が原っぱの近くを通って帰ろうとすると――福島がいた。手にしっかりと、一万円札を握りしめて。
「そんな…そんなひどい…」
思わずつぶやく島根。
ほかのクラスメイト達も「そういや あいつ今日もズル休みだったな」「あいつならやりかねんよな」と納得する。
島根は「そんな のんびりしてる時じゃないわ! 福島くんの気持ちを考えてあげてよ!!」と言うが、「心配しなくても
大じょうぶだよ」と皆次々と帰っていってしまう。さすがに島根も考え過ぎかもしれない、と思うが……
(でも福島くんに会ってかくにんして見よう 私ひとりでできることだわ)
「ここがボクの死に場所だぞ」
福島は高台に立っていた。「こわくないのか?」と尋ねる死神くんに「そりゃこわいさ」と福島は答える。
「でも 今の人生を生きていくのはもっとこわい」
福島は昨日、ホームルームでクラスの親睦を図るため、今度の日曜日にピクニックに行こうと提案した。だが、クラスの
皆は先生がいないので大騒ぎをし、誰も自分の話を聞いていなかった。
「みじめだよな クラス委員長たるものが クラスのみんなを統率できないなんて」
福島は笑った。
「いや それよりもだれもボクを委員長と思っていないんだ そう ボクは名前だけの委員長なのさ おかしいじゃないか
そうだろ!?」
本当におかしそうに、福島は笑った。そして何故か死神くんも一緒に笑う。
「なにがおかしい!?」
「自分から笑ったくせにー」
福島の家の前にやって来た島根。と、ドアに「おとうさん おかあさんへ」と書かれた手紙が貼り付けられていた。
まさか、と思い手紙を剥がし、中を見てみると……
『お父さん お母さん さようなら……』
明らかに遺書としか思えない文章だった。
- 392 :FJ S61年5/23号 6/8 :2009/02/17(火) 22:25:19 ID:???
- ――あんなやつ友だちじゃないよ
――オレたちだって友だちじゃないよ
皆が言っていた言葉が頭をよぎる。
島根は泣きながら走り出した。
友達がいなくて、一人ぼっちで、誰にも心配してもらえない福島。
(ううん…少なくとも私は…)
だが、副委員長の自分は昨日のホームルームでも何も出来なかった。
自分がもっとしっかりしていれば……島根は、自分を責めた。
(ごめんね ごめんね 福島くん だれか だれか福島くんを助けてあげて!!)
福島はまだ、高台に立ち尽くしていた。
「どうした? 急に こわくなったのか? なにモタモタやってんだ? それとも だれかが来るのをまっているのか?」
最後の死神くんの言葉に、福島は動揺した。
「お前 学校に行く前 この高台にのぼって 茨城くんにわざとらしくふるまったろう?」
「なんのこと?」
福島はしらばくれるが、死神くんは全て知っていた。学校に行って、島根にそれとなく挨拶をしたこと、昼休みに塾友達の
山口と意味ありげな会話をしたこと、団地の自分の家のドアに、目立つように手紙を貼ったこと……
「それは みんな自分の存在をみんなにわかってほしくてやったことだ!! だから こうしてだれかが止めに入ってくるのを
待っているんだ! お前に死ぬ気なんてもともとなかったんだ!!」
福島を探して必死に走る島根。と、遠くに見える高台に彼の姿を見つけ、叫んだ。
「福島くーん」
- 393 :FJ S61年5/23号 7/8 :2009/02/17(火) 22:25:52 ID:???
- 福島は笑いながら、その場に膝をついた。死神くんが言ったことは本当だった。もしかしたら、誰かが自分の事を心配して
止めてくれるのではないかと思い、待っていたのだ。でも、誰も来てはくれなかった……。
「ボクのことを心配してくれる人はだれもいない! ボクなんかいてもいなくても同じなんだ!!」
そして決心がついた、本当に死んでやる、と柵を乗り越えようとする。
「じゃあ だれかが来てくれれば 自殺はしないんだな!」
「うるさい!! もうおそいよ!! ボクは死ぬんだ!!」
と、
「おお―――い」
背後から声がした。慌てて柵から下り、後ろに向き直ると……やってきたのは千葉。
「委員長 こんな所にいたのか さがしたぜェ」
そう言って千葉は、今日学校サボって作ったんだ、と凧を差し出した。
「お金なんかいらないよ 昨日はごめんよ」
突然のことに福島が戸惑っていると、千葉は笑顔で言った。
「なんだよォ えんりょすんなよォ 友だちじゃね――か!」
友達――その言葉が福島の心に響いた。そして彼は凧を受け取ると、笑顔で「ありがとう!」と言った。
すると今度は、山口が来た。塾はサボったという。
「福島! ちゃんと塾へこいよ お前がいないと はりあいがないよ」
福島の表情がさらに明るくなる。
他のクラスメイト達も、続々と駆けつけた。
「福島くん オレやっぱり委員長やりたくない!」茨城が泣きながら言った。「給食委員でいいよ!!」
すかさず皆から「お前なんか はなっから 委員長なんかにゃなれねーよ!!」とどつかれる茨城。
「オレたちの委員長は 福島くんしかいねーよ!!」
- 394 :FJ S61年5/23号 8/8 :2009/02/17(火) 22:26:32 ID:???
- 福島の目から、先程とは違う涙がこぼれ落ちた。と、そこへ、
「みんな…来てくれたんだね」
息を切らして、島根もようやくやって来た。
「福島くん…これからも仲よくやっていこうよ!」
島根は福島の手を、しっかりと握った。
「そうだよ!」
皆も島根の言葉に同意する。
「福島がいなくちゃ オレたちのクラスしまんないぜ!!」
「あ…あの みんな…」
福島は、思い切って口を開いた。
「こんどの日曜日 みんなでピクニックに行きたいと思うんだけど」
「賛成〜〜っ!!」
「いこうぜいこうぜ」
盛り上がる中、千葉がぽつりと言った。
「どうでもいいけど いつまで手をにぎりあってんだよ」
そう、福島と島根はまだ手を握り合ったまま。二人は真っ赤になり、そして……
「いいじゃない! 私 福島くんが好きだもの!」
島根の突然の告白に皆祝福の声を上げた。
「友だちといっしょに 彼女まで作りやがった」
死神くんは、笑顔でその様子を見つめていた。
- 395 :マロン名無しさん :2009/02/17(火) 22:33:55 ID:???
- うーむ、ちょっと都合よ過ぎないか。
そんなにみんなが気にかけてくれてるようなら最初から孤独にならないような。
- 396 :マロン名無しさん :2009/02/18(水) 13:02:46 ID:L5a4HeDV
- 「とんちんかん」に隠れて
意外と昭和58年当時は名作だったとおもう。
はっきり言って滅茶苦茶泣けました。
- 397 :マロン名無しさん :2009/02/18(水) 22:54:02 ID:???
- 3年経った今は名作じゃないみたいじゃないか
- 398 :マロン名無しさん :2009/02/19(木) 08:41:21 ID:???
- >>395
なくなりそうになって初めて、大切なものに気づくってのはよくあることだよ
- 399 :マロン名無しさん :2009/02/19(木) 16:33:07 ID:???
- いやあ、普通なら副委員長が変なこと言ってるぐらいにしか思わないんじゃないか?
- 400 :FJ S61年6/23号 1/5 :2009/02/19(木) 22:01:41 ID:???
- 第35話 神の選択の巻
走る車の中で。
「別れよう」
助手席にいる真奈美に、雄二は言った。予想していたのか、彼女は眉一つ動かさなかった。
「きみと つきあっていても これ以上の進展はない…」
「結婚するのね 親の決めた相手と…」
しばし、沈黙が場を支配した。
「いろいろあったなァ…」
「そうね いろいろあったわね…」
偶然、同じ場所で雨宿りしたことがきっかけの出会い、付き合い始めて行った海、初めてのキス、そして――愛し合った時間。
様々な思い出が、浮かんでは消えていく。
「試験 どうだったの?」
それを打ち消すように真奈美が訊いた。雄二の家は病院で、彼も医師になるための国家試験を受けたのだ。
「だめだな 自信ないよ 早く医者になって 親父の手伝いをしなくちゃならないってのにな」
と、ヘッドライトが男の子を抱えた女性の姿を照らし出した。車を止め、事情を聞くと子供が急に熱を出したのだという。
雄二は親子を車に乗せ、自分の家の病院に連れて行くことにした。
すると今度は、道に中年の男性が倒れていた。雄二が車から降りて「大じょうぶですが?」と声をかけると……いきなり
首元に包丁を突きつけられた。
「だまってオレのいうことを聞け!」
やむなく男を車に乗せる雄二。借金取りを殺してきたばかりだという男は、俺の言うとおりに行けと脅してくる。
「ちょっと まってください!」母親が言った。「子どもが病気なんです 早く病院に行ってください」
「うるせェ 人のことなんか知るかよ!!」
包丁を向けられ、母親は思わず悲鳴を上げた。さらに男は「おめェうしろへこい!」と真奈美を人質に取ろうとする。
「彼女に手を出すな!!」
雄二が男の包丁を持った手を掴んだ。怒った男が殴りかかろうとしたその時、真正面からトラックが姿を現した。
雄二はとっさにハンドルを切りトラックを避けたが、車はガードレールを突き破ってしまった!
落下する――誰もがそう思い、悲鳴を上げるが、何故か何も起きなかった。
- 401 :FJ S61年6/23号 2/5 :2009/02/19(木) 22:02:42 ID:???
- 「と…とまった 助かったのか?」
男は外に出ようとするが……驚きに目を見開いた。車が、宙に浮いた状態で止まっていたのだ。
さらに、
「定員オーバーだね」
フロントガラスの外に、手帳を持った山高帽にスーツの子供が……死神くんがいた。
「悪いけど 天国へ行けるのは この中でひとりだけだ…」
「夢を見ているのか?」と驚く皆に死神くんは名刺を見せる。
さらに驚く一同に、死神くんは今回は全員というわけじゃない、一人だけあの世に行ってもらう、と説明する。
「死に急いでる人がいれば 今のうちに名のりでてほしい 優先するぜ」
雄二は「死にたいやつなんかいるもんか!!」と怒りを露わにする。が、
「あんた 今度結婚するのかい?」
死神くんに指摘され、雄二は言葉を失った。確かに、雄二は父から、銀行の頭取の娘との見合いを勧められていた。
「うちの病院の経営が苦しいのは知ってるだろ 資金ぐりが大変なんだ なァ たのむ!」
父にそう言われ、雄二は……彼女と結婚する道を選んだ。
「それで 今日は 彼女と最後のデートを楽しんでいるっていうわけか」
はっきり言い当てられ、雄二は呆然とした。
「な…なぜ そんなことまで知っているんだ?」
「仕事だからな」
「と…とにかく 誰が死ぬべきかはわかりきっていることじゃないか」
その言葉に、皆の視線が、一斉に包丁を持った男に集中した。
「なんだ!? オレには生きる権利がないっていうのか!?」
「犯罪をおかした! 人を殺した!!」
と雄二は言うが、死神くんはあんたは人を殺しちゃいない、と男に言う。
確かに彼は、家に押しかけて来た借金取りの一人を包丁で刺した。
それを見た借金取りの仲間の「人殺し――っ!!」という叫びに思わず家を飛び出してしまったのだが……死神くん曰く、
刺された男は今病院で手当てを受けており、たいした傷ではないという。
「よかった…」男はほっと、ため息をついた。「オレだって 女房 子どもがいるんだ 死にたかねえよ…」
そして男は、母子の方を見た。
「死ぬんなら… ここに今にも死にそうなガキが ひとりいるじゃねえか」
「そんな! そんなひどいこと言わないでください!!」
母は悲痛な叫びを上げるが、雄二も、診察してみなければわからないが、もしかしたらその子は手遅れかもしれない、と言う。
- 402 :FJ S61年6/23号 3/5 :2009/02/19(木) 22:03:53 ID:???
- 「もしそうなら その子を犠牲にして 他のみんなが助かれば…」
「やめてください!!」
母親は泣いた。そして、
「わかりました!! 私が死にます!!」
はっきりと宣言した。
「私が死にますからこの子だけは この子だけは助けてください!!」
が、「いいのかい?」と死神くんは母親に問う。「あんたのご主人に 子育てができるのかい?」
確かに夫は酷いアル中で、とても子育てなど出来る人物ではない。今日だって、お金を酒につぎ込んだせいで病院に
いけないじゃないか、と抗議したが、夫は「うるせェ こんなガキ 殺しっちまえ」と子供に暴力を振るおうとした……。
「あんたがいなければ その子はどうなる?」
母親は、やはり何も言えなくなってしまった。
そして死神くんは「最後に あんたの意見を聞かせてもらおうか」と真奈美の近くへ。すると、
「私は とっくに死ぬつもりよ」
かすかに微笑んだあと、まるで何でもない事の様に真奈美は言った。
「雄二さん あなたと別れたあと 私は自殺するつもりだったわ でも こうやって事故で死んだほうが あなたに
迷惑がかからなくていいみたいね」
想像もしていなかった言葉に、雄二は唖然とした。
「なあんだ そういうことなら はじめから言ってくれよ」男は笑顔で「よかったな あんた」と母親に言うが、母親は
「そんな…いけないわ あんた まだ若いのに」
と彼女を止める。
雄二も「そうだ だめだ やっぱりきさまが死ぬべきだ!!」と男に言う。
怒った男が掴みかかり、二人は喧嘩を始めてしまった。
「えらそうな口ききやがって女ったらしが!!」
「だまれ!!」
慌てて真奈美と母親が止めようとするが、
「はい! それまで」
死神くんが場を納めた。
「もう時間だ」
ということは……雄二は尋ねた。
「決まったのか? だれが 死ぬのか 決まったのか?」
「ああ…もっともオレが決めるわけじゃない 神が決めることだ」
- 403 :FJ S61年6/23号 4/5 :2009/02/19(木) 22:04:59 ID:???
- 次の瞬間、車はまばゆい光に包まれ……とてつもない衝撃が、一行を襲った。時間が動き出したのだ。
車はものすごいスピードで、崖を滑り落ちてゆく。
雄二はとっさに、真奈美をかばうように抱きしめた。
「真奈美 死ぬな!!」
そして……轟音と共に、車は地面に激突した。
やがて、雄二は目を覚ました。自分の家の病室のベッドで。
「オレは生きてる 死んだのはだれだ…?」
病室を出ると、ちょうど男が警察に連行されようとしていた。
「ヨウ 若ェの 生きて会うことができたな」
男はかすり傷程度で助かり、このまま警察にいくという。
「ま 一からやり直すよ」
そう言って、男は笑顔で去っていった。それではあの母親が……と思ったが、彼女は包帯姿でベンチに座っていた。
「どうも…生きてらっしゃったんですね… 私も軽いけがですみましたよ」
隣には、彼女の夫だという男性がいた。
「もう酒はやめて まじめに働くって言ってくれたんです 一からやり直すつもりです…」
「そんなことより あなたの子どもは…?」
そう尋ねると、丁度父親が病室から出てきた。
「親父!」
「雄二 目がさめたか?」
そして父は母親に、お子さんの熱は下がったからもう安心です、と告げる。母親は喜びの涙を流した。
ということは、死んだのは……
(真奈美が……!? 真奈美が死んだのか そんな… そんなばかな…)
その場に立ち尽くす雄二。目に涙が滲んだ。
(真奈美 もう会えないのか…!? オレが… オレがかわりに死ねばよかったんだ!!)
と、
「何泣いてんだ おまえは ホラ 早く彼女をなぐさめてやれ」
父のその言葉に雄二が後ろを振り返ると……そこには手と首に包帯を巻いた真奈美が。
「しかし お前の結婚相手にぴったりの娘さんじゃないか 父さんが見つけてこなくても こんないい人がいたのなら
先に言えよ」
- 404 :FJ S61年6/23号 5/5 :2009/02/19(木) 22:05:48 ID:???
- 「親父!! あんたは世界一の名医だよ」
雄二は満面の笑みで父の背中を叩いた。そして、しっかりと真奈美と抱き合う。父親は思わず赤面し、とりあえず席を外した。
誰も死ななかった、死神なんて夢を見ていたんだ、と喜ぶ雄二。が、
「いいえ 死んだわ」
と真奈美は言う。
「そう たしかに死んだ」
姿を見せた死神くんもその言葉を肯定する。
「真奈美さんのおなかの中の小さい命が 天国へ行った」
そう、真奈美は雄二の子供を妊娠していたのだ。そして神様は、誰か一人にそのお腹の中の赤ちゃんを選んだのだ。
「どんなに小さくても ひとつの大事な命だ ま そういうわけで だれも死ななかったわけじゃない」
死神くんは消えた。
「流産…したのか?」
雄二の言葉に、真奈美は泣きながら笑った。
「これが最後の切り札だったのにね」
真奈美はもし雄二に別れ話を持ち出されたら、お腹の子の事を話そうと思っていたのだ。
「でも もうだめね ふたりをつなぐものは もうなにもなくなったわ」
悲しげに言う真奈美。と、
「親父は 君のこと気に入ったみたいだよ」
雄二が口を開いた。
「一からやり直そう!」
そして、真奈美の手をしっかりと握る。
「苦労するかも知れないけど ついてきてほしい! オレも早く医者になれるようにがんばる!」
二人は見つめあい、そして……唇が、重なった。
その頃、雄二の父は郵便受けに届いた手紙を見て驚く。
「国家試験の合格通知だ あいつめ やりおった」
そう言って、父は静かに微笑んだ。
- 405 :マロン名無しさん :2009/02/19(木) 22:39:02 ID:???
- 霊界は魂がたりないとか言ってなかったけ?
全部ころ(ry
- 406 :マロン名無しさん :2009/02/19(木) 23:21:55 ID:???
- というか、そこらの不幽霊でも連れて帰ればよくね?
それとも、こういうふうに魂が管理されてるんならこの漫画の世界に幽霊っていないんだろうか。
- 407 :マロン名無しさん :2009/02/19(木) 23:23:03 ID:???
- 間違えた
×不幽霊
○浮遊霊
- 408 :マロン名無しさん :2009/02/19(木) 23:33:55 ID:???
- でも霊界に言った後、魂はどうなるんだろ?
生まれ変わりがあるようなセリフが心美人の話であったけど、
「不足してる」というには何かの需要というか利用価値があるわけで・・・
- 409 :マロン名無しさん :2009/02/20(金) 12:27:50 ID:???
- >>406
最初の頃の話に、成仏できないでいる父親の魂を息子に会わせるシーンがあったから、多分幽霊はいると思う。
死んだことに納得しないで、素直に霊界に行かない奴もいるかもしれないし。
- 410 :FJ S61年7/23号 1/6 :2009/02/21(土) 22:16:00 ID:???
- 第36話 最後の一球の巻
その日、東京ジャイアンツ対大阪タイガースの試合で、ピッチャーの東が七回裏までパーフェクトで投げきっていた。
不振と噂されていた彼の完全試合目前の活躍に、タイガース側のスタンドからは「藤森を出せー」と歓声が上がる。
彼もまた、七試合連続ホームランという王選手と同じ記録を持っているのだ。今日ホームランを打てば日本新記録となるのだが、
選手登録されてはいるものの、ベンチにその姿はない。
「藤森よ でてこい 今のオレは だれにも負けん」藤森はつぶやいた。そして、
「なにしろ… オレには 悪魔がついているんだ」
その背後には、悪魔くんの姿があった。
「どうした? 打てない球でもあるまい」
タイガースの監督が選手達に言うが、選手たちも「なんだかわかりません とにかく打てないのです」と混乱している様子。
「球が死んでるというか… 別人が投げているって感じで…」
「くそう! 完全試合をさせてたまるか!!」
監督は歯噛みした。
その頃、藤森は車で試合が行われている球場に向かっていた。助手席には死神くんがいる。
「おいおい 藤森さんよォ 予定がちがうじゃないか!」
「友人の東が絶好調なんだ 応援しに行くだけさ」
実は藤森はすでに死神くんに死を宣告されていて、死ぬまであと一時間もないのだ。
そのため、試合中に死んで全国の人の目に晒されるよりは、家族に見守られてひっそりと死にたいと言っていたのだが……
試合を見ているうちに、いてもたってもいられなくなったのだ。
「とにかく 東が絶好調なんだ うれしいじゃないか」
満面の笑みを浮かべる藤森。死神くんは帽子を深く被った。
「それは 悪魔がついているからさ」
「悪魔?」
- 411 :FJ S61年7/23号 2/6 :2009/02/21(土) 22:16:49 ID:???
- 普通の人間には見えないが、死神くんにはブラウン管に映る悪魔くんの姿がはっきりと見えていた。
「やつは悪魔の力を借りているんだ 絶好調というわけじゃない…」
悪魔は命と引き換えに三つの願いを叶えてくれる、東はその一つとして完全試合を望んだのだろう……との死神くんの説明に、
藤森はは思わず「ばかな!」と声を上げた。
東と藤森は、かつて同じ高校で甲子園で活躍し、チームを優勝に導いた。
記者会見で、共にジャイアンツに行きたいと答える二人。が、その後、偶然記者二人が話しているのを聞いてしまう。
「藤森は プロでも使えるが 東はどうかな?」
「甲子園で優勝したからって プロで通用するとは思えないけどな」
「ジャイアンツは強力な外人のピッチャーを入れるらしいし 東の球は オレにも打てそうだな…」
と、そこまで言った所で記者は二人の存在に気づき、慌てて逃げていった。
藤森は気にするな、と東に声をかけるが、彼は黙って去ってしまう。友情がどうのこうのと考えたことはなかったが、
二人の間にヒビが入ったことは確かだった。
その後、ドラフトで藤森はタイガースに、東はジャイアンツにそれぞれ一位指名された。
「おめでとうございます!」
「今日からライバルですね」
「握手 お願いします!」
記者たちに求められ二人はしっかりと握手を交わした。
(東… 悪魔にたのんでまで勝ちたいのか? 自分の力で勝ちたくないのか?)
東はついに、八回もノーヒットで終えた。完全試合まで後少しだ。
「藤森 どうした? でてこい! オレと勝負しろ!!」
つぶやく東に悪魔くんが言う。
「やつならもうすぐくるぜ 死神をつれてな」
「死神!?」
- 412 :FJ S61年7/23号 3/6 :2009/02/21(土) 22:17:26 ID:???
- 首を捻る東に、「ホラ 来たぜ あいつが死神だ」と、悪魔くんはタイガース側のベンチを指差した。
そこには、ユニフォームに着替えた藤森と、死神くんがいる。
互いににらみ合う二人。と、悪魔くんが笑顔で言った。
「死神がついてるってことは あいつもうすぐ死ぬぜ」
「死ぬ!?」
「あいつの仕事は人を殺すことだからねェ」
(藤森が死ぬ…?)
東は思いがけない言葉に呆然とした。
突然現れた藤森に、監督は驚いた。
「お前 病院で絶対安静とか言われたんじゃないのか!?」
「あれはウソです」と藤森は嘘をつき、「次の打席で打たせて下さい!」と監督に頼む。
監督は悩んだが、藤森を最後に使うことにした。
そして九回裏、タイガースの最後の攻撃が始まろうとしていた。
マウンドに上がった東は、藤森の方を見ながら思う。
(藤森 きさまにオレの気持ちがわかるか)
プロ入り後、東は二軍でバッティングピッチャーをしていたが、藤森はすでにスポーツ新聞に載るような活躍をしていた。
早く一軍に上がりたい、早く活躍したい……そしてついに一軍に上がり試合に出るが、結果は惨憺たるもの。
結局二回で降ろされてしまった。その間も藤森は活躍を続け、スポーツ新聞で彼の記事を見ない日はなかった。
藤森にだけは負けたくない、一位指名されたのはお前だけじゃない、ジャイアンツはお前より俺を選んだんだ!
それなのに……
その時だった。「オレが 力になってやるぜ」と悪魔くんが現れたのは……。
(オレにもチャンスがめぐってきた まずは 手はじめに完全試合だ オレの球はだれにも打てん 今日はオレがヒーローに
なるんだ)
と、死神くんが東の元にやって来た。
- 413 :FJ S61年7/23号 4/6 :2009/02/21(土) 22:18:04 ID:???
- 「藤森は お前が絶好調だから応援にきてくれたんだぜ ところがどうだい 悪魔の力を借りての絶好調だったとはね
藤森がおこるのもむりはない」
「藤森は 本当に死んでしまうのか?」
東の問いに、死神くんは「そうさ」と答えた。
「くやしいだろうぜ 友人のお前がこんなことじゃ 死んでも死にきれ…」
「死神が説教すんじゃねーっ」
怒った悪魔くんは、死神くんをバットで吹っ飛ばした。
「人のことは どうでもいいじゃねーか かえって好都合じゃねーか これからはおめえがヒーローだ」
悪魔くんは言うが、藤森はまだ険しい表情で東を見ていた。
(みそこなったぞ 東 お前の実力はこんなものか 甲子園で見せたあの速球は もう投げられないのか!?)
ため息をつく東に、悪魔くんは悪い予感がした。
「おめーが からむといつも こうだ!」と死神くんに文句を言う悪魔くん。と、東が二つ目の願いを要求した。
「なんだい? まさか藤森を死なせないようなことを…」
「それはだめだ!」
「なんだよ 美しい友情じゃねーか! おめーは気がきかねーな!!」
「お前も人間の味方をするようになったか…」
そして東の願いは……
「元の自分にもどしてくれ!」
「なに〜〜っ!?」
悪魔くんは驚きに声を上げた。
「藤森に本当の自分を見せてやりたいんだ 死ぬ前に ぜひともな」
悪魔くんはまだ、今の言葉が信じられず唖然としている。
「早く!!」
そして東は第一球を……
(藤森 見ててくれ!)――投げた。
結果はストライク。藤森は目を瞠った。
- 414 :FJ S61年7/23号 5/6 :2009/02/21(土) 22:18:46 ID:???
- 「東…!! いつもの東の球だ!! 甲子園で絶好調だった 東の球だ!!」
「そうさ やつはふたつめの願いで前の願いをはねのけたんだ」
死神くんの言葉に、藤森は笑顔になった。
「あーあ もう勝手にしてくれよ この仕事もこれまでだな」
久々の出演なのに……と悪魔くんがぼやく間に、東はついに二人アウトにした。そして代打として藤森が登場。
二年前、甲子園を湧かせた二人の対決となった。
「いくぞ 藤森!!」
東が投げた一球目は、完璧なストライク。こんな気迫のこもった球は初めてだ、と藤森も驚嘆する。
(今まで お前がスランプだったのは 気迫がたりなかったのだ さあ こい!!)
続く第二球。やはりもの凄い球だったが……なんとかバットに当てた。が、惜しくもファール。
「さすがだ 藤森」
「いい球だ 東!」
東は、もう完全試合などどうでもよくなっていた。ただ、藤森に負けたくないと思った。
「オレはまちがっていた… 悪魔にたよって勝とうなんて…とんでもない話さ オレは目がさめた オレの本当の姿をお前に
見せてやる お前を三振にとってみせる!!」
それが、藤森に対する彼の友情だった。
藤森も思う。
(こい 東!! 栄光もプライドもすべてをかなぐりすててこい でなければ本当の勝負にならん!)
一方死神くんは焦っていた。藤森が死ぬまで、もう余り時間がないのだ。時間が来たら、彼は脳内出血を起こして、すぐに
心臓が止まってしまう。
そんな死神くんを見ながら「気がきかねェヤロウだ 少しぐれェまってやれよ!」と悪魔くんは毒づいた。
そしてついに、運命の三球目。東が投げた球を藤森は……バットを折りながらも捕らえた。すかさず東が横っ飛びして
キャッチした。
「とったぞ 勝った!!」
叫ぶ東。が、次の瞬間、ボールは彼のグラブをはじき、レフトへと飛んでいった。ヒットが出たのだ!
- 415 :FJ S61年7/23号 6/6 :2009/02/21(土) 22:19:51 ID:???
- 「負けたよ 藤森…」
うなだれる東。藤森は塁を回る。と、死神くんが現れた。
「よくやったな ホームランでなくて残念だが 時間だ」
と、歓声が大きくなった。東が顔を上げると、藤森は三塁も回っている。どうやらランニングホームランを狙っているらしい。
東は投げられたボールを受け取り、藤森の後を追って走り出した。
(藤森…お前ってやつは… 最後までオレを熱くさせやがる……)
が、
「だめだ! 時間だ!!」
藤森の魂が、体から抜け始めた。そして、体勢が崩れる。
「藤森つっこめ――っ!!」
東の言葉が届いたのか、藤森は足で地面を蹴り……二人はほぼ同時に、ホームベースにタッチした。
「藤森…藤森!」
東が呼びかけるが、もう彼は何も答えなかった。東は、泣きながら藤森の亡骸を抱きしめた。
「ありがとう 藤森 お前の分まで野球をつづけていくぜ 見ていてくれ!」
「悔いはないかい?」
死神くんに尋ねられ、藤森は「ああ…」とうなずいた。
が、一つだけ不思議に思っている事があった。あの時、藤森はもう完全に魂を抜かれていたのに、何故かホームベースを
タッチする事が出来たのだ。
不思議がる彼に、死神くんは言う。
「オレの友だちで魔法を使うやつがいるけど そいつのおかげかな?」
遠くでそれを聞いていた悪魔くんは、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「セーフかアウトか 判定はどうなった?」
「気になるかい?」
が、藤森は笑って言った。
「いや 気にはならない 名勝負だったよ」
- 416 :マロン名無しさん :2009/02/21(土) 22:26:33 ID:???
- やっぱり悪魔くんは友達なのか
- 417 :マロン名無しさん :2009/02/21(土) 22:38:12 ID:???
- その後の騒動は相当なもんだったろうなぁ
- 418 :マロン名無しさん :2009/02/22(日) 22:26:50 ID:???
- 試合中に選手が死んだんだもんな
タイガースが何か処分受けそうで気の毒…
- 419 :FJ S61年8/23号 1/5 :2009/02/23(月) 22:29:35 ID:???
- 第37話 老兵は去らずの巻
とある南の島のジャングルの奥。その中で一際太い木の上に小さな丸太小屋があり、中にはもうかなり年老いた、日本兵がいた。
「くそう 体がいうことをきかん!」
老兵は何とか寝返りを打った。彼がこの島に来て、もう四十年の月日が流れているのだ。年ももう、六十を越えている。
「しかし 四十年間敵にも味方にも会ってはいない 戦況は どうなっておるのだ? まさか…」
「そのまさかだよ」
突然、老兵の目の前に山高帽にスーツの子供が……死神くんが現れた。唖然とする彼に、「むかえにきたぜ」と死神くんは
名刺を差し出すが、彼は死神くんを敵兵と勘違いして攻撃しようとする……が、体がついていかず、小屋から滑り落ちて
しまった。
「え〜い くそぅ!! さあ殺せ!! 桜田二等兵 南国の島で ひとりの敵もたおせぬまま玉砕じゃあ!!」
やけになって叫ぶ桜田に、死神くんは告げた。
「安心しな 戦争はもう終わったんだ」
言葉を失う桜田。そして、「やはり…」と笑った。うすうす感づいてはいたが、信じたくなかったのだ。
「わしゃ もう疲れた 死神とやら 早く殺してくれ」
が、死神くんから死ぬまでまだ一日あると教えられた桜田は、死ぬ前に一度日本に帰ってみたいと言い出した。
二人は空を飛んで日本へと向かった。その途中、桜田は死神くんから四十年の間の日本のことを尋ねる。
「日本は負けたのか?」
「ああ負けたよ 昭和20年8月15日…40年以上も前の事だ」
それを聞いて日本がアメリカやソ連に使われていると桜田は誤解するが、独立して平和な国を築いていると聞き、ほっとする。
「しかし 戦争の犠牲は大きなものだ 昭和20年8月6日 広島に 3日後には長崎に原爆が落ちた 犠牲者は広島で約20万人
長崎で約14万人 あの時はいそがしかったねェ」
死神くんは、その時のことを思い浮かべた。
「原爆?」
「アメリカが日本に落とした原子爆弾だよ おそろしい兵器さ その後 日本は日本国憲法を作って 今後戦争をしないと
誓ったんだ」
「なに!?」
桜田は、驚きの声を上げた。
「そうか…平和な国になったのだな よかった 本当によかった」
- 420 :FJ S61年8/23号 2/5 :2009/02/23(月) 22:30:10 ID:???
- こうして桜田は、日本の都会へ連れてこられた。
服装も普通のものに着替え、町に降り立つが、立ち並ぶ高層ビル群に唖然。さらに、変わった建物の店を
「きっかいな妖怪屋敷」だと思い、外国人を見かけると「敵が歩いておる!!」とわめき、自家用車を妙な形の
円タクと勘違い。果ては露出が多い服装を見て「いい若いもんがなんちゅう破廉恥なかっこうをしとるんじゃ!!」と
怒る始末。死神くんは、都会は刺激が強すぎる、と彼を故郷の田舎に連れて行った。
田舎に着いたが、そこも四十年前とはだいぶ変わってしまっており、見覚えのある光景がない。
と、路地裏で中学生の男の子が三人、白い髪の男の子をいじめていた。
「こらあ! なにをしとる! よってたかって ひとりをいじめるとはなにごとか!!」
卑怯者、それでも男か、と中学生達を叱る桜田。
しかし彼等がいじめていた少年からカツアゲしようとしたら千円しか持ってなかった、とぼやくのを聞き
「十四・五の若もんが 千円もの大金をもっておるのか!? なんたることだ!!」と驚く。
三人は桜田を変人と思い、帰ってしまった。
「だいじょうぶか?」と桜田は少年を助け起こそうとするが、少年は泣きながら腕を振り払い、行ってしまう。
「かわいそうな子じゃ 若いのに 頭が白髪だらけじゃ」
死神くんは、あれは白髪ではなく、あの子は日本人と外人の間に出来た混血児だ、と教える。
「けっ けしくりからん!!」桜田は大声を上げた。「日本人が外人と結婚するなど 絶対ゆるされんことだ!!」
「昔と違うんだよ」死神くんは言った。「戦争が終わって サンフランシスコ条約とやらで 世界中のみんなが 仲よく
なったんだ めずらしくはないよ」
「……………… そうじゃな 平和な世の中になったんじゃ」
そして二人は、桜田の家に行くがやはり建物が変わっていた。
と、庭で水やりをしている老婆に、桜田は見覚えがあった。彼が軍隊に入る前に結婚した女性、おきぬだ。
「すっかりババアになって…」とつぶやく桜田に、死神くんはつい「当たり前だ」とツッこんだ。
すると中年の女性が庭に出てきた。どうやら桜田とおきぬの娘らしい。が、その後ろには外国人の男性が。
しかも縁側にいるのは、先程桜田が助けた混血児の少年。
「わ…わしの娘は外国人と結婚したのか!?」
桜田は倒れてしまった。
- 421 :FJ S61年8/23号 3/5 :2009/02/23(月) 22:30:47 ID:???
- 気がつくと、桜田は家の中でおきぬと娘に介抱されていた。が、外国人の夫に「ダイジョウブデスカ?」と声をかけられ、
条件反射的に彼を避ける。
「どうして外人と結婚なんかしたんじゃ?」と思わず娘を問い詰める桜田。
すると、当の息子・守が「そうだよ 結婚なんかしなきゃよかったんだ ぼくなんか生まれてこなけりゃよかったんだ」と
不満げに口にする。桜田は、昼間彼がいじめられていた事を一家に伝える。娘は――母親は「本当?」と聞き返した。
「ああ オレが混血児だからいじめられてんだよ!! オレが日本人じゃないから いじめられてんだよ!!」
その言葉に「そうじゃそうじゃ」と桜田も加勢する。
「どうしてオレを生んでくれたんだよ!!」
「守! なんてこというの!?」
母に頬を叩かれ、守は部屋を飛び出していった。
「私が甘やかして育てたのが悪かったようだ」外国人の父親がつぶやいた。「日本の父親のように きびしく育てればよかった」
「フン だいたい外人が日本に住むことじたいが まちがいだ」
その言い方に、さすがに母親も「ちょっと あなたさっきからなんですか!?」と腹を立てる。
と、死神くんがやって来て桜田に耳打ちした。
「けんかしてる場合じゃない 大変なことになったぞ」
死神くんが教えてくれた場所に行くと、なんと守が飛び降り自殺をしようとしていた。
慌てて桜田は屋上に向かい、守を止めようとする。家族も後を追った。
「こら!! なにをしとる!! いじめられたくらいで自殺か!?」
「うるさいやい!! 来たら 飛びおりるぞ!!」
「バカヤロウ 命はそんな軽いもんじゃないわ!」
桜田は怒鳴った。
「いいか昔 徴兵というものがあってな 男は みんな軍隊へいかされたもんだ いやがる男は いなかった 無理矢理
行かされたのだからみんな あきらめておったのだ」
中には進んで軍隊に入った者もいたが、それも皆死を覚悟してのこと……。
「わかるか!? 死にたくないのに死んでった若者の気持ちがお前にわかるか!?」
夢や希望に満ちた何万、何百万もの若者が、戦争で自分の意志とは関係なく死んでいった。その中で、桜田は生きた。
死んでいった戦友達に代わって生きたのだ。――戦争が終わって、平和な世の中が来るのを確かめるために。
- 422 :FJ S61年8/23号 4/5 :2009/02/23(月) 22:31:24 ID:???
- 「出なければ なぜ死んでいったのか わからぬではないか みんな 平和のために戦ったんじゃ 今日のような日が
くることを願ってな」
桜田の脳裏に戦場での日々が蘇り、彼は涙を流した。他の皆も、静かに話に聞き入っていた。
「ばかやろう 自分から死ぬやつがあるか」
が、そこまで言っても守は「そんな昔のこと ボクにはわかんないよ!」とやめる気なし。「とにかく死ぬんじゃない!!」と
桜田は守の腕を掴むが……守がうっかり足を滑らせてしまった! 桜田も巻き込まれ落ちるが、なんとか彼が建物の縁を掴み、
転落は免れた。
父親が助けに行く。が、桜田は「この子は わしが助けてやるわ!!」とあくまで彼を拒否する。
「この子は お前の助けなど必要としとらんわい!!」
が、老人の力で二人分の体重を支えるのもそろそろ限界。
「お父さん助けて!!」
守の叫びに、ようやく桜田もあきらめ、彼に引き上げてもらった。
無事助かった二人。と、父親が守の顔を殴った。
「甘ったれるのもいいかげんにしろ 心配ばかりかけさせやがって もっと強い男になれ!!」
父の目には涙が滲んでいた。そして守も、父に抱きついて泣いた。桜田は唖然とする。
一家は安心して帰っていった。と、おきぬが桜田の方を見た。
「あの… 以前 お会いしませんでしたかしら?」
「えっ…そ…そうじゃったかな?」
「どうも 最近もの忘れがはげしくて」
皆が帰った後、桜田は思う。
おきぬは平和そうな顔をしている。しかし、他の皆にはそれは見られない。平和過ぎて平和がわからないのか、それとも
戦争を知らないから平和がわからないのか……
(ともあれ わしの家族は平和じゃ!)
桜田は泣きながら笑った。
- 423 :FJ S61年8/23号 5/5 :2009/02/23(月) 22:31:56 ID:???
- 「よォ これからどうするんだい?」
死神くんに尋ねられた桜田は、電器屋の前で足を止めた。
「なんじゃ こんな所で小さなトーキーをやっておるんじゃな」
「トーキーじゃないよ! テレビだよ みんなここから情報をえているんだ」
すると、ニュースが流れてきた。伝えられるのは中学生の自殺、南アフリカでの黒人暴動、アメリカの核実験、中国残留孤児、
中小企業の倒産……おおよそ明るいとはいえないものばかり。桜田は死神くんに尋ねた。
「死神よ 答えてくれ 本当に人びとは 幸せなのか? 本当に平和な世の中になったのか?」
「それは はっきりとはいえないね」
死神くんは汗を拭いた。
「死神よ 帰るぞ」
「どこへ?」
「あの南の島へ帰るのじゃ」
「ええっ!?」
死神くんは、思わず驚きに声を上げた。
「わしは 人生の半分以上をあの島ですごしたのじゃ あの島が わしのふるさとじゃ 今の日本は とても わしの住める
所ではない」
桜田の目から、涙が一粒こぼれ落ちた。そして彼は、沈み行く夕日に向かって敬礼した。
「さらば日本よ! わしが 生まれ変わって 再び日本にもどってきた時には 真の平和がおとずれているように!!」
気がつくと、桜田はジャングルの小屋の中にいた。服も日本兵のそれに戻っている。
「むかえにきたぜ」
死神くんが改めて名刺を見せる。
「死神… わしは 夢を見ておったのか? それとも お前が わしに夢を見させていたのか?」
死神くんは答えなかった。
「まあ そんなことはどうでもいい わしは 今までなんのために この島で 四十年間もすごしてきたのか」
が、「この島はきらいかい?」という死神くんの問いに、桜田はこう答えた。
「いや 平和な島だ 平和な四十年間だったよ」
- 424 :マロン名無しさん :2009/02/23(月) 23:04:32 ID:???
- しあわせだよ…
- 425 :マロン名無しさん :2009/02/25(水) 18:18:25 ID:???
- 今回死神くんはなんでわざわざ桜田さんを日本に連れて来たんだろうな
そのまんま島で幸せに死なせた方が良かったと思うんだが
- 426 :マロン名無しさん :2009/02/25(水) 21:01:31 ID:???
- 桜田さんが一度帰ってみたいって言ったからでしょ
死ぬ前の最後の願いを叶えるのも死神の仕事みたいだし
- 427 :FJ S61年9/23号 1/5 :2009/02/26(木) 22:15:40 ID:???
- 第38話 やさしき男たちの巻
校庭に一人ポツンと立っている眼鏡の少年のところへ、ボールが転がっていく。少年が拾い上げると、
「よォ! キャッチボールやろうぜ」
グローブをはめた、いがぐり頭の少年――中島は、声をかけた。
「でも…ボクへただから…」
「なーにいってんだよ だったら よけい練習しなきゃ」
中島がそう言うと、少年は少し笑った。
「オレ 中島ってんだ」
「あっ ボク 雨宮…」
「知ってるよ 今日転校してきたばかりの子だろ?」
「うん」
「仲よくしようぜ」
そして雨宮も手にグローブをはめ、二人は向かい合った。
「カーブの投げ方おしえてやる! いくぞー」
雨宮は、笑顔で手を上げた。
中島は、目を覚ました。鉄格子の中のベッドで。
しばらく呆然としていたが、やがて自嘲ぎみに笑った。
「なんてこった 今日が出所の日だっていうのに 雨宮の夢を見るなんて…」
「二度とくるんじゃないぞ」
そういう刑務官に頭を下げ、中島は刑務所を後にした。
「二度とくるな…か」
中島はつぶやいた。しかし、自分はまたここに戻ってくるだろう。今度は三年の刑では済まされない……。
「オレはやつを殺す うらぎり者の雨宮を殺す!」
- 428 :FJ S61年9/23号 2/5 :2009/02/26(木) 22:16:21 ID:???
- と、
「オイオイ ぶっそうな話だな」いきなり頭上から声がした。
「なっ なんだ!? おめえは!?」
驚く中島にその人物は――死神くんは名刺を見せた。
「安心しな あんたが死ぬというわけじゃない」
そう言う死神くんに関係ないなら引っ込んでろ、と中島。が、死神くんはまだ死ぬ人間じゃない雨宮をあんたが勝手に
殺しちゃまずい、俺は雨宮を守らなくちゃならない、とついて来る。
「それなら やつの所へいけばいいじゃないか」
「でも それじゃ雨宮は逃げる あんたは追うでいたちごっこだ だから あんたに思いとどまってもらおうと考えてんだ」
「それならムダだ」と中島は言った。彼は刑務所にいた三年間、雨宮に復讐することだけを考えてきたのだ。
「やれやれ どうしてそんなことになったんだい? 子どものころは大の仲よしだったのに」
「ふん あいつは… あいつはオレをうらぎりやがったんだよ!!」
三年前。
中島は洋品店を経営しており、妻と幼い息子の太一の三人で暮らしていた。
その日、中島は雨宮を話があるからと家に呼び出した。
「大きくなったな」と太一を可愛がる雨宮。
「おめえも早く 結婚したらどうなんだ?」
「相手がいなくちゃしょうがないだろ おまえが死んだら太一君は オレがひきとるからな」
「バカ言え!」
太一も、とても雨宮に懐いていた。と、中島は太一をお母さんと一緒に外へ出てろ、と部屋から下がらせた。
二人きりになったところで、中島は雨宮にサラ金に二百万の借金があると告白する。
そんな大金は持ってないけど出来る限りのことはするよ、と笑顔で言う雨宮。が、中島の口から出てきたのは、とんでもない
計画だった。なんと強盗をして、借金を返そうというのだ。
「これしか方法がないんだ たのむ! 協力してくれ!」
中島は何度も雨宮を説得し、ついに彼も折れ、仕方なく協力することになった。
そして決行当日。下調べをした店の中に無事侵入成功。雨宮は見張りに立ち、中島が金庫を開け始める。が、中島がポケットに
入れていたスパナが床に落ち、店の主人が気づいて部屋に来てしまった。
- 429 :FJ S61年9/23号 3/5 :2009/02/26(木) 22:17:20 ID:???
- 雨宮はバットを降り上げるが彼を殴ることは出来ず……仕方なく、中島が体当たりで主人を気絶させた。
「やめよう! もうだめだ!!」
雨宮は言うが、中島は今更やめられるか、と突っかかる。
「オレは必死なんだ お前に オレの気持ちがわかってたまるか!」
「だめだ もうだめだ」
「やかましい! いくじなしめ」
とうとう雨宮は、逃げ出してしまった。仕方なく中島は一人で金庫を開けようとするが、別の家族にも見つかってしまう。
やむなく逃げ出したが、すでにパトカーがこちらに向かって来ていた。雨宮が通報したのだ。
彼はそのまま自首し、中島も二日ほど逃げ回ったが結局捕まり、懲役三年の刑を受けた。
そして雨宮も、三か月の刑を受けることになった。
裏切った上に刑が軽いなんて許せない、と言う中島に「当たり前でないかい?」と死神くんは呆れる。
「大事な友だちだろう?」
「うるせェ! あんなやつ友だちでもなんでもねェ! 殺してやる!!」
「ずいぶん わがままだねェ 自分から犯罪にまきこんでおいて…」とさらに呆れる死神くんに「やかましい!」と中島。
「あいつのせいでオレの人生はメチャクチャだぜ 女房にゃ離婚されるわ 子どももいなくなっちまって」
と、近くにある家の玄関から、洗面器を持った雨宮が出てきた。これから銭湯に行くところらしい。
「おいおい 考え直してくれよ!」と死神くんは言うが……「雨宮!」中島は怒りも露わに彼に声をかけた。
雨宮もこちらに気づく。
「中島! 出所してきたのか?」
「やかましい! オレが今 なにを考えているかわかるか!?」
と、雨宮の足元に小さな男の子がいた。
「なんだそのガキは?」と言う中島に死神くんが教える。
「こらこら 自分の息子も忘れちまったのか?」
そう、男の子は中島の息子・太一だった。
「太一 こっちへこい!」
中島が呼びかけるが、太一は雨宮の後ろに隠れてしまった。
- 430 :FJ S61年9/23号 4/5 :2009/02/26(木) 22:18:23 ID:???
- 「太一!! その男からはなれろ!!」
が、太一の口から出た言葉は……
「おじさん だれ?」中島は混乱した。
「なにをいっているんだ お父さんを忘れたのか?」
「おじさんなんか知らない ボクのお父さんは そんな こわい顔じゃないもん」
その言葉に、衝撃を受ける中島。
「あんたの顔は鬼のようだぜ とても子どもが近づける顔じゃない」
死神くんにまでそう言われ、中島は煩悶する。
と、雨宮が「行きなさい」と言った。
「なに? パパ」
雨宮を「パパ」と呼ぶ太一に、中島はさらにショックを受ける。
「雨宮 きさまオレの子どもまで…」
が、雨宮は太一に言った。
「あの人は 太一君のお父さんだよ 行きなさい」
「えー ちがうよー お父さんはもっとやさしい顔してるもん」
「いいから 行きなさい」
「あんなやつお父さんじゃないよ ねー 早く お風呂いこー」
すると次の瞬間、雨宮は太一を平手で殴った。驚く中島。
「同じこと 何回も言わせるんじゃない」
「ど…どうしたの? パパ」
「私はパパじゃない!!」
さらに拳で太一を殴る雨宮に、中島も「な…なにをするんだ!!」と泣き叫ぶ太一の元に駆け寄った。
「うすぎたないガキめ 二度と このオレに近づくな!!」
が、言葉とは裏腹に雨宮の目には涙が浮かんでいた。
「今まで お前が いっしょでめいわくだったんだ! もう顔も見たくない!」
そして、太一を残して一人で銭湯へ行ってしまう。中島は、大泣きする太一をしっかりと抱きしめた。
「太一 泣くな 泣くな太一」
なだめる彼の目からも涙がこぼれる。そして太一は……
「お父さん!」ようやく父親だとわかったのか、中島をそう呼んだ。
- 431 :FJ S61年9/23号 5/5 :2009/02/26(木) 22:19:30 ID:???
- 改めて、笑顔で我が子を抱きしめる中島。
「いやー あの雨宮ってやつ ひどい男だねェ 他人の子どもだと思って力いっぱい ひっぱたくなんてよ あんたが
あいつをうらむ気持ちわかるよ まったくひどい男だ!」
わざとらしくそう言う死神くんに、中島は「バカヤロウ!」と声を荒げた。
「あいつは あいつは太一を人一倍かわいがっていたんだ オレのために…オレのために こんなひどいことを…」
「そうさ わかっているのならそれでいい」
死神くんは笑みを浮かべた。雨宮は、中島が出所してきた時のために、彼が太一と一緒に暮らせるように用意していたのだ、と。
「わかってる 雨宮は そんなやつだ やさしいやつなんだ」
中島の涙は、まだ止まらなかった。
「それにくらべてオレは…オレは オレは大バカだ!!」
「とにかくよかったな 子どもが戻ってきて」
死神くんは、天へ帰っていった。
「しかし 友人をひとり 失った…」
それから数日後。
仕事場の鉄工所の昼休みに、雨宮がぼんやりしていると、不意に、足元にボールが転がってきた。彼がそれを拾い、
顔を上げると……
「よォ! キャッチボールやろうぜ!」
そこには「新入社」の腕章をつけた中島がいた。
――初めて会った時と同じように。
「でも ボクへただから」
二人の目に、涙が滲んだ。
「ま…まだ カーブがなげられなくてね…」
「教えてやる!」
- 432 :マロン名無しさん :2009/02/27(金) 00:38:03 ID:???
- なんとなく、「口笛吹いて〜空き地へ行った〜♪」をイメージした
- 433 :マロン名無しさん :2009/02/27(金) 00:49:47 ID:???
- たとえ本当の父親でなくてもパパと呼んでいた大人に突然殴られてあんな酷いことを言われたら
一生のトラウマになると思う。
- 434 :マロン名無しさん :2009/02/27(金) 07:58:00 ID:???
- 離婚した奥さんはなんで太一を引き取らなかったんだろう?
- 435 :FJ S61年10/23号 1/7 :2009/03/01(日) 22:01:46 ID:???
- 第39話 大岡裁きの巻
『むかしむかし 大岡越前という悪人を裁く御奉行がおりました
ある日 ひとりの子どもにふたりの母親があらわれ どちらが本当の母親かを決める裁きが行われました
大岡越前は 子どもの手を ひっぱり合いうばいあうようにいいました
ふたりの母親が子どもの手をひっぱりあうと 子どもはいたがって大声で泣き出しました
すると 片方の母親が 手をはなしてしまい もう片方の母親が 自分こそ本当の母親だといいました
しかし 大岡越前は先に手をはなした方が母親だと裁きを下しました
「本当の母親ならば 子どもが痛がっているのを無理にひっぱるはずがない」
そういって子どもは 手をはなしたやさしい本当の母親のもとにもどりました』
「ふーん やさしいほうが本当のお母さんだったんだね」
「そういうこと! はい もう寝なさい!」
娘の由美に言って、ひろ子は絵本を閉じた。
「おやすみなさーい」
「ハイ! おやすみ」
ひろ子達夫婦と由美は、持病が悪化したひろ子の父のため、彼が経営する八百屋を手伝うために今日引っ越してきたばかり
だった。ひろ子にとっては二十年ぶりの故郷だ。ちょうどひろ子の夫も、会社が倒産し就職口がなくて困っていたのである。
「すまないね」と言う父に「いいんですよ」と夫。
「自分もサラリーマンより こんな商売のほうがむいているんじゃないかって 思っているんですよ」
そう言う夫に、ひろ子は「考えが甘いなー」とあきれる。朝が早いのに、夫は低血圧だからだ。それでも夫は「大じょうぶだ」
と自信ありげだ。
「それよりひろ子」
「なあに? お父さん」
「小夜子のことなんだが」
突然出てきた、亡き姉の名にひろ子は驚く。
父曰く、近くの中乃口川の川原に、彼女の幽霊が出るというのだ。冗談だと思うひろ子だが、目撃した人が何人もいるらしい。
「自分の娘とはいえ、こわいこっちゃ」
ひろ子は姉が死んだときのことを思い出した。
- 436 :FJ S61年10/23号 2/7 :2009/03/01(日) 22:02:41 ID:???
- その日、姉夫婦は娘の由美と一家三人でドライブに行っていた。が、突然正面から現れたトラックを避けようとして車は
川原に転落。姉夫婦は亡くなり、由美だけが奇跡的に無傷で助かった。救急隊が発見したとき、小夜子の遺体の手はしっかりと、
由美の足を掴んでいたという。そして一人残された由美を、ひろ子たち夫婦が引き取ったのだ。
「そうか あれからもう4年もたつのか」
「由美も すっかりなついて うまくやってるじゃないか」
だが、父の言葉をひろ子は「そんなことないわ」と否定する。
「あの子は 私のこと まだ一度もお母さんてよんでくれたことないのよ」
まだ起きていた由美は、それを聞いて思う。
(だって 私の本当のお母さんは…)
学校からの帰り、由美は例の中乃口川の川原に行く。そこは母・小夜子が死んだ事故現場でもあった。
(この川原でお母さんは……)そう思ったその時、
「由美! 由美じゃないか」
背後から声をかけられ振り向くと……なんと、死んだはずの小夜子がいるではないか!
「ずっと まっていたんだよ 由美…」
が、由美は悲鳴を上げ、逃げ出してしまう。そして改めて振り返ると、もうその姿は消えていた。と、
「よう! 気をつけなよ」
また突然声をかけられ由美はびっくり。今度は後ろにいたのは小さな男の子――死神くんだった。
「あの人とはつき合わない方が いいぜ」
「な…なあに? あんた何年生? チビのくせに!」
「子どもじゃないんだけどな」
とにかくあのおばさんは危険だからな、と言い残し死神くんは去った。慌てて行った方向を見たが、やはり誰もいなかった。
家に帰った由美は学校であったことを話そうとするが、ちょうど店が忙しかったこともあって、ひろ子に「いそがしいから
あとでね」とあしらわれてしまう。
「つまんないの」
仕方なく部屋に入った由美は、仏壇の小夜子の写真を見つめた。
その晩、由美は百点のテストを見せようとするが、やはり売り上げの計算などで忙しい二人に相手にしてもらえない。
「由美ちゃん 悪いけど いそがしいから早くねなさい わかった?」
由美は一瞬、傷ついたような表情を浮かべたが、おとなしく布団に入った。
- 437 :FJ S61年10/23号 3/7 :2009/03/01(日) 22:03:22 ID:???
- 次の日。川原に行くとやはり小夜子がいた。
「お… お母さん」
「そうだよ お母さんだよ 思い出してくれたんだね」
小夜子は笑った。
「さあ 行きましょう」
「どこへ?」
「いい所だよ」
そのまなざしに、一瞬妖しい光が浮かんだ。
楽しく小夜子とおしゃべりする由美。だが、通りがかった青年には、由美が一人でしゃべっているようにしか見えず、
「ひとりで なにやってんだ」と首をかしげる。
その様子を見ながら死神くんは「このままじゃまずいことになるぞ」とつぶやいた。
その晩、ひろ子達夫妻は店の売上が落ちてきていることに頭を悩ませていた。
「お前 この前つり銭まちがえただろう!?」
「なによ あんたこそ手アカだらけできたないって苦情がきたわよ!!」
「まったく 計算が弱いんだからな」
「あんた どなりすぎで つばがとんできたないってさ!!」
苛立ちからかどんどん言い合いがヒートアップしていく二人を、ひろ子の父が収めた。
「店のことはどうでもいい たまには由美といっしょに 外でも遊びにいったらどうだ?」
「そうだな 気ばらしにどこか行くか…」夫は言った。「このごろぜんぜんかまってやれないし……」
だが、ひろ子は言う。
「あの子 最近楽しそうに帰ってくるわ きっと学校で友だちが たくさんできたのよ… あの子のことはべつに心配
いらないわ それに…」
ひろ子は、寂しげな表情になった。
「あの子は… どうせ… 私の子どもじゃないしね…」
- 438 :FJ S61年10/23号 4/7 :2009/03/01(日) 22:04:33 ID:???
- 「なんてこというんだ おめーは!!」
吐き出された言葉に夫が声を荒げるが、
「うるさいわね あんたに 私の気持ちがわかるの!?」ひろ子も怒鳴り返した。
「どんなに つくしてもお母さん≠チて呼んでもらえないのよ!!」
「オレだっておじちゃん≠チて呼ばれてんだぞ」
泣きながら喧嘩する二人を、再びひろ子の父が「やめんか!!」と止めた。
夜中。由美は気づかれないよう、起き上がった。
居間を見ると、ひろ子は一人で酒を飲んでいて、こちらには気づいていないらしい。
(ごめんね おじさん おばさん いままで育ててくれてありがとう 由美はお母さんといっしょに行きます)
由美は、洋服に着替えるとこっそり家を出て行った。
「オイオイ 大変なことになったぞ」
酔いつぶれて寝ていたひろ子は、その声で目を覚ました。いつの間にか目の前に見知らぬ少年――死神くんがいた。
「なによ!! あんた どこから入ってきたの!?」
が、死神くんはその問いを無視して伝えた。
「のんびり 酒なんか飲んでる時じゃない 由美ちゃんが大変だ」
その言葉に、ひろ子は慌てて寝室へ行くが、当然由美の姿はない。「どこへ!?」と心配そうなひろ子に、死神くんは告げた。
「信じてもらえるかどうかわかんないが あんたのお姉さんの所へいった」
「お姉さん!?」
驚くひろ子に、死神くんは説明を始めた。
四年前。あの事故で死んだ小夜子の魂を担当したのは死神くんだった。
「由美! 由美は!?」
娘の心配をしていると思った死神くんは「大じょうぶ あんたがクッションがわりになって ケガひとつないよ」と伝える。
が、小夜子の口から出てきたのはとんでもない言葉だった。
「由美も 由美もいっしょにつれてきて!!」
「バカ言うなよ」と死神くんはあきれるが、小夜子は本気らしく「由美は 私の子よ!! だれにもわたしはしない!!」と
由美を引っ張りに行こうとする。
どうにかその時は小夜子をなだめ、魂を霊界に連れて行くことが出来たが、いつでも一緒にいたいという気持ちがよほど
強かったのだろう、その意識だけが地上に残ってしまったのだ。
- 439 :FJ S61年10/23号 5/7 :2009/03/01(日) 22:05:59 ID:???
- やがて、由美はひろ子達に引き取られ引っ越したが、それを知らない小夜子の意識はずっと由美を待った。
その間に、どんどん意識は強くなり、ついには霊能力の強い人に幽霊に間違われるほどになってしまったのだ。
「さっ 早くくるんだ」死神くんはひろ子を急き立てた。「でないと大変なことになる 彼女は 由美ちゃんをつれていく気だ」
「ど…どこへ…」
「彼女が死んで行った世界…つまり霊界だ それは 死を意味する!!」
「そんな!! 由美ちゃん!!」
ひろ子は大急ぎで、死神くんと共に川原へと向かった。
川原に着くと、そこには由美と手をつないだ小夜子――正確には小夜子の意識――がいた。
真っ青になるひろ子を死神くんは「こわがっちゃだめだ!」と励ます。
「ひろ子…この子を育ててくれてありがとう」小夜子が口を開いた。「わるいけど返してもらうよ」
「な…なんてこと言うの!! そ…そんなことしたら由美は…」
が、小夜子は構わず「さあ 行きましょう!」と由美の手を引き、天へ昇り始めた。慌ててひろ子が駆け寄り、由美の足を掴む。
「やめて! お姉さん 由美は もう私の子よ!!」
「なにを言っているの 由美は私の子だよ」
「お姉さんは死んだのよ 今のあなたに 由美は育てられないわ!!」
と、さらに引き上げる力が強くなった。ひろ子の体も浮き上がりそうになる。
死神くんも押さえ込もうとするが、意識の力は強く、うまくいかない。
「由美ちゃん 行っちゃだめよ!!」ひろ子は叫んだ。「あなたのお母さんは私よ そうでしょ!?」
が、由美は何も言わなかった。
「どうして? どうしてなの由美ちゃん どうして私をお母さんって呼んでくれないの!?」
「だっ だっておばさんは継母(ままはは)って言うんでしょ?」由美が戸惑いながら言った。「それは本当のお母さんじゃ
ないって みんな言ってるもん」
「おなかを痛めてなくても 私はお母さんよ」ひろ子は泣いていた。「由美ちゃんが私のこと お母さんって思ってくれれば
それでいいのよ!!」
「いやだ!! ふたりもお母さんいらないもん!!」由美の目にも涙が滲んでいた。「私のお母さんは この世で ひとりしか
いないもん!!」
- 440 :FJ S61年10/23号 6/7 :2009/03/01(日) 22:07:35 ID:???
- と、さらに小夜子の引っ張る力が強くなった。必然的にひろ子の手にも力が入る。
由美は上下から強く引っ張られ、「いたあい!! いたいよォ!!」と悲鳴を上げた。
その悲痛な声に、ひろ子は思わず手を離した。瞬間、由美の体は天高くへと、引き上げられていった。
「由美ーっ」
泣き叫ぶひろ子。死神くんも何とか押し戻そうとするが、もうどうする事も出来ないほど力は強くなっていた。
一方、引き上げられた由美は、呆然としていた。
「どうして…どうしてなの お母さん どうしてむりやり手をひっぱったの?」由美は涙をぬぐった。「私が いたいって
さけんだのに どうして…」
が、小夜子はそんな由美の様子など意に介さず、
「なにをいってんだい由美 やっと ふたりになれたんだよ」と言う。
由美は思う。おばさんは手をはなしてくれた。――絵本で読んでくれた、大岡裁きの母親のように。それは優しいから?
本当のお母さんだから……?
由美の脳裏に、ひろ子との様々な思い出が浮かんだ。一緒にお風呂に入ってくれた事、絵本を読んでくれた事、頭を撫でてくれた
優しい手、優しい笑顔。
「手を はなしたほうがお母さんなんだよ」
「どうしたの? 由美ちゃん」
「手を はなして!」由美は、小夜子を睨みつけた。「やさしい方が 本当のお母さんなんだ!! 私の お母さんはあの人だよ!!
あんたなんかお母さんなんかじゃない!!」
小夜子も、そして死神くんも、唖然とした。
- 441 :FJ S61年10/23号 7/7 :2009/03/01(日) 22:08:46 ID:???
- 川原で泣くひろ子。と、何気なく上を見上げると小さな人影が落下してくるのが見えた。
「由美!!」
すぐさまひろ子は川の中に入り、水面ぎりぎりのところで由美の体を受け止めた。
「由美ちゃん! 由美ちゃん」
気を失っている由美に、ひろ子は必死で呼びかける。
「由美…」
やがて、その目がゆっくりと開くと、
「お母さん…」
由美は、ひろ子をそう呼んだ。ひろ子の頬に感激の涙が流れ、彼女はしっかりと、由美の体を抱きしめた。
死神くんも、安堵のため息をつく。先程の由美の言葉で、小夜子の意識は消えたのだ。
「でも 死んでいったお母さんをうらんじゃだめだよ 由美ちゃん!」
翌日。ひろ子たち一家は改めて、事故現場に花を供え、手を合わせた。
「そういえば お姉さんは店の仕事もやりながら 由美ちゃんのめんどうもちゃんと見ていたわね……」ひろ子は言った。
「私も見ならわなくちゃ! さっ いきましょう!」
「うん」
ひろ子は由美の手を引いた。今日は一家揃って遊園地に行くのだ。が、夫は一人、ひろ子が急にそう決めた訳がわからず
取り残されていた。
「店はどーすんだよ!?」
そんな彼をよそに、二人は楽しそうに歩いていった。
- 442 :マロン名無しさん :2009/03/02(月) 17:36:44 ID:???
- 最初の大岡裁きの話と、引っ張り合いになった時点でオチが読めてしまった…
一緒にいたい気持ちはわかるが、だからって我が子を殺そうとするなよ小夜子
- 443 :マロン名無しさん :2009/03/02(月) 20:27:56 ID:???
- 死神くんは小夜子を強制回収できなかったのか?
- 444 :マロン名無しさん :2009/03/02(月) 21:53:15 ID:???
- 魂じゃなくて意識だからどうにもできなかったんじゃない?
- 445 :マロン名無しさん :2009/03/02(月) 23:12:08 ID:???
- いくら大岡裁きの話が前提でもこの状況で手を離しちゃまずいだろう・・・
あの世へつれてかれちまうんだぜ・・
- 446 :マロン名無しさん :2009/03/03(火) 20:34:00 ID:???
- 普通こういう事故の話だと「自分は死んでもいいから娘には生きててほしい」ってなるところなのに
「離れたくないから一緒に死んでほしい」ってのがすごいな
完全に愛し方間違ってるよ……
- 447 :マロン名無しさん :2009/03/03(火) 20:55:11 ID:???
- まあ魂ではなく意識が強く残ったものだそうだから
娘といたいという願望以外の事は考えられないんだろう。
- 448 :FJ S61年11/23号 1/6 :2009/03/04(水) 22:13:41 ID:???
- 第40話 帰ってきた父ちゃんの巻
崖の上に、無精髭にボサボサの髪、つぎはぎだらけの服を着た中年男が立っていた。後ろには、彼の妻と、三人の子供、
太郎・花子・次郎がいる。彼等一家はサラ金に追われ、自殺するためにここに来たのだ。
父は酒瓶の酒をあおった。
「いいかー みんな これから わしらは死ぬぞ!! サラ金からおわれる毎日はもういやじゃ!」
その目に涙が滲む。
「今日でこの苦しみから解放されるんじゃ こわがることはない」
が、太郎は「いいから 早く死のーぜー」と軽い調子だ。
「お前は死ぬ気あんのか!?」と父は太郎を叱るが、そう言う彼が一番震えていた。
友達に貧乏と馬鹿にされてるから早く死にたいと言う太郎に、「そんなことで簡単に死ぬな」と父。
「あたしら自殺しにきたんよ」と母はあきれた。
「父ちゃんせめて 子どもたちは…」
「バカモノ! 死ぬ時はみんないっしょじゃ!!」
父は再び酒をあおった。そしていざ飛び降りようとするのだが……なかなか飛び降りない。
「こらー なんで飛びこまん!」と怒る父に、
「てめーが 先に飛びこんでみろよ!」と太郎。
その時、花子が足を滑らせて崖の途中に引っかかってしまった。父は思わず助けに行こうとするが、母に「落ちるよ!」と
止められた。
「花子! まってろ わしらもすぐにいく!」
そう言って再び飛び降りようとするが……やっぱり無理。
「ああっ 花子! だれか花子を助けてくれーっ!!」
父がそう叫んだ瞬間、
「オレが 助けてやろうかい?」
そう言って全身真っ黒の子供が――悪魔くんが現れた。
驚く父に花子ちゃんを助けてやるから契約してくれるかい? と持ちかける悪魔くん。
- 449 :FJ S61年11/23号 2/6 :2009/03/04(水) 22:14:29 ID:???
- 「な…なんだかわからんが とにかく花子を助けてくれ!」
契約でもなんでもするから――父がそう言ったのを聞き届けると、悪魔くんは花子を引き上げてやった。
抱き合って喜ぶ二人に、いつものように三つの願いを叶えてやろう、と告げる。ただし、今回は花子を助けるために
一つ願いを使ったので、叶えられるのはあと二つだ。
が、願いを叶える代わりに父の魂をとる――つまり、父が死ぬと言われ、一家は仰天。
が、父は「これで自殺する手間がはぶける!」と大喜びし、家族をずっこけさせる。
「なにいってんだい 悪魔に魂をとられてしまうんだよ!!」
と母は止めるが、父はあと一つだけならいいんだ、といたって脳天気だ。
(ケッ 人間の欲望はキリがないからな みっつの願いなんてすぐ使うものさ)
心の中でつぶやき、笑う悪魔くん。すると、
「こんなやつとつき合うのはやめな!」
立ちはだかるようにして、死神くんが現れた。人の弱みにつけ込んで契約した悪魔くんを糾弾する死神くんだが、
「それじゃ 花子ちゃんを見殺しにしろっていうのか? 花子ちゃんは死ぬ予定の人間なのか!?」と悪魔くんに反論され、
何も言えなくなってしまう。
とりあえず「二度とこいつを呼びだすんじゃない!!」と一家に忠告する死神くんだが、
「死神さんとやらは 願いをかなえてくれるんですか?」と父に聞かれ「べつに かなえられないけど」と答える。すると、
「「「「「悪魔の勝ちーっ」」」」」一家は笑顔で悪魔くんを指差した。
死神くんは喜ぶ悪魔くんに、電撃で遠くへ飛ばされてしまった。
さっそく二つ目の願いとして、お金を要求することに決める。父は「借金の250万円を なんとか つごうしてくれんか?」と
言うが……家族から「なに セコイこといってんだよ」と総ツッコミが入った。
「百億ぐらい出してもらえよ!!」
太郎の言葉に、文字通り目の玉が飛び出すほど驚く父。
「百億っつーったら百億だぞ おめー」
酒をあおり、動揺しまくる父を母と太郎は必死でなだめる。
「そうさ 父ちゃん 貧乏とはおさらばだよ 金を出してもらったら悪魔なんて呼ばなきゃいいんだ」
「金さえありゃなんでもできる みっつめの願いなんて必要ないよ」
- 450 :FJ S61年11/23号 3/6 :2009/03/04(水) 22:15:14 ID:???
- 二人の言葉にようやく父も願いを言おうとする。が、母は次郎の様子がおかしいことに気づいた。ひどい熱が
あるのだ。一家は次郎を病院に連れて行くことに。
タクシーを呼ぼうとするが、そんなお金はない。すかさず病院まで連れてってやろうか? と言う悪魔くんだが……
「まてまて」死神くんが止め、「ホラ この案内図に書いてあるじゃないか!」と、すぐ側の周辺案内図を示した。
それを見ると、1km先に病院がある。一家はそこまで走っていく事に。
「よけいなことを!」と死神くんをシメる悪魔くんであった。
が、病院まで着いたものの、いくら戸を叩いても誰も出てこない。どうやら誰もいないらしい。それならと救急車を
呼ぼうとするが、近くにあった公衆電話は故障中。再び悪魔くんがほくそ笑むが……
「ヒッチハイクだ! 車に乗せてもらって病院へ行くんだ!!」再び死神くんが阻止。一家は道路を走る車に向かって
「止まってくれー」と呼びかけた。そしてまた、死神くんは「おめーは じゃますんなよっ!!」と悪魔くんにシメられた。
必死に呼びかけるが、どの車も止まってくれない。それならと花子にお色気作戦をさせる父だが――「自分の娘になんてこと
やらせんだいあんたは!!」母からゲンコツがとんだ。そうしている間にも、どんどん次郎の容態は悪くなっていく。
「悪魔! ふたつめの願いじゃ!!」
耐え切れなくなった父が、悪魔くんを呼んだ。死神くんは「ばかなことはやめろ!」と言い、家族も願い事が使えなくなって、
貧乏とおさらば出来なくなると止めるが……
「バカタレ!! 金より子どもの命が大切じゃ!!」
父はそう家族を一喝。「考え直せ!!」と言う死神くんの言葉も無視し、願いを言ってしまう。
「早く 次郎を助けてくれ…」
悪魔くんはにやりと笑い、次郎の額に指で触れた。すると熱が下がったのか、次郎はようやく落ち着いた表情になった。
「よかった…」父は涙を流すが、太郎は「またこれで元の貧乏じゃねーか! また 自殺すんのかよ?」と父を馬鹿にする。
「次郎を助けたのに また自殺すんのかよ!? まったく なにやってんだよ ムダなことばかりやって ダメなおやじ!
オレたちには 貧乏か 自殺か この二つしかねーのかよ」
大笑いする太郎。すると、父が思いつめた表情になった。
「太郎 まだ 願いごとはひとつ残っている」
- 451 :FJ S61年11/23号 4/6 :2009/03/04(水) 22:15:52 ID:???
- 「よせ! やめろ!」死神くんは父を止めた。「みっつめの願いがかなえられるとあんた死ぬんだぜ」
が、父は全員死ぬより俺一人が死んで残りの皆が幸せになればいいじゃないか、と決意を固めた様子だ。
「まったくそのとおり 最後におやじらしいところを見せてくれよ」
また馬鹿にしたように笑う太郎を母は諌める。
「たしかに わしはおやじらしいことはなにもしてやれなかった…」父はつぶやいた。
酒ばかり飲んで、仕事もせずに、ギャンブルに手を出し、ついにはサラ金にまで手を出した。アルコール中毒で、酒がなければ
手が震えて、仕事も出来ない……。
「他人から見ればろくでもねェ父親だ… せめて最後だけでも父親らしいことをしてやるぜ みんな幸せになってくれ…」
「とうちゃん」
「死ぬのはオレひとりでいい… みんなは生きろ」
そして、太郎を見ると言った。
「お前は昔のわしとそっくりじゃ わしみたいになるなよ わしがいい見本じゃ わしを だめな父親と思うならだいじょうぶだ」
そしてついに、父は最期の願いを言ってしまった。
「残された家族に 幸せな日びを約束してくれ!!」
死ぬために崖の上に立つ父。と、そのズボンの裾を次郎が引っ張った。
「父ちゃん どこいくの? いっちゃやだ」
「父ちゃん いっちゃやだ…」花子も言う。「父ちゃんがいないとさびしいよ」
慌てて次郎の手を振り払う父。今度は母の目に、涙が滲んだ。
「父ちゃん 家は貧しかったけど 楽しい家族だよ いつも笑い声が耐えなかった…」
死ぬなんて考えずに、初めからやり直そうよ、五人で働けば何とかなるよと母は言うが、父はまだ小さな次郎まで働かす気か、
と反対する。
「あたしゃ今までの生活で満足だよ 父ちゃん死なないで!」
「父ちゃん!」
「父ちゃん!!」
さすがに父の心にも迷いが生じる。が、
「ばかやろう 父ちゃんの みんなが 幸せになってほしいって気持ちがわかんねェのか!?」と振り切るように叫んだ。
- 452 :FJ S61年11/23号 5/6 :2009/03/04(水) 22:16:29 ID:???
- (ケッ もう どっちにしろみっつの願いごとを言ったんだ 死んで もらうぜ もう手おくれなのさ)
そう心の中でつぶやき、満面の笑みを浮かべる悪魔くん。
花子と次郎は、必死で「父ちゃん死んじゃやだ」と父にすがりつくが、父は殴って追い払う。母も「父ちゃん あたいも
死ぬよ!!」と子供達と共にすがりつこうとするが、父は三人を突き飛ばした。
「太郎! あとをたのむ!!」
ついに、太郎の目からも涙がこぼれ、「父ちゃん死ぬな!!」と止めようとするが――
父は、地面を蹴った。花子が悲鳴を上げ、母は顔を覆う。死神くんが後を追いかけ「早く この手につかまれ!」と手を伸ばした。
が……父は笑顔で海へと落ちた。水しぶきが上がる。
「なぜ… なぜ笑う」
呆然と死神くんはつぶやき、悪魔くんは笑った。
「とうちゃ〜ん」
太郎は、海に向かって叫んだ。
止めることが出来なかった……唖然とする死神くんに悪魔くんが近寄った。
「死神よ これでいいんだ やつは 死んだほうが幸せなんだ」
「!!」
「生きてるほうが地獄なんだよ わかるだろ? これで おめーも勉強になったろう ん?」
死神くんは、何も言わなかった。
「オレは みっつの願いをかなえた上に 生きる苦しみから 解放してやってんだ まるで神サマだぜ」
高笑いをしながら悪魔くんが去った後、ようやく死神くんは口を開いた。
「そんなばかな 死んだほうが幸せだなんて そんなばかな」
「よう みんな安心しな」崖の上で泣く一家に、悪魔くんは声をかけた。「これからは 幸せな人生が約束されてるんだ」
が、太郎は泣きながら悪魔くんを睨みつけた。
- 453 :FJ S61年11/23号 6/6 :2009/03/04(水) 22:17:10 ID:???
- 「オレたちは 今まで 幸せだったよ」
「へ?」
「貧乏だけど 父ちゃんのおかげで幸せだった」
「父ちゃんがいないのに 幸せな人生なんて考えられないよ!!」
母も泣き叫び、父ちゃんの後を追って死ぬと言い出す。予想外の展開に悪魔くんはうろたえた。が、太郎はそんな母の言葉に
反論する。
「オレは生きる 父ちゃんは 生きろって言った 父ちゃんは 自分のように生きちゃだめだって教えてくれたんだ」
そして、改めて悪魔くんを見据えると宣言した。
「オレは 父ちゃんの分までいっしょうけんめい生きる!! お前の力など借りずに 幸せになってみせる!! 二度とオレたちの
前に姿を見せるな!! この人殺しやろうめ!!」
太郎に石を投げつけられ、悪魔くんは仕方なく退散。そして一家は、夜明けの道を歩いて帰っていった。
「そうだ! 生きているから幸せを感じることができるんだ」
一家の様子を見て、つぶやく死神くん。そこへ、追い払われた悪魔くんがやって来た。
「わ…わからん 人間はいったいなにを考えているんだ」
「まったくだな」
とんだムダ骨だ、とため息をつき帰ろうとする悪魔くんを死神くんは呼び止めた。
「わかってるよ みっつめの願いはかなえられない」
死神くんはようやく笑顔になった。
その頃、とある総合病院に海に落ちたところを助けられた患者が運ばれていた。三つ目の願いが無効になったおかげで、
助かった父だ。警察に身元確認のため住所と名前を聞かれる父だが……
「その…なんともうしましょうか 家族に会わせる顔がなくて…」
家族を思うと何も答えられず、苦笑いするのであった。
- 454 :マロン名無しさん :2009/03/04(水) 23:16:11 ID:???
- むしろ幸せにするなんて曖昧な願いを叶えようとした悪魔くんがすごい
- 455 :マロン名無しさん :2009/03/05(木) 07:44:50 ID:???
- 家族がいっぱいいるんだから
父ちゃん以外も契約してお金の願いをかなえてもらえばよかったのに
- 456 :FJ S61年12/23号 1/6 :2009/03/07(土) 22:12:11 ID:???
- 第41話 娘どろぼうの巻
とある屋敷で、泥棒の竹田源三は金庫破りをしていた。やがて「カチ」と開いたことを示す音がし、源三は戸を開けた。
「このわしの手にかかって あかぬ金庫などないわ」
中には現金が二百五十万と株式証券が入っている。源三はそこから五万円だけを抜き取った。これが彼のやり方で、金額が
少なければ盗られたことに気づかないし、気づいたとしても被害届を出さない場合があるからだ。
そして帰り支度を始めると、何者かが背後にいる気配が。驚いた源三が振り返ると、死神くんがいた。
「なんだおめーか びっくりさせやがる」
源三は死神くんに二年後に死ぬと宣告されていた。泥棒をやめて真面目になってほしかったからなのだが、それが裏目に出て
「今から かせぎまくって 残りの余生を楽しくすごしてやるのよ」とかえって泥棒に励むようになってしまい、死神くんも
あきれていた。
屋敷から出た源三はポストを見つけると、懐から娘に出すハガキを取り出した。が、書いてある内容は「今度部長になれる
かもしれない」といった嘘ばかり。
死神くんにからかわれつつ手紙をポストに入れると、ベンチに腰かけ日記を付け始めた。
「娘よ またわしは 悪いことをしてしまった… 金がたまったら旅に出るつもりじゃ」
書きながら源三は、娘のいずみと別れた日のことを思い出す。
妻が家出し、源三は一人でいずみを育ててきたが、風吹きすさぶ寒い日、源三はおばさんの家と偽って、いずみを施設に
連れてきた。
「いずみ ここがおばさんの家だ どうだ 大きい家だろう?」
「うん」
「さあ いきなさい お父さんは ちょっと買物がある」
何も知らないいずみは元気よく「ハーイ」と返事をして、中へ入っていった。そして源三は、それを見届けるとすぐ走り去った。
(いずみ 幸せになれよ お父さんが必ず 迎えにくるからな…)
あれから十三年。一度もいずみには会っていない……。
そうしているうちに夜も明け、帰ろうとすると老夫婦が車に乗るのが見えた。前田工業の社長とその妻だ。源三は様子をうかがう。
夫婦は海外旅行に持っていくような大きなトランクを積み込み、お抱え運転手と一緒に行ってしまった。
あの老夫婦には子供がいないし、お手伝いがくるのは十時頃。ということは、家には誰もいないはず。
- 457 :FJ S61年12/23号 2/6 :2009/03/07(土) 22:12:53 ID:???
- (よーし オレもそろそろ足を洗う潮時だ)源三は手袋をはめた。(この家には大金がありそうだしな 最後の仕事として
やるか)
そして源三は、針金で簡単に玄関の戸を開けてしまった。
「へっへっへっ このわしにかかったら あかないものはない」
が、誰もいないと思い、堂々と中に入ると……パジャマ姿の、歯ブラシをくわえたポニーテールの少女がいた。
「なんだい? あんた」
予想外の出来事に大声を上げる源三だが、すぐに少女を押さえつけた。
顔を見られたからには、彼女をどうにかするしかない。
「ちくしょう 話が違うじゃねーか!!」
少女は叫んだ。
「なんのことだ!?」
「あたいは 事故で死ぬ予定なんだぞ」
思いがけない言葉に源三は驚く。と、
「悪いけど その子はなしてやってくれないか?」
と山高帽にスーツの子供が――死神404号が頼んだ。
「死神!?」
「あら よく オイラのことが死神だってわかったねェ」
「奇遇だなあ この男にはオレがついてんだ」
現れた死神くんに404号も驚く。源三は、少女を離してやった。
「すまねエ 悪いことしちまったなァ」
源三があと二年の命だと聞いて、少女は羨ましがる。彼女は今夜死ぬ予定なのだ。「こわくねエのか?」と源三は訊くが、
少女は一週間前に宣告を受けてから、その間にいろんな事をやったから今は静かに死を待つだけだよ、と至って落ち着いていた。
「で…どうする? オレを警察につきだすのか?」
恐る恐る尋ねる源三に、少女は少し考えて、答えた。
「おじさんが あたいとデートしてくれたら ゆるしてあげる!」
「デートォ?」
二人は繁華街へ向かう。一方、死神くん達は話しているうちに、
「な…なにィ あの娘が」
「そ…それじゃあ あのおじさんが」
二人に関する、とんでもない事実を知ってしまう。死神くんと404号は複雑な表情で二人を見た。
- 458 :FJ S61年12/23号 3/6 :2009/03/07(土) 22:13:39 ID:???
- 「まずいなこれは…」
「まさかこんな偶然が…」
少女はどんどん先に行くが、源三は場違いな場所に照れまくってなかなか足が進まない。
「なにてれてんのよ」
「悪いかよ」
「ちゃんとつきあってくんなきゃ 警察つきだしちゃうからね」
「脅迫する気か!?」
二人は公園のベンチで一休み。彼女の年が十六だと聞き、いずみと同じ年だ、と源三は思う。ふと彼は、あることに思い当たった。
「まてよ… たしか あの家には子どもはいないはずなんだが…」
「フン 私 ホントの子じゃないもん」
少女は笑顔で言った。
「あたい 養子だよ たんぽぽ学園から10年前ひきとられたんだ」
それは、いずみがいる施設の名前だ。そして、次に少女が口にした言葉に、源三は仰天した。
「私の本当の名は竹田いずみ わたしのお父さんは竹田源三っていうの」
あまりに突然の事に、開いた口が塞がらない源三。
「あ〜あ 気づいちまった」
「まずいぞ」
死神くん達も心配し、何も知らない少女――いずみだけが「へんなの」と首をかしげた。
改めていずみの姿を見て、源三は感激する。
(いずみ… いずみ… こんなに大きくなって… こんなに りっぱになって…)
と、いずみが煙草を吸おうとしているのを見て、源三はそれを取り上げた。
「ガキのくせにタバコ吸うんじゃねーっ!!」
「な…なにすんのよ」
「未成年のくせに!」
源三は灰皿に煙草を捨てた。
「今日死ぬんだから 自由にやらせてよォ」
いずみはそう抗議するが、源三は彼女をものすごい顔で睨みつける。いずみも「わかったわかった」と降参した。
「親は なにもいわないのか?」
「うん 甘いからね」源三の問いに、いずみは肯いた。「あたいのやることは目をつぶってるよ 親っていうか おじいさん
おばあさんって感じだよ 年がはなれすぎているからね」
それを聞いて、源三は恐る恐る「本当のお父さんを どう思っている?」と訊いた。
- 459 :FJ S61年12/23号 4/6 :2009/03/07(土) 22:14:16 ID:???
- 「どうって わかんないよ 顔 おぼえてないし」いずみは言った。「月に一度は 手紙もらうんだ まじめに仕事やってる
みたい 手紙は学園からおくられてくるの」
住所が書いてないからどこにいるかも分からないし、このまま会わずに死んじゃうんだ、と答えるいずみに、源三は苦渋の表情を浮かべた。
それを見た死神くんは、
「どうした? 自分の正体を明かさないのか?」と源三に訊くが、源三は言う。
「オレは まじめに仕事しているってことになってんだ どろぼうのわしが親だと知ったら… 娘のがっかりした顔なんか
見たくねェよ」
そして二人は、思い切り遊んだ。映画を観たり、喫茶店に入ったり、ソフトクリームを食べたり……楽しい時間はあっという間に
過ぎ、夜になった。
「ふー わしゃもう つかれたぞい」
座り込む源三を見て、いずみは笑う。
「私の命も あと数時間か」
その言葉に、源三ははっとした。
(どうしたらいいんだ わしは父親としてどうしたらいいんだ)
悩む源三に死神くんは「本当のこと いっちまえよ 気が楽になるぜ」とアドバイスするが、404号は「いや このままでいい
ショックをあたえるようなことはさけてもらいたい」と反対する。
「本当の父親と会えたら 幸せだと思うけどな」
「でも どろぼうだろ?」
議論を続ける二人に、「うるせーな ゴチャゴチャいうなよ」と耳を塞ぐ源三。と、いずみが警官に補導されそうになっていた。
慌てて近寄ると、警官は源三に「あっ お父さんですか?」と尋ねる。なんと答えていいかわからず口ごもっていると、
いずみが言った。
「そうよ 私のお父さんよ!!」
それを聞いて警官は「そうですか 失礼しました」と納得して去っていった。その様子を見て「アハハハ 本当のお父さんと
思ってる――っ」といずみは笑う。源三は苦笑いした。
「私たち 親子に見えるのかなァ おじさんが ホントのお父さんだったらいいのにねェ」
何気ないいずみの一言に、源三の目から涙が零れた。いずみは驚く。
「アハハハ おじさんどうしたっていうの? おかしいわね 泣くなんて」
と、いずみの目にも涙が滲んだ。
「へんなの 私も泣けてきちゃった」
- 460 :FJ S61年12/23号 5/6 :2009/03/07(土) 22:14:47 ID:???
- 二人はしばらく泣いた。そして、
「おじさん 今日はどうもありがとう もう別れましょう!」
いずみが切り出した。
「生まれ変わったらまた会おうよ! 私 いい子になってるからさ!! さようなら」
源三は、いたたまれなくなって走り出した。
(なにも…なにもしてやれなかった 父親としてなにも… 父親と名のることさえもできなかった)
と、いずみはベンチの上に源三の荷物があるのに気がついた。
「おじさん おじさん忘れものだよ」
いずみは風呂敷包みを持って、源三の後を追いかけた。
「おじさーん」
その声に振り返る源三。と、車のヘッドライトがいずみを照らした。
(あ 私 死ぬんだ そうか 交通事故で死ぬんだ 私…)
そして予定の時間になり、強い衝撃がいずみを襲った。
「や…やべエ ひいちまった」
「ど…どうする?」
「逃げろ!!」
「ひえー」
轢いた車に乗っていた者達は、そう言って逃げていった。と、いずみは気づいた。体が何ともない。生きている。そして体を
起こして、飛び込んできた光景に、目を疑った。
「おじさん!!」
車に轢かれたのは源三だった。先程の衝撃は。源三がいずみを突き飛ばしたのだ。
「なんてことしてくれたんだよ 予定が狂っちゃったじゃないかーっ!!」
怒る404号だが、源三は「いや…予定通りだ」とつぶやいた。
「死神め まちがいおった 本当は わしが 今日死ぬ日で… あんたは あと2年の命なんだ…」
お前達が間違っていたんでこっちはえらい迷惑じゃ、と笑う源三に「べつに まちがいなんかは…」と404号は反論しようと
する。が、
「いや とにかく あんたと わしは 入れかわるんじゃ」源三は言った。「それで…それで いいじゃないか」
「ばかあ! なにいってんのよ!! 死ぬのは私よ!!」
いずみが叫ぶが、源三は微笑んで「これでいいんじゃ」と言い、彼女の方に手を伸ばした。
「いずみ… ありがとう…」
そしてそれきり、源三は何も言わなくなった。
- 461 :FJ S61年12/23号 6/6 :2009/03/07(土) 22:22:40 ID:???
- 「おじさん!」
いずみはその手を握り、泣いた。
「うそよ! うそでしょ!? ねえ死神さん!! 死ぬのはこの私よ!!」
いずみは死神くん達の方を見た。が、「もう男のほうは手おくれだ…」と死神くんに言われ、404号が告げた言葉は……
「予定通りだ」
「そんな! そんなばかな!!」
いずみは叫び、源三の遺体にすがり付いて泣いた。
「おじさん! どろぼうのおじさん!! おじさーん」
それからしばらくして。いずみはトランクを持って駅のホームにいた。
「ヨオ! 死ぬまで2年にのびたけど どうするんだい?」
死神くんに尋ねられ、いずみは答えた。
「あたい お父さん探しに旅に出る」
死神くんと404号は、唖然とした。
「お父さん…」
「探しに…」
「どうかした?」
いずみに訊かれ、二人は慌てて「い…いや べつに…」と否定した。列車に乗り、旅立つ彼女を見送る死神くん達。
「けっきょく 知らないままに終わりそうだな…」
座席に座ったいずみは、一冊の本を取り出した。形見に、とこっそりとっておいた、源三の日記だ。
(おじさんのどろぼうの記録でも読ませてもらうよ…)
そして表紙を開き、一番最初のページを見て……いずみは言葉を失った。
いずみに捧ぐ
竹田源三
昭和61年8月〜
すべてを悟り、いずみは……日記を抱きかかえて、泣いた。
- 462 :マロン名無しさん :2009/03/08(日) 00:04:36 ID:???
- 。・゜・(/Д`)・゜・。
うああ…この終わり方は悲しすぎる…
今までで最高に泣いた。
- 463 :マロン名無しさん :2009/03/08(日) 00:30:06 ID:???
- しかもなあ、残された時間も限られてるんだよな…
もう切な過ぎて…
- 464 :マロン名無しさん :2009/03/08(日) 13:33:50 ID:???
- あれ?心美人の回で「事故死の場合は事前に宣告しない」って言ってなかったっけ?
それはともかく
。・゚・(ノД`)・゚・。
- 465 :マロン名無しさん :2009/03/08(日) 14:46:44 ID:???
- 大岡裁きの巻で事前に宣告しないで事故死させた小夜子との間にトラブルが
起きたから、死ぬ予定であることだけは伝えるようにしたんじゃない?
(どういう方法で死ぬのかまでは詳しく教えないけど)
- 466 :FJ S62年1/23号 1/5 :2009/03/10(火) 22:48:05 ID:???
- 第42話 忠犬ノラ公の巻
幼い兄弟が、砂場で仲良く遊んでいた。
(雄一… 雄太…)
父親は二人を笑顔で抱きしめる。
(おうおう 大きくなったな… いつまでもいっしょにいておくれ)
が、兄弟は成長し、それぞれに恋人が出来た。
「雄一… 雄太… どこへいく… わしをおいていく気か?」
やがて、二人は結婚し、
「わしを ひとりにするつもりか? わしもいっしょにつれていってくれ!」
子供も生まれ、少しずつ遠ざかって行く。
「雄一 雄太 わしはお前たちの父親だぞ」
父親は必死に呼びかけるが、子供達は行ってしまった。
「雄一〜〜っ 雄太〜〜っ」
自分の叫び声で、老人は目を覚ました。
「大じょうぶかい? だいぶ うなされていたようだけど」
死神くんが尋ねると、老人は「なんでもないわい!!」と布団から起き上がった。死神くんは息子の名前を寝言で呼んでいた
ことを指摘し、「無理せず 息子さんにめんどう見てもらったらどうだい? あんたの命は あと3年しかないんだ」と
忠告するが、「うるさい わしゃひとりが好きなんじゃ… いままで ひとりで暮らしてきたし これからも…ずっと
ひとりじゃ」と聞き入れる様子はない。
やがて着替え終わった老人はカーテンを開けると、「また あの犬がおる…」とつぶやいた。
「犬?」
不思議がる死神くんに、老人は正面に見える駅の中を見るように言った。確かに、遠くに見える駅の中に、一匹のブチ模様の
犬が寝そべっていた。あの犬は三ヶ月ほど前に飼い主に捨てられたのだ。
老人は散歩に出た。
「いつも あの駅で送りむかえをしていた犬じゃ 引っ越したことも知らず 毎日ああして待っておる… バカな犬じゃ」
町の人達は忠犬と呼んでいるが、老人はただのバカ犬じゃ、とあくまで冷たい。
「しかし 逆に考えれば あの犬は かしこいのかも知れん」
見ると、ちょうど犬は駅員や通りがかった学生から餌をもらっていた。
- 467 :FJ S62年1/23号 2/5 :2009/03/10(火) 22:48:55 ID:???
- つまり駅にいるのは餌目当てであり、飼い主の送り迎えとはまったく関係ない、というのが老人の考えだ。
「しかし 人生 そんなに甘いものではない 今日は ひとつ あの犬に説教してやるわ」
老人が近づくと、犬は立ち上がる。が、彼は「え〜い このわしに近づくな!! きたならしい!! わしゃ動物はキライなんじゃ」
と犬を怒鳴りつけた。
「ばかめ だれからもエサがもらえると思っておるのか!? 考えが甘いわ!!」
いつまで待ってもご主人様は戻ってこない、捨てられたのがわからんのか、と本当に説教する老人に「犬にはわかんないよ」
と死神くんは呆れる。
と、駅員が犬に近寄ってきた。
「ハハハ 忠犬ノラ公もすっかり有名になっちゃって… そのうち 銅像でもたつんじゃないかな」
それを聞いた老人は怒り「ふざけるな 人間より犬の方が えらいというのか!?」と今度は駅員を怒鳴りつける。
「エサをねだりにきているだけで 忠犬ではないわーっ!!」
老人の剣幕に、駅員は逃げ出した。
老人は、ノラ公の前の飼い主がどこにいるかを調べてくれと死神くんに頼む。飼い主に送り返そうというわけだ。
駅のベンチに腰掛け、ノラ公の様子を見ながら待っていると、ようやく死神くんが戻ってきた。そう遠くはない場所だとわかり、
老人はノラ公を連れて歩いていくことに。その間も、「いいか! お前は人にたよらず生きなくちゃならん!」と説教を続ける。
「人間も動物も 生まれた時から孤独なものじゃ」
その合間に、ノラ公は木におしっこをしたり、道に落ちてるものを食べたりと自由に振る舞い、そのたびに「人前でなんという
醜態を!」「道におちているものを食うとは なんていやしいやつだ!!」と老人はノラ公を叱る。
「とにかく! ただのノラ犬に 忠犬だとか 銅像をたてるとかもってのほかじゃ!!」
「けっきょく ひがんでいるだけか…」
死神くんは再び呆れた。
やがて、日が暮れてきた。老人の足では思っていたより時間がかかってしまったのだ。ヘロヘロの老人にノラ公は心配そうに
近寄るが、「よるな〜〜っ きたならしい 動物は キライだといっておるだろが!!」とまた怒鳴られてしまった。
そしてやっと、前の飼い主が住んでいる家に着いた。それがわかるのか、ノラ公が盛んに吠えだす。
- 468 :FJ S62年1/23号 3/5 :2009/03/10(火) 22:49:45 ID:???
- チャイムを押すと、父親と男の子、そして大型犬が出てきた。もう他の犬を飼っているらしい。と、男の子がノラ公を見て
「ペス!」と言った。
老人は早速説教を始めた。
「おいこら きさま勝手に引っ越して勝手に犬を捨てていくとは なにごとじゃ!!」
「だってその犬 大きくなったら かわいくないんだもん」男の子の答えに老人はますます怒った。
「なんじゃと〜〜っ 仔犬の時は かわいがって 大きくなったら かわいくないから 捨てたというのか」
「そんな犬 知りませんよ おひきとり下さい」
と父親は老人を追い返そうとするが「今 ペスとか名前を呼んだではないか!?」と老人も食い下がる。と、いきなり今の
飼い犬・ジョンが飛びかかってきて、ノラ公は前足を咬まれた。
老人は「なんてことするんだ!!」とジョンを杖で殴る。当然ジョンは、老人の方に向かってきた。彼にのしかかるジョンを
慌てて父親は止め、「帰って下さい 警察を呼びますよ!!」と家の中に入った。
前足の傷を舐めるノラ公に老人は言う。
「わかったか 人生なんてこんなものだ」
これでもうあの駅で待つ必要はない、と老人はノラ公に背を向けた。
「今日からはひとり…いや一匹で生きてゆくのじゃ 人にたよらずにな… わしと同じように!」
老人は電車に乗るため、駅に入った。
「ずいぶん無責任だなア 犬はどうすんだよ?」
呆れたように死神くんは言うが、老人は「犬一匹 わしの知ったことか!」と冷たい返事。
と、フェンスの向こうでノラ公がこちらを見ていた。
(人間も同じじゃ… 年老いて みにくくなったら捨てられていく だれにも相手にされずにな…)
そして老人は電車に乗った。が、ノラ公は懸命に電車を追いかけ……やがて引き離され、姿が見えなくなった。
帰り着いた老人だが、ノラ公の事が気になり、そのまま駅で待った。が、終電が行き、駅員がいなくなっても
来る気配はない。老人は家へ帰ろうとするが、階段で転んでしまい、足をくじいてしまった。
彼は死神くんに助けを求めるが……現れたのはノラ公。あの怪我で歩いて帰ってきたのだ。
老人はノラ公に「だれか呼んできてくれ…」と頼む。と、何故かノラ公は彼の杖をくわえ、走り去った。
「こらっ わしのつえをどうするんじゃ!! どろぼう」
やがて雪が降り出し、老人は意識を失った。
- 469 :FJ S62年1/23号 4/5 :2009/03/10(火) 22:50:40 ID:???
- 「お父さん 大じょうぶですか?」
気がつくと、老人は自分の部屋に寝かされていた。そして息子夫婦達が、心配そうに見守っている。
「よかった 気がついて」
「どうなるかと思いましたよ」
雄一の妻によると、家の前に老人の杖があったので、心配して来てみたら駅で倒れているところを見つけたのだという。
一瞬、ノラ公のことを思い出す老人。
「まあ そんなことより みんなひさしぶりに集まったんじゃ ゆっくりしていきなさい」
が、息子達は仕事があるからすぐ帰ると帰り支度を始める。
さらに「にいさん やっぱりお父さんをひきとってくれなきゃ…」という雄太の一言をきっかけに、妻同士がどちらが老人を
引き取るかで喧嘩を始めてしまう。たまらず老人は叫んだ。
「けんかするんなら 帰れ!!」
一人になった老人は涙ぐむ。
「死神よ わしゃなさけない 愛する息子たちがわしをきらっておる みにくい人間になってしまった 相手を思いやる心が
ない…」
あんたもね、と心の中でツッコミを入れつつ死神くんは言った。
「犬のほうがまだましかい?」
「!! そ…そうじゃ あの犬は!?」
老人は慌てて駅へ行ったが、ノラ公の姿はない。
「いない…どこへいった?」
「どこへって…そのステッキを息子さん家へはこんでいったよ においをたよりにね」
死神くんは言った。
「足をケガしているのに大変だったろうね なにも食べてないだろうし 今ごろどこかで…」
死んだのか? と訊く老人に確認はしてないと死神くん。
「バカな犬だ」
老人は咳払いをした。
「そんな言い方ないだろ! あんたの命の恩人だぜ」
「うそじゃ! みんな偶然じゃ ステッキをもっていったのも 息子の家へいったのも…」
「動物は うそをつかないよ うそをつくのは人間だけさ 動物まで信じられなくなったら あんた 信じるものがなにも
ないよ」
そう諭す死神くんに、老人ははっとした。
- 470 :FJ S62年1/23号 5/5 :2009/03/10(火) 22:51:30 ID:???
- 死神くんはさらに続ける。
「あんたは あの犬が目ざわりだったんだ 息子に見はなされた自分と 飼い主に捨てられたあの犬が同じように思えたんだ」
「そ…そんなことはない」
老人は動揺した。
「同じ境遇だけど 犬のほうは 町のみんなに愛されていた…あんたはそれが気にいらなかった…」
「う…うるさい!!」
「自分は キライな動物より不幸には なりたくなかった だから あの犬に平気でひどいことができるんだ」
「だまれ!!」
その後も、老人は一人たたずみじっと待った。そして日が暮れると……ノラ公は、足を引きずりながら帰ってきた。
ひどくやつれた彼に、老人はパンをやる。夢中になって食べるノラ公。
「わしのために…こんなことに…」老人は側にしゃがんだ。「つらかったろう…苦しかったろう… すまぬ… ゆるしてくれ…」
そして、ノラ公の頭にそっと触れた。
「あたたかい…」
つぶやく老人に死神くんは「生きてる証拠だ」と言う。「人間も動物も あたたかい血が流れているんだ 動物だって感情は
ある」
老人は、目に涙を滲ませ、ノラ公を抱きしめた。
「なん十年ぶりか… こんなあたたかいものに ふれたのは…」
ノラ公に頬を舐められ、老人は笑顔になった。
そして老人は立ち上がり、家へと歩き出す。その後姿をノラ公はじっと見送るが……
「どうした 早くこい!」
老人にそう言われ、ノラ公は嬉しそうに一声吠えると、老人の隣に並んで歩き出した。
「三年間だけ番犬に使ってやる!」
老人は言った。
「明日 動物病院につれてってやる! エサはやらん! ただし わしの食べ残したやつを きれいに処分してもらうからな!
わしの食べ残しは多いぞ」
やがて、雪がちらつき始めた。
「毎日散歩するからカクゴしとけ! 犬小屋なんかやらん! 一番きたない玄関においといてやる」
その様子を見ながら、死神くんは笑顔で言った。
「残りの三年間は 楽しく暮らせそうだな」
- 471 :マロン名無しさん :2009/03/10(火) 23:40:51 ID:???
- ノラ公は三年後にまたひとりぼっちか…
- 472 :マロン名無しさん :2009/03/11(水) 00:23:39 ID:???
- じいさん照れてやがるw
そしてノラ公を捨てた前の飼い主は死んでくれ
- 473 :マロン名無しさん :2009/03/11(水) 21:09:13 ID:???
- >だってその犬 大きくなったら かわいくないんだもん
現実にこういう理由でペット捨てる奴がいるから困る
飼ったからには最後まで面倒みろっつーの
- 474 :マロン名無しさん :2009/03/11(水) 22:34:24 ID:???
- そういえば今花とゆめでやってる動物のお医者さんのせいで気軽にハスキー犬を飼ってでかくなって
手に負えないから捨てるとか言う話を聞いたことあるな。
- 475 :FJ S62年2/23号 1/5 :2009/03/13(金) 22:27:34 ID:???
- 第43話 最後のメッセージの巻
妻の英子と、まだ幼い息子太一と幸せな家庭を築いている靖。
彼はもちろん妻を愛している。が、それを言葉で表したことはない。気になっている事があるからだ。
十年前。
まだ高校生だった靖には、高志という親友がいた。
勉強でもスポーツでもよきライバルだった二人は、同じ女性に恋をしてしまう。それが英子だった。
お互いに「オレが 英子を幸せにしてみせる!」「いや オレが幸せにしてみせるぞ!!」と言い合いつつ、三人で仲良く
やっていた。幸せだった。あの事件が起こるまでは。
その日、二人が旧校舎に行くのを目撃した靖は後をつけていった。が、二人を探し回るうちに旧校舎が火事に。
原因は不良が吸っていた煙草の火の不始末だった。靖は煙の中、逃げ出してきた英子を見つけるが、高志はすでに炎に
囲まれていた。靖は助けに行こうとするが、その時、高志が何かを口走った。
「なんだって!?」と聞き返すが、直後、爆発が起き、高志は帰らぬ人となってしまった。
「あなたどうしたの? 顔色悪いわよ」
英子に声をかけられ、靖は我に返った。
「い…いや なんでもない…」
庭の焚き火の火を見たせいで、あの火事のことを思い出してしまったらしい。
その後、英子と結婚した靖だが、何故か素直に喜べなかった。
あの時、高志は何を言おうとしてたのか気になっていたし、英子は本当はどちらが好きだったのかも、今更訊く気にはなれない。
高志か死んでから、靖は気が抜けたように生きていた。と、
「なにか悩みがありそうだな」
いきなり全身真っ黒の子供――悪魔くんが声をかけてきた。
悪魔くんはいつものように魂と引き換えに三つの願いを叶える救世主だと自己紹介し、「信じるが信じないかは まず
オレと契約して願いをかなえてもらってからにしな!」と持ちかける。これを夢だと思った靖は、「よーし それなら
オレを10年前のあの日にもどしてみてくれないか」と軽い調子で頼んだ。
- 476 :FJ S62年2/23号 2/5 :2009/03/13(金) 22:28:20 ID:???
- 「つまり オレと契約するというわけだ」
「ああ 契約でもなんでもするよ 早く10年前にもどしてみてくれ」
……直後、靖はどこかの木に寄りかかって立っていた。左には見覚えのある校舎。そして自分が着ているのは、高校の制服
だったブレザー。胸ポケットには、確かに自分の学生証が入っている。
(本当に10年前にもどったのか!? 17歳のオレにもどったのか?)
靖が混乱していると、
『ハハハ どうだい 信じてもらえたかい?』
頭の中に悪魔くんの声が響いた。
『とにかく あんたは オレと契約したんだぞ』
「あ…悪魔…」
『願いごとはあと ふたつ おぼえておきな』
靖はとりあえず落ち着こうと必死になり、二人が旧校舎へ向かうのを目撃した場所へ行く。そこには記憶と全く同じ光景が
あった。
「まちがいない あの日と同じだ」
そして二人の後をつけていき、旧校舎へ。あの時は二人を見失い、各教室を見て回ったせいで時間をくってしまったが、
今回は違う。靖は迷わず二階の右端の教室へ向かった。
「高志! 英子!」
いきなり現れた靖に、二人は驚く。
「靖…つけてきたのか?」
靖は高志に何を話していたかを尋ねるが、何故か彼は「べ…べつに…」と口ごもる。
ふと、靖の頭の中にある考えが浮かんだ。この時点で高志は生きている。早く外へ出れば彼を助けられるかもしれない……。
その時、下から煙が立ち上ってきた。
「なんだ このケムリは?」
「火事だよ あと10分もすれば この旧校舎は燃えつきてしまう」
高志は「どうしてそんなことがわかるんだ?」と不思議がるが、靖は「いいから 早く逃げるんだ!」と英子の手をとって
外へ出ようとする。が、何故か高志は、その場に立ったまま動こうとしない。
「どうした!? 早く逃げろ なにをしている!?」
と、高志が笑った。
次の瞬間、同じように爆発が起き、高志の姿は炎の向こうに消えた。
(なぜだ…どうして…!?)
- 477 :FJ S62年2/23号 3/5 :2009/03/13(金) 22:29:19 ID:???
- 靖はいてもたってもいられず、高志の元へ向かった。
(助けてやるぞ お前を助けてやる 死なせるもんか オレは歴史を変えてみせるぞ)
そして足を火傷している高志を助け起こそうとすると、
「靖…」高志が何かを告げようと口を開いた。
靖ははっとした。
(そうだ おまえは あの時なんと言ったのだ? このオレに なにを言おうとしたんだ?)
「英子を たのむ」
予想外の言葉に、靖は絶句した。
「オレは 死神に死を宣告された オレのかわりに英子を幸せにしろ」
「死神…?」
すると、その疑問に答えるように、死神くんが現れた。靖を見て、悪魔くんと契約したことを察する死神くん。
すぐに悪魔くんも現れる。
「でたな 死神 てめーはしつこいんだよ!!」
「てめーもな」
悪魔くんは高志には死神がついているからあきらめな、と言うが靖は強引に高志を助け出そうとする。
死神くんは必死で靖を止めた。
「もうすぐ死ぬ時間だ」
「死なせはしない」
「あんたが そいつを助けると 他の人間が死ぬことになる」
とにかく魂を一つ霊界へ持っていかなければならない、その男が駄目なら他の人間の魂を持っていくしかない、と死神くん。
直後、英子の悲鳴が。慌てて駆けつけると、英子は倒壊した柱の下敷きになっていた。
高志を助けたせいで、英子がその代わりになってしまったのだ。
「英子!」
靖は大急ぎで柱をどかす。
英子は自分と結婚する。子供だっている。それに、高志と自分とどちらが本当に好きだったのか、答えをもらっていない。
が、死神くんは告げた。
「時間だ もう英子ちゃんは助からない…」
と、高志が唖然とした表情でこちらを見ていた。
- 478 :FJ S62年2/23号 4/5 :2009/03/13(金) 22:30:46 ID:???
- 「死神! どういうことだ? 死ぬのはオレのほうではなかったのか?」
「アクシデントがありまして…」
「オレは 高志も英子も死なせはしない!!」
「バカヤロウ…」
靖の言葉ですべてを悟った高志は、怒りを露わにした。
「せっかく 死ぬ覚悟が できていたのに だいなしじゃあねェかよ! お前のせいだ! バカヤロウ!!」
高志は靖を殴ると、「死ぬのは この オレだ!」と再び炎の中に戻っていってしまった。靖も後を追うが、今度は完全に
柱が崩れ、もう助けられない状態に。
「オレのせいだ! オレのせいだ!! ふたりとも殺してしまった」
靖は悪魔くんに二人を助けるよう願おうとするが、死神くんに「頭を冷せ!!」と止められる。
「ふたりを助けると 今度は あんたが死ぬんだ!!」
「高志と英子が幸せになってくれれば…」
「バカ! よく見ろ! ふたりとも大きなやけどを負うことになる」
「悪魔になおしてもらう!」
「おいおい いくつ願いごとを言うつもりだ?」悪魔くんは呆れた。
「オレは死んだってかまわない! ふたりを…ふたりを!!」
「こっちだってそうしたいよ」
そんな二人のやり取りを見ながら「いやー 人の苦しむ所を見るのは じつにゆかいだ」と笑う悪魔くん。
が、死神くんは「まだ 方法はある…」と言った。
「元に もどすんだ すべて…なにもかも… 悪魔の力で!!」
靖はとっさに叫んだ。
「悪魔!! ふたつめの願いだ!! 元にもどしてくれ!! すべて… なにもかも元にもどしてくれ!!」
気がつくと、靖は家の庭にいた。両目からは涙が流れていた。
「夢… 夢だったのか?」
慌てて英子の様子を確かめに行くと、彼女は台所で食器を洗っている。靖はほっとして、そのまま英子を抱きしめた。
「オレは… オレは お前を愛している…」
英子は驚きに目を瞠ったが、改めて靖を見て、言った。
「その言葉 ずっとまっていたわ」
英子は話し始めた。
- 479 :FJ S62年2/23号 5/5 :2009/03/13(金) 22:32:02 ID:???
- 彼女は中学生のころから靖が好きで、いつも密かにその姿を見つめていた。それに気づいて、声をかけてきたのが高志だった。
「あんた いつも高志のこと見ているようだけど…」
「あ…」
「高志のこと好きなのかい?」
真っ赤になる英子。直後、「しかし 今のあいつは 女なんて キョーミないぜ!」と高志に言われ、少しショックを受ける。
すると、高志は「しかし オレが興味をもつと あいつも興味をもつようになる」と言い、意味ありげにウインクしてみせた。
翌日、靖と一緒にいた高志は、ちょうど歩いてきた英子を指差した。
「オイオイ あの子かわいいと思わねえか?」
「へ? そうかァ?」
「そうだよ 絶対かわいいよ 声かけてみようか」
そう言って本当に英子の方へ向かう高志に呆れる靖。こうして二人は引き合わされ、三人での付き合いが始まったのだ。
そして10年前のあの日、英子は高志からいいかげん靖に告白するよう諭されていた。
「いつまでも こんな関係じゃまずいだろ? オレはもう みんなとは会えないんだから…」
「え?」
「そして あの事故にあってしまって… 自分でも 予感してたみたい」
「やつが… 高志が… そうだったのか…」
高志を信じきれず、英子の事さえ疑っていた自分が情けない、と靖は涙を流す。
「あなたも私も 高志のことが気になっていたのよ…」
英子も、涙を流していた。
「でも やっとふっきれたのね」
改めて英子は、笑顔で告げる。
「あなたのこと ずっと好きでした… 私は今でも あなたを愛しています」
涙をぬぐう英子を、靖はもう一度抱きしめた。
「悪い夢を見た… もう見ることもないだろう…」
「夢じゃないんだよ」
二人を見守る死神くんの側で、悪魔くんがつぶやいた。
- 480 :マロン名無しさん :2009/03/14(土) 13:29:21 ID:???
- 悪魔くんは時間移動もできるのか…すごいな
- 481 :マロン名無しさん :2009/03/14(土) 14:11:11 ID:???
- 一つ目の願いで三人とも助けてくれ!って言ったらどうなったんだろう
- 482 :マロン名無しさん :2009/03/14(土) 16:46:38 ID:???
- しかし高志があんな思わせぶりな台詞を、聞き取れないように言わなければ靖も
10年間罪悪感に悩まされることもなかっただろうに…
- 483 :マロン名無しさん :2009/03/14(土) 19:03:11 ID:???
- 結局高志は2人をくっつけるために英子が好きなふりをしてたってこと?
- 484 :マロン名無しさん :2009/03/15(日) 15:55:28 ID:???
- なんか最近悪魔くんが出てくる回数が増えた気がする。
前は半年に一回ぐらいのペースだったのに。
- 485 :FJ S62年3/23号 1/6 :2009/03/16(月) 22:31:40 ID:???
- 第44話 過去からの逃亡の巻
「くぉら 章太郎 さっさと運ばんか!!」
藁を積んだ荷車の上で、老婆はそれを引いている青年に怒鳴った。
「うちの馬っこが腹すかしてまっとるんじゃ」
「だったら おりていっしょに押せよ」
「母親に手伝わすとはなにごとじゃ!」
「馬のエサなら馬に運ばせろよ」
そんな親子のやり取りを見た老人二人が、話しかけてきた。
「お島さん またケンカかい?」
「よくやるのォ」
「章太郎さんも こんなバアさんと よくいっしょにいられるね」
「まったくまったく」
「やかましいくそジジイ しめ殺すぞ!!」
危うく喧嘩になりかけた三人を、章太郎は止める。母親のお島は口が悪く、人付き合いもない村の嫌われ者だが、息子である
彼にだけは優しかった。もっとも、彼が息子になったのは五年前からであるが。
五年前、章太郎は――青年は些細な事からある男と口喧嘩になり、その相手を割れたビール瓶で刺し殺してしまった。
そのまま逃亡し、行く当てもなく町をぶらつき、ついにある森の中で自殺を図ろうとするが、
「あんた まだ死ぬ予定の人間じゃない」
突然現れた、死神くんに止められた。
「生きてりゃいいこともある 考え直せよ」
「自首をしろっていうのか?」
「人の人生まで首をつっこむ気はないね とにかく死ぬのだけは考え直してくれよ」
仕方なく再び当てのない旅に出た青年は偶然立ち寄った村で一人の老婆に――お島に出会った。彼を見るなり、睨みつけてくる
彼女に思わず(バレたか?)と警戒するが……
- 486 :FJ S62年3/23号 2/6 :2009/03/16(月) 22:32:56 ID:???
- 「章太郎ー 章太郎じゃないか! 帰ってきてくれたんだね 章太郎!」
お島は泣きながら駆け寄ってきた。どうやら自分は彼女の息子・章太郎にそっくりらしい。これ幸いと青年はそのまま
お島の息子になりすまし、五年の月日が流れた。今ではすっかりこの土地が気に入り、ずっとのんびり暮らして生きたいと
思っていた。
(しかし オレが 殺人犯なんてことを知ったら おどろくだろうな)
思わず笑う青年――章太郎を「なーにがおかしい バカタレが!!」とお島は叱る。と、
「ハハハ またケンカですか お島さん」
通りがかった駐在さんが声をかけた。そのまま話を始める二人だが、章太郎はどうしても顔を合わせる度にビクついてしまう。
そして彼も、章太郎の顔を見ると少し険しい顔になるのだ。
もしかしたら、本当は殺人犯だという事を知っているのかもしれない。
激しい雨の降る日。お島は朝から寝込んでいた。
「フウ…最近はちっとも 体がいうことをきかん…」
「年だからな…」
窓の外から様子を見ていた死神くんがつぶやいた。お島の命はあと二年なのだ。知らせるべきか、放っておくべきか……
「あの男が問題だ… あんたが どうして あの男を息子として迎えたのか オレにはわかんねエな」
「どうした 母ちゃん 死んじまったか?」
「うるさい!」
元気な様子に安心して、章太郎は薬を探した。と、一枚の写真が落ちてきた。裏を向いたそれには「章太郎、母 S55」と
書かれている。
そういえば本物の章太郎の写真を彼は見たことがなかった。お島も見せようとしないのだ。そして写真を表に返すと……
お島の隣に写っているのは、眼鏡をかけた体格のいい、細い自分とは似ても似つかぬ男だった。そして何より、この男は――
あの日、自分が殺した男!
「とうとう知ってしまったようだな」
動揺する彼の前に死神くんが現れた。
「このことは お母さんにはだまっておくんだな」
- 487 :FJ S62年3/23号 3/6 :2009/03/16(月) 22:33:44 ID:???
- 「わ…わからない どうして オレを息子だと…?」
「オレだってわからないよ ただ… 最初の頃は あんたを殺そうとしていたのは事実だ」
と、気がつくとお島が部屋の入り口に立ってこちらを見ていた。
「知ってしまったのか? とうとう知ってしまったのか?」
「母ちゃん…」
「母ちゃんじゃない!」
お島は叫んだ。
「本当のことを知ってしまったら… お前は もうわしの息子ではない! 息子を殺した殺人犯だ!!」
言うなりお島は、鎌を振り回して章太郎のほうに向かう。
「息子のかたきィ!!」
鎌の刃が、彼の頬を掠めた。
「母ちゃん!!」
「だまれ!!」
「それまでじゃお島さん!!」
二人を制したのは駐在さん。やはり彼は、青年が殺人犯である事を知っていた。だが、お島が自分の息子だと主張するから
あえて手を出さずにいたのだ。
「しかし お島さんがそういう行動をとったのなら わしが出なきゃならんようになったわい」
駐在さんは、彼に銃を向けた。
「大森良一 殺人容疑で逮捕する!!」
そして、手錠を取り出す。これまでこの手錠を使うような犯罪が起こらなかったことが、彼の自慢だった。
「本当は 逮捕したくないんじゃ」
本当に残念そうな表情で、駐在さんは言った。
「お島さんと 仲よくやってきたお前を逮捕したくはないんじゃ この村から犯罪者は出したくないんじゃ」
そして駐在さんは章太郎の――良一の手をとり手錠を掛けようとした、が、いきなりお島がそれを払った。
「お島さん なにを!?」
「わしの息子の章太郎になにをするんじゃ!!」
「なにをいっとる こいつは殺人犯の大森良一じゃ!」
「ちがう!! 章太郎じゃ!! わしの息子の章太郎じゃ!!」
泣きながらそう主張するお島。駐在さんは改めて訊いた。
- 488 :FJ S62年3/23号 4/6 :2009/03/16(月) 22:34:24 ID:???
- 「もう一度 聞くが この男は本当に息子の章太郎か?」
わずかな沈黙の後、お島は言った。
「そうじゃ 章太郎じゃ わしのたったひとりの かけがえのない息子じゃ…」
駐在さんは困った顔をしたが、
「そうか… お島さんがそう言うのならまちがいない」そう言って、「さわがせてすまなんだな」と帰っていった。
「母ちゃん…」
お島はその場に膝をついた。
実は出会った時に、すでにお島は彼が息子を殺した犯人だと知っていた。いつも手配写真を見て顔を覚えていたからだ。
息子として家に置いたのも、油断させて彼を殺すつもりだったからだ。
だが、息子を殺した人物がどんな奴なのかを知りたくなり、思いとどまった。もちろん最初の頃は良一を憎んでいた。
しかし、彼が来てからの五年間は、本当に楽しかったのだ。
「わしは本当の息子のように思えた お前も わしを本当の母親のようにあつかってくれた そんなお前を だれが殺すなんて
できようか…」
お島は再び、涙を流した、
「もうおしまいじゃ なにもかも…」
翌日。良一は村を出るため駅へ向かって歩いていた。
「この村を出るのかい? この先 どうするんだい?」
死神くんが話しかけるが、良一は答えない。
「また自殺を考えてるね そうはさせないよ オレがまた止めに入るからな!」
「死ぬこともできないのか」
良一は、沈んだ表情になった。
「ずっとこの村にいたほうがいいんじゃないか? みんな いい人たちばかりだ」
「もういられないよ」
「そうか 残念だな」死神くんは言った。「最後に一言いっておこう お島さんは あと2年の命だ」
「なんだって!?」
突然告げられた事実に、良一は愕然とした。
「あと… 2年…?」
- 489 :FJ S62年3/23号 5/6 :2009/03/16(月) 22:35:31 ID:???
- ホームに立っていると「行くのか?」と駐在さんが声をかけてきた。
「お前が この村にいるかぎり章太郎じゃ しかし この村をはなれたら大森良一となる 警察官という職業がら これを
見のがすわけにはいかん」
「逮捕しますか?」
「汽車が出発して 2時間過ぎたら本庁に連絡しよう」
駐在さんは、背を向けた。
「自首するか逃亡するか自分で決めろ 2時間もあれば十分考えられるだろう…」
電車がホームに入ってくる。
「逃亡するんなら… つかまるなよ!」
その言葉を背に、良一は電車に乗った。
座席に座り、何気なく外を眺める。と、窓の外にお島の姿が見えた。
「母ちゃん」
思わず窓に張り付く良一。が、すぐに通り過ぎて見えなくなった。
仕方なく座りなおし、上着を脱ぐと、内ポケットに何かが入っている。それは七枚の一万円札と手紙だった。
五年間
働いてくれた
給料を払う
二度とくるな
バカヤロウ
良一は、手紙を握り締めて泣いた。
- 490 :FJ S62年3/23号 6/6 :2009/03/16(月) 22:36:17 ID:???
- 「おい バアさん 章太郎は出ていったみたいじゃな」
「息子にもあいそをつかされたか」
家に帰る途中のお島に、いつもの老人二人が話しかけてきた。
「章太郎はホントにあんたの息子なんか?」
「ちっともにとらんぞ」
お島は黙っていた。が、
「章太郎も なんかおかしなやつよのォ」
「なんかオドオドして 暗いやつじゃのう」
その言葉に我慢がならなくなり、「やかましい!!」と二人を杖で殴った。
「章太郎の悪口はいうな!!」
「こ…このババア」
「もうおこったぞ」
老人二人も我慢ならなくなり、お島に殴りかかる。が――
三人は、目を瞠った。良一が間に入ってお島をかばったのだ。
「章太郎…」
「オレの… オレの母ちゃんになにをするんだ!!」
二人はビビッて逃げ出した。
「母ちゃん オレ帰ってきたよ」
「…………」
「母ちゃん… 母ちゃんてば…」
お島は後ろを向いて涙をぬぐうと、
「やかましい! 早く畑に出て働けい!!」と良一を蹴飛ばした。
慌てて家に向かうと、向こうから駐在さんが来た。
「もどってきたのか?」
良一の姿を見て、彼は静かに言った。
「あと…2年まって下さい そしたら オレ… 自首して…」
が、駐在さんは言う。「わしゃ 来年定年じゃ 2年も先のことなどわからん!」
そして、「わしが定年になるまで 問題はおこすなよ!」と告げて帰っていった。
- 491 :マロン名無しさん :2009/03/16(月) 22:50:05 ID:???
- しかしなんという偶然!
- 492 :マロン名無しさん :2009/03/17(火) 19:12:22 ID:???
- >>491
恋人の親が自分の親を殺した犯人だったり、入ってきた泥棒が自分の父親だったりと
このマンガではわりと普通。
- 493 :マロン名無しさん :2009/03/17(火) 22:22:04 ID:???
- 多分この世界、人口が1000人ぐらいしかいないな。
- 494 :FJ S62年4/23号 1/7 :2009/03/19(木) 22:03:45 ID:???
- 第45話 取りかえっこ人生の巻
「おいおい たのむから考え直してくれよ〜っ」
死神くんは屋上へ向かう女子高生・立花小夜子に呼びかけた。が、
「いやよ もう 私 自殺することに決めちゃったんだもん!!」と小夜子は聞く耳を持たない。
「だから さっきから言ってんだろ あんたは まだ死ぬ予定の人間じゃないんだ」
「ほっといてよ!!」
小夜子は屋上のドアを開けた。するとそこにはショートカットの少女が。同級生の草川かおるだ。
「あんたからも この子に言ってやってくれよ」とかおるにも止めてくれるよう頼む死神くん。
「な…なんだい こいつ?」
「死神よ 私の自殺をジャマしようとしてるの!」
「死神っ? ホ…ホントかよ まるでマンガだな」
「マンガだよ」
驚くかおるに冷静につっこむ死神くん。が、かおるも自殺するつもりだと知り、驚く。もっとも方法は一家心中だが。
「だから 人の自殺を止める権利なんてないよ 死ぬんならどーぞ! 見とどけてやるよ」
「なんてこと言うんだよ」死神くんはかおるを叱った。
かおるは小夜子にどうして死ぬ気になったのかを尋ねる。お金持ちのお嬢様で男子生徒の憧れの的の彼女が何故自殺を
考えているのか不思議だったからだ。一方の小夜子も、いつも明るく、積極的で、悩みなんて全くないようなかおるが
何故死のうとしているのかが不思議でならない。
「なにはともあれ 自殺はいけないよ なっ やめよ!」
が、死神くんの言葉を無視して小夜子は「とにかく 私は死ぬわ!!」と柵の外へ出た。下を見ると、思っていたよりも
高くて足がすくんでしまう。すかさず「こわいんだろ? なっ やめよう やめようよ」と死神くんが言うが、かおるが
「しかたねえ あたいもいっしょに飛びおりてやるよ」と外に出てきてしまった。手を繋ぐ二人に「たのむからやめてくれ」と
死神くんも必死で頼み込む。
と、かおるがつぶやいた。
「あたい あんたにあこがれてたんだ 金持ちのお嬢様で ピアノを毎日 弾いてる生活に あこがれてたんだ」
小夜子も言う。
「私だって あなたにあこがれていたわ」
- 495 :FJ S62年4/23号 2/7 :2009/03/19(木) 22:05:03 ID:???
- 「あたいに!?」
「そう… あなた クラスの中でいつも光っていたわ 活発なあなたに 私 あこがれてたのよ」
それを聞いて、かおるは「立場が逆だったら 死なずにすんだのにね」と言う。
「そうだ…立場が逆なら…」
死神くんは何かを思いついた。直後、二人は一緒に飛び降りた。
「キャ――ッ」
……ところが、気がつくと二人は屋上にいた。そしてお互いに顔を見合わせて仰天。小夜子の体にかおるが、そしてかおるの
体に小夜子の心が入っている。死神くんがやったのだ。
「たった今から あんたは立花家のお嬢さんだ」
「へっ」思わず間抜けな声を上げるかおる。
「そしてあんたは草川さんに あこがれの人になったんだ」
二人は呆然とつぶやいた。
「あたいがお嬢さん」
「わたしが草川さん」
「これで自殺を考え直してくれたかい?」
死神くんは尋ねるが、かおるの姿の小夜子は「自由ね 私 自由になれたのね」と大喜びで笑いながら屋上を去った。
一方、かおるはまだ自分が小夜子になったという事に戸惑っていた。
「あたいが お嬢さん」
こうしてかおるになった小夜子がかおるの家に帰ると、家の雰囲気は暗かった。
「まってたんだよ さあ 最後の食事だよ… これを食べたら…」
「いけないわ死ぬなんて!!」
かおるの母の言葉に、小夜子は反対する。
「なにがあったのか知らないけど 死ぬなんて考えないで!!」
「なにいってんだい 先に死のうっていったのはあんただよ」
「あら」小夜子は驚いた。「そうだったの? それじゃ やめましょう 死んだら なんにもならないわ これからは明るい
未来がまっているのよ!!」
そう言って「私は自殺なんて考えない明るい活発な女の子」と瞳を輝かせる小夜子を、弟達は「おねーちゃんがおかしく
なったー」と怖がり、母親は「ふびんな」と涙を流すのであった。
- 496 :FJ S62年4/23号 3/7 :2009/03/19(木) 22:06:50 ID:???
- 一方、小夜子になったかおるも小夜子の家に帰宅する。すかさず大勢の使用人達が「お嬢さま」と彼女を出迎えた。
「こんな 夜おそくまで どこへ行ってらっしゃったのですか!?」
「さあ早く だんなさまに見つからぬうちに」
丁重に扱われ、かおるは心の中ですっかり舞い上がった。
翌朝、登校した二人は偶然、校門の前でばったり会った。
「どう? 気分は」
自分になったかおるの問いに「なんかくすぐったいわ」と小夜子。
「悪いけど 私 もとにもどる気はないわよ」
「もちろん私だって」
昼休み、小夜子はかおるの友人達とバレーボールで遊ぶ。しかし、小夜子はうまくボールを返せず指を痛めてしまった。
すると今度はいきなり同級生の男子生徒・高村にスカートめくりをされる。
「ひどいわ! 高村くんが そんな 人だなんて!」
泣く小夜子に「そんな人なのよ」「なにいってんの」とかおるの友人達はあきれた。
その直後、高村は中身がかおるだとは知らずに小夜子を映画に誘っていた。が、
(ばーか 下心 見え見えなんだよ いつもスカートめくりばっかりやって)
いつも被害に遭っているかおるは「悪いけど 私… あんたどわいきらいなの!」と高村を突き放す。
呆然とする高村をその場に残し、かおるは(ざまーみろ)と心の中でつぶやき去った。
小夜子が家に帰ると、
「なにィ 金はねえだとォ」
「オイコラ 冗談じゃねーぞ」
明らかに柄の悪い二人組が玄関先にいた。恐らく自殺の原因になったサラ金の人達だろう。世間知らずの小夜子は
(ちゃんと話し合えばわかりあえるはず…)と無謀にも二人に話しかけた。
- 497 :FJ S62年4/23号 4/7 :2009/03/19(木) 22:08:04 ID:???
- 「あの…暴力はいけないと思います お金は返さないというわけではないんです もう少し待ってほしいと言ってるのです
それくらい待ってくれてもいいと思うんです 私」
二人は驚きのあまりずっこけた。
「な…なんだなんだ いつもバッキャローってどなるこいつが…」
「ま…バ…バッキャローだなんて お下品な」
顔をしかめる小夜子。するとサラ金は「金がねえんなら この娘を売るんだな」と小夜子を連れて行こうとする。母親が
必死に止めたおかげでそれは免れたが、二人は「またくるぞ」と言って帰っていった。
「お父さまお母さま しっかりなさって くじけちゃだめ!! 強く生きるのよ!!」
そう両親を励ます小夜子だが、父親は「やはり 死ぬべきだった もうこの地獄からぬけだすことはできないんじゃ」と言い、
また家の雰囲気は暗くなってしまった。
かおるも家に帰り、ピアノのレッスンを受ける。が、それまでピアノを習った事のない彼女が弾けるのは「ネコふんじゃった」
だけ。かおるは得意げに披露して見せるが、当然先生には「もうすぐ発表会なのよ そんなことでどうするの!?」と怒られた。
そこへ父親が来て、部屋に呼び出される。父親はテスト用紙を取り出した。そこに書かれていた点数は85点。
(さすが お嬢さまはできがちがうわ)と感心するかおるだが……
「なんなんだ この点数は!? ちゃんと勉強しとるのか!?」
父親からの思いがけない叱責に、かおるはずっこけた。
「85点もとりゃ 上等じゃねーか!!」
「なんだ その言葉づかいは!? なんのために家庭教師をやとっているのかわからんではないか!!」
それからしばらく説教は続き、ようやく自分の部屋に戻ったかおるはため息をつく。
あれもダメ、これもダメ、あれしなさい、これしなさい……とにかく自由がないのだ。
「あんたの自殺の理由は これだったんだ………」
- 498 :FJ S62年4/23号 5/7 :2009/03/19(木) 22:10:02 ID:???
- 同じ頃、小夜子は家で内職の封筒貼りの手伝いをしていた。が、当然そんな事などやった事がない彼女は失敗ばかりして
母親に怒られる。
「なにやってんだ! まったくあんたは!?」
「ご…ごめんなさい なれなくて…」
「だーめだ ねーちゃんヘタクソで」
「みんな やりなおしだよ」
弟達もあきれ顔だ。
「父ちゃんの職がないから あたしらこの内職で食っているんだよ」
「は…はい 承知しております」
「上品ぶるのもいいかげんにおし!!」
小夜子は頬をはたかれた。
「生活かかっているんだ 自分の食いぶちは自分でかせがなくちゃならないんだよ!!」
「死ぬべきだ やっぱり 死ぬべきだったんだ」
父親の言葉に、また家全体が暗い雰囲気に包まれた。
その夜更け。小夜子はかおるを呼び出した。
「どう?」
「どうって…」小夜子に尋ねられ、かおるは思わず口ごもってしまった。
「そっちは?」
かおるも尋ねるが、小夜子もやはり何も言わない。と、いきなり小夜子が「ねっ 家の金庫からお金とってきて!」とかおるに
頼んだ。
「ええっ!?」大胆な言葉に驚くかおる。
「うちは金持ちだからいいのよ! 借金をかえさなくちゃ!」
二人はこっそり家に忍び込み、小夜子の指図で鍵を隠してある本を取り出そうとする。が、父親に見つかってしまった。
「なにをしている!?」
「まって お父さま!!」自分が今はかおるだということを忘れ、小夜子は父を止めた。
「お金がいるんです おねがいよ! お金を」
が、父が本物の小夜子だという事に気づくわけがなく「この盗っ人め うちの娘をたぶらかしおって」と小夜子を殴る。
それを見たかおるは「てめえ あたいの体になんてことするんだ!」と小夜子の父を蹴飛ばした。
- 499 :FJ S62年4/23号 6/7 :2009/03/19(木) 22:11:27 ID:???
- 「なにすんのよ 私のお父さまに!!」
思わずかおるに掴みかかる小夜子。父親は何がなんだかわからず、ただただ混乱していた。
と、いきなりかおるが「金なんか ほしくはねー 特に この家の金はな!!」と小夜子を突き放した。
「立場が逆になって よーくわかっただろう!? あたいの家が どれほど苦しんでいたか どれほど死を真剣に考えていたか
よーくわかっただろ!! 勉強が出来ない ピアノはいやだ そんなことで自殺を考えるなんて大バカだよ そんな 甘い
考えのやつから 金をもらおうなんて考えてねーよ それになァ うちの父ちゃん母ちゃんは ここよりずっとあったかくて
やさしいよ!!」
「そんなひどいこと言わないでよ!」
「うるせェ なにがお嬢さまだ カッコつけてんじゃねえや!!」
「なによ!そっちこそ」我慢できなくなり、小夜子も反論する。「親が働きもせずギャンブルに手を出したから
こうなったのよ 当然の結果じゃない! 親が親だから 子どもまでそんなにガラが悪くなっちゃうのよ」
「なんだとー」
「なによ」
睨み合い、一触即発状態の二人を小夜子の父親は「よ…よしなさい」と止めようとするが「すっこんでろ」と二人にまた
蹴飛ばされた。
「あんたなんか最低の人間よ」泣きながら小夜子は叫んだ。「私の体を返して!!」
「こっちの言うセリフだよ」かおるも叫んだ。「あたいの体を返せ!!」
その時、ピキィーンという音が響き……二人は、屋上で手を繋いで飛び降りる寸前に戻っていた。もちろん、二人の心は
ちゃんと元通りになっている。
「どうした? 夢でよかったろう」
死神くんが告げる。そう、今までの事は全て死神くんが見せた夢だったのだ。
「どうだい まだ自殺したいのかい?」
死神くんに尋ねられ、二人は……
「ただいま」
帰宅したかおるを「おかえり おそかったね」と母親は迎える。
「さあ…最後の食事だよ」
が、かおるはどっかりと腰を下ろすと「あたいは いやだよ 死ぬんだったら勝手にやってくれ」とごはんを食べ始めた。
「どうしたんだい 急に」と驚く母親に「べつに… 貧乏でも しっかり生き抜いてるって人に見せたくなったんだよ
とくに あの子にね!」と彼女は言う。
「そんなこと言ったってサラ金が…」
- 500 :FJ S62年4/23号 7/7 :2009/03/19(木) 22:12:38 ID:???
- 「一銭も金がないってわけじゃないだろ!」
かおるは立ち上がった。
「このテレビやタンス 家の中の物 全部売っちまえば いくらか金になるだろ しんせきに 頭を下げりゃ いくらか
かしてくれるだろ 死んだら なにものこらないんだよ 死ぬ前にやるだけのことはやろうよ!」
そう言って涙を流すかおるに、家族は目を瞠った。
そして小夜子も帰宅。使用人達が「どうしたんです こんな 夜おそく」「だんなさまが心配なさって」と彼女を出迎えた。
「小夜子! どこへ行っておったんじゃ」父親も家から出て来て、小夜子を叱る。
「家庭教師の先生もピアノの先生も ずっとまっておったんだぞ お前ひとりの体じゃないんだ!!」
が、小夜子は小さく咳払いをすると、
「やかましい 自分のことは自分で決められるわい!! 親が勝手に決めるな!! バッキャロ――!!」と父親を一喝。
父親はショックのあまり、小夜子が通り過ぎた事にも気づかず気を失った。
「ふー 一件落着か」
死神くんは安堵のため息をついた。
「他人の人生を経験するっていうのも いい勉強になるもんだな もう心配はなさそうだ」
翌朝。登校した二人は校門の前でバッタリ会った。見ると小夜子はそれまで持っていなかったテニスのラケットを持っている。
「エヘ 今朝からテニスとバレーボール始めたの マメだらけよ」そう言って傷だらけの手をかおるに見せる小夜子。
「このラケット ちゃんと私のおこづかいで買ったんだからね」
「ふーん おこづかいっていくらもらってんの?」
「月10万」
ずっこけるかおる。が、すぐに立ち上がり、小夜子に頼んだ。
「あのさ あたいにピアノおしえてくんない?」
- 501 :マロン名無しさん :2009/03/20(金) 00:08:21 ID:???
- なんだ、かおるの家はまだ親戚から借りられるあてがあるのか。
もう何にもないのかと思った。
- 502 :マロン名無しさん :2009/03/20(金) 17:43:55 ID:???
- それよりも、かおるがアルバイトするとかして働いてる様子が全くないのが気になる…
親の内職手伝うより、そっちの方がよっぽど家計の助けになると思うんだが
(モノによるけど、大抵内職の単価は恐ろしく安い)
- 503 :マロン名無しさん :2009/03/21(土) 00:08:13 ID:???
- かおるの歳なら色々働き口はあるよなあ。
まあ、実は働いてるのかもしれないが。
- 504 :FJ S62年5/23号 1/7 :2009/03/22(日) 22:03:37 ID:???
- 第46話 コンクリート・ジャングルの巻
広い広いサバンナの木の下で、ライオンの親子が仲良く遊んでいた。兄弟とじゃれあい、広い草原を駆け回り……
そこでライオンは目を覚ました。彼が今いるのは草原とは程遠い、動物園の檻の中だ。彼は何年か前にサバンナから連れて
こられ、レオと名付けられここで展示されていた。
檻の向こうにいる人間達を見ながら、レオは思う。
(人間どもは 毎日オレを見ているが いったいなんの意味があるのだ? こんなせまい場所で オレの一生は終わるのか……?)
と、レオの横に死神くんが現れた。
「な…なんだ!? お前は」
驚くレオに死神くんは「はっきり言ってあんた あと一週間の命だよ」と告げる。「そして そのあと人間に生まれ変わるんだ」
「人間に!?」
レオは目を丸くした。
「この不自由な生活を 人間に生まれ変わって自由気ままに生きることで とりもどすんだ」
だから特別扱いで動物も相手にしていると説明する死神くんに、レオは「なに わけのわからんことをぬかしていやがるん
でェ!」と飛びかかる。
慌ててかわすと「とにかく あと一週間だからな」と死神くんは消えた。
「オレがあと一週間の命だと?」
呆然とつぶやくレオ。
(こんなせまい場所で 本当に一生終わっちまうのか… いやだ…オレはそんなのはいやだ!!)
レオは首を振った。
(帰りたい! あの広い草原に帰りたい)
その晩、レオは檻に向かって何度も体当たりを繰り返し……ついに、柵を破って外へ出た。が、死神くんが「外へ出るのは
危険だ!」と彼を止める。
「外へ出たら 死期が早まるだけだぞ」
「なぜだ?」
「人間は お前を殺すからだ!」
「なぜだ?」レオは尋ねた。
- 505 :FJ S62年5/23号 2/7 :2009/03/22(日) 22:04:34 ID:???
- 「なぜ 人間はオレを殺す? こんなせまい場所にとじこめておいて 外へ出れば殺す…人間は そんな自分勝手な動物か?」
「そうさ 人間は自分勝手な動物なんだ」死神くんは答えた。「お前は 危険な動物として見られている」
「オレは 人間には危害はあたえぬ! なにもしない!!」
「それでも お前は殺される」
「なぜだ!? お前の言ってることは 意味がわからんぞ」
レオは柵を飛び越え、死神くんの静止も無視して走り出した。
「オレは帰るだけだ! あの広い大草原に!! 人間には 手は出さない それなら 人間も私に手は出さないだろう」
「わかっちゃいないな 人間は そんな動物じゃないんだ!! それに…」死神くんは叫んだ。「あんたは もう帰れないんだ!!
ここはアフリカじゃなく 日本だ!!」
が、それがわからないのか、レオはどんどん街中へと向かっていってしまう。
「ばかめ 大変なことになったぞ」
繁華街の中を走るレオ。その姿を見て、人々は驚きに目を見開いた。どこまで行ってもビルしか見えないことに、レオは
戸惑いを感じ始める。
(ここはなんだ? ここは いったい!? あの広い大地はどこへ行った!? 草原をかけ回る仲間たちはどこにいる!?)
「キャ――ッ」
誰かが悲鳴を上げたのを皮切りに、通行人達もざわめき始めた。
「ライオンだー」
「うっそ〜」
「にせものじゃないのー…」
「ぬいぐるみだろ!?」
「110番 110番!!」
(うるさいぞ人間ども なにを そんなにさわぐ? いつも オレを見てよろこんでいたのに なぜ そんなにおびえている?)
「もうよせ! 人間どもがさわいでいるのがわからないのか!?」
死神くんが再び止めに入った。
「みんな お前をこわがっているんだ」
「オレを!」
「お前は 危険なんだ 人間は自分の身を守るために お前を殺す!!」
- 506 :FJ S62年5/23号 3/7 :2009/03/22(日) 22:05:30 ID:???
- 「なぜだ!? オレはなにもしちゃいない!」
「いいから 安全な場所へ逃げろ!」
「どこが 安全な場所だ!?」
「もとの場所だ 動物園のオリの中にもどるんだ!!」
しかし、レオは……
「………いやだ!! オレはいやだ!!」そう叫び、再び走り出した。
「こらーっ」
「なんだか 外がさわがしいわね」
養護施設のあけぼの園で、園長先生は窓を閉めながらつぶやいた。
「さっ 早くみんな寝なさい」
「ハーイ」
が、子どもたちの一人、ケンジはこっそり庭に出るとおしっこをし始めた。と、おしっこがかかっている先に動物の足が
あるのに気づき、顔を上げると……そこにはレオがいた!
ケンジは悲鳴を上げ、それを聞いてリボンの女の子が「どうしたの? ケンジくん」とこちらにやって来た。彼女もレオを見て
驚く。
「よせよ 子どもたちに手は出すなよ」
「言ったはずだ オレは人間に危害は加えぬ」
レオが死神くんとそう話している間に、子供達がどんどん集まってきた。すっかり怯えるケンジを尻目に、リボンの女の子は
レオに近付いていった。
「バカ よせ 食われっちまうぞ!!」
ケンジは止めるが、女の子は「ねっ…これ食べる?」とポケットからビスケットを差し出した。レオはにおいを嗅ぐと、
一舐めで食べてしまった。
「かーわいー」
リボンの女の子は笑顔でレオを撫でた。それを見て他の子供達も「オレにもさわらせて」「私も」と騒ぎ出す。
ケンジ一人だけが「知らねーぞ オレは知らねーぞ」とすっかり怖がっていた。
「この子供たちは安全だ 大人たちには見つかるなよ」死神くんは言った。「こっちもビジネスだからな 予定通りに
やってくれなくちゃこまるんだ 一週間はおとなしくしてろよ」
死神くんは去り、子供達はすっかり大人しいレオに慣れ、遊んでいた。
(帰れない… オレは もう帰る所がないのか?)
- 507 :FJ S62年5/23号 4/7 :2009/03/22(日) 22:07:02 ID:???
- 翌朝。子供達が次々とごはんをおかわりをするので園長先生は驚いていた。
「あらあら 今朝は みんなすごい食欲ね もう ごはんがなくなっちゃったわ」
が、ほとんどの子はおかわりしたごはんをこっそり用意したビニール袋の中に入れていた。と、テレビから、動物園から雄の
ライオンレオ≠ェ逃げ出したというニュースが流れてきた。
「まあ すぐ近くじゃないの? みんな 気をつけるのよー」
「あの…園長先生!」
ケンジは立ち上がり、夕べのことを話そうとするが、
「わーっ ケンジくん 外で遊ぼーっ」すかさず他の子が彼を食堂から引っ張り出した。
「わーア てめーら」
子供達は縁の下に隠したレオに早速ごはんをあげる。レオはあっという間にそれをたいらげた。
「すげー よく食うなー」
「これじゃ たりないわね 肉を食べさせなくちゃ」
そんな中、ケンジだけが、遠巻きに様子を見ていた。
「バカヤロー てめーら今に食われっちまうからなー」
「ケンジくんったら」
「ライオンってのはなー こわいんだぞー 人を食うんだぞー」
「レオは おとなしいよ ケンジくんも遊ぼっ」
リボンの女の子が声をかけるが、やっぱりケンジは来ようとしない。実は、最初におしっこをかけてしまったので、レオが
自分に対して怒っているのではないかと気にしているのだった。
こうして子供達とレオとの生活が始まった。背中に乗って遊んだり、見張りを立てて人が来たら見つからないよう姿を隠したり
……レオもそんな子供達にすっかり気を許すようになった。
(これが人間か… 死神よ おそれることは ないじゃないか 人間も 私をおそれてはいない)
そんな様子を静かに見守る死神くん。
が、園長先生が異変に気づいた。冷蔵庫の食べ物がなくなっている。それに二、三日前から皆よく食べるから食費も倍に
なっている。と、窓の外にレストランからもらってきた残飯を運ぶ子供達の姿が。気になって後をつけると子供達は縁の下へ
行く。すぐに自分も後に続き、懐中電灯をつけると――映し出されたのは、ライオンと一緒にいる子供達の姿。
園長先生は悲鳴を上げた。
- 508 :FJ S62年5/23号 5/7 :2009/03/22(日) 22:08:14 ID:???
- 「見つかった」
「やばい!!」
「逃げろ!」
子供達は大慌てで、縁の下からレオを逃がした。
「早く逃げろ 大人たちに殺されるぞ」死神くんもそれを促す。
「わからん 人間は大人になると凶暴になるのか」
「そーゆーんじゃないんだけど」
当然、子供達は園長先生に「なんてあぶないことを」と叱られた。皆が悲しむ中、ケンジだけが「だから言っただろう
ライオンなんか…」と冷めた態度をとっていた。
「つかまらないで レオ…」
再び街中を走るレオ。パトカーが出動し、騒ぎは大きくなる一方だ。それでもレオは「死神よ オレの故郷はどういけば
いい?」とのんきな質問をしてくる。
「帰れないんだよ 海を渡らなくちゃならないんだぞ」
「海とは なんだ?」
「説明してるヒマはない」
そしてついに、正面をパトカーで塞がれ、警官が降りてきた。
「なんだこいつらは」
「やべ〜〜」
警官は銃を構える。が、レオはそれに気づかず「通してくれ オレは なにもしない!!」と警官の方に向かって突進した。
「バカ! あぶない」
――瞬間、銃声が辺りに響いた。
ニュースでレオが銃で撃たれた事を知り、心配する子供達。
「大変でした 子どもたちは今にもライオンに 食べられるところでした 本当です!!」
報道陣のインタビューに答える園長先生。
捜索が続く中、レオは死神くんと共に茂みの中に隠れていた。幸い彼は、頭に軽い怪我をしただけだった。
「なぜ 人間はオレを殺す?」レオはつぶやいた。
(子供たちとは仲よくなれたのに… オレには もうなにがなんだかわからなくなった)
- 509 :FJ S62年5/23号 6/7 :2009/03/22(日) 22:09:55 ID:???
- 「これで わかっただろう お前の一番安全な場所は あのオリの中なんだよ!!」
死神くんは言うが、レオは施設の子供達の顔を思い浮かべ、「いや もっと安全な場所がある」と立ち上がった。
「さあ もう寝なさい」あけぼの園では、園長先生がまだ心配そうな子供達にそう言った。「こわかったでしょう? もう
ライオンのことは忘れるのよ」
と、リボンの女の子が窓の外にレオの姿を見つけた。
「レオ!」
その声に、他の子供達もレオに気づき、喜んだ。
「レオだ!」
「帰ってきたんだ」
ただ一人、園長先生だけが顔を引きつらせている。
「戸を開けちゃだめ――っ 早く警察よ!!」
その時、レオの背後で一斉に機動隊員達が立ち上がった。レオに向かって、銃口が向けられる。
「やめてー 撃たないで――っ!!」
「レオ――」
直後、「やめろ〜?!」と叫んで、なんとケンジがレオの前に立ちはだかった。園長先生は仰天するが、子供達は嬉しそうな顔に
なった。
「レオは ライオンだけどおとなしいんだ うたないでくれ!!」
そう言って、ケンジは泣きながらレオの首に手を回して抱きついた。
「ホラ ボクたち仲よしなんだ 平気だよ!!」
レオも笑顔になっていた。
「子どもをひきはなせ!!」
「あぶないぞ!!」
「やめろ!! レオをうつな――っ!!」ケンジは必死で訴えた。「オイラ ホントはレオと遊びたかったんだ 背中に乗って
かけまわって エサをやって…」
と、いきなりケンジはレオから引き剥がされた。機動隊員の一人が背後に回っていたのだ。
「わーっ はなせー」
隊員はすぐに安全な場所にケンジを連れて行こうとするが、彼も必死で抵抗し、隊員の腕に噛み付いた。
「イタタタ なにをするんだ」
「はなせー」
- 510 :FJ S62年5/23号 7/7 :2009/03/22(日) 22:11:20 ID:???
- それを見ていたレオは、機動隊員がケンジに危害を加えようとしているのだと勘違いし、「子どもに なにをするんだ!!」と
飛び掛った!
その瞬間、銃口が一斉に火を噴き――
「キャ―――ッ」
レオは、全身血まみれになって、静かに倒れた。子供達が建物の中から駆け出してくる。
「レオが死んじゃったー」
レオの体にすがりつき、泣く子供達。
「予定より早く死んじまったな…」
静かにつぶやく死神くんに、レオは尋ねる。
(死神よ このあたたかいものは なんだ)
「涙だ」
(なみだ…?)
「人間が悲しい時に 目から出てくるものさ…」
(まったく 人間とはわけのわからん生き物だ)
不意に、レオの脳裏に檻の中にいた頃の光景が浮かんだ。自分の一生は、何だったんだ……?
(死神よ たのみがある)
「なんだい?」
(オレは 人間になんかになりたくはない… もとにもどしてくれ もう一度 あの草原をかけまわってみたい たのむ…)
「そ…それはできない」
死神くんは、ただ「ごめんよ」と繰り返すしかなかった。
それからしばらくして、動物愛護協会に勤める男性のもとに、電話がかかってきた。出産のために入院している妻からだ。
「あなた 産まれたわ 元気な男の子よ」
「そ…そうか! 予定より早いじゃないか!」
男性の表情が、たちまち明るくなった。
「そうなの ホラ 聞いて」
そう言って妻は、母親が抱いている赤ちゃんの方に受話器を近づけた。
「元気な泣き声… まるでライオンよ」
「そうか…ライオンか もう名前は決めてあるんだ 礼緒(れお)っていうんだ」
- 511 :マロン名無しさん :2009/03/22(日) 23:07:30 ID:???
- 今回も死神くんが知らせたのは余計なことのような
黙ってりゃ命を縮めることなかったのに
- 512 :マロン名無しさん :2009/03/23(月) 08:43:55 ID:???
- これだけ帰りたがってたんだから最後に故郷に帰った夢を見せるぐらい
やってあげればよかったのに…(;ω;)
- 513 :マロン名無しさん :2009/03/23(月) 19:01:18 ID:???
- 泣いた。動物モノはやばい・・・
- 514 :マロン名無しさん :2009/03/23(月) 21:01:12 ID:???
- こういう時こそ悪魔くんの出番だろ…
せめて草原で死なせてやれよ…
- 515 :マロン名無しさん :2009/03/23(月) 21:25:06 ID:???
- 悪魔くんは動物の魂でも欲しいのかな。
- 516 :FJ S62年6/23号 1/8 :2009/03/25(水) 22:53:09 ID:???
- 離島・小豆島に到着した船から、若い青年が降り立った。今度この島にある小中学校に赴任する事になっている教師だ。
「きたか」その姿を見とめて、校長がつぶやいた。そして、
「この学校で教育を受けるのはお前さんのほうじゃ のお 死神よ」
彼の上には、笑顔の死神くんがいた。
第47話 真の教育の巻
「どうも! 本日よりこの学校に転任することになりました吉本幸一です!」
「うむ よくきてくださいましたな」
挨拶を済ませると、校長は吉本を生徒達のいる教室へ案内した。
「うちの学校は小学校 中学校全部合わせて6人じゃ」
「はい! 聞かされております」
「ほかの学校とちがう所があるかも知れんが ま 気にせんでくれ」
「ほかの学校とちがう…?」
「しょくん おはよう!」
吉本が教壇に立ち、挨拶すると、子供達も挨拶を返した。
「ボクは吉本幸一 今日から みんなといっしょに 勉強することになった みんなも 自己紹介してくれるかな?」
「ハイ! 私 さやか 小学2年です」
「ボク 中野和男 小学3年です」
「オイラ 山田六郎 小学5年だ」
「あたい 小林由利 小学6年生です」
「ボクは 暗本(くらもと)洋 中学2年です」
「オレは 海原 大ってんだ」
そして自己紹介が終わると、大は「仕事があっから お先に失礼するわ」と教室を出ようとした。「兄キ オイラもいくよ!」
と和男もついて行こうとする。
「仕事? 学校は どうするんだ?」
「てきとーにやるよ」
その答えに「こら! ちょっとまて!!」と吉本は大を引き止めた。
- 517 :FJ S62年6/23号 2/8 :2009/03/25(水) 22:53:53 ID:???
- 「お前は中学3年だろ!? 進学をひかえて 今がいちばん大切な時期だ」
「進学? オイラが? 笑わせんなよ」
大は大笑いしながら、教室を出て行った。
「またんか!!」
「吉本くん これでいいんじゃよ」
「いいって校長…」
「先生!」
吉本の言葉を、洋が遮った。
「ほかの連中は ともかく ボクだけは ちゃんと勉強させてください」
「そーゆーこと!!」
そう言いつつ、投げやりな態度の由利に吉本は唖然とした。
校長室に戻った吉本は、「どういうことですか!?」と校長を問い詰めた。
何しろまともに授業を受けようとする生徒がいないし、洋以外やる気もないのだ。
「校長は いままでどんな教育をなさっていたのですか!!」
「彼らの自由にやらせてきたんじゃよ」
「それが 教育者のやることですか!?」と机を叩いて怒る吉本に、校長は言う。
「吉本くん 教育とはいったいなにかね?」
あの子達は進学はしない。みんな漁師となってこの島で一生を送る。そんな彼等に必要なのは船の操縦や漁のやり方で、
学校の勉強はあまり役に立ってはいない、と。
「しかし やるべきことはやっておかないと…」
「無理に勉強をやらせても 頭には入らんじゃろう やりたい時に 勉強するのが 一番 身につくというもんじゃ」
「あいつらに やりたい時があるとは思えません!! 校長! あなたの教育はまちがっている!!」
と、校長が苦しそうに胸を押さえた。
「そう どなられてばかりいると 血圧が上がってしまうわ わしゃもう先は長くないんじゃ」
真っ青になる校長に「だ…だいじょうぶですか?」と吉本も心配そうに声をかけた。
「わしゃ あと一週間の命じゃ」
「なにをおっしゃいます」
「本当じゃ 死神がそういいおった」
- 518 :FJ S62年6/23号 3/8 :2009/03/25(水) 22:54:43 ID:???
- その言葉に答えるように、死神くんが姿を見せた。
「ども 死神です」
笑顔で名刺を差し出す彼に、呆然とする吉本。
「吉本くん 勉強をやらせるばかりが教育ではないぞ」校長が言った。「人間を育てていくのが 本当の教育ではないか?
ここの子どもたちは しっかりした いい子ばかりだ 自由にやらせてくれ」
校長は机に伏せて、かなりつらそうな状態だった。
「子どもたちから教わることがあるはず 一週間の間にそれを学びとってくれ…吉本くん」
それを見た死神くんは「あんたといると寿命が縮まっちまう 気をつけてほしいよなー」と「しっしっ」と追い払う
ジェスチャーをした。
仕方なく吉本は校長室を後にしたが、突然突きつけられた事実に混乱していた。
(死神…? 校長が あと一週間の命…?)
が、何とか気持ちを落ち着け、決意する。
(その一週間で オレがこの学校を変えてみせる! 校長 あなたの考えはまちがっている)
翌日から、吉本は生徒達に厳しい指導を始めた。
「学校に出てこい! さぼるんじゃない!!」と大を叱り、「こんな問題もできないのか!?」「ほかの学校は もっと進んで
いるんだぞ」と和男や由利を怒鳴りつけ、「お前らは 九九もできんのか!? 今まで何をやってきたんだ」と六郎とさやかを
怒り……毎日、教室では怒鳴り声が耐えなかった。
放課後。校庭で休んでいた吉本は、唯一真面目に授業を受けている洋に尋ねてみた。
「暗本 お前は将来 なにになる? そんなに勉強してどうする?」
「ボクは将来医者になるんだ」洋は答えた。「この島には病院がない ボクは医者になって 島に病院を建てるんだ」
「この学校でまともなのはお前だけだ」
吉本はようやく笑顔になった。
と、そこへ「暗本先生ー じっさまのあんばいが悪くなっただよ」と女性が老人を連れてきた。
洋は「ああ それじゃ保健室へ…」と二人を案内した。
「暗本先生?」吉本が不思議に思っていると、女性が「いやー 暗本先生のおかげで いつも助かっております」と言った。
吉本は影から様子を見た。洋は慣れた様子で老人に「それじゃ この薬を飲んで」薬を渡している。
噂で聞いてはいたが、本当にこんな事をしていたとは……。
- 519 :FJ S62年6/23号 4/8 :2009/03/25(水) 22:55:56 ID:???
- 「それじゃ 千五百円いただきます」
洋の言葉に、吉本は仰天した。
「こら ちょっとまて 金を取るのか!?」
「医者として当然でしょう」
「金をとってどうする?」
「先生 医科大に入学するには金がかかります それくらい知っているでしょう?」
さも当然のような言い方に、吉本は唖然とした。が、もう一つの噂を確かめてみる事に。
「うわさで聞いたが お前 盲腸の手術をしたというのは本当か?」
「ええ はじめての手術でしたが なんとかうまくできました」
洋はあっさりと認めた。
「医師の免許がないのに…それは犯罪だぞ」
「しかたないですよ」洋はカルテを見ながら言った。「あぶない状態でしたから それに五千円という安い料金ですから
よろこんでましたよ」
――次の瞬間、吉本は洋を殴った。
「ふざけるな! それが中学生のやることか!?」
洋は頬を押さえて、呆然としていた。
翌日。吉本が教室に入ろうとすると、生徒達が自分のことで愚痴っているのが聞こえてきた。
「まったくよー 新しい先公 勉強ばかりやらせやがってよー」
「オレたちのことわかってねーんだよなー」
「ひとりではりきっちゃって バカみたいよね」
「オレたち バカだから 勉強なんてできないっつーの!」
戸を開けると、大が「おう 先生 いいところにきたな」と魚を捌いていた。大漁だったので刺身を作っているのだという。
「お前は漁師になるつもりか?」
「つもりじゃなくて もう漁師なんだよ」吉本の問いに、大はそう答えた。
「オイラも兄キといっしょに 漁師になるんだ」和男も笑顔で言う。
吉本は他の子供たちにも「将来のこと考えているのか?」と尋ねてみた。
が、さやかは「あたい まだわかんない まだ子どもだもん」と答え、六郎は「オイラ 食うことしかキョーミねェ みんな
相撲取りになれっていっているんだけど…」とのんきな答えだ。
「六郎は 島一番の力もちだからな」大が笑顔で言った。
- 520 :FJ S62年6/23号 5/8 :2009/03/25(水) 22:57:29 ID:???
- 「由利 お前は?」
「あたい?」
由利は大の背中にくっついた。
「あたい 大ちゃんのお嫁さんになるよ いちばんたよりになるからね」
「でへへへへ」大は盛んに照れた。「それじゃ毎日 子作りに汗流すベーよ」
「やだー バカ」
その時、いきなり大は吉本に殴られ、彼は吹っ飛んで後ろの壁に激突した。
「ふざけるな このくそガキ」
「や…やりやがったな」
「兄キ やっちゃえ!!」
大もやり返し……そのままみんなを巻き込んでの、殴り合いの大喧嘩になってしまった。
そして転任してきてから一週間目の夕方。
吉本は校長や子供達と一緒に、大の船で海に出て釣りをしていた。が、子供達は皆、吉本がいる方とは反対のへりに座っている。
見かねた校長が「なあ どうだ 仲直りしたら…」と言うが、すかさず大と洋が「やだね! 先に手を出したのはそっちだかんな」
「そうだそうだ」と拒否する。
吉本も「校長 あなたの教育はまちがっています」とまるで譲る気なしだ。
「こんなひねくれた子どもになったのは あなたのせいです」
その言葉に「校長の悪口をいうな!!」と大は怒った。
「こいつら ほかの学校より2年は勉強がおくれている! 校長! あなたがしっかりやらなかったせいです!! 教育委員会に
このことを報告し とり上げてもらいます!」
が、校長は「まだわかってないようじゃな」と穏やかに微笑んだ。
「なにがわかってないというのです!?」
と、急に校長が苦しげにうつむいた。そしてすぐに、死神くんが姿を現す。
(死神…!? 迎えがきたのか?)
「校長 どうしたっ」
子供達も異変に気づいた。
「うごかさないで!!」
すぐに洋が駆け寄り、様子を見る。
- 521 :FJ S62年6/23号 6/8 :2009/03/25(水) 22:58:42 ID:???
- 「!? ただごとじゃないな… 早く病院へ!!」
「よせ…校長はもう手おくれ…」
言いかけた吉本を、死神くんが「子どもたちにショックを与えるようなことをいうな」と止めた。
そして「子どもたちが 校長先生を助けるために なにをするか よく見るんだな ためになるぜ」と言って引き上げた。
すかさず大が「ここから一番近い病院は中豆島にあるぞ 前進全速!!」と皆に激を飛ばした。
洋も校長を船室に運んで応急処置を始める。吉本は「やめろ! しろうとが勝手なマネをするんじゃない」と止めようと
するが……大に包丁で制止された。
「先生は 暗本を信用してねエのか? 暗本は島じゃ 世界一の名医なんだ それに ここは海の上だ ここでは あんたが
しろうとだ よけいな口出しすんなよ」
さすがにこれには吉本も黙るしかなかった。
「兄キ! 日没とともにしけるぞ! いそげ!」
和男が舳先で海を見ながら言った。
「時化がくるのか? こんなにいい天気なのに?」と吉本は不思議がるが……本当に日没と共に海が荒れ始めた。
「和男はなァ 直感的に天候がわかるんだ 天気予報より正確だ」大が言った。
「ユリッペ あとどれくらいだ? 距離をはかれ!」
大の指示に由利が窓の外を見た。
「陸地なんて見えないぞ 距離をはかる機械でもあんのか!?」
と、吉本の問いに答えるように「あと12キロと300メートルぐらいだね」と由利が言った。
「わずかに明りが見える それでユリッペは距離をはかることができる さやか! 12キロだ 時間はどれくらいかかる!?」
「えっと… 2時間15分くらい」
「2時間?」吉本は驚いた。「どうしてそんなにかかる わずか12キロだぞ」
「潮の流れ それに向かい風も計算に入ってんだよ!」
大の言葉に、吉本は改めて驚く。
「計算…さやか 計算できるのか?」
直後、船が大きく傾いた。浅瀬に乗り上げてしまったのだ。
すると六郎が「オイラにまかせて」と乗り上げた岩の上に降りていった。
「ばか あぶない やめろ!! いくら力持ちでも船まで動かせんぞ」
- 522 :FJ S62年6/23号 7/8 :2009/03/25(水) 22:59:50 ID:???
- が、六郎は「校長を助けるんだ」と目いっぱい気合を入れて……「うおおおおお」船を持ち上げてしまった。
なんとか船は動くようになったが、船底に穴が開いたと洋が報告する。大は皆で水をかき出すよう支持し、六郎を置いたまま
船を動かし始めた。
「なにをしている 六郎をほったらかしにするつもりか!?」と吉本は大に抗議するが、六郎は「オイラが乗ると重くなるし
水もれも はげしくなる 泳いでいくから 先にいって!」と言う。
「ばかやろう!! こんな海の中泳げるものか 死ぬぞ!!」
吉本は改めて、六郎を早く助けろと大に言うが、
「やかましい がたがたぬかすんじゃねーや」大は吉本の胸倉を掴んだ。
「オレたちゃ海で生まれて海で育ったんだ 海のことならなんでも知ってる!! 時化は これからもっとひどくなる
船が転覆したら全員が死ぬぞ!!」
「それに 六郎は体力があるし 遠泳のチャンピオンよ」由利も付け加える。「このくらいの荒れた海はなんとも思っちゃ
いないわ」
そして、「もんくばかり言ってないで 水をかきだしな!!」と吉本にバケツを渡した。
和男とバケツリレーで、水をかき出していく吉本。と、船室の中に教科書があるのを見つける。彼等は、ここで勉強を
していたのだ。呆然としていると、
「自分のやりたい時に勉強をする…それが一番頭の中に入るもんじゃ」
背後から校長の声が。振り返ると、そこにはすでに魂となった校長と死神くんがいた。
「もういいかげん 君にも わかってもらえたはず あの子たちにとって 本当の教育とはなにか?… 勉強が できなくても
りっぱな人間として育っている おとなたちが心配せずとも ひとりで生きていける それ以上あの子たちにのぞむものは
なにもあるまい?」
「そのとおりだね」死神くんも言った。「受験戦争やいじめに関係ない あの子たちは一番かがやいている すばらしい
子どもたちだよ」
そして、
「吉本くん あとをたのむ」そう言い残し、校長は死神くんと共に消えた。
「ユリッペ! 方向はいいのか!? たしかめてくれ!!」
「さやか ポンプをつかえ!」
「和男 船底の修理たのむ!!」
上では相変わらず大が忙しく指示を飛ばしている。その声を聞きながら……吉本は、涙を流した。
- 523 :FJ S62年6/23号 8/8 :2009/03/25(水) 23:00:50 ID:???
- そしてやっと皆は、中豆島にある病院に着いた。もちろん、後から着いてきた六郎も一緒だ。
しばらくして、病室から出てきた医師が告げた言葉は……
「残念ですが おそかったようです…」
その言葉に、子供達は呆然とした。
「校長が…」
「死んだ…」
そして、白い布を被せられた校長の遺体と対面した子供達は「校長先生が死んじゃった〜〜っ!?」と大泣きした。洋も
助ける事が出来なかった、と泣いて悔しがる。
その様子を見ながら、吉本は思った。
(校長… みんな いい子どもたちだ)
翌日。教室に入ってきた吉本に、子供達は大人しく礼をした。
「今日から みんなおめーの言うことを聞くよ」大は言った。「さからいはしねェ みんなでそう決めたんだ」
「そうか… いい心がけだ」
吉本は机をバンと叩いた。
「全員 海へ出ろ!! 本日は地曳き網の実習だ!!」
子供達の間に、笑顔が広がった。
「早くしろ!! オレはしろうとだからな なにもわからん おしえろ!!」
「オレが おしえてやらァ!!」大も笑顔になった。
「しごいてやれ!!」和男も言う。
そう、吉本は決めたのだ。生きるための教育を、人間としての教育をやる、と。
そうして実習が終わると、さやかが「わかんない所があるの 教えて…」とノートを差し出した。
「オレも ここがわかんねーんだ」
「先生 教えて下さい!!」
浜辺で勉強する子供達と吉本を見ながら、死神くんはつぶやいた。
「校長のおもわくどおりになったな」
- 524 :マロン名無しさん :2009/03/26(木) 01:00:12 ID:???
- 分かりのいい子供達だな
- 525 :マロン名無しさん :2009/03/26(木) 01:32:57 ID:???
- まあ、校長の死があるからな
- 526 :マロン名無しさん :2009/03/26(木) 11:33:35 ID:???
- 中3と小6で子作り宣言…けしからん!
- 527 :マロン名無しさん :2009/03/27(金) 13:29:49 ID:???
- さやかはともかく、小5の六郎が九九できないのはさすがに問題ありのような。
- 528 :マロン名無しさん :2009/03/27(金) 14:14:02 ID:???
- 大学生になっても九九できないとか言うじゃないか
- 529 :マロン名無しさん :2009/03/29(日) 13:33:43 ID:???
- 早く復活してくれないかな〜
- 530 :マロン名無しさん :2009/03/31(火) 18:35:59 ID:???
- 願いを三つ
聞き流してやろう
────y───
/\\∧∧. ↑
/__ _,ヽ(,,゚Д゚) |
レ ∨ (ノ.::::::::|つ|
←〜|.:::::::::| |
U"U. │
- 531 :FJ S63年2/23号 1/7 :2009/03/31(火) 22:02:46 ID:???
- 「オイラ 死神 死後の人間の体から魂を切りはなし 霊界にはこぶのが仕事さ」
第48話 うそつき探偵団の巻
「オーライオーライ よーし 取付け完了」
大きな木が立つ小高い丘にある小屋に、五人の子供達が「五佐月探偵団」と書かれた看板を取り付けた。
「ヘッヘッヘッ できたか」屋根の上にいる少年は得意げに笑った。「今日から オレが団長になって 活動開始だ」
「ねえ 探偵ってどんなことするの!?」
子供達の一人・かず夫が訊くが少年は「さあ? そんなことみんなで決めればいい」とのん気な返事だ。
「とにかく みんなが集まって なにかやるってことが大事なんだ」
しかし、眼鏡の男の子・太郎は「でも みんながこう言ってるよ」と言った。
「うそつき探偵団」
少年はずっこけた。
「てめ! うそつきじゃねーっ 五佐月(いさつき)だ! オレの名前だぞ!!」
怒った五佐月が太郎を追いかけ回していると、
「あの…」上品そうなおばあさんが、彼等に声をかけてきた。
「ヘイヘイ なにか用でしょうか?」
「ちよっと 仕事をたのみたいんですが」
五人は慌てておばあさんを小屋の中に招いた。
「この人を さがしてほしいんですが」
おばあさんは古い写真を取り出した。写っているのは若い男性だ。
この人は岡山雄二といい、今生きていれば六十四歳になっているはずだという。
「その人を 一週間以内に見つけだしてほしいのです」
「一週間ですか?」
「そう 一週間… わたしは あと一週間しか…」おばあさんは何か言いかけたが、「いえ…まあ とにかくたのみましたよ」
と帰っていった。
一人歩くおばあさん。すると、
「あんな子どもより 本当の私立探偵でもやとったほうがいいんじゃないの?」死神くんが現れ、言った。
- 532 :FJ S63年2/23号 2/7 :2009/03/31(火) 22:03:49 ID:???
- が、「いや…これでいいんです」とおばあさんは言う。
「たまには 子どもたちとつきあってみたかったんですよ」
「さあ 大変なことになったぞ」
「団長 初仕事だよ どうするんだよ」
太郎とかず夫は五佐月に言うが彼は「わからん」と冷や汗を流す。
「テレビで見たのとだいぶ話がちがうな」
「なんのテレビだよ」
太郎の言葉に答えるように、背の高い男の子・さだおが言った。
「団長は 昔のテレビ番組を見て 少年探偵団を作ったんだろ?」
「じつは そうなんだ」
太郎とかず夫は思わずずっこけた。
「テレビじゃ 悪人相手にピストルぶっぱなして カッコよかったんだけどな」
「今じゃ できるわけないでしょ」
唯一の女の子・のり子があきれたように言った。
それでも引き受けた以上はやらなきゃ、と五人は手分けして探した。町行く人に聞き込みをしたり、電話帳を調べたり、
役所の住民課に行ってみたり……が、それらしい人は見つからず、五人はおばあさんの家にお詫びに行く。
「スイマセン 今日のところは見つけられませんでした!! 明日こそ なんとか…」
「そんな 気にしなくても… 今日は どうもごくろうさま」
おばあさんは「お腹がすいたでしょう? 食べて行きなさい」と五人に夕食をご馳走した。その途中、のり子が「おばあさんと
その人は どういう関係だったんですか?」と尋ねる。
「雄二さんとは結婚するはずでした」おばあさんは言った。「ずーっと昔の話ですよ」
その頃、日本は戦争の真っ只中だった。この町には大きな木が立っている丘があり、まだ少女だったおばあさんと雄二は、
憲兵の目を気にしながら、いつもそこで話をしていた。
だがある日、彼女は雄二から「オレ 戦争に行くことになったよ」と告げられる。彼の元に赤紙が届いたのだ。
「雄二さん」
「心配すんな オレはちゃんと帰ってくる 死にはしないよ 今日 なん日だっけ?」
「あ…23日」
「そうか じゃ 毎月23日にこの木の下でまっていてくれ その日に 必ずオレはここに帰ってくる!」
見つめ合う二人。そして、出征する彼をおばあさんは影から見送った――。
- 533 :FJ S63年2/23号 3/7 :2009/03/31(火) 22:05:16 ID:???
- 「ホッホッホッ こんな年寄りに こんな話は おかしいのォ」
「たしかに!」
素直に答える五佐月をのり子は叩いた。
そして、日本は戦争に負けてしまい、この町は地形が変わるほどの空襲で焼け野原となり、丘の上の木もなくなった。
それでも彼女は、二十三日になるとその木のあった場所に来て雄二を待った。両親を失い、一人ぼっちだったおばあさんは
雄二を頼る以外なかったのだ。だが雄二は帰ってこず、人に尋ねて回った所、雄二は行方不明ということになっていた――。
「それじゃ 生きてるか死んでんのか わかんねーじゃねーか」
五佐月は言った。
「それを調べるのが 探偵の仕事ですよ」
「そんなのムリだよ〜っ」
「ムリでもやっておくれ たのみますよ わたしは あと一週間しか生きられないのです」
「どうして そんなことわかるんだよォ」と訊く五佐月に、おばあさんは「死神に 死の宣告を受けたんです」と答える。
それを聞いて「おばあさん ちょっと おかしいんじゃないの?」と言うかず夫だが……
「お前らな あんまり失礼なこと言うんじゃない」
死神くんが現れ、子供達は目を丸くした。
「この人が どういう考えでお前たちに仕事をたのんだのか わからないが この人のわがままにつきあってやれよ」
「出た〜っ オバケ〜ッ」
「オバケじゃないわい!!」
翌日、五人は事務所に集まって詳しい調査を始めた。年をとった姿の想像図を作ってみたり、隣町まで足を伸ばしてみたが……
やはり今日も手がかりはなかった。それでもおばあさんは五人を温かく向かえ、夕飯をご馳走してくれた。調査にかかった
交通費や電話代も全て出してくれた。時には皆で、おばあさんのアルバムを見ながら話をする事もあった。
こうして日にちが過ぎて行ったが、全然手がかりは見つからなかった。古い町の記録は戦争で焼けてしまっているし、
同姓同名の人に電話しても皆別人だった。
「やっぱり オレたち子どもにゃ限界があるんだ 見つけられないよ」
五佐月もあきらめモードだ。
- 534 :FJ S63年2/23号 4/7 :2009/03/31(火) 22:06:30 ID:???
- が、「戦争で死んじゃってるかもしんないし」という太郎を「エンギでもねーこと言うな!! おばあさんが かわいそうじゃ
ないか」と怒鳴った。
「おばあさんには 毎日世話になったな?」
「いつもごちそうしてくれたからなァ」かず夫が言った。
「わたし おばあさん家行くの 楽しみなんだ」のり子も言う。
「もうすぐ死んじゃうんだ」
「エンギでもねーこと言うな!!」また不吉な事を言う太郎を五佐月はまた怒鳴った。が、ふとあることを思いつく。
「死神………!! そうだ あいつなら なにか知ってるかもしれん!」
「そうだよ あいつ 人間じゃないんだ いろいろ知っているんじゃないか?」
「空 飛べるしな!」
「聞いてみようよ!」
「それで オイラを呼びだしたってわけかい?」
「おばあさんのために 手をかしてくれ!」
「知ってることがあれば おしえて!」
死神くんは困ったような顔をしたが、「オレは雄二さんがどこにいるか知ってるよ」と言った。
たちまち子供達から「知っててどうしておしえてくれないんだ?」「オレたちゃ苦労したんだぞ」と抗議を受ける。
「オレは知っていたが あの人にはおしえなかった それには理由があるんだ」
「どんな理由だ!?」
「大人の世界にゃいろいろあるのさ」
「いいから早くおしえろ!!」
子供達は死神くんを睨んだ。
死神くんが教えてくれた場所は、なんと隣町だった。電話帳には名前が載ってなかったのに……と首を傾げつ、住所の場所に
行くとそこは大きなお屋敷だった。が、かかっている表札は「大村」だ。不思議がる子供たちに死神くんは「ここの家は
ある有名な社長さんの家で、岡山さんはここに住みこみで働いているんだ」と説明する。
「ホラ あの人だよ」
死神くんが示した先には、庭に置かれたテーブルを掃除する背広姿の老人がいた。彼がおばあさんの探している「雄二さん」
なのだ。と、中から花束を持った眼鏡の初老の女性が出てきた。
「あの女の人は…?」のり子が尋ねると、死神くんは言った。
「いっしょに働いてる人さ 近所でも有名な 仲のいい夫婦だ」
「夫婦」――その言葉に、子供達は唖然とした。確かに二人は、仲良さそうに微笑んでいる。
- 535 :FJ S63年2/23号 5/7 :2009/03/31(火) 22:07:41 ID:???
- 「うそ… そんなひどい…」ようやくのり子が口を開いた。
「おばあさんは 40年もまちつづけたんだぞ それなのに!!」
「約束をかわしたのにひでーじゃねーか!!」
「これじゃ おばあさんがかわいそうだ!!」
太郎、かず夫、五佐月も口々に言うが、死神くんは淡々と告げる。
「言っただろう 大人にはいろんな事情があるんだ だからオレは おばあさんになにも言わなかった」
「ちくしょう! てめ このやろ!!」
泣きながら雄二を殴りに行こうとする五佐月を、さだおが「落ち着け落ち着け」と止めた。
日が落ちた道を、おばあさんの家に向かって歩く五人の表情は暗かった。
「どうするんだい? 事実を知ってしまって…」死神くんは尋ねた。「おばあさんに どう報告するんだい?」
「言えるわけねーだろ こんなこと… こんなこと…」
そしておばあさんの家に着くと、おばあさんは床に伏せっていた。
「お…おばあさん!! 大じょうぶ!?」
「ああ…もう体がいうことをきかん」
おばあさんは、なんとか半身を起こした。もう死ぬ時間が迫っているのだ。
「雄二さんは… どうなったかいのオ」
なんと答えていいかわからず、口をつぐむ五人。長い沈黙の末、ようやく五佐月が口を開いた。
「ゆ…雄二さんは…」
膝の上で握った手が震える。
「おばあさんのさがしている雄二さんは… すでに 死んでいませんでした」
五佐月の目から涙が溢れた。他の四人と死神くんは、大胆な発言に呆然としている。
「おばあさんが 本当にさがしている雄二さんはいませんでした おばあさんの好きだったやさしい雄二さんは もう
いませんでした ごめんなさい おばあさんごめんなさい」
他の子供達も、泣いていた。そしておばあさんは一言「そうかい…」と言うと、笑った。
「おばあさん…」
「いいんだよ そんなに気にしなくても ホントは雄二さんのことは どうでもよかったんだよ ただ… 自分が死ぬと
わかって急に人恋しくなって… だれでもいい 話がしたくて… だれかにかまってもらいたくて… こんなおばあちゃんに
だれか 話しかけてほしかったんだよ ひとりぼっちで死にたくなかったんだよ」
- 536 :FJ S63年2/23号 6/7 :2009/03/31(火) 22:08:43 ID:???
- そう告白するおばあさんの目から、静かに涙が零れる。
「ありがとう… お前たちのおかげで 最後の一週間は 本当に楽しかった」
「おばあさん…」
「ありがとう…… わたしのわがままにつきあってくれて 本当に… ありがとう…」
そして、おばあさんはうつむいたきり、動かなくなった。
「おばあさん…」
「死んじゃったの?」
そして五人は、太郎とかず夫が泣き出したのをきっかけに、大泣きした。
「おばあさーん」
「おばあさんが死んじゃった〜」
そして、おばあさんの魂は死神くんに連れられ霊界へと向かっていた。
「思い残すことはないかい?」
「ああ」
「雄二さんの 本当のことを 知りたくないのかい?」
「もういい あの子たちの言葉を信じる」
翌日。五人は空き家から探偵団の看板を取り外していた。やっぱり子供が探偵をするなんて無理だ、とやめることにしたのだ。
と、かず夫が向こうから人が歩いてくるのに気がついた。しかもその人物は、雄二だった。
「ホウ こんな所に 少年探偵団ができたのか」
「てめー なにしにきやがった!!」
危うく殴りかかろうとする五佐月を、再びさだおが「落ちつけ落ちつけ」と止める。向こうはこちらの事は知らないのだ。
すると雄二は「そうだ ひとつ仕事をたのみたいんだが…」と懐から古い写真を取り出した。
「この人を 見つけだしてくれぬか」
写っているのは、花瓶に花を生けている若い女性。が、五人にはそれがおばあさんだとすぐに分かった。
「どうかね ひき受けてくれんかね?」
- 537 :FJ S63年2/23号 7/7 :2009/03/31(火) 22:10:35 ID:???
- 五佐月は恐る恐る訊いてみた。
「こ…この人とはどういう関係ですか?」
「なんていうか いいなずけだった人だ」
雄二は、少し顔を赤らめた。今度はのり子が尋ねる。
「今でも この人を愛してますか?」
「ああ もちろん」
「うそ! 奥さんがいるくせに!!」
慌てて飛びかかろうとするのり子を取り押さえる四人。雄二は「なんだ わたしのことを知っているのかね?」と驚いた。
そして事情を話し始める。
雄二が日本に帰ってきたのは、戦争が終わってから二年も経った頃だった。ぼろぼろの姿で闇市で買った食料を食べていると、
ふと一人の女の子が物欲しそうにこちらを見ていた。雄二はその子に食べ物を分けてやった。
「親は どうした?」
「死んだ」
がっつきながらそう答えた彼女を、雄二は引き取る事にした。それが今の奥さんなのだ。
ようやく故郷に帰り着くと、ひどい荒れようだった。そして、約束通り、木の下で待った。毎月同じ日に、四十年ずっと。
そして今日も……子供達ははっとした。ここも丘で、大きな木が立っている。そして今日の日付は……二十三日!
「彼女にあうことができたら… あやまるつもりだ 土下座してあやまるつもりだ」
五人は、理解した。雄二は約束を忘れてなどいなかった。ただ、空襲で地形が変わり、木もなくなってしまったことを
知らなかったため、場所を間違えていたのだ。
「どうかね? このじいさんのわがままに つきあってくれんかね?」
雄二の目には涙が滲んでいた。
「おじさん うちの別名知ってる?」
「別名?」
「うそつき探偵団って言うんだ!」
「うそつき…?」
「入りなよ じっくり話を聞かせてくれよ」
五人は、雄二を小屋の中に招き入れる。その様子を死神くんが、木の上から見ていた。
「お前たちがどういう答えを出すか…楽しみだな」
- 538 :マロン名無しさん :2009/03/31(火) 22:19:24 ID:???
- 死神くんはそこまで事情が分かってたなら教えれば良かったのに。
- 539 :マロン名無しさん :2009/03/31(火) 22:46:05 ID:???
- 雄二にも「いいなずけの人は空襲で亡くなっていました」と言う他ないんじゃないかな…
少なくとも俺ならそうとしか言えん。
- 540 :FJ S63年3/23号 1/6 :2009/04/03(金) 22:02:22 ID:???
- 第49話 母ちゃんなんかいなくなれの巻
みつお・たかひこ・しげるの三人は、同じ小学校の同級生で、母親同士も高校の時からの友達だ。今日は六人で、ハイキングに来ていた。
たかひこは自分の母親のことが嫌いだ。
しげるの母親は綺麗で若い。みつおの母親も上品で綺麗だ。だがたかひこの母は背も低く、顔もお世辞にも美人とは言えないし、体型も
肥満体だ。友達に母親を見られるのが一番嫌だった。
と、みつおの母が小さく悲鳴を上げた。縄を蛇と勘違いしたのだ。
(そうだ 女の人は こんな感じでか弱くなくっちゃな オレの母ちゃんなら…)
きっと蛇をそのまま食べるだろうな、と思って、たかひこは嫌な気分になった。
追い討ちをかけるように、しげるとみつおが話しかけてくる。
「たかひこよォ お前の母ちゃん いつ見てもすげェな?」
「あれでも女かよ」
「うるさいやい!!」
たかひこは大声で二人を一喝したが、気分は晴れなかった。
(オイラは…… 母ちゃんなんか いなくなれと思っているんだ)
暑いときには平気で家族の前でスリップ一枚になり、大声で笑い、ブタみたいに大食いで、すぐ屁は垂れるし、ちょっとしたことで殴るし……
全くいいところが思いつかないのだ。
友達が皆行っているから、塾に行きたいと頼んだ時も「なにバカなこと言ってんだい!! お前が塾に行ったって どうにもなるもんか!!」と
相手にもされなかった。
「勉強なんかやらなくても 立派な人間になれるさ 母ちゃんをごらん!! 見な! この賞状を!! 母ちゃんは日本一だよ」
が、壁に飾られた賞状は砲丸投げ、重量挙げ、女相撲といった力自慢の競技ばかり。学校でも、皆に「カイブツ」「ブタ」
「ブスの母ちゃん」「女小錦」と母親のことでバカにされる始末。
(母ちゃんなんか… 母ちゃんなんかいなくなれ!)
たかひこは考えていた。今日のハイキングは山の麓まで。途中の崖っぷちに誰も使ってない山小屋がある。それは崖から少しはみ出していて、
向こう側に渡る小さな吊り橋が架かっているがボロボロで渡ることは出来ない。そう、母ちゃんがのっかったら……橋は崩れて落ちて
死ぬだろう。と、
「またあぶないことを 考えていたようだな」
- 541 :FJ S63年3/23号 2/6 :2009/04/03(金) 22:03:13 ID:???
- たかひこの前に、死神くんが現れた。彼は十日ぐらい前からたかひこの前に現れ、彼以外には見えないらしい。
「自分の母親を殺そうと考えてるな」死神くんは言った。「そういうことをされると オレは非常に困るんだ お前の母さんは まだ死ぬ
予定には入ってないんだ」
「う…うるさいやい! 母ちゃんなんか 大っキライだ!!」
たかひこはもう一つ理由を話す。以前彼はどうしてもウォークマンが欲しくて、万引きをしてしまったことがあった。
それはすぐに母親にバレ、たかひこは「しらない間にポケットに入っていたんだ」とごまかそうとしたのだが……
「バカ!!」あっさり見破られ、思いっきり顔をビンタされた。
「ウソをつくんじゃないよ!! お前のやったことは万引きだよ 犯罪だよ!!」
母は泣いていた。
「さあ 早く返してきな!! 店の人に よーくあやまるんだよ」
そしてたかひこは散々殴られ、顔が膨れ上がってしまった。思い出して泣くたかひこに「悪いことをしたなら当然だろ」と死神くん。
「子どもが 悪いことをしたら 叱るのは親として当然だ」
「母ちゃんのはやりすぎだよ 他の子は 親から好きなものを買ってもらってんのに オイラはなにも買ってもらえないんだぞ」
「それは経済的な問題で お母さんのせいじゃないよ」
死神くんは呆れた。
「とにかくオイラ母ちゃんがキライだし いなくなれって思ってんだ」
「そんなことで 殺人を考えているわけだ」
「うるさいやい こっちは もっと深刻な問題なんだぞ!!」
と、皆がこちらを向いているのに気づき、たかひこは真っ赤になった。
そして一行は件の山小屋に着き、そこで昼食にすることにした。が、その前からおにぎりを食べているたかひこの母親を見て、しげると
みつおは「まったくよく食うな」「まるでブタだぜ」と陰口を言う。
と、彼女が派手なおならをした。恥じらうでもなく「あら ごめんなさいね」と謝る母を見て、たかひこはより一層憎しみを募らせる。
(お前なんか 死んじまえ)
- 542 :FJ S63年3/23号 3/6 :2009/04/03(金) 22:04:22 ID:???
- 一方、しげるとみつおの母親は、
「うちの子は また成績が上がりましたのよ」
「まあ うちの子も 今年から家庭教師をつけてがんばってるざます」
「それはそれは」
と、互いに自慢し合っていた。
「吉田さんの所は どうなさってます?」
みつおの母がたかひこの母に話題を振ると、彼女は「わたしに似て 勉強ができなくて ホントに困ったもんです」とたかひこの頭を叩いた。
「図工と体育が得意といえば得意で まあ 将来はスポーツ選手か芸術家になると思いますよ」
それを聞いて吹き出しそうになる母親二人に、たかひこの母は強く主張する。
「うちの子は 日本一ですよ」
こうしてひとしきり話が終わると、しげる・みつる母子は焚き木を拾いに行き、小屋にはたかひこと母親二人きりになった。
たかひこは吊り橋に出る戸の窓から外を見た。吊り橋の手前には足場がない。落ちたら完全に死ぬだろう。
「どうだい いい景色だろ?」
母親はそう言って、戸を開けて外を見た。吊り橋に出られないよう木の板が×に組んであったが、屈めば下は丸見えだ。
「ひゃ〜〜っ こわいね――」
たかひこは思った。今自分が力いっぱいぶつかれば、母ちゃんはバランスを崩して落ちる。自分は子供だから警察の人は自分の言うことを
信用してくれるだろう。嘘泣きで「母ちゃん 足を踏み外して落ちたんだ」と演技すればいい。
(バレたって オイラ子どもだから 罪にはならないよな)
そしてたかひこは、突き落とそうと手を伸ばした。
(か…母ちゃんなんか いなくなれ!!)
が、死神くんが立ちはだかった。
「ホントにやるつもりか?」
母はそんなことに気づかず、曇りだした空を見て「なんだか 雨がふりそうだねえ」と言っている。
たかひこは止めようとする死神くんを振り払い、母を突き落とそうとするが……背後で戸が開く音がした。焚き木拾いに行っていた四人が
帰ってきたのだ。
(見…見られた!?)
直後、「ドーン」という轟音と共にものすごい閃光が走り……小屋が傾いた! 雷が落ち、せり出した部分を支える木の一本が折れたのだ。
- 543 :FJ S63年3/23号 4/6 :2009/04/03(金) 22:05:44 ID:???
- 「キャ―――ッ」
六人は一気に床を滑り、テーブルに挟まれかけたたかひこを母が腕を突っ張って救った。が、寄りかかった板も重みで折れそうになっている。
「みんな 大じょうぶかい!?」
たかひこの母が呼びかけるが、皆床に這いつくばってなんとか体を支えている状態だった。みつおの母親は完全に気絶している。
「たかひこ! 早くだれか呼んどいで!!」
母にそう頼まれ、たかひこは這って上りなんとか入り口に着いた。
そして腰が抜けて動けないしげるの母を助け、二人でみつおの母を小屋の外へ出す事に成功するが、さらに小屋は傾く。
しげるはついに体を支えきれなくなり、滑り落ちだした。
「わーっ 落ちる〜〜っ」
たかひこの母はテーブルを放り投げ、床に倒れこむようにしてしげるとみつおを押さえた。
「母ちゃん 早く! 小屋が落ちるよ」
たかひこが急かすと、彼女はしげるをひょいと片手で持ち上げる。
「奥さん この子ほうりなげるから 受けとりな!」
しげるの母親は「ええっ」と目を見開いたが……たかひこの母は構わず「そらよ!」と放り投げた。
「ママー」
「しげるちゃん!!」
しげるの母は腕を伸ばした――が、寸前で「いや! こわいっ」と腕を引っ込めてしまい、しげるは地面に激突して、たんこぶが出来て
しまった。
「吉田さん うちの子になんてことするの!?」
怒るしげるの母に、困惑するたかひこの母。が、
「ママー こわいよ〜〜っ 助けて〜っ」泣きじゃくるみつおを「男のくせにピーピー泣くんじゃないよ!」といつもの調子でゲンコツで叩く。
みつおは静かになった。かと思いきや……
「ママーッ なぐられたーっ いたいよーっ」かえって泣き出してしまった。
「みつお君 今 助けるよ!」
たかひこは再び、小屋の中に入っていった。それを見て母は「たかひこ 無茶すんじゃないよ!」と止める。
- 544 :FJ S63年3/23号 5/6 :2009/04/03(金) 22:06:41 ID:???
- 外では「あーん どうしたらいいの!? だれか〜〜っ もういや!!」としげるの母が泣いていた。
そして、ついに完全に木が折れ、滑り落ちかけたたかひこは、とっさに中央に立つ柱にしがみついた。
(こ…こわい 死…死ぬ…!?)
「こわいか? 死ぬのがこわいか?」恐怖に顔を歪ませるたかひこに、死神くんが言った。「人の生死ってのは 他人が決めるほど軽いもん
じゃない わかったか わかったら もう殺人なんて考えずに 自分が生きていくことだけを考えろ!」
たかひこの目に、涙が滲んだ。と、
「まってな たかひこ 今 母ちゃんが行くからね」
母はみつおを抱えたまま立ち上がり、壁を蹴った。が、今度はたかひこが掴まっている柱が折れてしまった。
「わ――っ」
そのまま勢いよく滑り落ちていく。
「たかひこ!!」
「母ちゃん!!」
母の手が、たかひこの顎を掴み、床に押さえつける。直後、折れた柱が母の胸に突き刺さった!
「わーっ」
「母ちゃん」
みつおと揃って、悲鳴をあげるたかひこ。
「ち…ちがう わざとじゃないよ… わざとじゃないよォ 母ちゃん 死なないで!!」
が、母は二人を抱え、しっかりと立ち上がった。
「このていどで 死ぬもんかい」
その後、救急車や麓の住民等が駆けつけ、小屋は引き上げられ、たかひこの母は病院に運ばれる事になった。
「ごめんよ 柱が胸にささっていたかっただろ」
そう謝るたかひこに、母は「大じょうぶだよ」と懐に手を入れた。「ホラ これが入ってたのさ」
それは、リボンがかかったウォークマンの箱。だが柱がかすったせいで壊れ、箱には血が滲んでいた。
「お前 これがほしかったんだろ? すまないねェ」
箱を手にした瞬間、たかひこの目から涙が一気に溢れた。
- 545 :FJ S63年3/23号 6/6 :2009/04/03(金) 22:07:39 ID:???
- 一方、みつおの母親としげるの母親はたかひこの母が我が子にした仕打ちに怒っていた。
「んま〜っ 吉田さんはうちの子どもをなぐったざますか!?」
「うちの子は ほうりなげられたのよ!!」
そして、担架で運ばれようとしている彼女に猛抗議する。
「なんてひどいことをするんですか!! バカになったらどうするのよ!!」
「まったく あんたはいつもグズでノロマで…」
そのあまりの言い様に、
「やかましい!!」我慢できなくなったたかひこは二人を怒鳴りつけた。
「母ちゃんの悪口を言うな!!」
その剣幕に、二人は唖然とし、しげるとみつおも気まずそうな表情になった。
それからしばらく経って。
たかひこの母は学校の前までやってきた。たかひこに国語の授業の時に外で聞いていてくれ、と頼まれたのだ。
ちょうど授業では「私のお母さん」というテーマで書いた作文を発表するところで、たかひこは真っ先に手を上げ、読み始めた。
「「ぼくのお母さん」吉田たかひこ ぼくの母ちゃんは日本一の母ちゃんです!」
その言葉に「あれのどこが日本一なんだよ〜っ!!」「なに考えてんだよ〜〜っ」と大爆笑が起こった。
「ぼくの母ちゃんは太ってて 顔が悪く ぼくの頭をすぐになぐります」
「いいとこないじゃないか」
皆はまだ笑っていた。
「ぼくの母ちゃんはとても強いです 母親は強いということを知りました 母親は強くなくてはいけないことを知りました
家庭を守り 家族を守るのが母親の仕事だと知りました それらを ボクの母ちゃんは教えてくれました 友だちは ボクの母ちゃんを
バカにするけど ボクは尊敬しています ボクの母ちゃんは日本一です おしまい!」
いつの間にか笑っていた同級生達は黙っていた。そして、後ろから拍手が聞こえてきた。しげるとみつおだ。たかひこは涙を浮かべた。
「えらいぞ吉田 そのとおりだ」
先生も、そして他の生徒達も皆拍手を送り……外で聞いていた母は、エプロンの裾で涙を拭った。
- 546 :マロン名無しさん :2009/04/03(金) 23:36:11 ID:???
- みつおとしげるの母親はちょっと漫画にしてもひどすぎだな
- 547 :マロン名無しさん :2009/04/04(土) 13:08:07 ID:???
- 確かにやり方は荒っぽかったけど仮にも息子の命の恩人に対してあれはないよな
特にしげる母
息子がケガしたの完全に自分のせいじゃん
- 548 :マロン名無しさん :2009/04/04(土) 20:25:14 ID:???
- つーかホントに母親3人は昔からの友達なの?
それにしては会話してるときの様子が他人行儀な気が…
- 549 :FJ S63年4/23号 1/7 :2009/04/06(月) 22:04:00 ID:???
- 第50話 なにかしようよ!!の巻
「ねっ みんな なにかやろうよ」
学校一の秀才の女生徒・島田の突然の言葉に、教室は静まり返った。
「な…なにかって?」
「勉強ばかりしないでさ せ…青春は 一度しかないものだから… だから… なにか… なにかをさ…」
が、皆は黙ったきり反応なし。島田は「あは…」と苦笑いした。そこへちょうど先生が入ってきて、授業が始まった。
「島田君!」
授業が終わり、廊下を歩いているとクラスメートの眼鏡の男子が話しかけてきた。
「どうしたんだい? 今朝は 急にあんなことを… 僕らも来年は 受験だぜ 遊んでるヒマはないよ 学校一の秀才があんなこと言うなんて
ヘンだよ!」
「勉強よりも大切なものが 他にもたくさんあると思うの…」
「そんなこと 受験が終わってからでも 充分考えられることじゃないか」
「わたしには そんなに時間がないの」
「へ!?」
「なんでもない!」
島田は走り去った。
それからも事あるごとに、島田は「ねっ なにかやってみない?」と言い続けた。
「なにかやろうよ」
「勉強ばかりしないでさ」
だがそんな彼女をクラスメート達は不思議そうな目で見るばかり。
「クラスは大さわぎだぜ」
一人で壁に寄りかかっている島田に、死神くんが声をかけた。
「学校一の秀才があんなことを言うんだから ムリもないか」
「そういう言いかたは やめて」島田は歩き出した。「わたしの命は あと一週間なんでしょ?」
「ああ…」
- 550 :FJ S63年4/23号 2/7 :2009/04/06(月) 22:04:43 ID:???
- 「このままで 終わらせたくないのよ!」島田は力強く言った。「勉強ばかりの人生なんていやよ… 自分は なにをしに生まれたのか
なにができる人間なのかを知りたいのよ」
「そうか… いいことだ ガンバレよ…」
校庭に出た島田は空に気球が飛んでいるのを見つけた。
「わあ なにかしら? スゴーイ 空を飛んでる」
それを聞いた芝生に寝転がっている男子が「気球も知らねェのかよ」と呆れたように言った。同じクラスの、学校一の不良と言われている
北村だ。
島田は北村にも「ね! 北村君なにかやってみない?」と声をかけてみた。
「なにを やるんだよ?」
「あの気球作ってみようよ! ステキじゃない」
「できるわきゃね――だろ!」
と、北村は皆がこちらに視線を向けていることに気づき、立ち上がった。
「学校一の秀才と 学校一の不良が話してたら おかしく思われちゃうぜ」
それでも島田は「ねっ やろう! なにかやろうよ」と北村に言うが、彼は「へんな女」と言い、行ってしまった。
が、その日の帰り、北村は三人の落ちこぼれ仲間を島田の元に連れてきた。無口な奥村、チビで眼鏡の遠藤、そして紅一点の吉川だ。
「なにかやりたいんだろ? おもしろそうじゃねーか 仲間に入れてくれよ ほかの連中は 勉強で忙しいだろうけど オレたちゃ
勉強なんかしたくねーしな ヒマなんだ」
「気球を作りましょう! 空を飛んでみましょう!」
島田は笑顔になった。
五人は北村の家の工場にやってきた。
「こわれたバイクがある」という島田に「部品を集めて 自分で バイクを作ってんだよ」と北村は説明する。いつかこれに乗ってレースに
出るのが夢なのだ。
「どうだ 乗ってみるか?」
「免許ないわ」
「公道走んなきゃ免許はいらないの!」
「ふ――ん」
- 551 :FJ S63年4/23号 3/7 :2009/04/06(月) 22:06:23 ID:???
- すると、奥村がバイクに乗りたそうなそぶりを見せた。「ムリムリ」と言いつつ乗せてやると……あっさり乗りこなしてウイリーまで
やってみせた。皆は賞賛するが、北村は「おめーにゃもう貸さん」とヘルメットを取り上げた。
まずは設計図を書くことになり、遠藤が担当する事になった。
「遠藤くんウマイわねェ」と感心する島田に吉川が「こいつ マンガかくんだぜ」と説明する。遠藤も、自分の同人誌を島田に見せてあげた。
「五百円いただきます」
「商売すんなよ」
笑う島田を見て喜ぶ遠藤。が、そのページに乗っていたのは奥村の漫画。奥村も遠藤と同じで漫研に入っているのだ。
「どーせオイラなんか」とひがむ遠藤であった。
そして遠藤と北村でメカを作り、残りで気球の布部分を作る事に。だが裁縫が慣れない島田は指を針でつついてばかり。その隣では吉川が
苦もなく縫い針を動かしている。
「吉川さん うまいのねー」
北村によると、吉川はデザイナーを目指していて自分の服も皆手作りだという。
「へー スゴーイ」
島田が素直に褒めると吉川は真っ赤になった。
「髪の毛そめたりメイクしたり これは ファッションだって言うけど… どうみても不良女だぜーっ」
「うるせ――っ」
一方、奥山もスイスイと針を動かしていた。奥山の家は洋服屋なのだ。
「スゴイね 奥山君器用なのね なんでもできちゃうんだ」
が、無口な奥山は褒めてもやっぱり反応なし。「なんとか言ったらどうなんだ!?」と北村と遠藤にどつかれてしまった。
「スゴイ… みんなスゴイな」島田はつぶやいた。「夢があって… 自分のやりたいことやって… うらやましい」
言ううちに、涙が溢れてくる。と、皆が不思議そうな目でこちらを見ているのに気がついた。
「泣かれるほどのことじゃないと思うけど…」
「あ」
吉川の言葉に、慌てて島田は涙をぬぐった。
「ホラ…早く作りましょ」
- 552 :FJ S63年4/23号 3/7 :2009/04/06(月) 22:07:51 ID:???
- 数日後、島田は職員室に呼び出され、北村たちと付き合っていることを教師に咎められた。
「あんな不良とつきあうんじゃない!」
「不良じゃありません みんな いい人たちです!」
すると教師は昨日の期末試験の答案を取り出した。点数は八十八点だが……
「お前なら満点とれるはずなのに この点数はなんだ!!」と厳しい一言を浴びせる。
「わたし もう勉強はやりたくないんです」
「バカもの なにを言ってるか!!」
その後もしばらく、島田と教師の口論は続いた。ようやく職員室から出てきた彼女に、
「島田さん たっぷりとしごかれたようだね」例の眼鏡の男子が話しかけてきた。「あいつらとつきあうと…」
が、島田は彼を無視して行ってしまった。その表情は生き生きとしている。
「楽しそうだな」
死神くんに言われ、「最高よ!」と島田は答えた。
「みんな いい人たちばかり なんでもできそうな気がするわ それに… ほかの人たちとちがって 目が輝いている! 生きてるって
感じがするわ!」
北村たちの元に向かう彼女を見て、死神くんは言う。
「今のあんたも 輝いてるよ」
気球はもうすぐ完成というところまで来ていた。と、そこへ眼鏡男子が現れた。
「なんだよ 人の家に勝手に入りこんで!」
「島田さんが 不良にならないよう あとをつけてきたのさ」
「なんだと!」
怒る北村を遠藤が「まあまあ」と止める。
「ねっ 見て みんなで気球を作ってるの」
笑顔で言う島田に彼は「フン 基礎知識もないのに できるもんか!」と言い、また北村を怒らせる。
すると島田が「ねっ 手伝ってくれる」と彼に頼み、眼鏡男子は驚いた。北村は「こんなやつ入れたくねーよ!」と言うが、
結局彼を加えて六人で作る事になった。
そして作り始めてから一週間。ついに北村達は校庭に気球を持ち込み、飛ばしてみる事になった。何も知らない生徒や教師達は何事かと
騒いでいる。
「いーか よく見ろ これは オレたちで作ったんだ 落ちこぼれでもやればできるんだぞ」
- 553 :FJ S63年4/23号 5/7 :2009/04/06(月) 22:09:11 ID:???
- そして気球の組み立てが完了し、北村がエンジンを点火する準備を始めた。慌てて教師達が止めに向かうが……
「点火!」
火はつけられ、気球は勢いよく立ち上がった。
「やった!」
「スゲ――ッ」
「飛ぶぞ! オレたちは空を飛ぶんだ」
ゴンドラに乗った北村も、島田も大喜びする。そして遠藤も乗り移ろうとするが……その時、布の端に火が燃え移ってしまった。
慌てて逃げ出す北村達。気球は瞬く間に全焼し、校庭は悲鳴が飛び交い、大騒ぎになってしまった。
その後、六人は校長室に呼び出されたっぷりお説教をされ、解放されたときにはもう夜になっていた。
「みんなで いっしょうけんめい 作ったのに ゴメンネ……」
謝る島田を「気にすんなよ 楽しかったぜ」「そうそう」と北村と吉川は慰める。が、
「でも もうオレたちとは つきあわない方がいいぜ」北村は言った。「先公がうるさいし また 明日からはつまんねー学校生活を
送るんだな」
北村は帰っていった。他の四人も皆帰ってしまい、島田は一人、誰もいない街角に取り残された。
と、急に胸が苦しくなり、島田はかかんだ。ふと顔を上げると、死神くんが来ていた。
「迎えにきたのね」
「ああ」
島田の目に、涙が滲んだ。
「泣くことはない 次の人生は きっとすばらしいものだ」
そう言う死神くんに何も出来ない自分が悔しいと言う島田。
「気球を作ったじゃないか」
「飛ばずに 燃えちゃったわ… それに 自分ひとりじゃできなかった…」
島田は何とか、体を塀に寄りかからせた。
「自分は なにをしに生まれたのか わからないのがくやしいのよ なにか やりたかったことがあるはずなのに それさえもわからない
自分がくやしいのよ」
もっと自由に、自分に正直に生きたかった、と泣きながら言う彼女を「なにもしないより ましだ!」と死神くんは慰める。
「とにかく 気球を作ろうと いっしょうけんめいやったじゃないか」
- 554 :FJ S63年4/23号 6/7 :2009/04/06(月) 22:10:14 ID:???
- 結果は問題じゃない、行動を起こした事が大切なんだ、と死神くん。
「人間 やってできないことはない やらずにいることが一番 悪いんだ」
それを聞いて、島田はつぶやいた。
「かわいそうね みんなかわいそう…」
「?」
「わたしは最後で なにかやろうと 行動をおこしたけど みんなは…」
そしてゆっくりと、地面に体を横たえていく。
「行動をおこす前に 年をとってしまうのね 気づいたときにはなにもできない人間に なってしまうのよ… そして 後悔するのよ!
わたしと同じように…」
「後悔してんのかい?」
「わたしひとりじゃ なにもできないのよ 秀才と呼ばれてるだけで 中身のないうすっぺらな人間なのよ」
彼女の目から、さらに涙が溢れた。
「これはわたしののぞんだことじゃない! これは 本当の自分じゃない みんなにもわかってほしい」
死神くんは、悲しげな目で島田を見つめた。
「私が死んでも クラスのみんなは なにもなかったようにいつもと同じ生活を送るのね…」
「そうとはかぎらないよ」
「月日がたてば わたしは忘れられてしまうのよ わたし あまり友だちがいないから…」
(最後に 北村君たちと友だちになれてよかった)島田は、北村たちの顔を思い浮かべ、笑った。そして、
「みんなありがとう そして… さようなら」
彼女は静かに、息を引き取った。
数日後、北村達五人は島田の葬儀に出席した。
「島田さん… 自分が死ぬってこと わかっていたんじゃないのかなア」遠藤が言った。「だから 急にあんなことを…」そして、涙をぬぐう。
「こんなことなら マジで気球を飛ばしてあげたかったね…」
吉川もつぶやく。そして眼鏡男子は泣いていた。
「お前 泣き虫だったんだな」
北村の言葉を「うるさい!」と一蹴しつつ、彼は言う。
- 555 :FJ S63年4/23号 7/7 :2009/04/06(月) 22:11:01 ID:???
- 「なんだか わかんないけど 島田さんの気持ちがわかってきたような… なにか胸の中が熱くなって じっとしていられないんだ」
「ケッ ガリ勉連中はなに考えてんのかわかんねエなア」
翌日。自習時間に皆が勉強している中、北村は言った。
「ケッ なんでェなんでェ このクラスはよォー 友だちが死んだってのにいつもとかわんねーなー 葬式にも出ねーやつが半分もいるし
それほど勉強のほうが大切なのかよ〜〜〜っ」
これだから進学校は嫌だよな、と言ったその時、奥山が立ち上がった。
「オウ 奥山 おめーも なにか言ってやんな」
すると本当に、奥山が口を開いた。
「な…なにかやろうよ」
クラスの皆はもちろん、当の北村や落ちこぼれ仲間達も「あいつの声 初めて聞くぞ」と驚く。奥山はさらに続けた。
「このままじゃいけないと思う… 島田さんも言ってた… 青春は 一度しかないって… 勉強より大切なものが いっぱいあるはず…
勉強しながらできることもいっぱいある… なにか…やろうよ」
北村達は笑みを浮かべた。
「やろう! なにかやろうよ!」眼鏡男子が立ち上がった。「学校生活を勉強だけで終わらせたくない!! なにかやろう!!」
「やろう! やろうよ」
「なにかやろうよ!!」
遠藤と吉川も立ち上がる。
「そうだ! オレたちはなんだってできるんだ!! なにかやろうぜ!!」
「やろうよ」
「やろうやろう」
盛り上がる教室。その様子を見守りながら死神くんはつぶやいた。
「最後に 大きなことをやったな みんなの心を動かすことができたじゃないか…」
- 556 :マロン名無しさん :2009/04/06(月) 22:49:29 ID:???
- こういうことあると今後の人生変わるよな。
死神くん的にそれは別に構わないのかな?
- 557 :マロン名無しさん :2009/04/06(月) 23:21:56 ID:???
- 予定通りに死んでさえくれれば、どんな人生送ろうが関係ないんじゃない?
- 558 :マロン名無しさん :2009/04/06(月) 23:26:41 ID:???
- 女子「なにかやろうよ」
エロい返ししか思いつかねえ・・・
- 559 :マロン名無しさん :2009/04/07(火) 12:58:31 ID:???
- サボリ常習犯の北村や明らかに校則違反な格好の吉川はともかく
何で奥山や遠藤も不良扱いされてんだ?
- 560 :マロン名無しさん :2009/04/07(火) 15:19:22 ID:???
- 不良と付き合う奴は不良だ!ってことでは。
- 561 :マロン名無しさん :2009/04/08(水) 13:24:44 ID:???
- 路上で心臓発作起こして誰にも看取ってもらえず一人寂しく死亡・・・
かなりひどい死に方だな島田さん・・・
- 562 :マロン名無しさん :2009/04/09(木) 16:09:35 ID:???
- この遠藤って・・・
- 563 :FJ S63年5/23号 1/6 :2009/04/09(木) 22:03:09 ID:???
- 第51話 生きる価値ないろくでなしの巻
四月二十七日。
勝男はいつものように酒を飲み、赤ら顔で大いびきをかきながら居間で寝ていた。
その様子を隣の部屋から妻と息子が窺っていた。まだ小さな娘の美里は、奥で眠っている。二人は何事かを相談し、居間へ入った。
と、死神くんがやってきて勝男から魂を抜き、外へ連れて行った。
「な…なんだなんだ」
驚く勝男に死神くんは名刺を見せ「あんたの命は あと3時間の予定だ」と告げる。が、酔っていていまいち事態が理解出来ていない勝男に、
死神くんは詳しく事情を説明する。
「あんたの命は あと3時間の予定なんだよ しかも もっとも悲惨な死に方で死ぬ予定だ」
死神くんは家の中を見るように言った。勝男の側に、彼を睨む息子と、不安げな表情の妻が立っている。
「カカアと息子がどうした」
「あんたを殺そうとしている」
「なにっ!?」
勝男は思わず声を上げた。
「あんたのせいで家庭はメチャクチャなんだ それで 一週間前から殺す計画を立てて 今夜 実行しようってことになっているんだ」
「て…てめェら〜〜っ」
怒る勝男を死神くんはまあまあとなだめつつ、「自業自得ってやつだ」と言い放つ。
何しろ彼は働きもせず、毎日飲んで暴れて、家の金は全部使い込み借金だらけ。近所の人からも嫌われていて、全くいい所がないのだ。
「どうだ 死にたくないか?」
死神くんに問われ「あたり前だ!!」と勝男。すると死神くんは死ぬまでの三時間チャンスを与えよう、と条件を出した。
「あんたのまわりで あんたを必要としている人間を 3人さがすんだ 3人以上いれば あんたは死なずにすむ」
「ホ…ホントか!?」
「いいか 3時間のうちに 3人だ」
死神くんは勝男の体に魂を戻した。
目を覚ました勝男は妻に殴りかかるが、すぐに死神くんに言われたことを思い出し、家を出た。
「ど…どうしたんだろ?」
不思議がる妻に「さあ」と息子。
「とにかく 帰ってきたら… あんな人間はいない方がいいんだ…」
息子の表情が、より一層険しくなった。
- 564 :FJ S63年5/23号 2/6 :2009/04/09(木) 22:04:33 ID:???
- 「いいか 夜中の3時がタイムリミットだ」
「わかってるよ」
俺はこれでも人に好かれている、俺を必要としている人間はたくさんいる、と勝男は自信満々だ。早速彼は友人の次郎の家に行くが……
「な…なんだよ 金なら ねえぞ」
出てきた次郎は迷惑そうな表情。構わず勝男は訊いた。
「なー おめーにとってオレは 必要な人間だろ?」
「?」
「友だちだろ 親友だろ? オレを いいやつだと思ってんだろ?」
が、次郎は、
「いいかげんにしろバカヤロウ 今なん時だと思ってやがんだ 人の迷惑考えろ!!」と勝男を怒鳴り、家に引っ込んでしまった。
「てめー このやろ なんだよ その言い草は!!」
勝男は戸を蹴飛ばした。
「だれなんだい?」
寝室に戻った次郎に妻は尋ねた。
「この世に不必要な人間だよ…」
次郎はそう答え、布団に入った。
「やつも 昔はあんなじゃなかったのに…」
「ハハハ あんなやつ友だちじゃねーのさ」
そう余裕で笑い、次に訪ねたのはやはり友人のシゲオの家。が、即座に「やかましいバカヤロウ 帰れ帰れ」と追い返される。
その後も「今なん時だと思ってんだ!!」「貸した金返しやがれバカヤロウ!」「うちの店のツケを早く返しとくれ!!」とことごとく
追い払われた。
疲れた勝男は、ひとまず塀に寄りかかり休んだ。タイムリミットまで、あと二時間だ。
「みんな あんたをきらっているねェ」
「うるせェ どうして…どうしてオレが死ななくちゃならねーんだよ」
「ほうっておいてもあんた 死ぬよ」
勝男の体は、酒の飲み過ぎでもうボロボロなのだ。
「早いうちに酒を断てば まだ助かっていたかも知れないけどね」
「ちくしょう ほっとけ!」
と、勝男は中学時代の担任、岡本先生の事を思い出した。
「オレは これでも 勉強のできる方だったんだぜ」
- 565 :FJ S63年5/23号 3/6 :2009/04/09(木) 22:05:53 ID:???
- 勝男は今度こそ、と岡本の家に向かうが……出てきた岡本は、勝男を見て「だれです あなた」と言った。
「勝男です 中学の時 お世話になった勝男です」
が、わずかな沈黙の後、岡本は「知りませんね」と答えた。
「なに言ってんだ 先生 オレだよ」
「しずかにしてください」
岡本は勝男を注意すると、目も合わさず言った。
「わたしの知っている勝男君は 人の迷惑になることをする人ではありません わたしの知っている勝男君は やさしくて思いやりのある
人でしたよ」
そして「お帰りください 警察を呼びますよ」とドアを閉めた。唖然とする勝男だが……
「このくそばばあ!!」ドアを蹴りだし、慌てて死神くんが止めた。
「あんたも 昔はいい人だったみたいだな」
「うるせェ」
死神くんの調べによると、荒れてきてるのは三年くらい前かららしい。
勝男は、三年前の事を思い返してみた。あの頃は、子供がいて、ちゃんと働いて、たまに家族揃って旅行もしていた。仕事仲間とも
うまくやっていた……ふと彼の脳裏に、優しかった親方の笑顔が浮かんだ。
「そうだ 親方だ 親方にあえば…」
勝男は親方の家を訪ね、出てきた奥さんに「あ…すみません 親方にあわせてください」と頼むが――通された部屋で見たものは、
仏壇に置かれた親方の遺影だった。去年の十月に病気で亡くなったのだ。勝男は、力なく膝をついた。
「知らなかった」
その目から、涙が零れた。
「なんてこった 親方が死んだのも知らなかったとは…」
すると、親方の奥さんが言った。
「主人はこう申しておりました 勝男のやつは 酒さえ飲まなきゃいいやつだって…」
夜道を歩く勝男は、まだ親方が死んだというショックから立ち直れないでいた。タイムリミットまで、あと一時間。
勝男は電柱に手をつき、うなだれた。目には涙が滲んでいた。
「どうするんだい? だれも あんたを必要としていないみたいだな」
「オ…オレは オレは この世の中で不必要な人間なのか?」
「不必要な人間なんていないぞ みんな なにか必要なことがあって生きているのさ その必要なことを あんたは自分でなくして
しまったんだ」
- 566 :FJ S63年5/23号 4/6 :2009/04/09(木) 22:07:13 ID:???
- 勝男は一向に立ち上がる気配がなかった。
「どうした? もうあきらめたのか」
「ああ…どうやら オレは死んだほうがいいみたいだ」
そう言う彼に、死神くんはこの後のことを教える。勝男は妻と息子によって殺され、そして妻は刑務所、息子は少年院、美里は施設に
入れられる。いわゆる一家離散というやつだ。
「そ…そんな あまりにもひでーじゃねーか!」
「ん あんたにも まだ家族を思いやる心があったのかい?」
そう冷ややかに笑う死神くんに「あたりめーだ」と勝男。
「悪いのは このオレだ 家族には つらい思いは させたくない」
「今まで つらい思いをさせてきたくせに」
「だから 最後くらい 父親らしいところを見せてやりたいんだ」
だが死神くんは冷たく言い放つ。
「気づくのが遅かったな もっと早く 父親らしくふるまっていれば こんなことにはならなかった 遅すぎたよ」
勝男は、家に向かって歩き始めた。最後に美里の顔を見て、それから人生を終わらせようと思ったのだ。
「その美里ちゃんも あんたを こわがってなつこうとはしない やめた方がいいね」
「そうなってくれれば あきらめがつく… 死ぬ気になれるってもんさ…」
すっかりしょげて家に帰ってきた勝男は、奥の部屋で寝ている美里のもとへ向かった。
「美里 おい美里」
息子は立ち上がった。死神くんは時計を見つめる。
「もうすぐ時間か」
と、目を覚ました美里が勝男を見て「昔のお父さんだ!」と顔をほころばせた。
「昔の…?」
「そうでしょ? 昔の やさしかった時のお父さんでしょ?」
美里は抱きついた。
「昔に もどったんだね ねェ また遊びにつれて行って!」
「美里!」
勝男もしっかりと、美里を抱きしめた。
「わーい お父さんだ お父さんが帰ってきたんだーっ」
無邪気にはしゃぐ美里に、勝男は号泣した。自分を必要とする人間が一人、いたのだ!
「でも ひとりじゃだめなんだ 3人でないと…」
- 567 :FJ S63年5/23号 5/6 :2009/04/09(木) 22:09:12 ID:???
- すでに背後では、息子が勝男を殺す準備を整えている。と、いきなり死神くんが勝男から魂を抜き取った。
「まってくれ もう少しまってくれ!?」
構わず魂を上空に引っ張り上げていく死神くん。一方家では急に勝男が倒れたので息子は不思議がっていた。
「どうしたんだ 親父…」
「寝てんだよ…」
美里は早く寝るよう母親に言われ、大人しく布団に入ってしまった。息子は勝男の体をそっと居間に運んだ。
「よかったな ひとりいて」
死神くんは本当に嬉しそうに笑い、告げた。
「よろこべ 神様がチャンスを与えてくださったぞ」
「それじゃ オレは助かるのか!?」
「3人見つける所をひとりだけだったんだ そんな甘くはない あんたしだいだ!」
息子は壁に勝男の体を寄りかからせ、ロープをしっかりと握った。妻は涙を滲ませながら、夫に手を合わせる。その様子を見て、勝男は焦った。
「早くしてくれ オレが殺されっちまう!!」
「今のままでは 体がボロボロで手遅れなんだ」
「だから どうなるんだ!!」
「やり直すんだ」
美里はすっかり熟睡していた。そして息子は勝男の首にロープを巻きつける。
「あんたは3年前にもどるんだ」
死神くんは言った。
「そして 今日までの3年間の記憶を消してしまう オレにあったことも忘れることになる 今日のことが 記憶の片すみに残っているかも
知れない とにかく 自分の力でやり直すんだ」
そこから真面目になるか、また酒浸りの同じ人生を繰り返すかは、彼次第。
「3年前にもどるのか?」
「そうだ」
直後、息子がロープを強く引いた――
- 568 :FJ S63年5/23号 6/6 :2009/04/09(木) 22:11:01 ID:???
- コップが割れる音がし、勝男は目を覚ました。
「オイオイ勝男 なにやってんだよ」
隣の次郎に起こされ、勝男は呆然と辺りを見回した。ここはいつも仕事仲間と行く飲み屋で、カレンダーの日付は、一九八五年四月二十七日。
「はて…今までだれかと話していたような…」
「なに言ってんだ オレたちと話していたんだよ」
シゲオの言葉に「あ…ああ そうか」と勝男は座りなおした。
「ホラ 飲め飲め」
「今夜も思いっきりさわごうぜ!」
仲間が勝男のコップに酒を注ぎ足した。が、何故か彼はコップを手にしたまま動かない。
「どうしたんだよ」
「オ…オレ…」勝男は冷や汗を流した。「酒やめる!」
その言葉に、皆目を見開き……「なに言ってんだ おめー やめられるわけねーだろ!!」「まったくだ」と大笑いした。
「ハ…ハハハ へんだな オレ…」
と、
「お父ちゃーん またお酒飲んでるの?」
戸口から美里が顔をのぞかせた。それを見て勝男は「オレ 帰るわ」とあっさり席を立った。本気だと思っていなかった仲間達は驚く。
「あ 親方」
「ん」
「あの…体には気をつけてください!」
そう言って美里と手を繋いで帰る勝男を見て、皆は「どうしちまったんだあいつ…」と不思議がる。親方は、嬉しそうに笑っていた。
「勝男君 今日は早いのね」
商店街を歩いていると、中学のときの担任、岡本が声をかけてきた。
「お酒は ほどほどにして 家庭サービスにつとめなさいよ」
「ハイ! わかっております」
ふと、勝男は訊いてみた。
「美里 お父ちゃんのこと 好きか?」
「うん 大好き」
笑顔で答える美里に、勝男も笑った。そして彼は、妻と息子が待つ家へ帰った。
「あんた また飲んできたのかい いいかげんにしておくれ」
「父ちゃん 酒くせーよー」
- 569 :マロン名無しさん :2009/04/09(木) 22:35:07 ID:???
- オチ、ご都合過ぎるだろw
- 570 :マロン名無しさん :2009/04/09(木) 23:19:10 ID:???
- まだわかんないぞ
一時的にやめられても何かのきっかけでまた飲み出すかもしれないし
- 571 :マロン名無しさん :2009/04/10(金) 08:21:46 ID:???
- まあ、魂に刻み付けられたトラウマが凄かったということだろう。
- 572 :マロン名無しさん :2009/04/11(土) 22:44:30 ID:???
- もし自分が同じ条件出されてもクリアできるだろうか…
条件聞いた時点であきらめるかもしれん
- 573 :マロン名無しさん :2009/04/11(土) 23:28:40 ID:???
- 父ちゃんは妻や息子に罪を負わせたくなければ自殺しとけば良かったんだよ。
- 574 :FJ S63年6/23号 1/6 :2009/04/12(日) 22:01:05 ID:???
- 第52話 ヒーロー先生の巻
過疎の影響で廃校になった中井小学校を、かつての卒業生が訪ねてきた。ひとりは髭にサングラス、もうひとりはワイシャツ姿の青年だ。
校舎はもうボロボロで、すでに取り壊しが決定していた。と、
「おーい」
外から声が聞こえた。眼鏡にスーツ姿の青年とワンピースの女性。彼等もこの学校の卒業生だ。中に入った二人は早速腐った床板を
踏み抜いてしまう。と、子供が壁にあいた穴から出入りして遊んでいるのが目に入った。
「こらこら こんな所で遊んじゃだめだぞ」
「帰った帰った」
四人は子供達を校舎から出て行かせた。ここは子供の危険な遊び場になっており、取り壊しが決定したのもそのためだった。
「ねっ 同窓会やらない!?」
女性の提案に男三人は「それいいな」と頷く。
「ヒーローも呼ぼうよ!」
「ヒーロー」
「広川先生か」
「いいな 呼ぼう!」
ヒーロー…
ボクたちは 広川先生をヒーローと呼んでいた。
そう…本当に 広川先生はヒーローだった…
青年二人は、広川の行方を探した。彼は一ヶ月前に教師をやめ、音信不通だという。不思議に思いつつ、広川が住んでいるアパートに着いた
二人は早速部屋を訪ねた。
「ごめんくださーい」
「広川先生!」
「いますかー?」
呼びかけるが返事はない。が、ドアの鍵が開いていることに気づき、中に入ると……そこには、グラスを手に、赤い顔でぼんやりと椅子に座る
広川の姿があった。
「広川先生!」
「ん…だ…だれだ?」
- 575 :FJ S63年6/23号 2/6 :2009/04/12(日) 22:02:12 ID:???
- 「ぼくたちです!」
「中井小学校の時 お世話になった…」
が、二人の言葉にも広川は「ん…ああ…」と笑みを浮かべるだけ。二人は広川のあまりの変わりように唖然とした。が、ひとまず広川を
外に連れ出すことに。
「いったい どうなさったんです?」
「まあ とにかく みんなあいたがっていますよ」
「もどりましょう あの学校へ」
同窓会の話をする二人に、広川は自販機で買ったワンカップを飲みながら言った。
「わしゃもうすぐ死ぬ… 急性の心臓マヒで死ぬ予定らしい」
広川は死神から死の宣告を受けたのだ。とても信じられない話に、思わず二人は顔を見合わせた。
「わしは行かん だれにもあいたくない ひとりにしておいてくれ」
それでも説得しようと二人が近づこうとした瞬間、
「本人が ああ言ってんだ 言うとおりにしてやれよ」
いきなり目の前に山高帽にスーツの子供――死神くんが現れ、二人は目を見開いた。
「そいつが死神だ 信じてもらえたかな?」
「オレたちは 本人の意見を尊重する 彼の言うとおりにしてくれ」
唖然とする二人。が、「それならなおさら みんなにあってもらわなくちゃ!」と再び広川を説得にかかる。
「先生 きてくださいよ! 先生はみんなのヒーローなんですから!」
「ヒーローか…」
広川は大笑いした。
「わしはヒーローなんかじゃない」
「なにを言っているんです 先生はヒーローですよ」
「よくおぼえてますよ あの時のこと」
「そうそう」
一度目はケン坊が崖から落ちそうになった時。必死で崖にしがみつく彼を、広川が飛び出し、まるで映画のような軽い身のこなしで崖から
助け上げたのだ。
二度目は凶悪犯がよし子を人質にとって立てこもった時だ。村は大騒ぎになった。その時も広川が立てこもりの現場の中に飛び込み、
犯人をあっという間にやっつけた。
この二つの事件がきっかけで、広川は「ヒーロー先生」と呼ばれるようになったのだ。
「ホントにヒーローがいるんだなって思いましたよ」
「やめろ!!」広川は二人の話をさえぎった。
- 576 :FJ S63年6/23号 3/6 :2009/04/12(日) 22:03:14 ID:???
- 「オレは… オレは… ヒーローなんかじゃない!!」
そして広川は、あの時の真相を語り始めた。
崖の上から落下しそうになっているケン坊の姿を見て、広川は恐れた。彼にもしものことがあったら、新聞にも載るだろうし自分が責任を
とらされる。俺の一生はもう駄目だとも思った。
どうしよう。どうしたらいいんだ…。悩む広川に、
「なにか悩みごとでもあるのかい?」
そう話しかけてきたのは悪魔くん。広川は彼と契約し、ケン坊を助けた。
「身軽に動けたはずだ 悪魔の力を借りたのだから はたから見れば それはヒーローにみえたかもしれん」
よし子が人質になったときも同じだ。二つめの願いで凶悪犯を倒した。怖いものはなかった。
その後、彼は町の中学に転勤した。そこは荒れていてひどいところだった。悪魔の力を借りれば怖いものはなかったが、三つ目の願いを
使ってしまえば死んでしまう。自分の力では何も出来ない自分が情けなかった。
「オレは悔やんでいるよ あの時に 2つの願いを使ってしまったことに… 自分のために使わず人のために使った自分が バカらしく
なったんだよ!! オレは 大バカものだってな!」
そして今度は、死神が現れた。あと一ヶ月の命と聞かされ、広川はすぐに仕事をやめ、貯金した金で遊びまわっている毎日を送っているのだ。
そうしながら最後の楽しみとして三つ目の願いをどう使ってやろうか思案中だという。
「がっかりしたか? オレは こんな男だよ」
が、青年は言った。
「いいえ! 先生は ヒーローですよ! 悪魔の力を借りたにせよ ちゃんと生徒を助けたじゃないですか その考え 行動は
ヒーローですよ!! お願いします きてください!! みんなにあってください」
「今のホントのオレを見たら みんなガッカリするぜ」
「それでも けっこうです 本当の先生を見てもらうなら… 今の話を みんなに話すべきですよ 先生は 悔いを残すのですか!?」
驚く死神くん。
「フン おもしろい」広川は笑った。
「よーし みんなの前で今の話をしてやろう みんなの がっかりした顔を見てやろう オレはヒーローじゃないってことを言ってやるわい!!」
そして同窓会当日。
駅に着いた広川を、かつての教え子達が出迎えた。
「広川先生!」
「ヒーローがきたぞ」
「やったあ!!」
- 577 :FJ S63年6/23号 4/6 :2009/04/12(日) 22:04:24 ID:???
- 「おひさしぶりです」
「先生!」
「ヒーロー!!」
たちまち教え子達に取り囲まれ、広川は苦笑い。と、
「先生 オレのことおぼえてますか!?」
七三わけの真面目そうな青年が、一歩前へ進み出た。その顔に、広川は見覚えがあった。
「ケ…ケン坊か?」
「そうです!!」
ケン坊は笑顔になった。
「オレ 医者になったんです」
「医者…」
「広川先生に助けられた時 命の尊さを感じて 医者になったんです!! 先生 あの時は本当にありがとうございました!」
そう言って、彼は深々と頭を下げた。すると、
「先生!」
今度は髪の長い女性が進み出た。この女性は……
「よし子…」
「そうです よし子です」
ケン坊によると、彼女は今料理学校の先生をしているという。
「スゴイでしょ? 今日は先生のためにケーキを作ってきたんです!」
集まった生徒達の間から歓声が上がった。
「先生 あの時は 本当にありがとうございました! あの時のよし子はこんなに りっぱになりましたよ!」
皆から笑いが起き、ケン坊も「生きててよかったな」と茶化すように言う。そしてケーキを受け取った広川は……そこに書かれた
「I LOVE HERO」の文字に、涙を滲ませた。
「先生…」
「やだ 泣かないで」
「こっちまで悲しくなっちゃう」
その様子を見て青年二人は「つれてきてよかったな」と微笑んだ。
そして、一同は校舎を見に向かった。が……なんと校舎から煙が出ている。入り口では子供達が泣いていた。訳を聞くと、去年の残りの
花火で遊んでいて、うっかり火を終え移らせてしまったらしい。しかも、女の子がひとり、まだ中に取り残されているのだ。
「助けて〜〜」
煙が出ている二階の窓から、女の子が顔を出して叫んでいた。一行は消防車を呼ぼうとするが、ここは山の上。消防車が来る事は難しい。
皆が焦る中、広川は校舎の裏に向かった。
- 578 :FJ S63年6/23号 5/6 :2009/04/12(日) 22:05:55 ID:???
- 「あ…あんた まさか…」
死神くんは嫌な予感がした。そして、
「そうだ 3つ目の願いごとが決まった!」それは見事に的中した。
「悪魔よ 出てこい!!」
「なんてことするんだ!」
死神くんの叫びも空しく、悪魔くんは姿を見せた。
「ひさしぶりだな 顔あわせたくないやつもいるけど…」
「オレだってあわせたくない」
「3つめの願いを言うぞ!!」
死神くんは「やめなさいって!」と広川を止めるが、
「最後の願いだ あの女の子を助けてくれ!!」ついに願いを言ってしまった。が、悪魔くんの口から出た言葉は……
「だめだね」
意外な言葉に、広川はもちろん、死神くんも絶句した。どうして、と問う広川に悪魔くんは言う。
死神の世界に規則があるように、悪魔の世界にも規則がある。死亡予定一ヶ月未満の人間とは、契約してはならない決まりだ、と。
「あんたの命は あと2日 契約は無効だ!」
「!! そんな………」
死神くんは契約が無効になってよかった、と喜びつつもこのままでは女の子が助からない、と悩む。広川はショックで、その場に膝をついた。
「ならば 死神よ お前にたのむ あの女の子を助けてくれ!」
「ヘッ オレが」
「やめときな」悪魔くんが言った。「こいつはなにもできやしねー 役立たずの死神さ」
「なにーっ」
「とにかく オレはもうあんたには なにもすることはない あばよ!」
そう言い残し、悪魔くんは帰ってしまった。広川はしばし、うなだれていたが――やがて何かを決意したような表情になり、走り出した。
その頃、教え子達は体育マットを窓の下に持ってきて、この上に飛び降りるよう女の子に言うが、彼女は「やだ〜〜っ こわい〜っ
お母さ――ん」とすっかり怖がってしまい、降りようとしない。その時、広川が校舎の中に入って行くのが見えた。
「先生!」
「まさか…」
青年二人が、慌てて後を追いかけた。
「先生!」
「先生 まってください」
- 579 :FJ S63年6/23号 6/6 :2009/04/12(日) 22:06:58 ID:???
- もう校舎はかなり火が回り、広川が立っている場所も火に囲まれている。彼は二人の方を向くと、言った。
「みんなにあえてよかった… ありがとう 礼を言うぞ」
その顔は、笑っていた。
「オレのやったことは まちがいではなかった 生徒のために 体を張って 本当によかった 安心しろ 悪魔の力を借りているのではない
今度は 自分の力で 自分の意思で あの子を助ける 今度こそ 本当のヒーローだ」
そして広川は、涙を零し……奥へと走っていった。
「先生!」
「どうせ死ぬんだ こわいものはない!!」
直後、天井が崩れ落ちた。
「お母さ――ん」
泣き叫ぶ少女の肩に手を置き、「もう だいじょうぶだ」と広川は声をかけた。女の子は広川に抱きついて泣いた。
「さあ 目をとじて」
「う…うん」
広川は女の子を両手で持ち上げ、マットの上に投げ落とした。
「やった!」
「助かったぞ!!」
「次は先生よ!」
「早く!」
その時、広川のいる教室が大爆発した。それと共に、火はあっという間に校舎全体に燃え広がっていった。
「先生――っ」
「ヒーロー先生〜〜っ」
呼びかけるが、返事は返ってこない。ケン坊もよし子も、かつての教え子達も、助けられた女の子も、皆、泣いた。
「あんた りっぱだよ 最後までヒーローだった」死神くんは言った。「死亡が2日早まったけど 悔いのない人生だっただろう…」
校舎は全焼し、広川を供養するための花束と線香、そして写真が置かれた。助けられた女の子はそれに手を合わせると、笑顔で言った。
「わたし 大きくなったら 学校の先生になるんだ ヒーロー先生みたいになるんだ!」
その言葉に、教え子達も笑う。死神くんがその様子を木の上から静かに見守っていた。
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